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岸田政権の行方
市川 眞一
2024/01/16

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概要

昨年12月、大手メディアの世論調査で岸田内閣の支持率が軒並み20%台へ低下した。年末になり自民党派閥のパーティー券売上高還流問題が深刻化、内閣、自民党共に世論の目は厳しさを増しているだろう。国政選挙の近い時期であれば、岸田文雄首相は窮地に追い込まれていたと推測される。しかしながら、自民党内で「岸田降ろし」の動きは加速していないようだ。理由は、1)次の国政選挙まで最大で1年半の猶予があること、2)自民党主流派閥の安倍派、麻生派、茂木派、岸田派にとり一致して担げるリーダーが岸田首相の他に見出し難いこと、3)世論調査を見ると野党の支持も盛り上がっているわけではないこと・・・の3点と見られる。パーティー券問題に関する東京地検特捜部の捜査は通常国会の召集前がタイムリミットだろう。岸田首相は、令和6年能登半島震災へ対応しつつ、国会開会後の衆参両院での審議を乗り切り、3月と見られる訪米を支持率底入れの転換点とする意向ではないか。また、4月28日の国政補選が重要な意味を持つだろう。



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■ 支持率は下落傾向

昨年12月に実施された大手メディアの世論調査で、岸田内閣の支持率は軒並み20%台へ落ち込んだ。最も厳しい毎日新聞は16%、平均でも21.8%と20%割れ寸前になっている。年末に自民党の派閥によるパーティー券売上高の還流問題が深刻化、7日には安倍派の池田佳隆衆議院議員が東京地検特捜部に逮捕された。1月の世論調査は、岸田政権にとってより厳しい結果となる可能性が強い。



■ 内閣支持率20%台は危険ゾーン

NHKの調査によれば、直近10代の政権の退陣時の内閣支持率は平均27.1%だ。任期満了で円満に退任した小泉純一郎首相を除くと24.4%であり、足下、岸田内閣の支持率は既に危険ゾーンとなっている。ただし、今のところ自民党内に「岸田降ろし」の目立つ動きはないようだ。衆議院の任期満了は2025年10月で、解散がない限り、年内に大型の国政選挙が予定されていないことが理由の1つだろう。



■ 主流4派が結束なら岸田政権の継続も

自民党内の力学を考えた場合、所属議員98名を擁する最大派閥の安倍派がパーティー券問題で苦境に陥った。これは、同党総裁である岸田首相にとっても打撃だが、党内における安倍派の影響力低下は、同首相にとって必ずしも悪いシナリオではない。さらに、今、岸田首相を引きずり降ろしても、次の首相・自民党総裁が同じ逆風に晒されるのは必至だ。従って、岸田降ろしは起こっていないのだろう。



■ 石破、小泉、河野3氏は国民の人気はあるが・・・

12月の世論調査では、4社が「次の自民党総裁(朝日新聞は次の首相)にふさわしい政治家」との質問を設けた。結果はいずれも石破茂元自民党幹事長がトップ、小泉進次郎元環境相が2位、河野太郎デジタル改革担当相が3位だ。もっとも、石破、小泉両氏は実質的に無派閥で、河野大臣も所属する麻生派の支持を得るのは難しい。総裁選は派閥の力が大きいとすれば、岸田首相には明確な対抗馬がいないのである。



■ 自民党が野党を大きく引き離す

昨年12月の段階で、報道大手5社の世論調査を集計すると、自民党の支持率は25.5%だった。一方、野党側は、立憲民主党が8.1%、日本維新の会が7.6%であり、自民党との差が大きく縮小したわけではない。目先に国政選挙がなく、且つ野党の支持率が低迷していることで、自民党には時間を稼ぐ余裕があるのだろう今年9月には自民党総裁選があるため、それまでは岸田首相を支えるとの考えが同党内の大勢ではないか。



■ 政権交代の鍵は野党の支持率

2009年8月30日の総選挙で自民党が下野した際には、参議院選挙において民主党が圧勝した2007年7月の時点で、同党の支持率は20.5%に達していた。一方、足下、自民党の支持率は29.5%、野党第一党の立憲民主党の支持率は7.4%、まだ20%ポイント以上の開きがある。具体的な政策を挙げて自民党を追い込んだ感のないことが、野党側の支持率が上がらない理由なのではないか。



■ 通常国会会期中の1~5月はほとんど解散のチャンスがない

自民党が結党された1955年以降、解散は22回あった。このうち、通常国会会期中となる1~5月のケースは3回しかない。政権の置かれた現状から今年前半に解散があるとは考え難く、岸田首相は自民党総裁選後に解散を先送りする意向を固めたのではないか。結果として、次の総選挙は2025年7月の参議院選挙と同日になる可能性が高まった。過去2回の同日選は、何れも自民党が圧勝したからだ。



■ 前半の注目は4月28日の国政補選

岸田首相にとり喫緊の課題は令和6年能登半島地震への対応、そして国会開会後は衆議院予算委員会での質疑だろう。さらに、4月28日には国会議員の補選が行われる。仮にパーティー券問題で辞職や失職する国会議員がいれば、当該の選挙区が補選の対象となる可能性は否定できない。この補選で十分な結果を残すことこそ、岸田首相が自民党総裁選で再選される必須要件になるのではないか。



■ 岸田政権の行方:まとめ

岸田首相は、3月中に国賓として訪米、日本の内閣総理大臣で2度目となる連邦議会上下院合同会議でのスピーチに臨む方向で調整中のようだ。こうした外交実績を背景に、4月28日の国政補選で成果を残すことが、同首相の再選戦略の骨格を為すだろう。経済政策は、財政中心のばら撒き型となり、構造改革には踏み込まない可能性が強い。低支持率に喘ぐ「弱い内閣」である以上、国論を二分し、自民党内に亀裂を生じさせるような政策を解散前に実行へ移すことは困難なのではないか。



 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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