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米国株の「ゴールデン・クロス」は強気シグナルなのか?
田中 純平
2023/02/13

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概要

S&P500指数における「ゴールデン・クロス」の形成は一般的に米国株の強気シグナルとして捉えられており、S&P500指数の「ベア・マーケット」後に出現した「ゴールデン・クロス」に限定した場合、(サンプル数が少ないとは言え)過去20年間で勝率100%にもなる。だが、2月2日に形成された「ゴールデン・クロス」は過去のそれとは決定的に異なる要素がある。



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S&P500指数における「ゴールデン・クロス」の過去実績は?

50日移動平均線が200日移動平均線を下から上へ突き抜ける「ゴールデン・クロス」をS&P500指数が2月2日に形成したことは、2月6日発行のDeep Insightレポートですでにお伝えした通りだ(図表1)。今回はこの「ゴールデン・クロス」のバックテスト(過去実績)について検証を行ってみた。

一般的に「ゴールデン・クロス」は強気シグナルと認識されており、「ゴールデン・クロス」形成後の株価は上昇しやすい傾向がある。実際、「ゴールデン・クロス」が形成された翌営業日の終値でS&P500指数を買い、「デッド・クロス(50日移動平均線が200日移動平均線を上から下へ突き抜ける現象)」が形成された翌営業日の終値でS&P500指数を売った場合の株価リターンを計算してみると、過去20年間のバックテストでは勝率7割となった(税金や手数料等は除外)。さらに、今回のようにS&P500指数がベア・マーケット(高値から安値まで20%超下落した局面)入りした後の「ゴールデン・クロス」に絞って検証すると、(サンプル数は少ないとは言え)勝率は100%にもなった(図表2)。

しかし、これを持って米国株に強気になるのはリスクが高い可能性がある。なぜなら、過去のベアマーケット局面はいずれもFRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和を行っていたタイミングであり、今回のような金融引き締め局面とは真逆の状況だからだ。

急速に後退する年後半の利下げ期待

FRBは昨年3月から今年2月までに計8回の利上げを行っており、FRBの政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は直近4.50~4.75%へ達している。また、FF金利先物では、今年の年央までにあと0.5%程度の利上げが織り込まれているので、足元の状況は金融引き締め局面と考えられる。一方、市場関係者は年後半の利下げを予想しているので、S&P500指数の「ゴールデン・クロス」形成は金融緩和を織り込んだ値動きとも解釈できなくはないが、2月3日に発表された米雇用統計をきっかけにFF金利先物(2023年12月FOMC時のインプライド金利)は足元で上昇に転じており、むしろ利下げ期待は急速に後退している(図表3)。

ベアマーケット入りはしていないが、今回のようにFF金利の誘導目標が2015年10月時点の0.00~0.25%から2018年12月時点の2.25~2.50%まで引き上げられた後に出現した2019年4月1日の「ゴールデン・クロス」はどうだったのだろうか?この時は2020年3月にコロナショックが発生(デッドクロスは2020年3月30日に形成)したため、バックテスト上のリターンはマイナスとなったが、「ゴールデン・クロス」が形成された直後のS&P500指数は比較的堅調に推移していた。しかし、この時はすでにFRBによる2019年後半の利下げが織り込まれていた時期でもあり、FF金利先物(2019年12月FOMC時のインプライド金利)も低下局面にあった(図表4)。

「ゴールデン・クロス」のようなテクニカル分析は、本来値動きのみを捉えてリターンを追求するものだが、今回はより総合的な判断が求められる可能性がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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