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実践的基礎知識 金融/経済史編( 10 )<バブル崩壊から金融再編②>
2020/09/11

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概要

バブル崩壊から金融再編(1991年〜2003年)②
日本の金融機関で、不良債権や簿外債務が大きく増加し、大手金融機関の一部が破綻に追い込まれていた時期と同じくして、海外では、タイ・バーツ下落を皮切りとしたアジア通貨危機と、資源価格下落の影響を受けたロシア財政危機が発生しました。その状況を見ていきましょう。




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アジア通貨危機

アジア通貨危機とは、1997年7月タイ・バーツ下落を皮切りに、インドネシア、韓国といったアジア諸国の通貨が急落した出来事です。当時、日本、台湾、フィリピンを除くアジアのほとんどの国は、米ドルと自国の通貨の為替レートを固定するドルペッグ制を採用していました。経済基盤が弱く政治的にも安定していない新興国が、基軸通貨である米ドルと連動させることによって自国通貨の安定を図る制度のことです。また、低金利の米国に対し、金利を高めに維持して外国資本を呼び込むという狙いもありました。

1995年、アメリカのクリントン政権のルービン財務長官が「強いドル」という政策を提唱しました。強いドルは健全な米経済の成長を反映しているとの考え方に基づき、実際は米財政政策の生命線である米国債市場の安定化を目指すものでした。つまり、強いドルを求めて、海外からの巨額の資金を米国債市場に繋ぎとめる効果があるとされました。また強いドルは、海外からの輸入物価の引き下げにつながり、国内の消費者にもメリットがあると考えられていました。

ドルペッグ制を採用しているアジア諸国にとって、この強いドルはどのような影響をもたらしたのでしょうか。自国の経済成長とは関係なく米ドル高が進むということは、自動的に自国通貨の価値を上げざるを得なくなります。自国通貨高は、主として輸出の停滞を招いて、経済成長率にとってマイナスとなります。結果的に、景気減速にも関わらず、自国通貨高が進行する事態となりました。

この状況に目をつけたのが、ヘッジファンドでした。ヘッジファンドは、輸出減で減速しているアジアの経済状況にもかかわらず、通貨はドルペッグ制で割高に評価されていると考えました。そこで過大評価されているアジアの通貨に空売りを仕掛け、安くなったところで買い戻すという取引を大々的に始めました。

アジア通貨危機(つづき)

1990年代のタイは年平均9%程度の高い経済成長率を記録しましたが、1995年の「強いドル」政策のあと1996年には貿易赤字に陥りました。この状況下でヘッジファンドがタイ・バーツに売りを浴びせました。タイ政府は外貨準備である米ドルを売ってタイバーツを買い支えるとともに、ヘッジファンドがタイバーツを調達できないように、バーツのオーバーナイト借入レートを3,000%にまで高めて対抗しました。

ところが効果はなく1997年5月に1米ドル=25.87タイバーツだったのが、年末には50バーツ台まで下落しました。タイ政府はドルペッグ制を維持することができず変動相場制へ移行するとともに、枯渇した外貨準備を補うため国際通貨基金(IMF)などが172億米ドルの救済融資を実施しました。タイの株価指数であるSET指数は、1994年の最高値1,753ポイントから1998年の207ポイントまで実に88%下落し、タイの内閣は総辞職に追い込まれました。そして同じようなことが、他のアジア諸国にも次々と飛び火していきました。

ロシア財政危機

ロシアにも財政危機が及びました。アジア通貨危機で、世界全体の景気が低迷したことから、資源価格が値下がりして、輸出の80%を天然資源(原油、天然ガス、金属、木材等)に依存するロシア経済を直撃しました。この事態を受けて国際通貨基金(IMF)が緊急支援を実施したものの好転せず、1998年8月には、対外債務の90日間の支払停止というデフォルトに追い込まれました。

このロシア財政危機によって、アメリカの巨大なヘッジファンドも破綻しました。ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)は、ノーベル経済学賞を受賞した2名が1994年の設立から参加していて、ピーク時には1,000億米ドル以上の資金を世界中から集めて運用していました。ところが、アジア通貨危機やロシア財政危機により運用状況が悪化、1998年9月には崩壊寸前であったLTCMは、資金運用の他、1兆米ドルとも言われた金融取引契約を世界中の金融機関と結んでいたため、15の銀行が資金融通を行い、グリーンスパンFRB議長が9月から3カ月でFFレートを3回引き下げ沈静化が図られました。



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