ECBの追加緩和を左右する、原油安とインフレ率の関係 | ピクテ投信投資顧問株式会社

ECBの追加緩和を左右する、原油安とインフレ率の関係 先進国 欧州/ユーロ圏

2016/01/26先進国

ポイント

欧州中央銀行(ECB)は、3月10日開催の次回の政策理事会で追加緩和を決定するものと考えます。原油価格がインフレ率に及ぼす影響をECBがどう評価するかが決定を左右するものと思われます。また、外部要因次第では、中銀預金金利の引き下げや資産買入規模の拡大等、積極的な施策が検討され得ると見ています。

3月の追加緩和期待

2016年1月21日の欧州中央銀行(ECB)政策理事会終了後の記者会見で、ドラギ総裁が追加緩和を示唆したことは、次回政策理事会までの6週間を通じ、具体的な施策の内容を巡る思惑が交錯することを意味します。ECBの決定を左右する重要な要因の一つに、原油安がインフレ率に及ぼす間接的な影響に対する同行の評価が挙げられます。ドラギ総裁は、3月の政策理事会で、原油安がインフレ率に影響を及ぼす各種の経路について、「より総合的な評価」を行うことを約束し、2015年12月のニューヨークでの講演での発言を踏まえて、「原油ならびに資源価格の長期の低迷が経済に間接的な影響を及ぼす可能性があることを真剣に考慮し、措置を講じる必要がある」と述べています(図表1参照)。

本稿では、足元の原油市場動向とインフレ率への影響を考察します。(ECBモデルを含む)各種のモデルを用いた試算からは、足元の原油安が、消費者物価(インフレ)に間接的な影響を大きく及ぼしていることを示唆する証拠は殆ど見当たりません。モデルの控えめな予測は、2015年11月以降、原油(北海ブレント)価格が約40%下落したことで、コア・インフレ率(ECBの基本シナリオ予測)が0.15%押し下げられる可能性を示唆しています。一方、ユーロの名目実効為替レートの変動幅は、その3倍から4倍に達する可能性もあり得ることから、より重要だと考えます。

とはいえ、このような予測に甘んじて、現状を楽観視するわけにはいきません。ヒステリシス(現在に加え過去のイベントが影響すること)は、失業ならびにインフレ期待の双方にとって、真の脅威だからです。ピクテでは、ECBがユーロ圏経済回復の「リスク・マネジャー」として行動し、3月10日の政策理事会で追加緩和を決定するものとの見方を変えていません。中銀預金金利の0.10%の引き下げや資産買入額の200億ユーロの増額(現行の月額600億ユーロから800億ユーロへの増額)に留まらず、より積極的な追加緩和が決定される可能性も考えられます。

原油価格がインフレに及ぼす直接的影響と間接的影響

原油価格の変動は、2ヵ月程度の遅れを伴って、総合インフレ率に対し、エネルギーを通じて直接的な影響を及ぼす傾向が認められます。EU基準消費者物価指数(HICP)のエネルギー関連項目の構成比率は10%程度ですが、原油価格の下落は、流通コストや税金等の構造要因により、(液体燃料、電気、天然ガス、暖房用燃料、固体燃料等の)サブ項目に100%転化されるわけではありません。また、直接的な影響は非対称である上に、原油価格の変動率だけではなく、その水準に応じて影響が異なります。原油価格が下落すれ ばするほど相対的な影響が強まるとはいえ、HICPの構成項目への影響は軽微なものに留まることとなります。換言すると、ECBが言及している通り、消費者物価の弾性値は、原油価格の増加関数なのです。

2015年下期に1バレル当たり40-50ドルの範囲で推移していた原油価格は、(前回のスタッフ予測策定のためのデータ収集期限となった)2015年11月半ばから40%程度下落しており、HICPを最大1.2%(原油価格の下落分:40% x 弾性値:30% x HICPのエネルギー項目の構成比率:10%、その他の変数が変わらないものと想定した場合)下押す可能性があると考えます。ところが、その他の変数が変わらなかったことはありません。また、原油価格が消費者物価に及ぼす直接的な影響は、原油価格の変動の種類(需要に起因する変動か供給に起因する変動か)、間接税、業種セクターの原油依存度等、複数の要因次第で、より多くの要因や経路に反映されるのです。もっとも2016年のインフレが1%程度低下するとの予測は、3月の理事会開催時に発表されるECBスタッフ予測とほぼ違わないと思われます。ピクテでは、 HICPの2016年予測の中央値が1.0%から0.1%程度に下方修正されるものと見ています(図表2参照)。

ECBは一時的な要因に左右されるのではなく、資源価格がHICPの非エネルギー項目に及ぼし得る間接的な影響、とりわけ生産コスト、ひいては財ならびにサービス価格への影響を重視すべきだということになります。

ECBの2014年12月の月報に記載の論文からも確認されますが、複数の国際機関が資源価格の間接的な影響の推定方法に取り組んでいます。

ECBは当月報で、間接的な影響は、原油価格が消費者物価に及ぼす影響の3分の1程度であると結論付けています。2010年の(ユーロシステム)スタッフ報告書には、当報告書に記載の複数のモデルを用いて試算した結果、原油価格の10%の変動が、直接的影響に加え、HICPの非エネルギー項目に0.2%程度の影響を及ぼしたことが述べられています。そうすると、原油価格の40%の下落は、直接的影響に加え、コア・インフレ率を0.8%程度押し下げるということになります。

一方、原油価格下落の影響は、2016年、2017年両年について、これより遥かに軽微なものに留まることを示唆する理由が幾つか考えられます。先ず、上述のECB予測は、原油価格が(1バレル当たり)50ドルを割り込んだ2015年より数年前の60-80ドルの範囲で推移していた時期に行われたということです。したがって、足元のコア・インフレ率に対する弾性値は、当時を下回る公算が高いと考えます。また、2015年10-12月期のユーロ圏GDP(域内総生産)デフレーターが前年同期比+1.3%に上昇していることに示されるように、通貨安による輸入インフレ効果も考えられます。

更に、ECBも言及している通り、(大方の業種の原油依存が低下したこと等の)構造的変化や、賃金ならびに価格設定行動の変動等に起因して、1980年代以降、原油価格の間接的影響が薄れた可能性が高いと考えられます。ECB報告書には、インフレ期待の変動が小さくなったことを説明するモデルによれば原油価格の変動に対するコア・インフレの反応が穏やかになってきていることが、示唆されています。

コア・インフレの測定に用いるピクテのモデルも、原油価格の変動のコア・インフレへの転嫁が減じていることを示唆しています。(失業率、ユーロの名目実効為替レート、世界の購買担当者景気指数(PMI)、中国の生産者物価指数(PPI)等の)マクロ・ファクターならびに金融ファクターを用いたコアHICPの回帰分析では、原油価格の係数が統計的に有意(t値は-2.8)ではあるものの-0.04%と比較的低位であることが示されています。当予測に基づくと、原油価格の40%の下落は、ユーロ圏のコア・インフレを「僅か」0.15%、下押すに留まることが示唆されます。一方、ピクテのモデルは、ユーロの実効為替レートに対するコア・インフレの弾性値が、その3-4倍に達し得ることを示唆しています。

ピクテの実際のコア・インフレ予測は、上述の予測よりも控えめですが、原油価格変動の間接的な影響についての予測は、3月の政策理事会開催時に改定されるる直近のECBスタッフ予測に基づいた数値よりも実態に近いと考えます。

インフレ予測が意味するものとECB

HICPは、2015年12月確定値が速報値から僅かに上方修正されて前年同月比+0.2%となり、一方、2015年通年では0%と過去最低水準を記録しました。同じく12月の(エネルギー、食品、アルコール、タバコを除く)HICPコア・インフレ率は、潜在的な物価下押し圧力を背景に、前年同月比+0.9%に留まりました。ユーロ・ベースでは2016年年初以降-25%と下落基調となった原油価格が(図表3参照)ベース効果をほぼ相殺したことから、HICPは、少なくとも2月から5月にかけて、マイナス圏で推移することが予想されます。

ピクテでは、原油価格の緩やかな上昇とユーロ安を前提に、2016年通年のHICP予想を下方修正しました。より重要なのは、インフレ率が低位に留まることを予想していることであり、HICP以外のインフレ指標についても同様の状況を見ています。

2016年1月26日発行のピクテ・マーケット・フラッシュ「欧州中央銀行(ECB):ドラギ総裁、3月の追加緩和を示唆」にも記載の通り、ECBはデフレ圧力払拭のため、対策を講じる公算が高いと考えます。ECBが懸念を強めているのは、原油価格の下落が期待インフレ率へ波及する経路だと思われます。HICPが低位に留まる期間が長引く程、期待インフレ率が低下するリスクが強まります。ドラギ総裁は、インフレを測る大方の指標が低下していること、また、当該指標の多くが原油価格と強い相関を示していることについて言及しています。1月22日発表のECBサーベイ調査報告書には、当報告書に掲載の期待インフレ率が原油価格の下落を反映している可能性を示唆されています。長期の期待インフレ率は、過去最低水準に近い1.8%に低下しており(図表4参照)、なお一段の低下も予想されます。

ピクテでは、ECBがユーロ圏経済回復の「リスク・マネジャー」として行動し、3月10日の政策理事会で追加緩和を決定すること、また、新たな施策として、中銀預金金利の10ベーシス・ポイント(0.10%)の引き下げや資産買入額の200億ユーロの増額(現行の月額600億ユーロから800億ユーロへの増額)に踏み切ることを予想しています。また、外部要因によるショックが生じた場合には、中銀預金金利のより大幅な引き下げ、買入対象証券へのよりリスクの高い資産の組入、新種の中小企業向け融資に的を絞った長期性資金供給オペ(TLTRO)、組入資産の利回り基準の撤廃、ECBの資本金の拠出比率から乖離した国債買入等、より積極的な施策が導入される可能性もあり得ると見ています。

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