政策金利を据え置いたスイス中銀、今後の金融政策は | ピクテ投信投資顧問株式会社

政策金利を据え置いたスイス中銀、今後の金融政策は 欧州/ユーロ圏 先進国

2016/03/24先進国

ポイント

2016年3月17日、スイス中銀は政策金利の据え置きを決定しました。ECBの追加金融緩和策が対ユーロのスイスフラン・レートにほとんど影響しなかったことが幸いした格好です。今後も、スイスフラン高が進行する場面では、SNBは為替介入とマイナス金利幅の拡大という二つの手段で対処する公算が高いと考えます。

スイス中銀、政策金利を据え置き

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は、2016年3月17日、四半期毎に開催する金融政策決定会合で、政策 金利の据え置きを決定しました。3ヵ月物スイスフランLIBORの誘導目標は-1.25%~-0.25%のレンジに、また、中銀預金金利は過去最低水準の-0.75%に維持されました(図表1参照)。また、SNBは、スイスフランの一時的な上昇には市場介入で対処する意向を繰り返し示しています。

SNBは、原油安を理由にインフレ見通しを下方修正し、 2016年予想を2015年12月時点予想の-0.5%から-0.8%に、2017年予想を+0.3%から+0.1%に引下げました。(今回初めて発表した)2018年予想は+0.9%としました。また、国内経済の回復が鈍化するとの見方から、2016年のGDP(国内総生産)成長率予想を、従来予想の1.5%前後から1.0-1.5%のレンジに修正しました。

今回の決定に意外感はありません。3月10日に発表された欧州中央銀行(ECB)の追加金融緩和策が対ユーロのスイスフラン・レートに殆ど影響しなかったこと、とりわけ、ECBが今後の利下げの可能性を示唆しなかったためユーロ安圧力が後退したことが、SNBの政策金利据え置きを可能にしたとも言えそうです。

SNBの金融政策が、ECBの行動とスイスフランへの影響に左右される状況は変わりません。SNBは当面、マイナス金利を維持し、一時的なスイスフラン高には為替介入で対処するものと見られます。当レポートでは、一段のスイスフラン高に際してECBが導入すると想定される対策を検証します。

※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。

想定されるスイスフラン高対策

物価の安定はSNBの主要な責務です。足元のインフレ率は、「消費者物価の上昇率を年率2%未満とする」という目標水準を遥かに下回っていますが、中長期の安定的なインフレ期待を勘案すれば、この2%という数値目標は依然として有効だと思われます。しかし、スイス経済は(物価下落と実体経済の縮小とが相互に進行する)デフレ・スパイラルの危機と無縁だとは言い切れない状況です。欧州の政情を巡る不透明感や、諸外国の積極的な金融政策、世界経済の低迷等を背景に、スイスフラン高が進行する可能性は否めず、行き過ぎたスイスフラン高の阻止は重要な課題です。

このような状況でSNBが導入し得る対策にはどのようなものがあるでしょうか? 想定される複数の対策を、導入が可能だと思われる対策と、現時点での導入は難しいと思われる対策とに分け、検証します。

【1】 導入可能な対策
(1) 為替介入
ボラティリティの上昇を伴う市場の混乱時には、為替市場への介入を通じ、一時的なスイスフラン高の阻止を図ることが可能です。為替介入とマイナス金利は、2005年1月以降、SNBの金融政策の「二つの柱」となっています。

(2) 利下げ幅の拡大スイスフランの著しい上昇に際しては、3ヵ月物スイスフランLIBORの誘導目標のマイナス幅を拡大し、他通貨との金利差幅を設定し直すことで、スイスフラン投資の妙味を減じることが可能です。理事会メンバーの最近の発言は、SNBがマイナス金利とその効果に違和感を感じていないことを示唆しています。

一方、政策金利のマイナス幅の拡大には、二つの問題点が挙げられます。一つは、タンス預金を急増させずにマイナス金利幅を拡大するのには限度があることです。金融仲介機能と、マネーの波及機能が損なわれる ことに他ならないからです(図表2参照)。

もう一つは、マイナス金利が銀行の収益を圧迫するため、その評価が、これまで以上に疑問視されつつあることです。スイスの民間銀行は、利鞘縮小の圧力に住 宅ローン金利の引き上げで対抗しています(図表3参照)。不動産市場の過熱を抑える手段として歓迎されるとの見方もあるようでが、マイナス金利は、不動産市場の不均衡を是正する手段として適切とは思われません。

(3) マイナス金利適用基準の見直し マイナス金利の適用免除の「基準」となる準備預金残高の調整も、利下げの代替となり得ると考えます。現在マイナス金利は、SNBに口座を持つ民間銀行ならびにその他金融機関の「基準」を超えた預金残高のみに適用されており、国内銀行に適用される基準は、法定準備金から手元現金の純増分を差し引いた金額の20倍となっています。

もっとも、マネーの波及の観点からすると、基準の見直しからさほどの効果が上がるとは思われません。SNBは、マイナス金利の短期市場金利への波及が限界金利を通じて行われるものであり、したがって、限界金利を変更せずに基準を変えても多くは期待できないことについて、何度か言及しています。

 ※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。

 【2】 現時点では導入の難しい対策
(4) 為替レート上限の再設定
非常事態ともなれば、2015年1月に撤廃した対ユーロのスイスフラン上限レートを再設定(あるいは対通貨バスケットの上限レートを設定)することもありえるでしょう。もっとも、2015年1月の上限撤廃時に市場とのコミュニケーションの不手際を巡って問題が露呈し、非難の矢面に立たされたSNBは、再設定を回避する公算が高いと思われます。

(5) 限定的な量的金融緩和 為替レート上限の維持を、外貨建て資産の買入れを通じた量的金融緩和の一形態とみなすならば、為替レートの上限を再設定する代わりに、買入額を事前に通知しインフレ動向次第で買入額を調整する、という手法も可能だと思われます。為替レートの上限設定とは異なり、資産買入額を固定することは、通貨のボラティリティを排除する必要性を回避し、市場取引が「一方向に傾く」リスクを軽減します。また、SNBは、無制限介入への関与を回避できます。更に、①に前述した当座しのぎの為替介入とは異なり、事前に金額を定めた資産の買入は金融緩和の姿勢をより効果的に示すことでインフレ期待を醸成し、スイスフラン安やインフレの上昇をもたらすことにつながるとも考えられます。現時点での導入の公算は低いものの、インフレ期待が低下し、マイナス金利の弊害がこれまで以上に議論されるような状況では、選択肢となり得るかもしれません。

国内資産の買入れに限定した「伝統的な量的金融緩和プログラム」にも一考の余地があるかもしれません。もっとも、スイスには買入対象となる国内資産が少ないことから、他国の場合と比べると、効果は限定的です。スイス国債の発行残高は、GDP比12%の750億スイスフランに留まります。

(6) ソブリン・ウエルス・ファンドの設立ノルウェーやシンガポールのようにソブリン・ウエルス・ファンドを設立することについては、スイス国内でも関心が高まっており、SNBの外貨準備を使ったファンドの設立が検討されています。足元の外貨準備は約6,000億スイスフラン(SNBのバランスシートの92%、GDP比94%に相当)ですが、外貨準備は為替介入の結果として積み上がったものであり、金額は一定ではありません(図表4参照)。また、SNBの金融政策の裁量の余地を限定することは、政策の効率性を損なうことにもなりかねません。したがって、行き過ぎた通貨高を是正する手段として適切だとは思われません。

(7) ヘリコプターマネーの導入ヘリコプターマネーは、スイスの政治家やエコノミストの間でも関心を集めています。ヘリコプターマネーとは、大量に印刷した紙幣をまるでヘリコプターからばら撒くかのように国民に直接供給するという施策です。需要とインフレの喚起には有効かもしれませんが、スイスフラン高の抑制にはつながらない恐れもあることから、導入の可能性は低いと考えます。

まとめ

SNBはスイスフラン高阻止のための手段を使い果たしてしまったわけではありません。一段のスイスフラン高には、為替介入とマイナス金利幅の拡大という「二つの柱」で対処する公算が高いと思われます。

さらに、インフレ期待が低下し始めマイナス金利の弊害がいま以上に問題視される状況になれば、海外資産を買入対象とし買入額を事前に通知する量的金融緩和で対処することも可能だと考えます。ただし、現時点での導入の可能性は極めて低いと見られます。

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