ユーロ圏ソブリン債利回り:英国民投票後の混乱は収束 | ピクテ投信投資顧問株式会社

ユーロ圏ソブリン債利回り:英国民投票後の混乱は収束 先進国 欧州/ユーロ圏

2016/08/02先進国

ポイント

ECBの量的緩和やユーロ圏を取り巻く政治・経済情勢の不透明感を背景に、ドイツ10年国債利回りは低位での推移が見込まれます。一方、(対ドイツ国債の)周縁国債券利回りスプレッドは、ボラティリティの高い状況が続きそうです。銀行の不良債権処理や憲法改正を問う10月の国民投票等、イタリアの動向も注目されます。

域内ソブリン債利回り予想の修正

英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)決定後の市場の反応とユーロ圏経済見通しの修正を勘案し、ドイツ10年国債を中心とした域内ソブリン債利回り予想ならびに(対ドイツ国債の周縁国(イタリア、スペイン、ポルトガル))ソブリン債利回りスプレッド(利回り格差)予想を見直しました。

2016年10月末時点でのドイツ10年国債利回り予想を下方修正しました。また、スペイン10年国債利回りは、同年限のイタリア国債利回りを下回る水準で、一方、ポルトガル10年国債利回りは高水準で推移するものと見ています。

周縁国の政治・金融情勢

ユーロ圏周縁国の状況や銀行セクターがソブリン債利回りに及ぼす影響等の市場の懸念に対する理解を深めるには、銀行セクターが抱える不良債権と各国の政局を見直すことが役立つと考えます。

イタリアの銀行が抱える不良債権問題は、収益率が悪化する銀行セクターへの懸念を一段と強めており、当セクターの年初来騰落率は、ストックス600種株価指数で測った市場全般に20%程度出遅れています。イタリア、スペイン両国の銀行融資の伸びが予想を下回っていること、ソブリン債利回りの平坦化を受け、(受取利息から支払利息を差し引いた)純利息収益が悪化していることが懸念されるためです。2008年の金融危機後の緩慢な景気回復がイタリアの不良債権を膨らませており、その総額は、「焦げ付き(バッド・デット)」に限定しても2,000億ユーロに達します。

銀行資本の再編を定めるEUの「銀行再生・破綻処理に関する指令(BRRD)」は、公的資金の注入には銀行債務の8%程度の「ベイルイン」を前提条件とする旨を定めており、多くの場合、銀行の株主ならびに劣後債保有者が損失を被ることが想定されます。

イタリアでは、個人投資家も劣後債を保有しているものの、(国際通貨基金(IMF)ならびにイタリア銀行(中央銀行)のデータによれば)株式以外の 「ベイルイン」対象証券に投資する家計はわずかに留まり、富裕層に限定されるようです。

とはいえ、「ベイルイン」は、レンツィ首相を窮地に追い込みかねません。負担を強いられた有権者が、10月の国民投票で、憲法改正案を否決する可能性があり得るからです。首相は、当改正案が否決された場合には辞任する意向を示唆しており、 「ベイルイン」に不満を持つ有権者の意向が総選挙の実施につながる可能性も否めません。 最新の世論調査では、反体制の「五つ星運動」支持がレンツィ首相率いる民主党支持と拮抗しています。したがって、損失を被った家計に対し、税還付等の形など何らかの政府補償が可能となるよう、柔軟性を持って「ベイルイン」が適用される公算が高いと思われます。政府は、不良債権の証券化ならびに民間ファンドへの売却を通じて、モンテ・ディ・パスキ・ディ・シエナ等、喫緊の資本再編のみを行うことで「ベイルイン」を回避する、最も安易な手段を選ぶものと思われます。

そうなれば、銀行の不良債権問題の抜本的な解決は望めません。ユーロ圏の銀行が発行する劣後債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、年初来、拡大の一途ですが、イタリアの銀行の不良債権の抜本的な解決策が提案されるまでは足元の基調が続きそうです。

スペインの総選挙翌日の2016年6月27日以降、イタリア(ならびにポルトガル)の政治リスクはスペインの政治リスクよりも大きいとの見方が強まったことから、イタリアの10年国債利回りは、スペインの10年国債利回りを上回って推移しています(図表1参照)。スペインの総選挙では、急進左派ポデモスの苦戦に乗じて中道右派の国民党が予想を上回る票を獲得しており、過半数の獲得は難しいとしても、少数連立内閣が組閣される公算が高いと思われます。一方、ポルトガルでは、2015年秋誕生の左派政権が、最低賃金の引上げを実施する等、前政権が進めた構造改革策の一部を覆しています。イタリア、スペイン、ポルトガルの複雑な政治環境を受けて、債券市場は再び、信用リスクに注目しており、政局の転換が財政・経済政策ひいては経済成長、インフレ動向にどのような影響を及ぼすかを見極めようとしているように思われます。

※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
当資料に記載のデータは、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。

利回り変動要因と今後のポイント

インフレ率は債券利回りを上昇させる要因です。原油価格が下落に転じた2014年半ば以降の約2年間を通じ、ユーロ圏の期待インフレ率は、欧州中央銀行(ECB)の目標(2%未満かつその近辺)を大きく下回って推移しましたが、原油(WTI)価格が1バレル=40ドルを上回って推移していることを考えても、市場のインフレ期待は低過ぎるように思われます。したがって、ドイツ10年国債で測ったブレークイーブン・インフレ率、5年先5年物インフレ・スワップ金利のいずれも小幅に上昇し、ドイツ10年国債名目利回りの上昇圧力になると見ています(図表2参照)。

金融政策は債券利回りを低下させる要因です。

主要先進国では超緩和政策が続いています。また、「ブレグジット」決定後、市場は一段の追加緩和を期待しています。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは12月にずれ込む公算が高く、イングランド銀行は8月にも利下げに踏み切ることが予想されます。また、ECBの量的金融緩和については、9月の政策理事会で、資産買入期間を2017年9月まで、再度、6ヵ月延長するものと見ています。

もっとも、ECBは買入対象債券が不足する事態に陥ることが予想され、2017年1月頃には発行体上限(33%)規則に抵触する可能性があります。

したがって、発行体上限の50%への引上げ、あるいは、「ECB資本金拠出比率基準」の変更等、量的緩和の技術的な調整は避けられないと考えます (2016年7月5日付、ピクテ・マーケット・フラッシュ「ECB:資産買入基準の緩和を検討か?」をご参照下さい)。発行体の上限が引上げられることとなれば、償還期限が長めの債券に対する買入圧力が強まります。資産買入プログラムの適格債券の要件の一つである利回りが中銀預金金利(現行-0.4%)以上のドイツ国債の償還年限は、7年を超えているからです。

中銀預金金利の引き下げは、銀行収益への影響が大きいことから、実施の可能性が低いと思われます。したがって、ユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)に織り込まれた利下げは行き過ぎであり、年限が長めのEONIA利回りが上昇してドイツ10年国債利回りを押し上げるものと見ています。もっとも、上述の「ECB資本金拠出比率基準」が緩和されない限りは10年債に対する買入圧力が強く、利回りの上昇が限定されることから、ドイツ債の代替としての周縁国ソブリン債の買入を可能とすることが予想されます。

周縁国ソブリン債のスプレッドについては、量的緩和が買い圧力を維持することと思われます。スプレッドの大幅な拡大を避けるには、ドラギ総裁の「何でもする」との発言を想起させることで市場を落ち着かせるものと思われます。

ボラティリティ(債券価格・利回りの変動率)については上昇が予想されます。2015年には(2012年の欧州債務危機時の水準は越えなかったとはいえ)、中核国ソブリン債のボラティリティが高位で推移しているからです。

これは、ドイツ国債を安全資産と見なす投資家が、市場の混乱時に、リスク・オン(リスク選好)からリスク・オフ(リスク回避)に転じたためです。「ブレグジット」決定を受け、10年国債利回りが急低下した局面では、1ヵ月ボラティリティが急上昇しましたが、秋の間は高位に留まることが予想されます(図表3青丸部分参照) 。主要中銀の政策決定会合や、イタリアの国民投票、米国の大統領選等、政治イベントが目白押しだからです。ボラティリティが高位に留まる環境では、ユーロ圏ソブリン債利回りが各国経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)に基づく適正価値から大きく乖離する場面もあり得ると考えます。

バリュエーション水準の上昇: 「ブレグジット」決定を受け、中核国のソブリン債利回りは、史上最低水準に低下しましたが、各国経済のファンダメンタルズに照らして見ると、足元の割高感が強まっています。長期のソブリン債利回りは、実質経済成長率に総合インフレ率(前年比)の平均を足しこんだ数値にほぼ等しいとされます。そうすると、ドイツ10年国債利回りは1.8%程度となり、マイナスの利回りはあり得ないはずですが、ドイツ国債の安全資産としてのステータスとECBの量的緩和が通常の状況からの乖離をもたらしていると考えます。

中核国と周縁国のソブリン債利回りの質の乖離:ドイツ国債は安全資産とみなされ、米国国債との相関が高いことから、「ブレグジット」決定後のような市場の混乱時には、利回りが低下します。今後、経済情勢ならびに政局を巡る不透明感が払拭されず、市場の混乱が起こるたびにシステミック・リスクを巡る懸念が新たに生じることとなれば、ドイツ10年国債利回りに下押し圧力がかかる状況が続くと思われます。したがって、「ドイツ国債が癇癪を起している」と評された2015年春の状況とは異なって、利回りが急上昇する公算は低いように思われます。もっとも、米国10年国債利回りが1.7%に向けて上昇し、投資家心理が好転する状況が展開されるとなれば、ドイツ国債利回りの緩やかな上昇の可能性もあります。

イタリア、スペイン、ポルトガルの周縁国ソブリン債利回りについては、2015年以降、政治リスク・プレミアムが再び上昇しています。リスクが強まるにつれて、投資家はより高い信用リスク・プレミアムを要求するため、スプレッドの拡大が予想されます。

前述の通り、イタリアの政治環境は、スペインの状況以上に不透明です。イタリアの銀行の健全化は、不良資産受け皿機関となるバッドバンクの創設を通じて実行されつつありますが、不良債権の体系的な処理策が確立されるまで、あるいは、国民投票でレンツィ首相の憲法改正案が賛成多数とならない場合(否決された場合)には、信用リスク・プレミアムが上昇し、スペイン国債と比べて、イタリア国債の利回りスプレッドが拡大する状況が続くものと思われます。

 

まとめ

経済情勢ならびに政局を巡る不透明感が払拭されず、ECBの量的緩和が続く状況にあって、ドイツ10年国債利回りに下押し圧力がかかる状況は変わらないと考えます。中核国ソブリン債のボラティリティは高位に留まるものと思われますが、利回りの大幅低下の可能性も否めません。イタリア、スペイン、ポルトガル等の周縁国ソブリン債利回りスプレッドのボラティリティも高水準での推移が予想され、イタリア国債利回りは、同国固有のリスクにより、スペイン国債利回りを上回ると見られます。ポルトガル国債利回りは、左派政権が市場に優しい経済政策に転じない限り、相対的に高水準で推移するものと考えます。

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