英国金融政策:利下げと量的緩和再開の狙いは何か? | ピクテ投信投資顧問株式会社

英国金融政策:利下げと量的緩和再開の狙いは何か? 先進国 欧州/ユーロ圏 英国

2016/08/10先進国

ポイント

イングランド銀行(中央銀行、BoE)は、7年ぶりの利下げを軸とする金融緩和策を発表しました。同時に、来年の経済成長見通しを下方修正し、年内の追加利下げの可能性を示唆するとともに、カーニーBoE総裁は金融政策の限界にも言及しています。今後は、秋の予算編成に盛り込まれることとなる財政政策が注目されます。

英中銀、7年ぶりの利下げを決定

市場の追加緩和期待は、イングランド銀行(BoE)が2016年8月4日に金融政策委員会を開催する前から高まっていました。英国の欧州連合(EU)離脱(「ブレグジット」)の決定を踏まえ、複数の委員が「各種の経済刺激策と施策の組み合わせ」を検討する意向を示唆していたためです。委員会が決定した包括的な金融緩和策には、主要政策金利のバンク・レートを25ベーシス・ポイント(0.25%)引き下げて史上最低の0.25%とすることに加え(図表1参照)、利下げの効果の波及を確実にするための銀行向け資金供給スキーム(TFS)ならびに国債買入の600億ポンド増額と100億ポンドを上限とする社債買入を通じた量的緩和の拡大が含まれます。カーニーBoE総裁は、「金融緩和策の全ての要素に拡大の余地がある」と述べています。

利下げ発表直後の市場は追加緩和を好感して買われる展開となりましたが、BoEの狙いがどこにあるかを見極めるには時間が必要です。0.25%の利下げだけで、経済の先行きに大きな影響を及ぼすことは考えられないからです。民間セクターの資金調達コストは、既に過去最低水準に達しており、マネーの波及の経路が損なわれた様子も窺えません。また、低金利の環境では資産買入の効果が薄れていく公算が高いからです。資産買入以外の波及経路についても、従来ほどの効果は期待できそうにありません。

BoEは政府との明確な協調政策は無くとも、追加緩和によって時間を稼ぎ、政府予算の変更を期待して「財政余地」を創り出す意志を見せたと考えることは可能でしょう。大規模な財政出動は、現時点では期待できそうにありませんが、今後、経済情勢が悪化し続けるとしたら、政府は、BoEが創出した「財政余地」を活用し、行動せざるを得ないのではと思われます。

 

利下げと資金供給のスキーム

7年ぶりの利下げは金融政策委員会の全会一致の決定ですが、追加緩和の公算も高いと思われます。BoEが公表した四半期インフレ・レポートに記載された予測が現実のものとなれば、大方の金融政策委員がもう一段の利下げを支持することが予想されるからです。一方、カーニー総裁は、政策金利の下限は明らかに0%を上回るとして、マイナス金利には消極的な意向を繰り返し明言しています。インフレ・レポートからは、金融政策委員会が下限を「0%近辺で0%を若干上回る水準」にあると判断したことが読み取れます。BoEは、2016年10-12月期のいずれかの時点で追加利下げを行い、政策金利を0.1%に引き下げるものと思われます。

1,000億ポンドを上限とする銀行向け資金供給スキーム(TFS)は、利下げの効果が広く行きわたることを確実にするため、現行の資産買取プログラムの一環として実施されます。記者会見に臨んだカーニー総裁は、BoEの金融政策の波及について、終始、極めて楽観的でしたが、純利息収益(銀行収益)の悪化等、意図せぬ弊害が金融セクターに及ぶリスクは否めません。TFSはこのようなリスクの軽減を図ったものであり、「利下げが銀行と住宅金融組合の収益に(プラスでもマイナスでもない)中立の影響を及ぼすよう、規模を決定した」とのことです。 TFSと欧州中央銀行の貸出条件付き長期資金供給策(TLTRO II)には、銀行の融資行動に応じた4年間の資金供給等、多くの共通点が見られます。

TFSの当初の借入上限は企業ならびに家計向け貸出残高の5%に留まりますが、(貸出から回収を引いた)純貸出が維持される限り、追加の借入が可能となります。また、当初の借入にはバンク・レート(現行0.25%)が適用されますが、純貸出が減少した場合には、銀行に借入れの増加を促すことを目的に、借入金利が引き上げられます。

これが、中銀預金金利(現行-0.40%)を下限とするECBのTLTRO IIとの主な相違点です。もっとも、BoEは今後TFSの条件を良い方向にのみ調整する可能性について言及しています。

社債買入を導入し、資産買入プログラムを拡大

BoEは、国債買入と社債買入を並行して行うこととし、「通常の」国債については買入額を600億ポンド増額することで現行の資産買取プログラムを4,350億ポンドに拡大すると同時に、社債買取プログラムを新規に設定し、「英国経済に多大な貢献をする」企業が発行するポンド建ての投資適格社債を、1年半の期間で100億ポンドを上限に買入れます。9名で構成される金融政策委員会において、利下げは全会一致で決定したのに対し、資産買取プログラムについては3名の委員が、社債買取プログラムについては1名の委員が反対票を投じました。

資産買取プログラムを取り巻く環境は、2009年の導入以降、大きく変わっていますが、リスク・プレミアムの低下、ポートフォリオの資産配分変更(リバランス)、信用(銀行貸出)の拡大、為替レート、インフレ期待の醸成等、各種の経路を通じた量的緩和プログラムの目的は変わりません。BoEは、一部の波及経路の効果が薄れつつある一方で、金融の安定を損なうリスクが増していることを認めています。年金基金や保険会社の「現時点でのリスクは限定的」だとしている一因は、四半期インフレ・レポートにある通り、規制当局が保険会社の支払余力を現行の基準よりも緩やかな「ソルベンシーII」で測定すると決めているからです。

BoEは、社債買取プログラムの対象となる投資適格社債のユニバースの時価総額を1,500億ポンド程度としており、対象債券が不足する事態に陥ることなく、買取の増額が可能であるとしています。

金融政策の次は、財政政策に注目

6月23日の「ブレグジット」決定以降、経済の先行きを巡る不透明感が強まり、景況感や不動産市況が悪化していることから、BoEは、追加緩和を余儀なくされる状況に置かれています。マークイットが発表した7月の購買担当者景気指数等、最新の月次指標は、英国の7-9月期のGDP(国内総生産)成長率が前期比-0.4%程度と、マイナスに転じる可能性を示唆しています(図表2参照)。

このような状況下、金融政策委員会の経済見通し(図表3、4参照)も大幅に下方修正され、GDP成長率については、2017年予想が+0.8%、2018年予想が+1.8%と、従来予想(いずれも+2.3%)を大きく下回っています。一方、物価見通しについては、消費者物価指数が小幅に上方修正され、前回のインフレ・レポートに掲載された従来予想の2.1%に対して、2-3年のうちにも2.4%前後に上昇すると見込んでいます。物価の上昇圧力は、大方が輸入物価の上昇に起因するとし、ポンド安の他、余剰生産能力の拡大から予想される成長鈍化も影響し得るとしています。

景気が一段と悪化する局面では、インフレ予想が政府目標の2%を僅かに上回っても、BoEの追加緩和を妨げることはないと思われます。実際のところ、BoEは、景気動向次第では、大規模緩和を更に進める意向であることを明言しています。

ファンダメンタルズ面に照らして考えると、金融政策だけで、経済活動や賃金上昇やインフレにどれほどの影響を及ぼせるかは不明です。BoEが時間を稼ぎ、財政政策の変更を期待して財政余地を創りだしたことを勘案すると、低金利で先行きの不透明な現状での総需要不足に対応するには財政政策の方が適切だとの見方により説得力があるように思われます。

カーニー総裁は、「ヘリコプターからマネーをばらまくような」形での純粋なヘリコプター・マネー政策を否定する一方で、政府との間でより緊密な協調体制を築くことの可能性について言及しています。双子の赤字が高位に留まる状況で財政緊縮リスクを和らげるには、政府債務の増加を抑制する手段を提示することが必須だと思われます。ハモンド蔵相は、カーニー総裁宛ての書簡の中で、「経済を支え、信頼を高めるために、財務省は、BoEの金融政策と並行して必要なあらゆる手段を講じる用意がある」と述べ、予算責任局が新しい経済見通しを策定した後、秋季財政報告書に財政計画を盛り込むことを明言しています。

大規模な財政刺激策は、現時点では見込まれませんが、今後、景気回復の勢いが鈍化し続けるならば、政府は、BoEが創り出した財政余地を活用した財政出動を余儀なくされそうです。(前任のオズボーン蔵相が策定した2020年の黒字転換を目指す)財政赤字削減計画は、達成期限の延長あるいは一部計画の撤回を余儀なくされる公算が高いと思われます。また、この間、減税等、的を絞った景気浮揚策が発表されるかもしれません。一方、政府予算は、BoEの追加緩和の度合いに大きな影響を及ぼすこととなりそうです。来年の経済成長見通しの大幅な上方修正を可能とするのは、結局のところ、より刺激的な財政政策のみということになりそうです。

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