集中砲火を浴びるイタリア債券市場 | ピクテ投信投資顧問株式会社

集中砲火を浴びるイタリア債券市場

2018/06/06先進国

ポイント

イタリアのソブリン債券市場の今後を左右する主な要因として、新政権の財政政策、イタリアとユーロ圏の関係、欧州中央銀行(ECB)の量的緩和からの出口戦略の3つが挙げられます。本稿では、イタリアのソブリン債券市場が、今後も上下に大きく振れるであろう背景について解説します。

財政緊縮から財政拡張(放漫財政)へ

欧州連合(EU)との関係見直しを掲げるポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」(「五つ星」)と、極右政党「同盟」の両党は、5月18日に共同提案を提出しました。この共同提案には3つの主要政策、即ち、減税(憲法違反の可能性があるものの均等税を提案)、月額780ユーロの最低所得補償(ユニバーサル・ベーシックインカム)の導入、2011年の年金改革の破棄、を実現するための財政拡大政策が盛り込まれたものとみられます。

「五つ星」と「同盟」が連立内閣を樹立することとなれば、イタリアはこれまでの緊縮財政から拡張財政へと大きく舵を切ることが予想されます。財政拡大への政策転換は、イタリアの格付けの1段階の引き下げにつながる公算が高いと思われますが、格付け見通しを「ネガティブ」としたムーディーズに倣って、その他の格付け機関も新政権の財政計画の発表前に格下げを決める公算は低いと考えます。

イタリアの格付けは、抜本的な構造改革を断行し債務の圧縮と経済の浮揚を実現したスペインの格付けを下回る一方で、ポルトガルの格付けを上回っていますが、BBBからBBB-に引き下げとなればポルトガルに並ぶこととなります。

主なユーロ圏周縁国の格付け

 

格付けは個人投資家にとっても、格付け制約のある機関投資家にとっても、投資適格債以外の債券は購入できないECBにとっても、極めて重要です。とはいえ、現行のイタリアの格付けは投機的格付けからは2段階上にあり、欧州連合(EU)離脱あるいは政府債務の大幅な拡大でもない限り、2段階以上の格下げがあるとは思われません。市場は、イタリア格付けの1段階の引き下げとポピュリスト内閣の誕生を、概ね、織り込んでいると思われます。独・伊の10年国債利回りスプレッドがトレンドラインを上回り、イタリア以外のユーロ圏国債の利回りスプレッドを上回っているからです。ボラティリティ(利回りならびに価格の変動率)は恐らく高止まりの状況が続き、独・伊の10年国債利回りスプレッドは、当面のレンジの下限と考えられる200ベーシス・ポイントを上回る水準での推移も予想されます。

10年国債利回りスプレッド(対ドイツ国債)と格付け

 

「取引の技(”Art of the Deal”)」

強力なポピュリスト政党とEU懐疑派が台頭し、来年の予算編成を巡るEUとの交渉が難航する可能性が懸念されます。イタリアのポピュリスト政党は、米トランプ大統領がその著書で「取引の技(”Art of the Deal”)」として解説しているのと同様の対決的な手法を用いることも考えられます。

2017年のイタリアの財政赤字はGDP(国内総生産)比2.3%とマーストリヒト条約が規定した3%目標(基準)を大きく下回る一方で、政府債務残高は同132%と目標の60%を大幅に上回っています。政府債務残高が高水準に留まるイタリアはEUの「安定成長協定」に抵触しており、債務の削減と構造改革の実施を迫られています。

ポピュリスト新政権がEUとの交渉で財政拡張を要求しEU加盟の是非を問う国民投票の実施(あるいは交渉)の脅しをかけるとしたら、債務危機時と同様、システミックリスクが再燃する状況も否めません。歳出の一部を「財政信用証書」あるいは政府借用証書で賄うとするポピュリスト政党の(曖昧な)思い付きは、EU離脱の可能性と相まって、市場側から見た主要なリスクを表しています。詳細は不明ながら、この証書のアイデアは並行通貨の導入につながるという懸念も否定しきれません。

現時点では、ユーロ圏当局とイタリアが相互理解を深めることが期待されますが、このような試みが失敗に終わり、イタリアのEU加盟の是非を問う国民投票実施のリスクが再浮上することとなれば、イタリア国債の利回りスプレッドは拡大基調を続けることも予想されます。

イタリアとスペインの10年国債利回りスプレッドと、ユーロ圏投資家センチメント指数

 

ECBの安全網

市場参加者の多くは、現時点でイタリアのソブリン債の17%程度を保有し、毎月30億ユーロ程度の新発債を購入するECBの量的金融緩和(資産購入プログラム最盛期の新発債買い入れ額は110億ユーロ)に安心しきっているように思われます。ECBはイタリア債券市場の主要な投資家であることに間違いありませんが、国内銀行と海外投資家は更に重要な投資家であり、それぞれ、イタリアの国債残高の47%、および32%を保有しています。これは欧州債務危機の2012年当時に近い水準です。

量的緩和の段階的縮小に伴い、ECBのイタリア国債買い入れは大幅な縮小が見込まれており、2019年には僅か150億ユーロ程度に減少すると予想されます。ECBの買い入れは、満期の到来した国債の再投資に限定されます。従って、フロー(売買)効果は来年中にも停止しますが、ストック(残高)効果は今後も絶大です。ECBは満期の到来した国債の再投資を継続し、ソブリン債残高の18%程度を安定的に保有するものと見込まれます。

ECBは、イタリアの状況がユーロ圏のその他の周縁国に波及する状況が起こらない限り、利回りスプレッドの拡大を抑える目的でイタリア国債の買い入れ増額や、出口戦略の先延ばしを行うことはないと思われます。また、これまでのところ、イタリアの影響の余波は限定的です。ピクテでは、量的緩和の年内の終了と2019年下期中の利上げ開始の予想を変えていません。従って、ECBのイタリア国債購入が安全網となって市場を支える状況は想定できません。また、2019年のECBの国債購入は再投資分に限られ、縮小が見込まれるため、イタリア国債の利回りスプレッドの拡大が阻止される状況も期待薄です。一方、残高効果は、特に銀行や海外投資家の売却額を抑えることで、引き続き、威力を発揮すると考えます。

ECBによるイタリア国債の購入額(月額、右軸)と保有残高(全体に占める割合、左軸)

 

まとめ

イタリアのソブリン債市場は、国内政局の混乱を受けて強い下押し圧力にさらされる状況が続いており、国内の財政状況と欧州連合(ユーロ)加盟の行方が大きなリスクとなっています。債券市場は、今後数ヵ月、上下に大きく振れる展開が続くと思われます。また、新政権が財政拡大を断行するならば、格下げの公算は極めて高いと思われます。

市場は、政局の先行き不透明感と格下げの可能性を織り込んでいると思われますが、システミックリスクを巡る懸念が浮上すれば、イタリア10年国債の利回りスプレッドは200ベーシス・ポイントをレンジの新しい下限として、一段の拡大を見るリスクも考えられます。

(※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。)

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