ローマの呪い | ピクテ投信投資顧問株式会社

ローマの呪い

2018/06/07先進国

ポイント

イタリアでは漸く内閣が発足しましたが、問題が全て解決したというわけではありません。ユーロ圏各国が懸念するイタリアの状況について、ピクテのミラノオフィスからのレポートをお届けします。

イタリアに新政権が誕生し、差し当たって、危機は回避されましたが、政局や市場の混乱が解消したわけではありません。イタリアを引き金とするユーロ圏分裂の脅威は、ウイルスのように、この先何年も払拭されることがないと思われます。また、このようなリスクが各種の資産価格に織り込まれる状況も続きそうです。

ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「北部同盟」(「同盟」)と「五つ星運動」(「五つ星」)が連立政権の樹立で合意したことから、イタリアの政局と金融市場に「感染していた」高揚した雰囲気は突然鎮静化の様相を呈しています。欧州連合(EU)懐疑派の政策論議が大きく取り上げられる状況は終わったことから、投資家も、再び、イタリアの良好なファンダメンタルズ(基礎的条件)に注目することが可能となりました。イタリア経済は、数年続いた景気停滞局面を経て、インフレ調整後の成長率が1%を上回る水準にまで回復しています。また、経常収支はGDP(国内総生産)比で2%を超える黒字を計上しています。景気循環と利払いコストの影響を勘案した財政収支も同様の状況です。労働市場改革等の構造改革も進行中です。

イタリアの債務状況は、新聞の見出しが示唆するほど厄介な状況にあるわけではありません。イタリア国債の平均デュレーションは長期化されており、投資家別内訳では、国内投資家の割合が最大です。

また、イタリア国民はユーロ加盟を支持しており、直近の世論調査によると70%が賛意を示しています。

ですから、イタリアはギリシャと同じような状況にあるわけではないのですが、長期の観点からすると、そのことが問題なのです。債務が持続不能の状況に陥った場合、イタリアは大き過ぎて救えない可能性があるからです。また、ユーロ圏3位の経済大国であるイタリアが、意図的であるか否かを問わず、EU分裂の引き金を引くことになるリスクも残ります。

イタリアが、ユーロ圏の他の主要国に比べて未だに競争力を回復していないことも一因です。また、イタリアの全人口に占める労働力人口の比率は、主要先進国の中で最低水準にあり、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の66.4%を下回る65%以下となっています。出生率が低位に留まる一方で人口の老齢化が進み、65歳以上の人口が全人口の21%を占めていますが、高齢者の比率は上昇の一途を辿ると見られます。労働生産性も世界の最低水準に留まり、OECD加盟国の中で時間当たり生産性がイタリアを下回るのはギリシャだけです。ピクテのモデルで試算した適正価値は、イタリアが新しい変動通貨を導入し失われた競争力を回復するには、瞬時に30%の通貨切り下げが必要になると示唆しています。

イタリアとドイツの10年国債利回り(%)

ポピュリズムの台頭は、主に、アフリカや(キプロス、エジプト、イスラエル、レバノン、シリア、トルコ等の地中海東側沿岸国から成る)レバーント地方からの移民や亡命希望者が大量に流入したことに起因します。

このように様々な課題が、イタリア新政権を、EU当局との衝突が避けられない状況に追いやる公算は高いと思われます。国内経済の伸びの見込みが低いことから、イタリア政府は大規模な財政出動による景気浮揚を望んでおり、財政収支の赤字転落が予想されます。最新の試算によると、1,200億ユーロ規模の新規の政府支出はGDPの7%に相当します。

上述の財政出動は欧州委員会(EC)の承認を必要としますが、承認が得られる公算は極めて低いと思われます。イタリアの政府債務残高はGDP比130%前後とユーロ圏で最も高い水準にあるからです。ブリュッセルにあるEU本部、特にドイツが、イタリアのGDP比の政府債務残高の安定と相容れるはずのない赤字を容認するとは思われません。イタリアの基礎的財政黒字(プライマリー・サープラス)は足元1.9%ですが、これが0.6%を割り込むと、EUの財政規定に抵触することとなります。また、イタリア新政権は、他のEU加盟国が移民の流入に対応するための費用の分担を増やすことを望んでいますが、ドイツでさえ、自国の移民問題を巡ってポピュリズムが勢力を増す状況に苦慮していることを考えると、これも難しい問題です。

結局のところ、市場は、以前のような満足しきった状況に戻ることはないように思われます。ユーロ圏分断のリスクを想定した債券投資家はこの4月まで皆無でした。一方、ピクテの自社開発モデルによると、5月29日時点でのイタリアとドイツの国債利回り格差(イールド・スプレッド)は、イタリアのユーロ離脱の確率が25%に達することを織り込む水準に拡大しています。2011年から2012年にかけての欧州債務危機時に記録した40%の半分程度に過ぎないとはいえ、スプレッドが大きく広がった水準にあることには違いありません。急拡大していたスプレッドは、その後の市場の反発に伴って縮小していますが、リスクがすっかり消えたわけではありません。足元のスプレッドは200ベーシス・ポイント(2%)を若干上回る水準にあり、イタリアのユーロ離脱(「イタリエグジット」)の5%の確率を示しています。

イタリアの銀行は、潤沢な資本を有するとはいえ、イタリア国債を大量に保有しており、国債保有の観点でも、ユーロ圏分断の可能性は過少評価されている可能性がありそうです。国際決済銀行(BIS)の調べでは、イタリア国債はイタリアの銀行資産の20%を占めています。国内行が保有する国債の比率は他国との比較で最も高い水準にあることは間違いありません。

ピクテの試算では、独・伊の国債利回りスプレッドが100ベーシス・ポイント(1%)拡大するごとに、イタリアの銀行資本は30ベーシス・ポイント(0.3%)縮小します。また、スプレッドの300ベーシス・ポイント(3%)の拡大は、保有国債の価格下落を受けた預金流出の引き金となって銀行の不良債権売却を妨げ、銀行セクターを苦境に陥れることも想定されます。

今後どのような状況が展開されるとしても、「ローマの平和(パックス・ロマーナ)」は望めそうにありません。

(※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。)

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