コラム:TLACを巡る国際金融規制の動向を見る | ピクテ投信投資顧問株式会社

コラム:TLACを巡る国際金融規制の動向を見る 欧州/ユーロ圏

ポイント

大きすぎて潰せない国際的な巨大銀行の救済に公的資金(=税金)が使用されてきた過去への反省から、破綻を未然に防止する様々な国際金融規制が設けられてきました。一方で、万一巨大銀行が実質的な破綻に陥った場合の処理においても公的資金注入を回避する対応が今後加速的に進められるものと見られます。

金融安定理事会(FSB):2015年G20に向けTLAC最終案を提出の見込み

2015年11月トルコのアンタルヤで開催される主要20ヵ国・地域首脳会議(G20)を控え、金融安定理事会(FSB)は国際的な巨大銀行(グローバルな金融システム上重要な銀行(G-SIBs))の「大きすぎて潰せない問題」に対処するTLAC(Total Loss Absorbency Capacity、G-SIBsに対する破綻時損失吸収力要件)の最終案を提出する予定です。

日本では日経新聞が2014年9月に「巨大銀に新資本規制G20 ,16~20%で合意へ」として紹介していたのがTLACにあたります。TLACのイメージはG-SIBsにバーゼル3で求められる自己資本規制に上乗せして、劣後債などにより破綻への備えを厚くすることを求めたものです。

当コラムでは、最近の国際金融規制の枠組みを簡単に紹介し、TLACの考え方と、TLACを巡る欧州銀行セクターの動向について述べます。

金融危機(リーマン・ショック)後の国際金融規制の枠組み

グローバルな取引が増えた今日、国による不公平を除き、規制を逃れる動きを防ぐため、グローバルに統一された金融規制が望まれます。しかしながら、グローバルに強制力を持った立法機関はないに等しく、現在は図表1に示した体制で国際金融規制に対応しています。ただし、図表1の体制が本格的に整備されたのは比較的最近で、リーマンショック後といっても過言ではありません。
 
図表1:金融危機後の国際金融規制の枠組み

 

出所:金融庁、国際金融規制の資料を参考にピクテ投信投資顧問作成

  国際的に統一された規制が作られるフローのポイントを図表1を参考に述べます。例えば、G20の(政治家の)間で新たな金融規制の作成が合意されたとすると、銀行関連の規制であればバーゼル銀行監督委員会(BCBS)がルールの原則、指針を作成します。各国の当局は指針が各国の事情に合致するかレビューし、問題があれば指針の修正等の意見を述べます。その後最終的な指針に各国で強制力を持たせるため指針を法制化させる手続きを踏むというのが大まかな流れになります。

図表1の体制が実務的に本格化したのは2009年のG20(第2回目)ロンドンサミットです。例えば、FSBが前身のFSF(金融安定化フォーラム)からより強力な国際金融規制設定主体として役割を拡大させることが合意されました。TLACに関連して、このロンドンサミットの宣言で金融システムの強化の点から2つの重要な点が合意されています。1つ目は金融機関の自己資本と流動性等の強化です。2つ目は巨大金融機関(G-SIFs)に対する監督強化です。

1つ目の自己資本の強化は(バーゼル1からの)歴史的経緯を踏まえBCBSが主導してバーゼル3を形作る方向で実現されています。例えば、自己資本として普通株式等(CET1)の概念や、流動性やレバレッジのリスクに対し、流動性カバレッジ比率(LCR)やレバレッジ比率規制が導入のきっかけとなっていて、自己資本の充実等が図られています。

一方、G-SIBsにはリスクを取っても最後は救済せざるを得ないというモラルハザードが重要な反省点となりました。そこで、G-SIBsに対しては万一破綻した場合でも税金を使わないで円滑に破綻処理をする仕組みがFSB主導で進められ、TLACとして具体化する方向となっています。

G-SIBsの円滑な破綻処理TLACの概念について

TLACは国際的な巨大銀行であるG-SIBsが万一、実質的に破綻した際の備え(損失吸収力)を図表2のその他適格負債の形で保有するよう求める概念です。
 
図表2:バーゼル3とTLACのイメージ

 

※図表2の8%は自己資本の最低所要水準
※資本保全バッファーは最低所要水準に加えて普通株式Tier1で2.5%を上乗せすることが求められる
※G-SIBsサーチャージ:G-SIBsを5つのリスク要因でスコア付けし、スコアに応じて(1~2.5%の)普通株式等Tier1による、バーゼル3の自己資本への上乗せが求められる自己資本
※TLACはもともとはGLAC(Gone-concern Loss AbsorbingCapacity)として(実質的な)破綻企業の処理において損失を吸収できる資本として議論が始まりました。その後バーゼル3の自己資本と合計(トータル)して損失吸収能力を保有する意味で、TLACという名称となっています。
※FSBによる市中協議文書ではG-SIBsに対し、図表2のTLACに加えて、バーゼル3基準のレバレッジ比率(3%以上、Tier1ベース)の倍以上のレバレッジ比率の維持が求められていますが、ここでは割愛しています。
※破綻処理制度の整備や監督強化は銀行以外の金融機関も含めたGSIFsを対象に対応が進められていますが、当レポートでは銀行(G-SIBs)を主な対象としています。
出所:日本経済研究所、金融庁資料、各種報道等を参考にピクテ投信投資顧問作成

以下にTLACのポイントを述べます。

(1)TLAC(銀行の場合)の対象はG-SIBs:
銀行の中でTLACは(FSBが指定する)世界の主要30行(日本では3メガバンク)を対象とした規制です。反対に言えば、G-SIBs以外には適用されません。

(2)TLACは「大きすぎて潰せない」といわれていた巨大銀行の破綻処理に税金を使う(=公的資金)ことなくスムースな処理を目指した枠組み: リーマンショック時の経験等から、銀行の負債には派生商品取引のように債権者に負担を負わすとスムースに破綻処理ができない負債(非適格負債)と、損失を負わせることが可能な負債(適格負債)を区分すべきとの考えが生まれました。非常に大雑把な言い方ですが、過去の救済スキームである銀行の国有化とは、公的資金で作られた受け皿銀行がどちらの負債も丸抱えするイメージです。

一方、TLACでは銀行に一定の適格負債を保有させることで円滑な破綻処理を(税金無しに)行うことを目指す考えです。

TLACで想定される破綻処理の流れは、実質的な破綻が認定された場合、ブリッジバンク(承継金融機関)が設立され、デリバティブ取引など損失を負わせられない負債を実質破綻の金融機関から承継金融機関に移し、一方で、承継金融機関に必要な資本は、(以前のように公的資金=税金の注入でなく)TLAC適格負債を資本に転換することなどでまかなうというのが大まかなイメージです。

(3)TLACの要件:
TLACは破綻処理の備え(図表2右)という色彩であるのに対しバーゼル3(図表2左)は(継続している)企業の自己資本の質を高めることが主目的です。とはいえ、別々に資本を用意するわけではなく、バーゼル3の規制資本(資本保全バッファー、サーチャージは除く)を例えば9%持っていれば、8%を超える1%はTLACに算入することとなります。つまりバーゼル3の自己資本とTLAC適格負債の合計が16~20%(FSB最終案で数字は特定される見込み)になるよう、破綻処理に必要な備えが求められています。

次に、TLAC適格負債の要件のポイントは劣後性要件を満たすことです。そのイメージは、先ほど②の破綻処理の説明の中で表れた、デリバティブ取引など損失を負わせられない負債(非適格負債)より劣後していることが求められます。非適格負債より先に損失処理に利用できる必要があるための要請と考えられます。

一般には残存1年以上の無担保債がTLAC適格負債に該当するイメージです。ただし、そうなるとバーゼル3の規制資本であるTier2に該当する劣後債との区別があいまいといった点などに課題も見られます。

欧州クレジット市場におけるTLACの動向TLAC関連の動きはこれから

欧州市場におけるTLACへの対応はどのようになっているか?欧州の巨大銀行(G-SIBs)も同様にTLACへの対応が求められていますが、現時点では概ね様子見となっているようです。今後対応が加速することも考えられますが、対応が鈍い背景を列挙すると以下の理由が考えられます。

◎TLACは2019年の運用開始が予定されていますが、最終案は2015年11月のG20を目処に公表される予定です。TLACの対象となる欧州の巨大銀行は、最終案の内容を確認する姿勢が強いものと考えられます。

◎TLACは持ち株会社の形態で対応することが有利と考えられています。英国などのように持ち株会社が一般的な場合を除き、大陸欧州では持ち株会社形態が一般的でないため、持ち株会社を設立するか、割高なTLAC適格負債のコストを負うか選択が迫られる中、対応を決めかねている可能性が考えられます。

◎大陸欧州のハンディを克服する一つの方法として注目されているのがドイツの法改正です。この法案が成立すればシニア債も破綻時に使える「資本」にカウントすることが可能となると見られ、その動向が注目されています。法案は早ければ今月(9月)にも議決が行われる模様です。

◎欧州ではTLAC同様の破綻処理メカニズムであるMREL(Minimum Requirements for own funds and Eligible Liabilities)があります。税金にたよらずに破綻メカニズムを事前に準備する点で、TLACと同様です。大きな違いは、MRELはG-SIBs以外にも幅広い銀行に適用されることです。その場合、TLACとの棲み分けに不透明な点も指摘されています。MRELの最終案は2016年1月が予定されています。

以上の背景が考えられるため対応は鈍いものの、劣後債の発行体となる欧州の一部の巨大銀行の2015年半期の決算レポートや会社のプレゼンテーション資料には既に、TLACへの対応が示唆されています。

例えば、HSBCは2019年までの必要額を125~440億ドルと見ています。サンタンデール銀行は110億ユーロと推定しています。BBVAは2019年までに100億ユーロを必要額とし、毎年30~40億ユーロの発行を見込んでいます。

TLAC対応の債券を発行しているケースもあります。主なところではクレディスイスで既に100億ドル発行しています。スイス系のTLAC対応は比較的に積極的です。

市場の予想にバラツキはありますが、欧州全体で2019年の期限までに2,000~3,000億ユーロ程度の債券発行がTLACの要件を満たすために必要と見られている模様です。11月の最終案など金融規制の動きを踏まえ、ある程度の規模の債券発行が見込まれるだけに、市場並びに当局の動向に注意が必要です。

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