コラム:新資本規制の欧州社債市場への影響 | ピクテ投信投資顧問株式会社

コラム:新資本規制の欧州社債市場への影響 欧州/ユーロ圏

ポイント

トルコで開かれたG20首脳会合で金融安定理事会(FSB)が自己資本を手厚くし、経営危機に陥った金融機関を税金を投入しないで破綻処理が行える仕組み(総損失吸収力(TLAC))に最終合意しました。今後詳細をつめる必要があるものの、TLACの欧州社債市場への影響を概観します。

G20:「大き過ぎてつぶせない(TBTF)」問題の解決に向けた新資本規制で最終合意

トルコ南部アンタルヤで開かれていた20ヵ国・地域(G20)首脳会合(金融・世界経済に関する首脳会合)は2015年11月16日閉幕しました。G20では金融安定理事会(FSB)が金融機関の自己資本を手厚くし、経営危機に陥っても税金を投入しないで破綻処理が行える仕組みとして2015年 11月9日付で公表したグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs、図表1参照)の総損失吸収力(TLAC)に関する最終報告の規制内容に最終合意しました。最終報告の内容はFSBが1年前の2014年11月に公表したTLACに関する文書(市中協議文書)の内容を概ね踏襲する一方、TLACの最低要求水準等が具体的に示されました(TLACの概要については欧州クレジット・レター2015年9月8日号を参照)。

TLAC:最終報告における、G-SIBsへの追加規制の主なポイント

FSBが11月9日付で公表、G20で最終合意されたTLACの内容で主なポイントは以下の通りです。

1つ目はTLACの最低要求水準がG-SIBsはリスク加重資産(RWA)に対し2019年1月から16%、2022年1月から18%となりました。1年前の市中協議文書の16~20%とされていましたが、時期、比率共に明示されています。

なお、対象となるG-SIBsのリスト2015年版(図表1参照)を見ると、スペインのBBVAはG-SIBsから外れた一方、中国は3行から4行に増えています。ただし中国は本社が新興国にあるとされた場合、TLACの適用は2025年からと遅れての適用が見込まれます。

2つ目はG-SIBs破綻処理時の資本再構築について事前の払い込みがある(例えば預金保険制度)場合は最低水準16%に対しては2.5%、18%に対しては3.5%、TLACへの算入が認められています。日本の当局などが求めていた処置でもあり、TLACの対象となる日本の3メガにとって朗報とも見られます。

 

欧州社債市場への適用ポイント:最終報告で注目すべき点

次に、TLACに関する最終報告(タームシート)から欧州社債市場に影響を及ぼすと思われる点を取り上げます。

(1)親会社発行以外のTier1、Tier2のTLAC算入 詳細は不確かな部分もありますが、親会社(破綻処理の対象)以外が発行した既存のTier1、Tier2はTLAC算入要件を満たしていても、算入できるのは2021年末までと市場で解釈されている模様です。1年前の市中協議文書では見られなかった項目と理解しています。これにより想定される対応は、親会社以外、例えば子会社が発行した社債で2021年末までにコール(早期償還)等がある場合、コールを行使して親会社(持ち株会社)の発行にスイッチする動きなどが想定されます。

(2)ドイツの無担保優先債務に関する法案ドイツでは、新たに法律を制定して、銀行が発行する優先債の返済順位を預金やデリバティブ負債より低くすることで、TLAC算入を目指す動きが見られます。特定の無担保優先債務をマネーマーケット商品など他の優先債務よりも返済順位を低くすることを可能とするものです。最終 報告でもドイツの提案は明確に否定されていないとおもわれます。したがって、ドイツ(またはこの方式を採用するほかの国)で、仮に破綻認定された銀行では無担保シニア債の弁済順位が他の優先債務より低くなるケースが想定されます。

ただし、このドイツの提案が広がるか疑問もあります。確かに、シニア無担保債権などをTLAC算入できれば、資産に対する自己資本の最低比率水準をクリアしやすくなることは期待されます。一方で投資家は、シニア無担保債券にプレミアムを求めると思われます。他国では反対の 立場を示す銀行も見られます。例えばオランダのラボバンク・グループは投資家向け資料でドイツの提案に同意せず、高い資本バッファーを積み上げ無担保シニア債を保護する方法を選択する意向を述べています。

金融機関破綻処理:欧州社債市場で今後、話題となりそうなトピック

公的資金によらない破綻処理プロセスには、まだ今後の検討課題も多々ある中、最後に欧州社債市場で今後、話題となる可能性のあるトピックとして、シングル・ポイント・オブ・エントリー戦略(SPE)とマルチプル・ポイント・オブ・エントリー戦略(MPE)について述べます(図表2参照)。

SPEとは、子会社の銀行や現地法人で発生した損失を(何らかの方法で)持ち株会社で破綻処理を行う仕組みです。通常、金融グループは子会社の銀行レベルで預金やデリバティブ取引を行っています(持ち株会社は行っていない前提)。そこで、持ち株会社で破綻処理が行われ、持ち株会社発行のシニア(社債)が破綻処理(損失吸収)に使用されても、子会社で取引される預金やデリバティブへの影響が避けられるという考え方です。これは持ち株会社の発行したシニア債が形の上では子会社の預金などに劣後する構造となるため、TLACでは持ち株会社のシニア債も算入できるとされています。これは、現地法人の場合もスムースに適用されることが期待され、米国などでは主流の考え方です。

一方で、現地法人の資本を現地で調達する形態で運営される場合、破綻処理はそれぞれの国の当局で行われるMPEが選ばれる可能性があります。欧州では米国ほど明確な指針は見られず、各銀行の判断に委ねられている状況です。ただし、欧州のG-SIBsも多くはSPEを採用する模 様ですが、MPEを主体に破綻処理計画を策定する銀行もあると見られます。

SPEかMPEかは、白か黒かという問題ではなく、各巨大銀行(グループ)がビジネスの形態に合う最適解を求めるべき問題とみられ、欧州の今後の展開に注目しています。

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