欧州銀行セクターのストレステスト、2016年版の特色 | ピクテ投信投資顧問株式会社

欧州銀行セクターのストレステスト、2016年版の特色 欧州/ユーロ圏

ポイント

欧州銀行監督機構(EBA)は欧州主要51行の健全性を点検する資産査定(ストレステスト)の結果を発表、大半の銀行は健全とされたものの、欧州銀行セクターの一部に懸念が残りました。

EBA欧州銀行ストレステスト:結果発表、前回に比べ欧州銀行の健全性に改善も

欧州中央欧州連合(EU)の銀行監督機関、欧州銀行監督機構(EBA)は2016年7月29日に、欧州主要51行の健全性を点検する資産査定(ストレステスト)の結果を発表しました(図表1参照)。検査対象となった51行全体のコア(中核的)自己資本比率(健全性を示す目安)は2015年末の13.2%からリスクシナリオのもとでは18年末に9.4%に低下すると推定しています。なお、今後導入が予定される新たな規制(自己資本比率規制の強化など)が実施されたという想定を加味したもとでの推定によると同比率は9.2%へ低下が想定されています。

EBAは公表文の中で欧州の銀行の健全性について、改善が進展していることを指摘しています。例えば、CET1比率を前回のストレステスト(2014年、図表2参照)と比べると今回のストレステスト当初の加重平均CET1比率は13.2%であるのに対し前回ストレステスト開始時のCET1比率は2013年末の11.1%で、すでに2%以上も改善していることが示されています。EBAは検査対象銀行がコア自己資本を積み増した結果であると述べており、健全性の改善を指摘しています。

ただし、ストレステスト公表後の市場、特に欧州銀行株式に変動が見られ、市場の不安を一掃したとは言いがたい状況となっています。

EBA欧州銀行ストレステスト:主な内容と注目点

◎今回のストレステストの対象は51の銀行(EUの銀行資産の約7割をカバー)で、総資産300億ユーロ以上を選定基準としています。前回(2014年)は130の銀行が欧州中央銀行(ECB)の資産査定の対象であったことに比べると対象銀行の数は「少ない」印象です。

◎今回のストレステストでは、前回のテストで使用された、例えばCET1比率5.5%などの合否基準を定めていない点が特色です。

◎ストレステストのリスクシナリオは次の4点に対し、銀行がどこまで対応できるかを審査する内容です。

(1)流動性は低く、債券利回り急上昇、(2)景気低迷で銀行の収益性が悪化、(3)公的、民間債務への懸念高まる、(4)シャドーバンキングセクター急拡大へのストレス、となっています。例えば、(2)の景気悪化シナリオではユーロ圏GDP(国内総生産)成長率が景気悪化の初年度で-1.2%、2年目が-1.3%、3年目は+0.7%と前回より厳しいシナリオを想定しています。

欧州銀行ストレステスト:テストに対する批判を検証して問題点を明確化

今回のストレステストに対する主な課題を検証します。

Q1: 今回のストレステストでは、対象が51銀行と少ないのでは?小規模な銀行に問題は無いのだろうか?

A1:130銀行を対象とした 2014年のストレステストに比べ数が少ないのは確かです。ただし、前回の検査は欧州債務危機の後の金融市場の信頼回復を意図して行われたものであること、またECBが単一監督制度による一元化を示す場でもあったことから、ギリシャ、ポルトガルを含んだ幅広い欧州の銀行が対象となりました。しかし今回は通常の監督活動の範囲での検査という前提である点で単純に比較しがたい面もあります。

次に、小規模な銀行について、欧州金融当局が検査を全く行わないわけではなく、検査当局などが独自の検査を小規模の銀行に、必要に応じて行います。例えば、 ECBは2015年にギリシャの4大銀行に対し包括的な審査を行っています。また、ECBは今回EBAのストレステストの対象となっていない他の56の銀行(SSM対象銀行)へのテストも実施していますが、結果は公表されない模様です。

Q2:今回のストレステストでは合否基準を設けなかったこと、リスクシナリオ(例えばEUの実質GDP成長率)は適切と見ているか?市場ではEBAがマイナス金利をリスクシナリオに入れなかったことに懸念もあるようだが?

A2:平常時に行われている今回のストレステストは、合否判定を明確にした前回(2014年)と違い、検査当局と銀行が今後の改善点を検討するためのたたき台とすることが目的であると考えるならば、合否基準を定めないことや、リスクシナリオの前提は概ね適切とも考えられます。

そもそも、欧州におけるストレステストや資産査定の意義は国ごとにバラバラの基準であった検査に共通の基準を導入したことに大きな役割があったと理解しています。次に、マイナス金利の影響がストレステストに反映されていないシナリオは適切ではないという批判は確かに一理あると思われます。何故なら、足元の決算を見ても、欧州の銀行の「収益」に影響を与えている要因の一つと見られるからです。

では、何故マイナス金利をリスクシナリオに入れなかったのか?当局の説明は見当たりませんが、恐らく測定の問題が考えられます。ストレステストは共通基準で欧州の銀行を一律に比較することに意味があると述べましたが、マクロ経済変数は共通の測定基準が導入しやすい一方、マイナス金利の悪影響を測定するのは困難という問題があります。理由はマイナス金利の影響を減らす工夫が個別の銀行、国により異なるからです。金利分を手数料にして徴収するなど様々な方法が見られ、マイナス金利の収益への影響を共通して測定するのは簡単ではないと思います。

むしろ問題点は、従来の検査の基準が自己資本比率などバランスシートのリスクであるのに対し、最近の市場の懸念は銀行の収益性へとシフトしているという点にも注意が必要と見ています。

Q3:2016年のストレステストは合否基準を示さないとしていますが、仮に合否基準があるとするならばどこに注目すべきか?

A3:2014年同様CET1比率の5.5%が一つの目安です。ただし、最近はグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)には資本バッファを上乗せすることが求められており、銀行の特性を鑑みて合格基準を判断すべきと見ています。

ちなみに、2014年のストレステストでは25の銀行が不合格となリましたが、CET1比率で見てはっきり不合格なのはイタリアのモンテ・ディ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)銀行で、他にはアライド・アイリッシュ・バンクスもリスクシナリオ(新たな規制の実施を想定した基準)でCET1比率を下回っています。

なお、銀行にはCET1以外にもレバレッジ基準などが求められます。この観点で見るとレバレッジ基準で数行、基準ぎりぎりの銀行がありますが、数ベーシス引っかかる程度で、十分、改善に向けた対応は可能と見ています。

このように、ストレステストについて市場の不満、批判はあるものの、検査の目的など、前回との違いにも注意が必要です。一方で、市場の懸念が銀行のバランスシートの比率への関心だけでなく、収益性低下への懸念も高めている点には注意が必要です。

記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

イタリアの銀行の不良債権:解決には紆余曲折も

ストレステストが公表された後も、欧州の銀行セクターの市場の変動性は高いままとなっています。特に、不良債権が高水準(図表3参照)なことや、個別銀行に問題が見られたイタリアの銀行が懸念されています。

イタリアの銀行の2つの問題を検討します。

1点目はモンテ・パスキの救済案についてです。モンテ・パスキがストレステストの結果公表にあわせ発表した救済案は不良債権の証券化(92億ユーロ)と自己資本増強(50億ユーロ)を柱としています。

ただし救済案はまだ詳細が不明で、市場の信頼を得るには具体的な提案が必要と見ています。

例えば、不良債権の証券化では証券化された各クラスの(シニア、メザニン、ジュニアなど)のリスクに応じて格付けが求められすが、今の所、方針も定まっていないように思われます。

資本増強については、銀行と投資家の出資による救済基金(アトランテ)による支援が含まれる模様で、最初のアトランテ(50億ユーロ)は使い切る見込みで、第2のアトランテも準備されるなど、早急な確保が必要です。

また、救済案が実施されたとしても不良債権比率は高いままではとの見方もくすぶっています。

2点目はイタリアの銀行全体の不良債権の問題です。モンテ・パスキのような個別行は対応できたとしても、GDP(国内総生産)の2割程度に達するイタリアの不良債権処理が控えています。問題は不良債権を公的資金で処理しようとすると、EUのルール(BRRD)では個人投資家の保有する銀行劣後債も減免の対象となる恐れがあります。銀行債を保有する個人投資家に不良債権の損失負担を負わせることは政治的に難しい状況です。アイデアとしては、個人投資家と他の投資家を区別して個人投資家の損失を回避する、もしくは事後的に損失を補償するなどが考えられますが、いずれも具体案は示されておらず、投資家の不安だけが高まっている状況です。

公的資金の前に株式や劣後債保有者に損失負担を求める(ベイルイン)ルールは導入されたばかりであり、EUが当初から例外を認める可能性は低いと見ています。したがって、イタリア政府に決断が求められると見ています。

欧州債券市場:今後のポイント

今回のストレステストでは欧州銀行セクターの一部に弱さが露呈しました。しかし、全体としてみると自己資本など厚みが増しており、安全性に改善も見られます。ただし、検査の対象となっていない銀行や、結果が悪かった銀行への警戒感から欧州銀行セクターへの懸念は続く可能性も考えられます。

したがって、安全性が高いと見られる銀行への投資を基本にすえると共に、(市場が懸念している)収益性についても注意を払う必要があると見ています。

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※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。

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