初回コール見送りの理由 | ピクテ投信投資顧問株式会社

初回コール見送りの理由 欧州/ユーロ圏

ポイント

バーゼル規制の自己資本要件を満たすため新たに各種証券が発行されています。伝統的な株式や債券に見られる価格変動等のリスクに加え、新たな証券には趣の異なるリスクが内包されている場合もあり注意が必要です。

資本性証券のコール・スキップ・リスク:スタンダードチャータード初回コールを見送り

バーゼル規制の枠組のもと、銀行の自己資本として算入可能となる資本性証券(一般債権に比べて返済の優先順位が劣後する優先出資証券や劣後債など)が多く発行されています。そのような証券には様々な条件が付与されており、思わぬリスクも発生しています。例えば、英スタンダードチャータード銀行が2016年11月1日に7—9月期の決算発表で、2006年12月に発行した資本性証券(永久債、6.409%クーポン)の初回の期限前償還(初回コール日:2017年1月30日)を見送ると発表しました。

市場では「暗黙の了解」として、初回のコール日に償還されることが慣例でした。この慣例が崩れたことで、同証券価格は償還されないリスクを反映して急落しました(図表1参照)。また、同様の(償還されない)リスクが想定される他の証券の一部も連想で下落しました。

資本性証券のコール・スキップ・リスク:主な内容と注目点

今回、市場で見られた初回の期限前償還見送り(コール・スキップ・リスク)に対する主な課題を検証します。

Q1: そもそも、コール・スキップ・リスクとは?

 A1: スタンダードチャータード銀行は決算資料で初回コールを見送る計画を公表しているため、当該永久債(6.409%クーポン、2049年償還)を例に説明します。

当該永久債は2006年12月に発行され、その後年2回、約10年にわたって固定クーポンが支払われてきました。2017年1月に発行者は初回償還(コール)に当該永久債を償還させるか、それとも償還を見送り、以降は変動クーポン(3ヵ月LIBOR+1.51%、概ね2.4%程度)を支払うかの選択権があります(図表2参照)。

通常(?)であれば、同様の証券は初回のコールで償還されることがほとんどです。しかしコール・スキップの公表を受け、当該永久債の価格は約97から急低下、現在も70台後半の取引となっています。他の銀行は、現時点では明確にコール・スキップを表明していませんが、市場では同様のリスクを懸念して値を下げる銘柄も見られます。なお、コメルツ銀行もコール・スキップの可能性を示唆していますが、明確にコール・スキップを示唆していない点に注意が必要です。

記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。

Q2: なぜ、市場の慣例を破ったのか?

A2:同行の説明は今回の決定について、金利の節約といった内容を述べています。以下は、推察を付け加えると総合的に経済的に有利と判断したためと思われます。

金利の節約という点は、平易に理解するとクーポン支払いが減らせるということです。当該永久債が固定利付き債とみなされたときの類似の資本性証券(スタンダードチャータード永久債7.014% 永久債、次回コール2037年)の利回りは概ね現時点で6.5%程度、コールスキップを表明した時点で6.2%程度です(図表3参照)。

また、スタンダードチャータード銀行は自己資本比率などバーゼルIIIに向け資本に組入れ可能な証券の保有を維持したいと考えていたとすると、初回コールに向け次の選択が考えられます。

(1)市場慣行に従い6.409%永久債を早期償還して、同様の永久債を発行する(そのとき求められる利回りは先の証券が一つの目安)

(2)早期償還を見送り、3ヵ月LIBOR+1.51%を支払う金利の節約といっているのは(1)と(2)の差で、(2)を選択した場合、今後10年程度は現在の3ヵ月ドルLIBOR(当該永久債はドル建のため)に1.51%を上乗せした約2.4%のクーポンの支払いとなり、(1)に比べ1年で大雑把にみて4%程度の節約が期待されます。

Q3:当該永久債の発行体に経営の問題はあるのか?

A3:当該永久債の初回コールが見送られたのは、あくまで経済合理性を求めた判断であると考えます。例えば、スタンダードチャータード銀行の最新の決算(2016年7-9月期)を見てもCET1比率(完全適用ベース)は13.0%と高水準です(図表4参照)。資本不足を懸念する水準であるとは考えにくいと思われます。

また、11月後半にFSB(金融安定理事会)は定例改定でスタンダードチャータード銀行をG-SIB(システム上重要な巨大銀行)に昨年同様指定しています。

ここで、改めて初回コールを見送った理由を考えます。スタンダードチャータード銀行のような巨大銀行はCET1比率以外にも、様々な財務比率をクリアする必要があり、資本性証券の保有を減らすことは、財務比率の悪化を招く恐れがあり、初回コールをしたとしても、バーゼルⅢの資本算入条件を満たす同様の永久債を発行する必要がある可能性があります。

一方、当該永久債(6.409%)はバーゼルⅡ対応の資本性証券として発行されましたが、クーポンが固定から変動に変わる時点でステップダウンするなど、バーゼルⅢ資本性証券として資本算入条件を満たしていると考えられます。

(ご参考)主な資本算入条件
その他Tier
◎永久債であること◎初回コールまでの期間が5年以上
◎ステップアップ等の償還を動機付ける条件が含まれない
◎継続企業としてのトリガーなど

 記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

 ※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。

したがって、当該永久債の予め定められた割合分は(経過処置により)、初回コールを見送ってもその他Tier1に算入されると見られます。

まとめると:
1. 自己資本比率を維持したいなどの理由により、資本性証券を維持する必要がある。
2. なお、株式発行が出来るほど、業績が好調ということも無く、仮にコールしたとするなら資本性証券で調達する必要があり、そのコスト(利回り)は相対的に高い。
3.一方、コールを見送った場合(今回のケース)、コストの観点からは3ヵ月LIBORプラス1.51%ですむ。

Q4:スタンダード・チャータード銀行の経営に問題が見られないのに初回コールが見送られたのならば、他行でも、同様のことが起きる可能性はあるのでは?

A4:あると考えるのが自然と思われます。

例えば、コメルツ銀行も(2017年6月30日に初回コールを迎えるバーゼルⅡ用のTier1資本性証券を念頭に)初回コール見送りの可能性を示唆しています。他の銀行が発行した資本性証券にも、特にステップダウン債には初回コール見送りの可能性があると見られるものもあります。

Q5:初回コールで償還されるか見分ける方法はありますか?

A5:残念ながら、初回コールが見送られるリスク(コール・スキップ)を予想することは出来ないでしょう。ただし、次のような点に注目すべきと思われます。

(1)初回コール前後で利払いが大きく低下する。

(2)資本性証券の組入を維持するインセンティブが強い。 バーゼルⅢでは様々な指標をクリアする必要があり、資本性証券を各行の資本政策に活用することが想定されます。このような証券を維持するニーズが強いことも、コールを見送る条件と考えられます。

(3)他の資本性証券を発行する計画が当面ない コール・スキップは過去に例が無いわけでなく、経済合理性が高まっていることから、今後増えるのかも知れません。ただし、今回のスタンダードチャータード銀行のケースで学んだことは、コール・スキップの影響は市場の様々な証券に影響を与えるため、今後発行を考えている発行体にとっては発行コスト上昇を含めて経済合理性を考える必要があります。

上記が見分ける方法として考えられますが、あくまで参考に過ぎない点に注意が必要です。

欧州債券市場:今後のポイント

バーゼル規制が導入されて長い年月が経過しました。

バーゼルIでは自己資本比率という概念が導入され、IIにおいては主に分母のリスクアセットの定義が精緻化されました。バーゼルIIIでは分子である資本がゴーイングコンサーンキャピタル(Tier1)とゴーンコンサーンキャピタル(Tier2)として整理されると共に、自己資本比率で把握しがたいリスク指標としてレバレッジなど他の指標が導入されました。

このような流れの中で、2016年はAT1債(その他Tier1)のリスクであるコールスキップが発生しました。また、ドイツ銀のクーポン支払に懸念が起きたのは、業績悪化懸念により(翌年の)分配可能額が減少、クーポンが払えないリスクが高まったことが背景です。

AT1債のリスクというと、事前に定めた財務条項(トリガー)に抵触することで債券が株式に転換されるトリガーリスクが思い起こされます。一方で、コール・スキップや、クーポンが支払われない(分配可能原資不足)リスクは、市場のあわてぶりを見ると、現実の問題としての認識が低かったのかもしれません。

記載された銘柄はあくまでも参考として紹介したものであり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。

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