新興国株式の割安感解消の鍵は? | ピクテ投信投資顧問株式会社

新興国株式の割安感解消の鍵は? 新興国株式 グローバル

2014/08/21新興国

ポイント

足元で上昇基調にある新興国株式ですが、2010年年初以降でみると先進国株式に対して依然として出遅れています。この背景には、新興国経済の多様性の欠如がマクロ経済のボラティリティを高め、ひいては相対的に低い株価バリュエーション水準をもたらしていると考えられます。足元では中国などで経済の多様性の進展の兆しがみられます。

高い経済成長の一方、株価バリュエーションの割安感が続く新興国

新興国経済は過去30年を通じて堅調な拡大を続け、成長率でみると2000年以降、先進国を常に上回ってきました。

一方、新興国株式市場は、先進国株式市場に出遅れ傾向があり、さらに両市場の株価の格差は近年、拡大傾向が認められます。ピクテでは、格差の一因は、新興国経済の多様性の欠如と競争力の低下といった構造的な問題があるのではないかと考えます。

そもそも、「新興国市場(エマージング・マーケット」とは何を指すのでしょうか?1980年代、世界銀行のエコノミストだったアントワーヌ・ファン・アトメール(注1)が名づけた造語で、一人あたり所得水準が相対的に低い低・中所得国を指します。

新興国経済は、インフレ率をコントロールしつつ、高成長を実現し、飛躍的な発展を遂げてきました。

一方、新興国株式市場において株価は、自国経済の目覚ましい発展を反映したものとはなっていないと考えられます。2010年年初以降直近まで(2009年12月末~2014年7月末)の新興国株式のリターンは、先進国株式のリターンを40%以上下回っています(注2)。また、新興国株式はいまだに、景気変動の影響を大きく受けやすい、リスクが高い、価格変動が大きいといった特徴を持つ資産クラスだとみなされています。

株価バリュエーション(投資価値評価)指標を見ると、新興国株式は、総じて、先進国株式よりも割安な水準で取引されてきており、足元では3割近くディスカウントされた状態にあります(注3)

こうした新興国と先進国のバリュエーション格差は、新興国株式市場では、市場全体に占める景気敏感業種の比率が高いことで一部は説明できると考えられますが、ほかにも要因があると考えられます。

(注1):アントワーヌ・ファン・アトメール著、「新興国市場の世紀」
(注2) :新興国株式:MSCI新興国株価指数、先進国株式:MSCI世界株価指数、すべて米ドルベース、配当込み
(注3) : MSCI新興国株価指数の12ヵ月先予想株価収益率(PER)のMSCI世界株価指数の12ヵ月先予想株価収益率対比で算出
(注2、3)のデータはすべてトムソン・ロイター・データストリームのデータを使用し算出

新興国の構造的な問題 ~多様性の欠如

新興国がこれまで高い経済成長率を達成してきたことは注目に値しますが、その一方で、新興国は「世界の工場」とも言われるように、製造業中心の経済であり、この10年、この状態にはほとんど変化が見られません。つまり、製造業以外のサービス業が拡大するなど、多様性ある経済への転換が進んでいないということになります(図表1参照)。


図表1:国内総生産(GDP)に占めるサービス業の割合
(2001年、2011年比較)

 

※先進国:米国、ドイツ、フランス、イタリア、英国、日本※新興国:ブラジル、チリ、中国、コロンビア、チェコ、ハンガリー、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、メキシコ、モロッコ、ペルー、フィリピン、ポーランド、ロシア、南アフリカ、タイ、トルコ、エジプトの20ヵ国
※それぞれ2013年の名目国内総生産(GDP)(米ドルベース)規模を基に加重平均して算出
出所:IMF、世界銀行、ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイのデータを使用しピクテ投信投資顧問作
データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。


新興国は、特定産業への集中度が高い傾向があり、このことは、外的ショックに対して脆弱な状態にあるとも言えます。新興国で、こうした特定産業への集中を緩和することが実現されていないことが、新興国株式が先進国株式に対して依然として割安な水準にあることの一因ではないかと考えます。

一国の経済は拡大し成熟に向かう過程で、製造業では生産される財の種類が増加していくとともに、通常は、サービス産業も拡大していきます。サービス産業が拡大するにつれて、国内経済が発展していくことで、世界の景気循環(外的要因)に対する感応度が低下し、外的ショックに強い経済となっていくと考えられます。

言い換えると、サービス産業の比率が高く、多様性ある経済は、通常、世界的なマクロ経済の変動の影響を受けにくいことから、株式市場の変動幅も抑えられると考えられます。

新興国では、前述の通り、製造業が経済成長を主導する状況が依然として続いています。新興国のサービス産業は、新興国経済全体の50%程度を占めるに過ぎず、先進国のように経済全体に占めるサービス産業の割合が70%を上回るのとは大きく異なります(図表1参照)。

多様性の欠如は、経済成長率のボラティリティを高める

新興国経済の多様性の欠如は、輸出と輸入の不均衡にも反映されています。輸出製品ならびに輸入製品が広範囲に及ぶほど、一国の経済は多様性を増します。ピクテでは、国の輸出入の多様性を経済の集中度を測る、ハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いてランク付けしました。この経済の集中度指数は0から1の間の値を取りますが、0は輸出と輸入が全ての既存の製品カテゴリーにおいて均等に広く分散されていることを示し、経済の集中度が低く、多様性が高い経済であることを示します。

この経済の集中度と実質GDP成長率のボラティリティとの間には高い相関が認められます(図表2参照)。


図表2:実質GDP成長率のボラティリティと経済の集中度の関係

 

※データの期間:実質GDP成長率のボラティリティ:2002~2013年の各国の実質GDPをベースに算出(年次)、経済の集中度は、2012年時点 ※新興国:2014年7月末時点のMSCI新興国株価指数構成国のうち、ギリシャ、カタール、UAEを除く20ヵ国、先進国:2014年7月末時点のMSCI世界株価指数構成国のうち香港、シンガポール、イスラエル、ニュージーランド、フィンランド、デンマークを除く17ヵ国、南米:ブラジル、チリ、コロンビア、ペルー、メキシコ、東欧・アフリカ:エジプト、ハンガリー、ポーランド、南アフリカ、トルコ、チェコ、ロシア、アジア:中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、台湾、タイ、フィリピン ※単一国以外のデータは2013年名目GDP規模(米ドルベース)で加重して算出
出所:IMF、ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。

例えば、2兆ドル相当の経済規模を持つロシアは、原油輸出への依存度が高く、この点で経済の集中度が高いために、経済成長率のボラティリティは相対的に高水準となっています。

さらに、経済成長率のボラティリティは、投資の観点からも重要な意味合いを持つと考えられます。

経済成長率のボラティリティが高い新興国の株式は、先進国株式に対するディスカウント幅が大きいという傾向が見られます(図表3参照)。


図表3:実質GDP成長率のボラティリティと相対予想PER(対先進国株式)の関係

 

※相対予想PER(対先進国株式)は、各国・地域の12ヵ月予想PERが先進国株式(MSCI世界株価指数)の12ヵ月先予想PERに対して何パーセント割高または割安水準にあるかを示したもの ※【データの期間】実質GDP成長率のボラティリティ:2002~2013年の各国の実質国内総生産(GDP)をベースに算出(年次)、相対予想PERは全て2014年7月末時点 ※南米(ブラジル、チリ、コロンビア、ペルー、メキシコ)、東欧・アフリカ(エジプト、ハンガリー、ポーランド、南アフリカ、トルコ、チェコ、ロシア)、アジア(中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、台湾、タイ、フィリピン)、新興国(2014年7月末時点MSCI新興国株価指数構成国のうちギリシャ、カタール、UAEを除く20ヵ国)、先進国(MSCI世界株価指数構成23ヵ国)の実質GDP成長率のボラティリティは、2013年名目GDP規模(米ドルベース)で加重して算出 ※新興国の12ヵ月先予想PERはMSCI新興国株価指数、ロシア、ブラジル、中国、インド、米国はMSCI各国株価指数、東欧・アフリカ、南米、アジアはMSCI各国株価指数における数値を2013年名目GDP規模(米ドルベース)で加重して算出
出所:IMF、トムソン・ロイター・データストリーム、ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。


例えば、経済成長率のボラティリティが高いロシアは、ロシア株式の12ヵ月先予想PERで見ると、先進国株式に対して非常に割安な水準にある一方、経済のボラティリティが低い米国株式は、相対的に高いバリュエーション水準となっています。

新興国経済は先進国経済を上回る成長を遂げてきた一方で、経済成長率のボラティリティが先進国に比べて高いことが、新興国と先進国の株式のバリュエーション格差が縮まらないもう一つの理由ではないかと考えます。

資源輸出国が経済の多様化を実現するためには、資源の輸出で得た売上を、資源関連セクター以外の業種に投資しなければなりません。例えば、アラブ首長国連邦(UAE)は、このような多様化に着手し始めており、原油の売上を、金融、建設、不動産等のセクターに投資しています。

構造改革や規制緩和なども外的ショックに対する耐性を強める一助となり得えます。この点では、ここ最近では、インドのモディ新政権が、経済改革の断行と官僚主義の一掃を実行しつつあるといった進展がみられます。

新興国と先進国の株式のバリュエーション格差には、競争力の低下の影響も

さらに、新興国の競争力の低下も、特に2010年以降の新興国と先進国のバリュエーション格差の一因であると考えられます。

国の競争力は、国内製品と輸入製品の相対価格で測ることが可能です。例えば、一国の財ならびにサービス価格が、労働コストあるいは通貨の変動により、貿易相手国の価格と大きく乖離した時には、競争力が低下します。賃金の上昇あるいは生産性の低下に起因する競争力の低下は、企業の利益率を悪化させ、利益見通しを低下させます。

新興国の競争力を、1単位あたりの生産量に対する平均労働コストを表す単位労働コストで測った場合、新興国の競争力は近年、低下傾向がみられます。 新興国の単位労働コストは、過去5年で先進国を上回って上昇しています。この背景には、相対的に高い賃金上昇率と製造業の生産性の低下があります。特に賃金の上昇については、中国における上昇分が大きく影響しています。製造業の生産性は、2010年にピークを付けた後、低下に転じました。2013年には底打ち感が見られますが、過去5年の加重ベースの新興国の生産性の伸びは平均で1ケタ台前半に留まっていると推定されます。

また、単位労働コスト上昇率と相対予想PERの間には、相関が認められます。一国の単位労働コストが高ければ高いほど、当該国の株価は、先進国株式の平均に対して割安度を強めます。

例えば、単位労働コスト上昇率が高い中国は、予想PER面で先進国株式に対して非常に割安感があるという結果となりました(図表4参照)。


図表4:単位労働コスト上昇率と相対予想PER(対先進国株式)の関係

 

※相対予想PER(対先進国株式)は、各国・地域の12ヵ月予想PERが先進国株式(MSCI世界株価指数)の予想PERに対して何パーセント割高または割安水準にあるかを示したもの
※【データの期間】単位労働コスト上昇率:2008~2013年の5年間の年率平均上昇率、相対12ヵ月予想PERは全て2014年7月末時点
※新興国10ヵ国:中国、韓国、インドネシア、マレーシア、台湾、フィリピン、メキシコ、チェコ、トルコ、ポーランド。先進国8ヵ国:日本、米国、イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、スイス、英国
※新興国10ヵ国、アジア、先進国8ヵ国、東欧の単位労働コスト上昇率は2013年名目GDP規模(米ドルベース)で加重して算出
※米国、メキシコ、中国の12ヵ月先予想PERはMSCI各国株価指数の数値、新興国10ヵ国、アジア、東欧、メキシコについては、MSCI各国株価指数の数値を用い、2013年名目GDP規模(米ドルベース)で加重して算出
出所:IMF、トムソン・ロイター・データストリーム、ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。

ただし、新興国の競争力が低下しているといっても、賃金水準は先進国に比べれば依然として低水準に留まっているため、新興国経済に大きな弊害を及ぼすには至っていないという点には注意が必要です。

新興国の製造業における労働者の1時間当たりの賃金は先進国の1/4~1/5程度に留まっていると推定されます。このため、世界の輸出に占める新興国のシェアが低下していないことの一因となっています。

中国、回復期待が高まる

新興国の中でも、ここ最近は特に中国の競争力の低下が認められますが、ピクテではこれは一時的な現象であり、世界経済が回復に向かえば、数年のうちにも回復するものと考えます。

中国の競争力の低下は、主に、生産性の伸びの鈍化によるところが大きいと考えられます。これは、硬直的な労働市場が、国内外の財の需要の減少時にも、工場労働者の解雇を妨げていたからです。

実際、2008年の金融危機以降、政府は、国営企業に対し、社会の安定維持のため、人員解雇を回避するよう指導していました。したがって、不採算であっても工場を閉鎖できず、操業を続けざるを得ませんでした。

こうしたことから中国の生産性の上昇率が、2009年年央の12%から、2012年には4%以下に低下したのも当然と考えられます。

もっとも、世界の景気回復が加速度を増すにつれて中国の財に対する需要が増せば、生産性の伸びが加速し、競争力も回復する公算が高いと考えます。その結果、企業の収益性も向上し、先進国株式に対する中国株式の割安感は薄れていくものと考えます。

中国では、単位労働コストの低下に伴って、増益基調が強まる傾向が確認されています(図表5参照)。


図表5:中国の工業利益と単位労働コストの推移

 

※【データの期間】工業利益:2003年10-12月期~2014年4-6月期、単位労働コスト:2013年10-12月期~2013年10-12月期(四半期毎)
出所:ピクテ・アセット・マネジメント・エス・エイのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
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しかし、足元で賃金上昇率が加速していることは、中国が付加価値のより高い財の生産を増やし、産業のバリューチェーン(価値連鎖)を駆け上がっていることを示す一つであるとも考えられます。1990年代には、自動車部品の組み立て等の付加価値が相対的に低い製造業製品が、中国の輸出総額のおよそ6割以上を占めていました。1990年代以降になると、スマートフォンや第3世代移動通信システム用アンテナ等、付加価値が相対的に高い電子機器等が増加ペースを強めており、足元、輸出総額の5%程度を占めています。より付加価値の高い財の生産には、相対的に高い賃金を要求する技能労働者が必要とされます。

このような進展が中国の製造業に新しい時代が到来しつつあることを示唆するものであれば、経済の多様性が改善される可能性が高いとも考えられます。

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