後戻りできない、サマラス首相の決断 | ピクテ投信投資顧問株式会社

後戻りできない、サマラス首相の決断 欧州/ユーロ圏 新興国 ギリシャ

2014/12/16新興国

ポイント

ギリシャのサマラス首相が来年に予定されていた大統領選挙の前倒しを決め、波紋が広がっています。連立与党が擁立する大統領候補が選出されなければ、国会は解散・総選挙となり、緊縮財政反対派の野党が勝利する公算が高いと考えます。金融市場は、第3回投票(12月29日)の結果を見極めるまで、不安定な展開が予想されます。

大統領選挙前倒しに至る経緯

金融市場の良好な展開に意を強くしたギリシャのアントニス・サマラス首相は危険な賭けに出ました。アイルランドとスペインに続いてギリシャも(経済政策と財政規律を国外から管理される)財政調整プログラムを脱却できる可能性があると考えたからのようです。賭けが成功していれば、サマラス首相はギリシャを危機的状況とトロイカ(ギリシャの財政再建を支援・監視している、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)3組織の通称)の支配から解放した政治家と見なされたことでしょう。ところが、ギリシャが、国際機関の供与する信用枠や構造改革を条件とする調整プログラムといった安全網を失うことに対して、投資家は即座に懸念を示しました。 2014年9月から10月にかけて、ギリシャ10年国債利回りは5.6%から9.0%に急騰(価格は急落)し、アテネ株式市場は28%安と大きく売られたのです(図表1参照)。

図表1:ギリシャ、スペインの10年国債利回り推移
(日次、期間:2010年1月1日~2014年12月11日)

 

出所:ピクテグループのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

2014年12月9日、サマラス首相は新たな賭けに出ました。当初は2015年2月あるいは3月に予定されていた大統領選挙の前倒しを発表し、来年まで発生するはずのなかった金融危機を今年に繰り上げたのです。問題となっているのは大統領選そのものではなく、財政再建下のギリシャで、欧州債務危機発生以来初めて、EUに非協力的な政権が誕生する確率が高まっていることなのです。このことはEU当局が、(1)加盟国の交渉なしの債務再編を容認すること、(2)加盟国のユーロ圏離脱のリスクを容認すること、という極めて困難な二者択一を迫られることを意味すると言えそうです。

ギリシャ経済回復の兆し

サマラス首相はギリシャ経済の回復を示唆する良好な指標に意を強くしたものと思われます。ギリシャの実質GDP(国内総生産)成長率は2009年から2013年にかけて18四半期連続のマイナス成長を余儀なくされたものの、 2014年に入ってからは、3四半期連続のプラス成長を実現しています(図表2参照)。

図表2:ギリシャ実質GDP成長率の推移
(四半期、期間:2000年1-3月期~2014年7-9月期)

出所:ピクテグループのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

また、ギリシャの基礎的財政収支(プライマリー・バランス)はほぼ均衡を達成しています。このことは、政府債務の安定化の必要条件となる元利金の支払いを除いた財政の黒字化を意味します。市場はこれを好感し、10年国債利回りは2013年12月末の8.4%から、2014年9月には一旦5.6%前後に低下しました。

金融の自立は未だ得られず

プライマリー・バランスがほぼ均衡したとはいえ、ギリシャは今後2年にわたって、おそらく200億ユーロ程度の追加支援を要するものと思われます。IMFの救済プログラムは2016年3月まで続き、新たに120億ユーロの支援が予定されています。

EU加盟国経済・財務相理事会(ECOFIN)は12月9日、ギリシャが(構造改革に向けて)一段の施策を実行できるよう、今年末が期限の金融支援の2ヵ月延長を決定しました。トロイカは、製品市場の開放、国民の税金滞納対策、労働市場の改革等から成るギリシャの構造改革の進展に総じて不満を残しています。

サマラス首相は大統領選の前倒しにより、ぜい弱な連立政権の強化を図り、体制を立て直した上でトロイカとの交渉に臨めばより有利な条件を引き出せると考えたようです。

大統領選挙の日程

ギリシャ大統領選は、以下の日程で実施されます。

<第1回投票>
2014年12月17日: 300議席のギリシャ議会において、200票以上の賛成が必要。

<第2回投票>
2014年12月22日: 同じく200票以上の賛成が必要。

<第3回投票>
2014年12月29日: 同じく180票以上の賛成が必要。

サマラス首相率いる新民主主義党と中道左派の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)との連立与党は定数300のうち155議席を占めるに留まっていますが、金融支援の条件である構造改革に反対して離党した16~17名の無所属系議員の支持を取り付けることは容易ではありません。連立与党が野党から必要な票を確保できなければ、2015年2月あるいは3月の解散・総選挙に追い込まれる公算が高いと考えます。

11月実施の直近の世論調査では、反緊縮派の急進左派連合(SYRIZA)支持が27.5%と、新民主主義党支持の20%を上回っていますが、SYRIZAの絶対多数には37%が必要です。SYRIZAは、以下の通り、主要な争点につき、足元、態度を軟化しています。

・SYRIZAはギリシャのユーロ離脱を求めない
・ツィプラス党首は無条件のデフォルトを求めない
・ツィプラス党首はトロイカに対して柔軟な態度で臨む

何が懸念されているのか?

連立与党の擁立する候補者が大統領に選出されず、SYRIZAが勝利した場合には、欧州債務危機以降初めてEUに非協力的な政権が周縁国に誕生することとなります。ギリシャの公的債務はユーロ圏加盟国が多国間制度を通じて保有していることから、債務の再編は(納税者負担の婉曲表現に他ならない)公的部門関与を意味することとなります。

したがって、EU当局は(1)ギリシャの債務再編を容認し反EU政党が勢いを増す欧州議会での討論を余儀なくされる、(2)EU発足後初めて加盟国のユーロ圏離脱が現実となるリスクを冒すことを容認する、という極めて困難な二者択一を迫られることとなります。

市場の反応

これまでのところ、市場の反応はギリシャの証券市場に集中しており、周縁国への連鎖反応は限定的です。アテネ株式市場の主要指数(アテネ総合指数)は、12月9日の-13%の急落の後、10日は-1%、11日は-7%、12日は-0.1%と下げ渋っています。また、ギリシャ10年物国債利回りは8日の7.2%から11日は9.1%に上昇(価格は下落)しています。ユーロ・ストックス50指数は8日から11日にかけて、銀行セクターを中心に-2.7%の下げとなっています。イタリア国債利回りは1.9%から2.1%に上昇しています。

ユーロ圏の政治的危機は今のところギリシャ固有の危機に留まっているとしても、EUの各種機関が危機に対応しきれないリスクは残ります。危機管理ならびにユーロ圏共通債の導入については、欧州安定メカニズム(ESM)、銀行同盟、ECBの非伝統的施策等、一定の進展は見られますが、EUの通貨同盟は政治的統合と財政移転制度を欠いており、最適通貨圏になり得ていないことは明らかです。

幾つもの仮定が現実となって不愉快な結果をもたらすまでには時間がかかるとしても、経済の停滞を脱せず、デフレ懸念が払拭されないユーロ圏経済に、ギリシャ大統領選挙の甚大な影響が及ぶ可能性は決して無視できません。ギリシャ大統領選出を巡る議会投票の行方は12月29日の第3回投票が終了するまで市場の振れを誘発することとなりそうです。大規模なデモやストライキが頻発した2014年5月の場合と同様、EUの通貨統合が現行の制度を維持できるかどうかはギリシャ国会議員の手に委ねられています。

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