新興国通貨:転換の兆し | ピクテ投信投資顧問株式会社

新興国通貨:転換の兆し グローバル 新興国

2015/05/27新興国

ポイント

新興国通貨は、ここ数ヵ月大幅に下落しています。しかしながら、割安感が際立っていることや、輸出の持ち直し、構造改革の進展などにより、下落局面が長期化する公算は低いと考えます。新興国通貨市場に現れつつある変化の兆しを、ピクテのチーフ・エコノミスト、パトリック・ツヴァイフェルが解説します。

通貨市場に転換の兆し

通貨市場を舞台に例えるなら、米ドルが主役だということになるでしょう。ドル(実効実質為替レート)は過去4年で約17%上昇したうえ、2014年夏以降の9ヵ月間には約11%の上昇を記録し、過去との比較で見ても際立ったドル高相場を展開してきました。

一方、新興国通貨は、ドル高により多大な犠牲を強いられてきました。過去3年の間に、ロシアルーブル、ブラジルレアル、トルコリラ、インドネシアルピアは、いずれも対ドルで30%以上下落しており、新興国通貨の中では下方耐性が強いとされるポーランドズロチやメキシコペソでさえ、15%程度も下落しています。また、通貨の下落が変動率(ボラティリティ)の上昇を伴ったことから、現地通貨建て新興国債券に内在する通貨リスクも上昇しました。国際決済銀行(BIS)の調査では、通貨のボラティリティが上昇する局面で、現地通貨建て新興国債券の利回りが上昇する傾向が強いとの分析結果が報告されています。

しかし、ここにきてドル高のトレンドが勢いを失いつつあります。2015年1-3月期に入り、新興国通貨が安定を取り戻しはじめたことは、新興国に見られる状況の変化が通貨のバリュエーション(投資価値評価)に大きな影響を及ぼし、新しい局面が形成されつつあることを示唆しています。実際のところ、多くの新興国通貨が上昇に転じる条件を整えつつあります。

現在、多くの通貨が適正価値を下回って推移していることや、アジアやラテンアメリカの国々に構造改革の進展が見られることなどは、為替市場に転換をもたらす一因となるでしょう。複数の新興国通貨が、下落局面を脱し始めるものと見ています。

行き過ぎた新興国通貨安

新興国通貨の下落局面が始まったのは、新興国経済拡大の勢いが失速し始めた2011年のことです。それまで拡大基調を維持していた新興国と先進国の成長格差が縮小し始めました。更に、2013年5月にも、新興国通貨を支えていた要因の一つが失われました。米連邦準備制度理事会(FRB)が量的金融緩和の終了と利上げの準備を始めたからです。新興国通貨に対する下押し圧力は、2013年夏以降、中国経済の失速や資源価格の下落の影響も相まって、強まる一方でした。

この結果の新興国通貨安は、行き過ぎの状況に達していると考えます。新興国通貨の下落局面が3年に及んだ結果、ピクテが追跡対象とする32の新興国通貨は、1985年5月以降で最も割安な水準に沈んでいます。ピクテ開発のモデルは、消費者物価の上昇率(インフレ率)、生産性、外貨資産の純保有額等を用いて通貨の適正価値を予測するものですが、足元、全通貨の平均は対ドルで21%程度の割安水準にあり、均衡価値(適正価値)を2標準偏差も下回っています(図表1参照)。


図表1:ピクテ開発モデルによる新興国通貨の対ドル適正価値からの乖離幅
(期間:1980年1月~2015年4月)

 

出所:ピクテ・アセット・マネジメント

新興国通貨上昇のきっかけとなりうるファンダメンタルズの変化

前述のとおり、割安すぎるバリュエーションは、大方の新興国通貨が反発する可能性を明らかに示唆していると考えます。

では次に、通貨市場がまだ十分に織り込んでいない、新興国のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の変化を見てみましょう。

(1) 輸出の改善

米国、ユーロ圏、日本といった先進国の経済回復を反映し、新興国製品に対する需要は拡大すると見られ、新興国の輸出が押し上げられる公算が高いと考えます。ピクテでは、米国、ユーロ圏、日本の2015年4-6月期の経済成長率が、前期比、年率ベースで1.8%程度に達するものと予測していますが、この水準を過去の例に照らすと、新興国の輸出は年率10%程度増加するものと考えられます。

国際通貨基金(IMF)のまとめたところによれば、過去に行われた構造改革の効果が薄れつつあることから、世界経済の成長率に対する新興国の輸出の伸びの感応度がここ数年で若干低下していることは事実です。しかしピクテでは、二つの相関は未だ十分に強いと見ており、新興国の輸出が大幅に拡大する可能性は高いと考えます。新興国の輸出の伸びが経常収支の改善につながり、それが、新興国通貨の回復を促すものと見ています。

韓国ならびに台湾を中心とするアジアの新興工業国は、他地域の新興国に先駆けて、先進国経済回復の恩恵に与るものと考えます(図表2参照)。


図表2:アジア新興工業国の輸出伸び率の推移
(前年比、3ヵ月移動平均、期間:2012年1月~2015年4月)

 

出所:ピクテ・アセット・マネジメント

アジアの輸出回復を裏付ける数値は既に散見されています。例えば、韓国の輸出の伸び(インフレ調整後、数量ベース、3ヵ月移動平均)は、2015年2月時点で年率15%程度に達しています。原油安が追い風となり、エネルギー輸入国の貿易収支の改善を促しています。輸入価格に対する輸出価格の比率の上昇は、輸出の増加、ひいては通貨の増価を示唆します。

従来、韓国において、対米国の貿易収支の改善は対ドルでの韓国ウォン高圧力を強めるものでした。韓国の対米国貿易収支は2013年以降で12%程度改善しています。これまでのところ、ウォンの上昇は見られませんが、ウォン高には数ヵ月のうちに弾みが付くものと見ています。

(2) 新興国への投資の拡大

新興国への投資資金の流入も、新興国通貨が近い将来、上昇に転じ始める一要因となり得ると考えます。

先進国債券市場においては、名目利回りで見ても実質利回りで見ても、マイナスの利回りで取引される債券の比率が増えており、インカム収益を必要とする投資家の投資対象が不足する状況が続いています。

このような状況にあって、現地通貨建て新興国債券から得られる利回りは、見過ごせないほど魅力的だと言えるでしょう。JPモルガンGBI-EMグローバル・ディバーシファイド指数とJPモルガンGBIグローバル指数との利回り格差で見た場合、2015年4月末における先進国債券と新興国債券の利回り格差は約4%と、長期平均を2標準偏差上回っています。

(3) 構造改革の進展

新興国における構造改革の進展も通貨の支援要因となり得ます。新興国の構造改革は進捗の度合いを増しており、通貨上昇の必要条件である生産性の改善が期待されます。

<メキシコ>

ラテンアメリカでは、メキシコが他国に率先して構造改革に取り組んでいます。エンリケ・ペニャ・ニエト大統領の指揮の下、メキシコは、エネルギー、金融、労働、教育、通信と広範囲に及ぶ遠大な構造改革に着手しています。経済協力開発機構(OECD)が推奨する構造改革対応率は2013年~2014年にかけて58%に達し、新興国平均を上回っています。

メキシコへの期待が高まるのは、法制面での手続きが既に完了し、多くの政策変更の効果が現れ始めているためです。時代遅れの雇用法の改正、時間給の導入、闇経済の縮小等からなる労働市場改革は、政府の公式予測では、今後5年から6年のうちに、経済成長率を0.3%程度押し上げるとされています。また、政府は、労働市場改革が、既に創出された雇用に加え、今後、年間40万人の新たな雇用を創出するだろうと明言しています。

国営企業が独占してきたエネルギー産業の外資への開放を中心とするエネルギー改革も、メキシコの潜在成長率を高めることが予想されます。IMFは、エネルギー改革がもたらす電気料金の引き下げが製造業の生産高を36%程度押し上げる可能性があると予測しています。

<中国>

中国も大規模な構造改革に取り組んでおり、これが、人民元の大幅増価をもたらし得ると考えます。構造改革の目玉は国営企業改革であり、効率性の改善、民間投資の誘致、生産性の改善ならびに企業統治の強化等が目標とされています。

政府は、水道料金ならびにエネルギー製品の価格統制の段階的廃止に着手していますが、これは、社会インフラや生産能力増強のための投資の無駄をもたらした市場機能の歪みを排除することになるだろうと考えます。

中国政府は資本市場の外資へのさらなる開放を進めています。これまでのところ、海外企業30数社が6兆人民元規模の債券市場への投資を認められていますが、これは資本市場改革のほんの始まりに過ぎません。

人民元は、年内にも、IMFの特別引出権(SDR)のバスケット通貨の一つとして採用される可能性があり、これが実現すれば、(各国中央銀行に)人民元の準備通貨としての採用を促し得るものと考えます。

構造改革の進展は、中国へ投資資金を呼び込み、長期的な人民元の増価をもたらすものと考えます。

アジア通貨が新興国通貨をけん引

ここまで述べてきたように、新興国通貨の割安すぎるバリュエーションは、反発の可能性を明らかに示唆していると考えます。また、通貨市場がまだ十分に織り込んでいない、新興国のファンダメンタルズの変化も見られます。

これらの要因のすべてが、短期間のうちに直接的な新興国通貨の反転上昇をもたらすというわけではありません。今後数年のうちに、新興国通貨の間で成長に大きな乖離が生じる公算が高いと考えます。とはいえ、新興国通貨は、アジア通貨をけん引役として、今後5年の間に対ドルで年間4%程度の上昇を実現するだろうと見ています。新興国通貨に内在する長期トレンドは、下落ではなく上昇だと考えます。

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