中国株式市場:バブルの醸成と崩壊 | ピクテ投信投資顧問株式会社

中国株式市場:バブルの醸成と崩壊 新興国 アジア 中国

2015/07/14新興国

ポイント

中国の株式市場は、国内経済が減速する中、ここ約半年間、急騰してきました。一方、6月半ば以降の市場の急落を受けた政府の株価対策は、投資家の信用を損ない、不信感を強める結果となりました。本稿では、ピクテ・アセット・マネジメントの新興国および中国専門家が目まぐるしく変わる市場動向を分析・解説します。

中国株式市場の足元の状況

中国の主要株価指数として注視される上海総合指数は、2015年6月12日の直近の高値から足元の安値を付けた7月8日までの1ヵ月弱の間にマイナス30%超の急落を記録しました。月間ベースでは、1992年以降最大の下げとなり、中国の企業価値の3兆ドル相当が失われたことになります。年初来の騰落率は、依然として10%程度のプラスを維持しているものの、市場の急落に狼狽した中国当局は矢継ぎ早の株価下支え策を打ち出し、7月8日には上場企業の大株主に対して6ヵ月間の株式売却を禁じる旨を通告しています。

この間、上海総合指数を構成する企業のうち、約4割の企業(時価総額にして合計2兆ドル相当)が売買の停止を申請しました。その後、中国株式市場は反発し、値動きの激しい展開が続いています。

図表1:上海総合指数の推移と中国当局による主な金融政策・株価対策等
(日次、期間:2014年10月31日~2015年7月10日)

 

出所:ブルームバーグ、各種報道

中国株式市場の急騰と崩壊はなぜ起きたのか

中国株式市場は、今回の急落に先立ち、2014年11月末から2015年6月12日にかけて急騰しており、2015年年初来からの騰落率は+60%にもなっていました。したがって、直近の高値から3割強の急落に見舞われたとはいえ、上海総合指数は2015年3月時点の水準にまで下げたに過ぎません。

同指数が2015年6月に高値を付けた時点での上海と深センを合計した時価総額は10兆ドル強と中国のGDP(国内総生産)を上回り、かつ、世界の株式市場全体の10%以上を占めていました。バリュエーション(投資価値評価)も上昇し、同指数構成企業の予想株価収益率(PER)はS&P500種指数を上回っています。また、中小型株のPERは上海総合指数のPERをさらに上回ります。

バリュエーションの上昇は、中国経済の実体から乖離していると考えられます。株式市場が直近の高値を付けた6月12日に至る1年間を見ると、GDP成長率(前年同期比)は2014年4-6月期の+7.5%から2015年1-3月期には+7%に減速しました。また、2014年5月と2015年5月の経済指標を比較すると、工業生産指数は前年同月比+8.7%から同+6.2%に、建設活動指数は同+4%から同0%に低下しており、年間輸出は同+5.5%から同-2.5%とマイナスに転じています。

減速する中国経済の実体を無視するかのような株式市場の大幅上昇の背景には、複数の要因が認められます。第一には、経済の下振れ対応に苦慮する当局が、資産価格の上昇が景気減速の影響を和らげると期待して、株式市場を押し上げたことです。この間、低迷する不動産市場からも、国内投資家の資金が株式市場に流入しました。上海・香港株式市場間の相互取引を実現させた市場自由化策や、MSCI新興国株式指数に人民元建ての中国A株が採用されるかもしれないとの思惑も株式市場への資金を呼び込み、市場の上げに拍車がかかりました。もっとも、株式ブームをもたらした最大の要因は、(株券を担保とした)借入を通じて株式投資を行う信用取引が広がったことです。

市場の上げ相場の最終局面で最も注意すべきなのは信用取引の拡大ペースです。2015年5月時点の信用取引向け融資残高は1.9兆元と、中国株式市場の時価総額の約3%に達しました。当局は、信用取引の融資条件の厳格化を通じて市場の「泡」の一部を取り除こうとした結果、数週間前から続いていた投資家の狼狽売りを誘発してしまったのです。

実体経済への影響は軽微

中国市場についても、その他の新興国市場についても、株式市場の下落が経済成長に及ぼす影響は限定的です。これは、中国を含む新興国の消費が、家計の金融資産の増減ではなく、所得の変化に左右される傾向が強いからです。米国をはじめとする先進国の多くにおいて、家計の資産の増加が消費者心理の改善と消費者支出の拡大を通じて経済成長を押し上げる構図とは対照的です。1年に及ぶ中国株式市場の上昇が、消費者支出に明確な影響を及ぼしていないことは注目に値します。中国の消費者支出は、せいぜい安定推移しているに過ぎず、このことから株式市場の下落が経済に及ぼす影響は取るに足らないものであることが示唆されます。

株式市場の下落が経済に及ぼす影響を和らげるその他の要因として挙げられるのは、(可処分所得に占める貯蓄の比率を表す)家計の貯蓄率が中国では30%を超える水準で推移している点です。これに対し、米国の貯蓄率は5%程度に留まります。

中国企業の資金調達力にも、いまのところ株式市場下落の影響は殆ど認められません。株式発行による資金調達は、企業の資金調達全体のわずか5%程度にすぎません。これに対し、銀行借入は76%程度、社債発行による資金調達は10%程度となっています。

金融システム崩壊のリスクも限定的です。企業の中で最もぜい弱なのは、信用取引に直接かかわり、投資家に貸し出した信用取引向け融資の全額を回収できない可能性がある証券会社です。融資残高の10%が焦げ付いた場合の損失は、証券会社の2014年の通年利益を上回るものと推定されます。一方、銀行セクターのリスクは、これを遥かに下回ります。銀行セクターによる信用取引向け融資は総資産の1%程度に留まります。ですから、株式市場の下落が本格的な銀行危機をもたらす状況は想定しがたいと考えます。

ただし、中国の名目成長率が低位に留まり、生産者物価指数が5%弱と低調なことには注意が必要です。輸出価格や資源価格の下落を通じて、中国国外にもデフレの影響が及ぶ可能性があるからです。

政府の株価対策の失敗

中国当局は市場を安定させるためにさまざま対策を講じています。例えば7月4日には、1,200億元の市場安定化基金を創設し、上海総合指数が(心理的な節目とされる)4,500を下回っている限りは保有株式の残高を減らさないよう大手証券会社を指導しており、このような対策が足元、株価の下落を食い止めているように思われます。

一方、国内経済や金融制度を監視する能力が欠けることを露呈した当局に対する投資家の信頼は損なわれています。当局が株式投資を奨励した挙句、図らずも急落を加速させる結果となったことで、後々まで投資家の信頼を回復できない可能性があると考えます。また、世界の金融市場における主要プレーヤーになるという中国の野望の実現は大幅な後退を余儀なくされました。

人民元が各国の準備通貨として採用されるための重要な一歩として期待されていた資本収支項目の自由化も、実現の可能性が後退しています。新規株式公開(IPO)が全面停止となった現状では、国営企業の民営化の実現も危ぶまれます。MSCI新興国株式指数への中国株の組入の可能性も判断が難しく、中国政府の市場介入時の不手際を考えると、首脳が切望するIMFの特別引出権(SDR)通貨バスケットへの人民元の採用についても、抵抗が予想されます。

より建設的な市場介入が待たれる

中国政府は、市場の一段の下げを阻止するため、迅速かつ断固とした口先介入に加え、一段の金融緩和、株価下支えのための政府機関あるいは年金基金による株式購入等の措置を講じるものと思われます。

また、減税や、消費促進を図った景気刺激策の導入も考えられます。極端な状況では、輸出拡大を意図した通貨切下げの可能性も選択肢となり得ます。皮肉なことに、今回の株価急騰と急落は、中国にとって長期的な経済成長の回復に有意義なものだったのかもしれません。中国政府は、金融刺激策を継続するために流動性を確保することが必要です。また、株式市場に資金を呼び戻すには、国営企業の民営化を積極的に進める必要があるでしょう。一方、経済が減速する現状で株式市場の上昇を維持するには現行の対策に比べて、遥かに大胆な金融緩和と財政政策が必要だと考えます。

米国の利上げに先送りの可能性も

中国市場が急落する間に、中国以外の市場も大きく売られたことから、各国金融当局の政策決定に影響が及ぶ可能性もあります。米連邦準備制度理事会(FRB)が、年内実施と予想されていた利上げを先送りすることも考えられます。ピクテでは、今のところ、緩やかな利上げが2015年9月に始まるとの見方を変えていませんが、今回の中国株式市場の急落を受けて、先物市場に織り込まれた最初の利上げ時期は2016年3月に後ずれしています。米国の利上げの先送りは、中国の資産価格のみならず、米国の利上げ予想を受けた投資資金の国外流出に苦慮する新興国市場の支援材料にもなり得ると考えます。FRBが実際に利上げを先送りした場合には、人民元を含む新興国通貨が急騰し、新興国市場に大量の資金が還流するものと考えます。

バリュエーションは再び正常な水準に

足元の大幅調整の結果、中国市場のバリュエーションがより正常な水準に戻ったことは間違いありません。足元の中国A株の予想PERは15倍程度、H株は10倍程度に留まります。優良銘柄の中には割安感が出始めているものもあると考えますが、景気が低迷する環境では、市場に一段の調整が入る可能性も否めず、また、企業利益の伸びの鈍化が市場の反転を妨げることとなるかもしれません。したがって、中国市場のパフォーマンスが他市場を下回る状況は当面続くかもしれませんが、時間が経てば、中国についてもその他の新興国市場についても、絶好の買い場が提供されるものと考えます。

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