中国の民間債務:現状と対応策 | ピクテ投信投資顧問株式会社

中国の民間債務:現状と対応策 グローバル 新興国

2017/07/31新興国

ポイント

中国の社債の債務不履行が相次いで、グローバル経済の混乱を引き起こすのではないかとの懸念が強まっていますが、海外投資家の中国債投資は限定的です。したがって、グローバル経済に影響が及び、システミック・リスクが発生する公算は低いと考えます。中国政府の今後の対応が注視されます。

中国の民間債務に潜むリスク

中国の民間債務が懸念されています。政府債務残高が相対的に低水準に留まる一方で、民間債務は対GDP(国内総生産)比205%強と、2008年のグローバル債務危機時のほぼ2倍の水準に達しています。

社債が大半を占める中国の民間債務の増加が国内経済の先行きを曇らせる中、社債の債務不履行(デフォルト)が相次いで国内危機が発生し、それがグローバル経済の混乱を引き起こすのではないかとの懸念が強まっています。

債務の膨張が国内経済を圧迫する結果、中国の実質GDP成長率は2010年代末までに年率5%を割り込む可能性もあると思われますが、一方、これが、国内外のシステミック・リスクに発展する可能性は低いと見られます。中国政府は、債務の削減を先送りし、削減に伴う痛みを長期にわたって分散させようとしていると思われるからです。

債務問題の先行きは、不良債権がどのようなペースで認識されるかや、最終的なコストがどのように計上されるかなど、債務問題の解決プロセスを中国当局がどの程度コントロールできるかによります。万一、政策ミスがあった場合の損失は多大なものになる懸念もあります。

債務問題の解決が喫緊の課題

中国には債務の削減をこれ以上先延ばしする余裕はありません。国内経済が伸び悩む状況下、対GDP比の企業債務は、2016年末時点で、主要新興国中最も高い160%と警戒水準に達しており、不良債権が短期間のうちに急増する可能性も考えられるからです。

とりわけ懸念されるのは、「過剰債務」と定義される民間債務が、中国では長期トレンドを上回る水準で膨張を続けている点です。民間向け信用の対GDP比率が、長期的トレンドから乖離する程度を示す指標である総与信・GDP比率は、2016年12月時点で25%にまで達しています(図表1参照)。

 

総与信・GDP比率は、深刻な金融危機の予測に用いられる信頼に値する指標と見なされています。過去の例からは、総与信・GDP比率が10%に達すると国内経済に大きな影響が及ぶ傾向が強いことが示されています。

一国の経済は、通常、総与信・GDP比率が10%を上抜けると景気後退局面入りし、景気回復局面後の経済成長率は景気後退局面前の水準を下回る水準で安定推移する傾向が認められます。ピクテの分析では、総与信・GDP比率が10%に達した時点に続く7年間の平均GDP成長率は、到達時点以前の7年間の平均GDP成長率を1.3%下回っています。また、総与信・GDP比率が10%に達するまでの期間の経済成長が速い程、その後のGDP成長率のトレンドに及ぼす影響が大きい(「山が高ければ谷も深い」)ことが確認されています。

中国の総与信・GDP比率が10%を上回ったのは2012年7-9月期のことです。他国の場合には、10%を上抜けるとGDP成長率が急速に落ち込む傾向が強いのに対し、中国の景気減速は、より緩やかな水準でコントロールされてきました。とはいえ、総与信・GDP比率が10%に達した時点までの7年間の平均GDP成長率が年率11%だったのに対し、到達後は同7%弱に落ち込み、その後も鈍化基調が続いています。ピクテでは、2020年までにこれが4~5%の範囲まで鈍化するだろうと見ています。

中国の景気減速は過去の高成長が一因であり、当然の帰結だとも言えます。経済が拡大すればするほど、拡大のペースを維持することは難しくなります。しかし中国の場合は、投資の配分を誤ったことも致命的だったように思われます。

過去10年間、中国政府は景気刺激策として、しばしば巨額の信用供与を実行してきましたが、追加の信用供与による効果は薄れつつあります。現在、1人民元分のGDPを生み出すには、国営企業や国家管理企業の新発債3.1人民元が必要なのです。これは、2000年から2010年までの平均1.7人民元や、2008年の金融危機前の1.2人民元を大きく上回ります。収益低減の法則は成熟した経済に共通して見られる特徴ですが、中国の場合には、投資の意思決定が適切性に欠いたものであったため、影響が増幅されています。中国の計画経済は、特定業種の過剰生産をもたらしており、特に建設、鉱業、石炭業界等の苦境が際立ちます。中国モンゴル自治区に新しく建設されたオルドス市などの「天空都市」や赤字のインフラ・プロジェクトは、積極的すぎた公共投資の悲惨な結果を示す典型例としてメディアに取り上げられています。

中国政府が取りうる政策

ピクテの基本的な見方は、中国政府は民間債務問題に複数の政策を組み合わせることで対処可能であり、恐らくそうするだろうというものです。一つは、生産性が低く過剰債務を抱えた企業を倒産させることで市場の生産能力を削減し、生き残った企業が債務返済に必要な利益を計上し易くするというものです。2016年末時点の中国企業のデフォルト率は僅か1.1%に過ぎませんが、通常、2%程度のデフォルト率ならば深刻な影響は回避できると考えられます。

生産能力削減によるデフォルトで苦しむ銀行については、資本再編策が講じられる公算が高いと考えます。もともと、銀行の大半は国営です。また、金融債残高の3分の2程度は、国営企業が保有しています。このような企業の債務を政府が救済するのは自然な解決策でしょう。

その結果、対GDP比の政府債務比率は急上昇することとなりますが、足元の政府債務比率が43%にすぎないことを勘案すれば、救済は十分に可能と考えます。ただし、世界各国の状況が示唆するように、中国の政府債務が極めて高い水準に長期間留まる可能性もあり、最悪の場合は、中央政府が国営企業の半分を救済することになりかねません。

その場合、政府債務比率は対GDP比100%前後に跳ね上がることも予想されますが、それでもなお、中国の政府債務比率は、イタリアの132%、日本238%、米国106%を下回る水準です。(※出所:国際通貨基金)

中国政府が急増する民間債務を懸念していることは明らかです。中国人民銀行は、2016年夏、短期流動性の引締めに転じています。また、同年12月には、最優先課題が、国内の経済成長の促進から(グローバル経済の復活によって可能となる)金融安定の維持にシフトしたことを公表しています。

当局は、システミック・リスクの原因になりかねない「影の銀行」(シャドーバンク)の債務圧縮と規制強化、ならびに、個人の余剰貯蓄が流れ込む不透明な理財商品の規制のための手段を講じ始めています。その結果、理財商品の伸び率(年率)は、1年ほどの間に60%から17%を下回る水準に激減しています。

中国の資金流出圧力は、短期金利の引締めと規制強化策によって、幾分、薄れてきています。中国と米国の10年国債利回りスプレッドは2016年7-9月期の50ベーシス・ポイント(0.5%)から足元150ベーシス・ポイント(1.5%)に拡大しており、中国の投資家が国内に資金を滞留させる一因となっています。中国政府は、国内銀行の海外送金(外貨転換)の抑制を図ると同時に、企業のM&A(合併・買収)に対する規制を強化しています。活発なM&A活動が、国外への資金移転の手段として使われ、国内の案件を抑えているためです。

国外への資金流出に対する規制が強化される一方で、中国国内への資金流入を阻む参入障壁は引き下げられつつあります。MSCIが同社の新興国株価指数に人民元建てのA株を採用すると発表したのとほぼ同時期に、中国政府は、海外投資家の中国債券投資をより容易にするための施策を発表しました。二つの発表が、海外からの資金流入を大きく増やす一助となることは間違いなさそうです。

中国当局は、構造改革の副作用として起こり得る急激な景気減速を軽減するために、金融刺激策や財政刺激策を導入する公算が高いと思われます。これらの刺激策には、表向きは民間債務に分類される債務を、事実上、政府勘定に吸収することも含まれます。実際すでに、中央政府は、債務圧縮による経済への悪影響を相殺するため、財政支出の増額を行っていると見られます。

一方、中国人民銀行が、巨額の債務不履行が引き起こされる可能性のある水準にまで国内の資金調達コストを引き上げる可能性は低いと思われます。このことは、企業が利払いを続ける助けとなります。民間部門の利益に対する債務返済額の比率は過去2年間、20%前後で安定的に推移しています。中国人民銀行は輸出促進のため、人民元安を望むものと思われます。 当局にとって幸いなのは、債務問題を解決するために必要な状況が整っていることです。中国以外の国で発生した過去の金融危機時には、1)巨額の対外債務、 2)巨額の経常収支赤字、3)低水準の民間貯蓄、4)広範な地域で発生した住宅バブル、5)民間債務の蓄積、6)トレンドを大きく上回る銀行信用供与、といった状況が確認されています。現在の中国経済には、これら6つの状況のうち2つしか認められません。タイが(1997年の)アジア通貨危機に見舞われた時、対外債務は対GDP比67%に達していましたが、2016年10-12月期の中国の数字は12%に過ぎません。先進国との比較についても同様の状況が確認されます。例えば、(2008年の)金融危機以前の米国、スペイン、アイルランドの民間貯蓄率がいずれも20%前後に留まっていたのに対し、足元の中国の数字は50%程度に達しています。また、中国の地価は主要都市では急騰しているケースはありますが、国内の地域格差に拡がりは見られません。

理財商品やLGFVへの対応に注視が必要

中国政府が債務問題の解決に向けて動き始めたことは確かだとしても、失政が回避される保証はありません。国内経済が長期的な減速基調にある中、政治・経済両面の安定を維持するために金融刺激策を再度導入するなどということになれば、企業の債務問題を解決するどころか、既存の経済の不均衡を悪化させることとなり、これまで以上に痛みの伴う調整を、長期にわたって耐えなければならないとも限りません。また、経済の不均衡が拡大すれば、失政が危機を引き起こす可能性が高まることにもなります。

特に懸念されるのが、中国共産党内の改革派と保守派の派閥争いと政治的対立が政策対応を混乱させかねないという点です。更には、政府部門間の相反する政策目標や頻発する調整不足に起因して、導入した対応策が意図した目標とは逆の結果をもたらしかねないということです。経済が減速すれば、政治の安定の見返りとしての経済成長という社会契約の維持に政府が失敗したとして、国民の怒りが高まるリスクも考えられます。

また、近年では企業債務の蓄積に警戒が集中している感がありますが、理財商品など他の懸念材料がないわけではありません。

理財商品は、預金金利の上限を回避し、個人の資金を集める手段として銀行が開発したもので、ここ数年、人気を集めてきました。2009年当時は、市場規模1兆元の規制の緩い簿外商品でしたが、2017年1-3月期末の市場規模は29兆元と、中国のGDPの38%、銀行資産の12.5%に相当する金額に膨らんでいます。

理財商品の大半は伝統的なマネー・マーケット・ファンドですが、2017年1-3月期末現在、資金の15.4%は、クレジットリンク債(資産担保証券)、信用状(L/C)、売掛債権等の非伝統的資産に投資されています。

理財商品はレバレッジや株式持ち合い等についての情報が殆ど開示されない不透明な簿外商品であることから、投資対象の一部である非伝統的資産が債務不履行の連鎖を通じてシステミック・リスクを引き起こすリスクが存在します。また、理財商品の大半は公的資金で救済される可能性が高いものの、理財商品を巡る混乱が中小の金融機関の経営破綻につながるリスクは現実に起こり得ると思われます。世界の流動性が縮小する局面でこのようなリスクが現実のものとなった場合、影響は広範囲に及びかねません。このような理由から、 2008年のリーマン・ブラザースの経営破綻と金融危機の引き金となった米国のサブプライム商品と、中国の理財商品とを比較するコメントが散見されるのです。

人民元は理財商品破綻の影響を特に受けやすいと思われます。国内の貯蓄商品に対する信頼が失われれば、資金が国外に流出し、人民元に大きな下押し圧力がかかることは想像に難くありません。当局が介入期間に資本規制を緩和した場合の影響は特に甚大で、社債の債務不履行が相次いだ場合も同様です。また、政策の失敗や、米連邦準備制度理事会(FRB)による予想外の利上げ等の外的要因も、人民元売りのきっかけになり得ると考えます。

債券・貯蓄商品の破綻を中央政府が回避したとしても、通貨危機は起こり得ます。例えば、財政刺激は民間部門投資を抑制する「クラウディング・アウト」効果をもたらしますが、その結果、投資家がより高い投資リターンを海外市場に求める動きが促進されかねず、人民元が下落に転じた途端、売りが売りを呼ぶ状況が展開されかねません。

地方政府の資金調達を行う地方政府融資平台(LGFV)も懸念材料です。銀行は、個人から集めた資金を地方政府に貸し出しています。地方政府は銀行からの直接融資や赤字計上を禁止されていますが、簿外機関としてのLGFVは許可されてきました。米大手シンクタンク、ブルッキングズ・インスティテュートが最近発表した報告書は、LGFVが発行する債券が財政刺激の主な資金源になってきた状況を解説しています。中央政府がLGFVへの対応を誤ることも懸念されます。LGFVを通じた借入が禁止されれば、中国経済に甚大かつ広範囲の影響が及びかねないからです。今のところ、中央政府が、LGFV債から地方債への債務スワップを通じて、地方債リスクに対応している様子が窺えることは安心材料です。とはいえ、地方債が中央政府の勘定に移転されることには注意が必要です。

LGFVが、海外の債券市場で積極的な投資を行っていることにも留意が必要です。LGFVが損失を計上した場合、中国政府が海外投資家を救済するかどうかも注目されます。

リーマン・ショックの再来はあるか?

中国政府が海外からの批判に敏感であるということは、経済にどのような影響が及んだ場合にも、迅速な対応が講じられるであろうことを意味します。また、過去の政策対応がこれまでのところ奏功しているように思われる点も注目されます。中国の債務問題は依然、未解決ですが、債務の大幅な増加が続いているわけではありません。人民元は、巨額の資金流出を伴わずにFRBの利上げを乗り切っています。また、中国の名目GDP成長率は、物価の下落を受けて5%に低下した後、その後の物価上昇を反映して11.8%に回復しており、GDP成長率に対する債務の増加率が鈍化していることを示しています。

政策ミスのリスクは未だ払拭されず、債務問題以外の問題が起こる可能性も考えられますが、その影響は恐らく国内に留まり、国外への波及は限定的になると思われます。

中国市場に対する投資家心理が悪化することとなれば、他の新興国、特にブラジル等の資源輸出国に影響が及ぶのは間違いありません。また、影響の波及は新興国に限られるわけでもありません。

海外投資家の中国債券投資は限定的であることから、社債のデフォルトが巨額にのぼったとしてもグローバル規模の危機に陥る公算は低いと考えます。また、リスク回避のための一般的な資金逃避の程度にもよりますが、世界各国の中央銀行は、近年、継続的に行ってきたのと同様の緩和的なフォワード・ガイダンスと直接的な金融刺激策で対応することが予想されます。中国株式のMSCI新興国株価指数の組入比率は25%程度に達しており、前述のA株の組入による比率の上昇が予想されることから、中国の社債破綻が現実となった場合には、世界の債券市場よりも、新興国株式市場あるいはグローバル株式市場への影響の方が遥かに大きなものとなることが予想されます。

人民元の減価に伴って予想される副作用の一つは、グローバル経済に、再度、デフレの波が押し寄せることです。そのような状況では、中国以外の中央銀行が自国通貨の減価を通じて世界の流動性の拡大を図ることになると思われます。

国内経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が一般的な金融危機発生のリスクを示唆しているわけではないとしても、中国には、巨額の債務の生産を進めるべき時期が来たと考えます。

中国当局は、もう一段の金融/財政刺激策を含め、危機の影響を軽減するために出来ることはすべて行う態勢を整えているはずですが、そうではなく、破たん企業の支援に関与し続けるようなことがあれば、政策の失敗が中国経済に大きな影響を及ぼすことは必至です。 中国の債務問題は国内問題ではありますが、もし対外債務が増加し始めれば、影響が世界に広がりかねません。予想されるのは、今後数年間、中国経済が減速基調を辿ること、また、中国政府があえて舵取りの難しい航路を進むかのような政策を導入し、大きな岩にぶつかって座礁した時には、経済の急激な失速が避けられないだろうということです。もっとも、リーマン・ショック級の危機の再来は想定し難いと考えます。

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