グローバル・マクロ・ウォッチ:トルコ~新興国市場不安定化の前兆か | ピクテ投信投資顧問株式会社

グローバル・マクロ・ウォッチ:トルコ~新興国市場不安定化の前兆か 欧州/ユーロ圏 新興国

2018/08/17新興国

ポイント

トルコの通貨危機が、新興国市場および世界経済全体の不安定化に繋がるとの懸念が広がっています。ところが、この懸念は現実的ではないと考えます。

幸運なことに、世界的な金融危機はそんなに頻繁には起こりません。しかしながら、現在の状況に対しての不安の払拭には繋がっていません。

トルコが金融危機の瀬戸際に立っていることは、かつては新興国の雄であったトルコが、他の新興国を巻き込んだり、世界経済を景気後退に導いたり、欧州のトルコに対する債権国の信用不安を増長させる恐れがあります。詳細に検証すると、現段階ではこのような事態が起こる可能性は限定的と考えます。

確かに、トルコ経済の現状は良くありません。対外債務は巨額であり、経常収支赤字は拡大し、インフレ率は16%まで上昇している現状は、トルコの国際収支の危機をもたらし、1980年代から1990年代の新興国の債務危機を想起します。また、北大西洋条約機構(NATO)の参加国であるトルコが、同じメンバーである米国との関係が悪化し、米国と対立するロシアやイランに外交的に接近することも事態の悪化に繋がります。

まず最初に、トルコの景気後退は、直接的には他の国には影響を与えないと考えます。トルコは、欧州連合(EU)と密接な関係にあり、人口は8千万人を数え、10年もの経済成長を果たしてきましたが、世界経済全体で見ると、トルコはまだまだ弱小国です。トルコのGDPは世界の1%にすぎず、ユーロ圏の輸出の2,8%を占めるに過ぎません。

“トルコ経済の重要性を過大評価すべきではありません、トルコのGDPは世界の1%にしか過ぎません”

より深刻な危機は、トルコの債務不履行による損失です。過去10年にわたり、トルコは経済成長のために、主として外貨での借入を大きく増やしてきました。2008年当時の公的および民間部門の借入はGDPの80%程度でしたが、現在では100%を上回っています。そして、最近の米ドル高と米国の金利上昇は、債務返済の負担を大きくしています。

これは、欧州の銀行にとっての懸念材料です。スペインやイタリアの金融機関は、トルコへの貸出に積極的でした。欧州中央銀行(ECB)は、この事態を認識していて、トルコ向け債権の調査に乗り出しています。この問題についても、事態は解決可能と見ています。スペインの銀行のトルコ向け債権が最大ですが、それでも海外向け貸出全体の5%未満に過ぎません。イタリアは第二位の債権残高ですが、海外向け貸出し全体の1.9%にしか過ぎません。

投資家心理が重要

トルコの経済危機が他国に伝播するための簡単な方法は、投資家心理の変化です。投資家の常として、もし新興国の経済危機を見たとたん、新興国をひとまとめにして、新興国の通貨と資産を投売りしたい誘惑に駆られます。やはり、このような事態はおこるかもしれません。なぜなら、米国金利が低いときに、政府および民間借入を大幅に増やした新興国はトルコだけではないからです。

事態をもう少し詳細に検討してみると、トルコの状況は新興国全体とは別の問題のようです。トルコは2016年のクーデター未遂事件といった、他の新興国には無い政治的混乱があります。つまり、トルコの経済危機は、新興国全体を象徴しているわけではありません。例えば、新興国の経常収支は2013年以降着実に改善しています。同じ期間に、新興国全体の経常収支の黒字は、GDPの0.1%から0.8%に増加しています。経常収支が赤字の新興国を見ても、GDPに対する赤字の比率は4%から1.7%に縮小しています。特に、この時期は米連邦準備制度理事会(FRB)が、量的緩和の縮小を示唆した、2013年の「テーパータントラム」の時でした。

同様に、新興国企業が高債務体質で、危機に耐えないということについても同じ見解です。例えば、債務残高が膨大と言われている中国企業でも、財務内容を詳細にチェックすると、企業財務は不安定なわけではありません。このように、新興国の企業債務も改善の方向に向かっていると見ています。

トルコの経常収支の内訳(各部門ごとのGDP比)

 

同じように事態を鎮静化する要因として、中国を含めて新興国における借入は節度あるものということがあげられます。クレジット・ギャップ、つまりGDPに対する比率として計算される民間債務の伸び率の現在と過去のトレンドの差を見ると、主要な新興国では縮小が続いています。中国では、ピーク時にクレジット・ギャップが27%でしたが17%に低下しています、ブラジル、インド、ロシアも同様に縮小していて、特にインドではマイナスにまで低下しています。更に、FRBの調査によると、中国を除く新興国の「高リスク」の企業債務や社債の比率は、2008年のリーマンショック時よりも低下しています1。理由の一つは、米ドル建て社債の発行者は輸出業者で、主たる収入が外貨建てであることです。このような企業の場合、米ドル高による債務残高の増加は、増収によって相殺することができます。

もう一つ、トルコの経済危機で見逃されてきたことは、米国金利の上昇は、新興国の資産や通貨にとって必ずしも悪いことではないことです。米国経済の成長によってFRBが金融政策を引締めている限り、その成長の恩恵は新興国にも及びます。これは、バークレイズ銀行の調査によって明らかになりました。同行によると、1990年半ば以降の米利上げ局面において、新興国の通貨と債券のパフォーマンスは先進国を上回りました2。ピクテの調査でも、同様の結果が得られています。

もちろん、貿易戦争が世界中に広まると、世界経済の成長に急ブレーキが掛かることが予想されます。しかし、ピクテの見方では、関税に関する議論は世界の貿易制度の改善に繋がり、強いファンダメンタルを持つ新興国を成長させると考えます。トルコの現在の危機についても、同様に改善されていくと見ています。

  1. See Beltran, D., Garud, K. and Rosenblum. A. 'Emerging market non-financial corporate debt: how concerned should we be?', Board of Governors ofthe Federal Reserve System, June 2017
  2. See ‘How I learned to stop worrying and love higher rates', Barclays, June

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