グローバル・マクロ・ウォッチ:新興国債券市場、弱気の見方でいいのか | ピクテ投信投資顧問株式会社

グローバル・マクロ・ウォッチ:新興国債券市場、弱気の見方でいいのか 欧州/ユーロ圏 新興国 中南米 アジア アフリカ 中東

2018/08/17新興国

ポイント

新興国債券市場はここ数ヵ月、下落してきましたが、新興国の通貨や債券の新たな危機が始まるかもしれないとの懸念はいき過ぎだと考えられます。

ノーベル経済学賞の受賞者や、ハーバード大学のファイナンスの教授や、新興国市場の著名な投資家達が、そろって新興国市場に対して暗い見通しを表明しているならば、投資の世界に対する警告を期待するでしょう。とにかく、ポール・クルーグマン教授、カルメン・ラインハート教授やマーク・モビアス氏といった著名人たちの見解は権威があると思います。しかし、投資家はただ人の意見を聞くだけには留まりません。投資家は、自らの判断で行動します。新興国市場の危機に対する声が強まると、新興国の国債や社債市場は下落しました。2018年初から直近まで、現地通貨建てのJPモルガンGBI―EMグローバル・ディバーシファイド指数は9%以上下落しました。

なお、投資家が新興国の債券および為替市場の危機的見通しに遭遇したのははじめてではありません。米連邦準備制度理事会(FRB)が、量的緩和の縮小を示唆した、2013年の「テーパータントラム」の時にも同様でした。弱気な見方は間違いでした。今回もまた、同じ過ちを繰り返していないでしょうか。

“弱気な見方は間違いでした。今回もまた同じ過ちを繰り返していないでしょうか”

新興国市場への主な疑問は、FRBの金融引締め政策によって、米国金利の上昇と米ドル高が新興国市場の債務を増加させることです。多くの新興国は、恒常的な経常収支の赤字対策を、海外からの投資に頼ってきました。もし米国金利や米ドルが上昇すると、このような新興国経済は債務の返済が困難になり、海外の投資家の投資資金引き上げ対策に苦慮することになります。インフレ率の上昇も懸案事項です。輸入物価の上昇によって、米ドルの上昇はインフレ率の悪化に繋がり、中央銀行は対応が困難になります。

最近の新興国の中でも最大級の経常収支の赤字を抱えているアルゼンチン・ペソとトルコ・リラの急落は、新興国に対して弱気の投資家に影響しました。2018年年初以来直近まで、ペソとリラは米ドルに対して、それぞれ50%以上下落しています。 悲観的な見方では、企業の財務状況の悪化が、新興国市場に対する見方を更に悪くしています。米国が、2009年に金融緩和政策に転換した後、新興国の企業は低金利の恩恵を最大限に享受していました。企業部門のGDPに対する債務比率は、2013年の80%から2018年年初には101%まで上昇しました。このような米ドル建ての膨大な企業債務や社債は、FRBが金融引締め策に転じた現在、返済が困難になると見られています。

システミック・リスクの可能性は低い

しかしながら、このような新興国のリスクを過大評価すべきではないと考えます。まず、アルゼンチンとトルコは新興国全体を象徴しているわけではなく、いくつかの政策上の間違いを犯し、中央銀行の独立性すらも担保されていないような状況です。

また、新興国の経常収支は2013年以降着実に改善しています。同じ期間に、新興国全体の経常収支の黒字は、GDPの0.1%から0.8%に増加しています。経常収支が赤字の新興国を見ても、GDPに対する赤字の比率は4%から1.7%に縮小しています。特に、この時期は米連邦準備制度理事会(FRB)が、量的緩和の縮小を示唆した、2013年の「テーパータントラム」の時でした。

同様に、新興国企業が高債務体質で、危機に耐えないということについても同じ見解です。例えば、債務残高が膨大と言われている中国企業でも、財務内容を詳細にチェックすると、企業財務は不安定なわけではありません。このように、新興国の企業債務も改善の方向に向かっていると見ています。

GDPに対するセクター毎の債務比率(先進国および新興国)(%)

企業債務は増加するものの、伸びは鈍化

同じように事態を鎮静化する要因として、中国を含めて新興国における借入は節度あるものということがあげられます。クレジット・ギャップ、つまりGDPに対する比率として計算される民間債務の伸び率の現在と過去のトレンドの差を見ると、主要な新興国では縮小が続いています。中国では、ピーク時にクレジット・ギャップが27%でしたが17%に低下しています、ブラジル、インド、ロシアも同様に縮小していて、特にインドではマイナスにまで低下しています。更に、FRBの調査によると、中国を除く新興国の「高リスク」の企業債務や社債の比率は、2008年のリーマンショック時よりも低下しています1。理由の一つは、米ドル建て社債の発行者は輸出業者で、主たる収入が外貨建てであることです。このような企業の場合、米ドル高による債務残高の増加は、増収によって相殺することができます。

新興国市場のGDPに対する債務比率(%)

 

もう一つ、新興国債券市場の急落の過程で見逃されてきたことは、米国金利の上昇は、新興国の資産や通貨にとって必ずしも悪いことではないことです。米国経済の成長によってFRBが金融政策を引締めている限り、その成長の恩恵は新興国にも及びます。これは、バークレイズ銀行の調査によって明らかになりました。同行によると、1990年半ば以降の米利上げ局面において、新興国の通貨と債券のパフォーマンスは先進国を上回りました2。ピクテの調査でも、同様の結果が得られています。

もちろん、貿易戦争が世界中に広まると、世界経済の成長に急ブレーキが掛かることが予想されます。しかし、ピクテの見方では、関税に関する議論は、最近の米国と欧州連合(EU)との対話にあるように、世界の貿易制度の改善に繋がり、強いファンダメンタルを持つ新興国を成長させると考えます。

  1. See Beltran, D., Garud, K. and Rosenblum. A. 'Emerging market non-financial corporate debt: how concerned should we be?' Board of Governors of the Federal Reserve System, June 2017
  2. See ‘How I learned to stop worrying and love higher rates', Barclays, June 2018

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