ヘルスケア市場:2014年7-9月期の振り返りと展望 | ピクテ投信投資顧問株式会社

ヘルスケア市場:2014年7-9月期の振り返りと展望 グローバル バイオ医薬品

2014/10/22グローバル

ポイント

2014年7-9月期のヘルスケア・セクターの騰落率は、世界の株式市場の騰落率を上回りました。堅固なファンダメンタルズ(基礎的条件)に加え、新興国市場やバイオ医薬品市場の上昇が貢献しました。また、研究開発の生産性の改善や規制緩和も好感されました。ヘルスケア・セクターの中長期的な見通しは明るいと考えます。

2014年7-9月期のヘルスケア市場

MSCI世界ヘルスケア株価指数(米ドルベース、配当込み)の2014年7-9月期の騰落率は+3.5%と、MSCI世界株価指数(米ドルベース、配当込み)の騰落率(同-2.1%)を上回りました。このリターンには、既存の要因と新規の要因が影響しました。新規の要因としては、MSCI新興国ヘルスケア株価指数(米ドルベース、配当込み)が市場をけん引し、数四半期に及んだ停滞局面を脱し同+10%近い上昇を達成したことが挙げられます。

医薬品企業ならびに後発医薬品企業は、「スピンバージョン(米国企業の低税率国への登記移転(インバージョン)に際し、海外子会社のスピンオフ(分離)を難しくする措置)」や (子供の遊びのように聞こえる)「ホップスコッチ(石蹴り)(米企業が融資を用いて海外利益にアクセスすることを阻止する措置)」等、納税地変換を阻止する新規制を指す聞き慣れない用語が語彙を豊かにしてくれました。一方、既存の要因としては、MSCIバイオ医薬品株価指数の当期騰落率が同+15.5% (米ドルベース、配当込み)と引き続き好調さを維持したことが挙げられます。一方で、医療テクノロジー銘柄は軟調でした。期初は整形外科銘柄を中心に上昇基調を呈したものの、基調の明確な反転は実現しませんでした。ヘルスケア・サービス・セクターの騰落率は、病院銘柄に対する市場心理や期待感は改善したものの、ヘルスケア・セクター全体の騰落率と同水準に留まりました。

本稿では、先ず、ヘルスケア・セクター全体を振り返り、次に、サブ・セクターの動向を検討します。

MSCI世界株価指数に占めるヘルスケア・セクターの比率は2014年9月末時点で12.4%と、金融セクター(20.8%)、情報技術セクター(13.0%)に次いで第3位となっており、7年前(2007年9月末時点)の6位(8.5%)から順位を上げています(1位から5位は、金融、資本財サービス、情報技術、一般消費財、エネルギーの各セクターでした)。ヘルスケア・セクターを支えているのは、良好なファンダメンタルズ(基礎的条件)です。

主力医薬品の特許切れが相次いだ「2010年」と業界再編の時期を乗り切ったことに加え、研究開発の生産性の目覚ましい向上、規制環境の改善、新興国市場での豊富な投資の機会等が注目されます。

新興国ヘルスケア市場の動向

新興国ヘルスケア市場の上昇をけん引した要因はさまざまです。一つは、過去数四半期にわたって低迷していた新興国銘柄が反発に転じたことです。次に、政治面、経済面の追い風が吹いたことです。2014年5月にはインド、2014年7月にはインドネシアで改革志向の政権が誕生したことです(インドネシアについては政権発足は10月)。中国では、4-6月期のGDP(国内総生産)成長率の発表と5月以降の輸出の回復を受けて、景気減速あるいは「ハード・ランディング」を巡る懸念が後退しました。(外国人投資家のA株購入ならびに中国人投資家のH株(香港上場)購入を可能とする)上海・香港間の株式相互取引は(若干の遅れが出る可能性はあるものの)10月末の開始に向け、準備が進んでいるようです。この画期的な取引の開始を控えて香港市場に先回りの買いが入るのではと期待せざるを得ません。最後に、セクター固有の好材料が散見されたことです。

中国の医薬品セクターでは、福建、安徽、浙江、上海等で入札に回復の兆しが認められることに加え、(グラクソ・スミスクライン(英国)が約4億8,900万ドルの罰金を支払うことで中国当局と合意に至ったように)腐敗撲滅運動に収束の兆しが見られます。香港上場のシファン・ファーマシューティカルズ(中国)ならびにサイノ・バイオファーマ(中国)の2014年7-9月期の騰落率は+20%超となり、入札市場ならびにエンドユーザー市場の改善のため、借入を増やしています。

ヘルスケアサービス・セクターでは、新たに7つの都市と省で外資の病院の拡張計画が承認され、また、民間の医療保険の開発が加速度を増しています。これに対し、A株の医薬品銘柄は薬価引き下げ予想を受けて軟調な展開でした。台湾のヘルスケアサービス・セクターは、メディジェン・ファーマ(台湾)の肝臓がん治療薬候補PI-88のフェーズIII治験が失敗に終わったことを受け急落しましたが、数週間で下げの一部を回復しました。インドでは、昨年実施された薬価政策の変更を背景に買われていた後発医薬品銘柄(当期騰落率:+10%-35%)が勢いを失いましたが、結果として医薬品銘柄市場は再び活況を呈しています。

新興国の後発医薬品企業は、国内経済の発展と医療システム利用の改善を背景に、高成長を維持するものと考えます。中国の後発医薬品銘柄は、正常な条件での入札が加速し、また、モディ政権誕生後のインドの後発医薬品銘柄の上昇相場が小休止することとなれば、新興国ヘルスケア市場をけん引する可能性も考えられます。新興国ヘルスケア銘柄のファンダメンタルズは良好であり、長期的な上昇が期待されます。

個別銘柄の動向

個別銘柄については、治験面ではノバルティス(スイス)が、心不全治療薬候補LCZ696の服用により、適切な治療を受けている慢性心血管疾患患者の死亡率が20%低下したことを示す驚異的なデータを発表しました。来年の発売が予定される LCZ696はノバルティスの大型主力医薬品となる可能性を秘めています。

規制面では、メルク(米国)が、黒色腫(メラノーマ)治療薬キートルーダがFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けたことを発表しました。 同社は、PD-1/PD-L1 阻害抗癌剤の分野でブリストル・マイヤーズ・スクイブ(米国)とロシュ・ホールディング(スイス)に僅かながら先行しています。 PD-1/PD-L1阻害剤の医薬品群ならびにノバルティスのLCZ696はいずれも売上高が数10億ドル規模の大型主力医薬品となる可能性が高いと考えます。イーライリリー(米国)は、2型糖尿病成人の血糖コントロールを改善するトゥルリシティがFDAの承認を受けたことを発表しました。当該医薬品はノボノルディスク(デンマーク) の2型糖尿病薬ビクトーザ等の競合医薬品となります。また、サノフィ(フランス)の長時間作用基礎型インスリン・ランタスの後発薬は、欧州連合(EU)の承認を受けました。同社は、ランタスの後継品である長時間作用基礎型インスリンToujeoの承認をFDAに申請し、また、バイオ医薬品のマンカインド(米国) との間で、吸入式インスリン製剤「アフレッザ」の販売に係るライセンス契約を締結しました。両社は、糖尿病分野での専門性と患者の使い勝手のよい吸入式インスリン製剤の将来性を武器に、数年前に吸入インスリン製品エクスベラの販売を停止したファイザーの後を引き継ぐこととなります。なお、M&A(合併・買収)は当期中、活発でした。スピンバージョンについては後述します。

後発医薬品銘柄ならびに特殊医薬品銘柄の当期騰落率は、ヘルスケア・セクター全体の騰落率と同水準でした。M&Aや薬価引上げが株価に貢献した一方で、インバージョンを巡る米国財務省の課税防止策の発表がこれを相殺しました。後発医薬品の薬価引上げが数社に増益をもたらしましたが、それはまずまずの業績発表やライト・エイド・ファーマシー(米国)が発表した2014年下期の業績見通しによって説明されました。規制面では、FDAが、GDUPHAの導入により中間審査報告の回数を減らすと同時に、審査過程の標準化を図って従来の回答に比べて繰り返しの少ない「完全回答書簡」を導入しました。米国政府は、期中、後発医薬品業界(FTC)は、低テストステロン患者用治療薬アンドロジェルの後発品を不正に妨げたとしてアッヴィ(米国)とテバ・ファーマシューティカル・インダストリー(イスラエル)を訴え、ブランド企業と後発医薬品企業間の特定の取り決めを阻止しようとしているものの解決には至っていません。一方、ニューヨーク州司法長官は、ブランド企業が後発医薬品の発売に先立って先発医薬品を市場から回収する「ハードスイッチ」の慣行について警告を発しています。同長官は、アルツハイマー症治療薬「ナメンダ」とその後継薬「ナメンダXR」を巡ってアクタビス(米国)が競争阻害行為を行ったとしており、アクタビスは訴訟が解決するまでナメンダの市場からの回収を先送りすることで合意しています。多発性硬化症薬コパキソン等、その他の「ハードスイッチ」の先行きが注視されます。

M&Aの動向

M&Aは医薬品ならびに後発医薬品セクターでも活発でしたが、程度の差こそあれ、最適税制がその動機でした。ファイザー(米国)はアストラゼネカ(英国)への再提案を決めかね、おそらく他社の買収を検討するのではないかと思われます。アボット・ラボラトリーズ(米国)から分社独立したアッヴィは、特殊医薬品シャイアー(アイルランド)の買収により主力薬品ヒュミラへの依存の軽減を図ります(ただし2014年10月にアッヴィにより、この案件を見直すとの方針が示されています)。マイラン(米国)は、アボット・ラボラトリーズが米国以外の先進国市場で展開するブランド後発医薬品事業を買収しました。

上述の案件に共通するのは、米国企業が非米国企業を買収し、「スピンバージョン」や「ホップスコッチ」ローンあるいはその他の仕組みを用いて税の最適化のため米国外に本社機能を移転することです。オバマ政権は、現時点では議会での対処が困難なことから(一部の民主党議員が反インバージョン法案の成立を強く求める一方、共和党は包括的な税制改革で対処すべきだとして難色を示しています)、8月、インバージョン行為を阻止するため、財務長官を通じ、行政措置を検討している旨の警告を発しました。アラガン(米国)と同社に敵対的買収を仕掛けているバリアント・ファーマシューティカルズ(カナダ)との交渉は決着を見ていません。アラガンはバリアントのビジネスモデルが持続可能ではないとし(2014年4-6月期決算はアラガンの言い分に有利であった一方、2014年7-9月期決算見通しはこれに反論できるものとなっています)、バリアントはアラガンが話し合いに応じないと反撃しています。

バイオ医薬品セクターの動向

バイオ医薬品セクターは引き続き好調な動きとなりました。4-6月期の好業績、M&A活動や治験結果等が貢献しました。M&Aについては、ロシュ・ホールディング(スイス)がインターミューン(米国)を買収しましたが、買付価格は買収観測が浮上する前の市場価格を60%強上回りました。

アコルダ・セラピューティクス(米国) は、パーキンソン病治療薬に特化するシビタス・セラピューティクス(米国)を、同社が新規株式公開(IPO)の公募価格を発表する直前に買収しました。4月に傘下のランバクシー・ラボラトリーズ(インド)をサン・ファーマシューティカル・インダストリーズ(インド)に売却したばかりの第一三共(日本)は、アンビット・バイオサイエンシズ(米国)に買収を提案しました(2014年10月に公開買い付けを開始しています。)。メルクKGaA(ドイツ)は研究用試薬製造のシグマ・アルドリッチ(米国)を170億ドル(買収価格は市場価格を37%上回る)で買収しました。アリオス・バイオファーマ(米国、買収価格は17億5,000万ドル)、セラゴン・ファーマシューティカルズ(米国、買収価格は7億2,500万ドル+将来の報奨金)等、未公開企業の買収も相次ぎました。治験関連では、アヴェニール・ファーマシューティカルズ(米国)ならびにピューマ・バイオテクロノロジー(米国)が注目されます。アヴェニールは、フェーズ2治験の結果、アルツハイマー病患者のアジテーションが有意に改善したことを発表、 一方、ピューマは、乳癌患者免疫補助薬のフェーズ3治験の良好な結果を発表しました。希少疾病の特殊治療でも進展が見られました。アミカス・セラピューティクス(米国)は、ファブリー病患者を対象とするフェーズ3治験の結果、経口低分子シャペロン薬ミガラスタットの腎機能指標への効果が酵素補充療法と同等であることが確認されたことを発表、一方、PTCセラピューティクス(米国)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬トランスラルナを欧州連合(EU)が条件付きで承認したことを発表しました。このような進展は、2014年7月17日発行のピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ「2014年上期のヘルスケア市場動向」にも記載の通り、バイオ医薬品セクター(ならびに医薬品セクター)の研究開発の生産性が改善されつつあるとの見方を支持するものと考えます。

もっとも、バイオ医薬品指数の上昇ならびに一部の銘柄の株価の高騰がセクター全体のパフォーマンスを反映しているわけではありません。後述の通り、大半の銘柄が苦戦を強いられたからです。バイオ医薬品指数が上昇したのは、(期初時点での時価総額が100億ドルを上回る)大型株のほぼ全てが上昇(複数の銘柄は高騰)したからであって、(期初時点での時価総額が10億ドルを下回る)小型株の大多数はマイナスのリターンに終わっています。中型株は強弱交錯でした。したがって、目先は、中・小型株により多くの投資機会が期待されます。小型株は低調だったものの、期中のIPOは30件弱と、2014年1-3月期の件数は下回ったものの、2014年4-6月期の件数を上回りました。

医療テクノロジーセクターの動向

医療テクノロジー・セクターは、2014年4-6月期は市場反転期待で好調だったものの、2014年7-9月期は、整形外科銘柄を中心とした期待外れの業績が嫌気され、ヘルスケア・セクター全体のパフォーマンスを下回りました。心臓関連銘柄の業績が事前予想を達成したのに対し、整形外科銘柄の業績は2014年1-3月期以降総じて予想に届きませんでした。放射線療法銘柄の業績はまちまちでした。左心室補助機器(LVAD)銘柄は、ソラテック・コーポレーション(米国)を除いて上昇しました。

もっとも、ソラテックは期末の経営最高責任者(CEO)の交替により業績の好転が期待されます。LVAD業界では次世代機器に注目が移っていますが、ソラテックは少なくとも現時点では他社に先行しているものと考えます。エドワーズ・ライフサイエンス(米国)とメドトロニック(米国)は、経大動脈弁置換(TAVR)治療の有効性を示唆する追加データを学会で発表しました。セント・ジュード・メディカル(米国)は、意外なことに、Portico経カテーテル大動脈弁の自主回収を発表しました。


図表1:売上高、一株利益、株価収益率、対売上高企業価値、売上原価の伸び率の推移
(年率、期間:2012年~2016年(予測))

 

注 セクトラル予想、中央値
※伸び率は、2013年~2016年(予測含む)、年率
出所:セクトラル・アセット・マネジメントのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

ヘルスケア・サービス・セクターの動向

ヘルスケア・サービス・セクターの2014年7-9月期の騰落率はヘルスケア・セクター全体の騰落率を上回りました。医療供給者機関の貢献が際立ちました。一方、マネージドケア機関(MCO)は大半が売上、純利益ともに予想を上回ったにもかかわらず、 MCO利用率の上昇(とそれによる利用者当たりの月額コストの上昇懸念)が株価を抑えました。利用率の上昇の恩恵を最も大きく受ける医療供給者機関の騰落率は同+19%でした。利用率の上昇の背景には、(医療保険制度改革法(オバマケア)による)医療補償の拡大と国内経済の回復があると考えます。M&Aも活発で、チーム・ヘルス(米国)は麻酔クリニックを中心に複数のクリニックを買収、一方、医療情報技術(IT)サービス大手のセルナー(米国)は、シーメンス(ドイツ)の医療IT事業を買収しました。(メンタルヘルス・サービスの)カンビアン(英国)、ヘルスケア・エクイティ・インク(米国)等、未公開企業のIPOも続きました。マネージドケア機関については事業内容が保守的で海外事業を展開する企業に注目しています。また、医療供給者機関銘柄は、足元の良好な趨勢を維持するものと見ています。

ヘルスケアセクター:中長期的に新興国市場とバイオ医薬品関連に注目

MSCI世界ヘルスケア株価指数の2014年7-9月期の騰落率は、(上述の通り)堅固なファンダメンタルズを背景にMSCI世界株価指数の同じ時期の騰落率を上回りました。市場をけん引した要因のうち、前期に見られなかった新しい要因は新興国市場の復活であり、前期からの継続的な要因はバイオ医薬品銘柄の堅調な推移ですが、このような趨勢は、中長期的に続くものと考えます。研究開発の推進強化と医薬品業界を取り巻く良好な規制環境は大いに歓迎されます。

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