ヘルスケア市場:2015年7-9月期の振り返りと展望 | ピクテ投信投資顧問株式会社

ヘルスケア市場:2015年7-9月期の振り返りと展望 グローバル バイオ医薬品

2015/11/10グローバル

2015年7-9月期のヘルスケア・セクターは、世界の株式市場全般と同様、10%程度のマイナスとなりました。薬価規 制案を巡るクリントン前国務長官のツイッター投稿が下げの発端となりました。一方、ヘルスケア・セクターの良好な ファンダメンタルズは変わりません。割安感の際立つバイオ医薬品や新興国銘柄は投資の好機を提供しています。

ヘルスケア市場:2015年7-9月期の振り返り

2015年7-9月期の世界の株式市場は上下の振れの大きい展開となりました。ヘルスケア・セクターは、中国経済の減速懸念が強まった7月から8月にかけて、景気動向に左右されにくい「ディフェンシブ」な特性を発揮する教科書通りの展開となりましたが、9月21日、米国民主党の大統領候補ヒラリー・クリントン前国務長官の「特殊医薬品市場の薬価吊り上げは言語道断だ。明日にも規制策を発表する。」とのツイッターへの投稿が引き金となって大きく売られました。

混乱と利益確定と恐怖感による売りが膨らんだ結果、MSCI世界ヘルスケア株価指数(米ドルベース、配当込み)の当期騰落率は-9.4%と、MSCI全世界株価指数(同上)の-9.5%に並びました。最も大きな被害を受けたのはバイオ医薬品セクターで、MSCI世界バイオ医薬品株価指数(同上)の騰落率は-14.0%に達しました。一方、MSCI世界医薬品株価指数(同上)ならびにMSCI医療機器株価指数(同上)の騰落率は、いずれも、-8%程度と、MSCIヘルスケア・サービスプロバイダー株価指数の騰落率(-10%)を僅かながら上回りました。

また、MSCI新興国ヘルスケア株価指数(同上)の騰落率は-9.5%に留まり、新興国市場全体の騰落率(-18%)に対する優位性を発揮しました。中国経済の減速懸念やクリントン前長官の薬価規制案を巡るツイッター投稿などの悪材料がかなりの程度市場に反映された一方で、好材料は十分に市場に消化されていないように思われます。これ以上の衝撃的なコメントが読者の方々の不安感を強めることとならないよう、先ずは明るい材料から報告したいと思います。

研究開発の効率性改善

ヘルスケア・セクターの研究開発の効率性が改善されつつあることについては確信を持っていますが、これを裏付ける複数の証拠が、期中、新たに確認されました。遺伝子治療(ユニキューレ(米国))やがん免疫治療(インサイト(米国)ほか複数の企業)の新しい医療技術、また、ロープレッサ(緑内障治療薬)、エラゴリックス(子宮筋腫治療薬)、Crisaborole(アトピー性皮膚炎)等の画期的製品に対する確信を強める比較的小さな進展が会社側から発表されたことに加え、以下に詳述する二つの医薬品については、革命的ともいえる進展が確認されました。

一つは、合併2型糖尿病患者を対象とした長期プラセボ対照無作為化試験(EMPA-REG)の結果から、イーライリリー(米国)の新種の糖尿病治療薬ジャディアンス(SGLT2阻害剤)が心臓病に効果をもたらすことが発表されたことです。糖尿病治療薬が心臓病患者の死亡率を低下させることが初めて確認されました。ジャディアンスは、(心血管死、心筋梗塞、脳卒中等、)第一次の重大心血管イベント・リスクを14%、全死因死亡率を38%低下させることが証明されました。記憶に新しいことですが、2015年1-3月期に発表されたメルク(米国)の糖尿病治療薬ジャヌビア(DPP-4阻害剤)の治験結果では、主要心血管イベント・リスクの低下について、偽薬治療に劣らないことが示されたに過ぎなかったのです。

更に、数年前には、心血管系毒性発現の(証明ではなく)疑いのため、グラクソ・スミスクライン(英国)の糖尿病治療薬アバンディア(ロシグリタゾン)の売上が大きく落ち込みました。最近、欧州糖尿病研究協会(EASD)が主催した学会では、ジャディアンスが全死因死亡率を38%低下させるとのEMPA-REGの結果発表が、拍手喝采を浴びました。イーライリリーの研究は、コレステロール降下剤スタチンによる生存率の改善を証明した1994年のスタチン4年間追跡調査やACE阻害薬による生存率の改善を証明した2004年のホープ研究等の画期的な研究と肩を並べるものとして比較されています。当研究の恩恵を最も享受するのは、ベリンガー・インゲルハイム(ドイツ)とイーライリリーですが、同系薬剤の共通効果(クラス効果)が認められた場合には、ジョンソン・エンド・ジョンソン(米国)とアストラゼネカ(英国)にも恩恵が及ぶかもしれません。

もう一つは、多発性硬化症(MS)の15%程度を占める一次性進行型多発性硬化症(PPMS)治療薬候補のフェズ3治験の結果、薬効が確認されたことです。PPMSの進行を遅らせることのできる初めての薬です。新薬オクレリズマブの恩恵を受けるのは開発元のロシュ・ホルディング(スイス)ですが、バイオジェン・アイデック(米国)も、特許権を通じて、恩恵に与る可能性があります。当医薬品の効果の詳細は、10月開催の学会で明らかとなるはずです。

テトラフェーズ・ファーマシューティカルズ(米国)の尿路感染症治療薬候補、グラクソ・スミスクラインとテラバンス(米国)の慢性閉塞性肺疾患治療薬ブレオの大規模試験(サミット試験)、ラプター・ファーマシューティカル(米国)の非アルコール性脂肪性肝炎治療薬候補RP103等、目標を達成できなかった治験もありますが、研究開発の勢いが衰えつつあるとの議論に説得力があるとは思われません。バイオ医薬品の先行きは明るいと考えます。また、医薬品は、バイオ医薬品に次いで有望だと見ています。

※将来の市場環境の変動等により、記載の内容が変更される場合があります。

M&A(合併・買収)活動・規制動向

ヘルスケア・セクターのM&A(合併・買収)は、いずれのサブセクターでも活発でした。バイオ医薬品セクターでは、セルジーン(米国)のレセプトス(米国)買収が注目を集めました。買収の目的は、多発性硬化症(MS)治療薬候補S1P1やその他の自己免疫疾患治療薬を入手することです。

その他、シャイアー(アイルランド)が非公開のフォーサイト・バイオセラピューティクス(米国)を、アミカス・セラピューティクス(米国)が非公開のサイオダーム(米国)を買収しました。医療テクノロジー・セクターでは、セント・ジュード・メディカル(米国)が心室補助装置のソラテック(米国)を買収した他、エドワーズ・ライスサイエンス・コーポレーション(米国)がカルディアック・バルブ・テクノロジーズ(米国)を、メドトロニック(米国)がトゥエルブ(米国)を、アボット(米国)がテンダイン(米国)を、ハートウェア・インターナショナル(米国)がヴァルテック・カルディオ(イスラエル)を買収するなど、僧帽弁分野でのM&Aが活発でした。

後発医薬品(ジェネリック)セクターでは、テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(イスラエル)、マイラン(米国)、ペリゴ(アイルランド)3社を巡る買収劇が決着しました。テバが、突然、マイランへの買収提案を撤回し、交渉が容易で(より魅力的な)アラガンのジェネリック事業を買収することで合意したからです。ヘルスケア・サービス・セクターでも、複数の案件が合意に達しました。医療保険のエトナ(米国)がヒューマナ(米国)を、同じく、アンセム(米国)がシグナ(米国)を買収しました。M&Aの大半は、9月の市場の調整前に発表されました。 その他の重要事項では、米国特許審査部(PTAB)が、初めて、特許付与後の当事者系再審査を発表したことが挙げられます。米国特許商標庁(PTO、PTABの前身)は、(テバ・ファーマシューティカル・インダストリーズのコパキソン40mgの審査を例外として、)ヘッジファンド主導の、往々にして根拠のない、特許審査を拒否してきました。

当事者系再審査は、特許挑戦(パテント・チャレンジ)の新しい手段であり、「パテント・トロール」(自らが保有する特許権を侵害している疑いのある大企業に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする小企業を指し、特許に基づく製品の製造・販売やサービスの提供を行っていない場合が多い)対策として、テクノロジー業界が活発なロビー活動を展開してきました。バイオ医薬品セクターへの影響は明らかではありません。

また、9月の案件は殆どなかったとはいえ、株式新規公開(IPO)が活況を呈していることも注目されます。これまでのところはバイオ医薬品銘柄のIPOが殆どでしたが、サイメティス(スイス)等、医療機器セクターの例も散見されます。

クリントン前国務長官のツイッター投稿

ヒラリー・クリントン前国務長官が薬価引き下げに取り組むとの意向をツイッター上に投稿した9月21日、バイオ医薬品株価指数は一日で4%を超す下げに見舞われ、翌日以降の数日間で更に14%程度下落しました。ここでは、市場の反応に反論を試み、クリントン前長官の薬価引き下げ案と投稿の裏にある状況を解説したいと考えます。投稿を巡る議論が紛糾することとなれば、バイオ医薬品株価の乱高下が続く可能性はあっても、米国において薬価が統制されるリスクは、短期的に見ても(また恐らく中期的に見ても)極めて低いとの結論に達しました。もっとも、当面のところは、株価の下押し圧力の影響が最も少ない、画期的な医薬品を開発する企業に焦点を当てた運用を行っていきます。クリントン前長官は、ツイッター投稿の約1週間後、フェイスブックに、明確な説明を行っています。

「私の提唱する薬価抑制案は、医薬品企業のイノベーション(革新)とリサーチを減らすことではなく、増やすことを奨励するものであって、企業と消費者の双方に利益をもたらすものです。ですから、人命を救う画期的な医薬品開発に携わる企業は、私の薬価規制案を全く恐れる必要がありません。一方、理由もなく薬価を吊り上げ、医療コストを膨らませている企業についはて、説明義務があると考えます。」クリントン前長官の怒りをかったのは、特殊医薬品企業の「買収により薬価吊り上げ」を行うビジネスモデルです。

当モデルは、イノベーションの対極にあり、競争のないあるいは競争の少ない分野で、人命を左右する既存の医薬品を取得、あるいは企業そのものを買収し、その後、法外な薬価の吊り上げを行って荒稼ぎするというものです。クリントン前長官が槍玉に挙げたのは、トゥリング・ファーマシューティカルズ(米国)が60年以上前に開発し、1錠13.5ドルで販売してきたトキソプラズマ症治療薬ダラプリムの薬価が750ドルに吊り上げられたことです。バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナル(カナダ)も、最近取得した2つの医薬品の価格を200%-500%吊り上げたことが問題視されており、米下院監視委員会のメンバーである民主党議員18人が、値上げに関する文書提出を求める公開書簡を送付しています。

アメリカ人が他国の消費者に比べてかなりの割り増し価格を支払わされていることは事実であり、米国の薬価設定の仕組みは重要かつ極めて厄介な問題です。2013年の統計では、米国人の医療費支出全体に占める医薬品支出は11.9%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の17%程度を下回っています。医療費支出に係る重要な課題ではあっても優先課題とはなっていません。

オバマ大統領は、当初、メディケア(高齢者を対象とした公的医療制度)による薬価の直接交渉を可能とする施策の導入を検討していたものの、民主党が上下両院の過半数を占める議会においてさえ、法案を可決することが出来ませんでした。クリントン前長官の「主導した」複数の法案も暫くの間議論されたものの、実現しなかったかあるいは実現可能なものとはならなかったのです。

※将来の市場環境の変動等により、記載の内容が変更される場合があります。

新興国ヘルスケア・セクター

2015年7-9月期の新興国ヘルスケア・セクターは、軟調な展開となりました。消費者需要の伸びの鈍化と、(中国の増資手続き改革等の)構造改革を背景に、大半の企業にとって、2015年が転換の年となっているからです。大型医薬品企業は、新興国市場での売上の伸びが近年の最低水準に近付きつつあることを報告しています。中国のジェネリック銘柄は、地方の入札の低迷を背景に、苦戦を強いられました。一方、市場を寡占する製品を擁する中・大型企業が相対的に好調でした。東南アジアの病院銘柄などが医薬品銘柄を上回って上昇しました。(ドクター・レディーズ・ラボラトリーズ、ルピン・ファーマシューティカルズ、オーロビンド・ファーマ等、)インドのジェネリック銘柄は、製品関連の好材料を受けて買われました。中間所得層の拡大による医療費支出の増加や疾病の西欧化を背景に、新興国ヘルスケア市場に対する良好な見通しは変わりません。

ヘルスケア・セクター展望

ヘルスケア・セクターの先行きは明るいと考えます。前述の通り、ファンダメンタルズ(基礎的条件)が堅固なことに加え、8月から9月にかけての市場の調整の結果、バリュエーション面での魅力が増しているからです。研究開発の効率性の改善は顕著ですし、IPO、増資ともに活況であることから、企業の資本も健全です。したがって、市場の低迷が続いたとしても、それを乗り切る態勢が整っていると考えます。米国、欧州ともに規制環境も良好です。また、バリュエーション面での魅力度が強まっており、MSCI世界ヘルスケア株価指数の株価収益率(PER)は16.1倍と、MSCI世界株価指数のPER(14.7倍)に近付く一方、MSCI世界一般消費財株価指数のPER(18.8倍)とは格差を広げています。

(特許失効が相次ぐ)「特許の崖」を見込んで、企業再編、新興国市場の開拓、研究開発の効率性の改善等の対応策に取り組んできた大型医薬品を巡る環境は、数年前と比べて明らかに改善しています。もっとも、(2016年利益ベースの)予想PERは、平均値が14.5倍であって、ファイザー(米国)やメルクが13倍程度と割安な水準にある一方、ブリストルマイヤーズ・スクイブ(米国)やイーライリリーは28倍程度と割高感が強く、銘柄感のばらつきが広がっています。したがって、大型医薬品については、銘柄の厳選が必須です。また、ジェネリックと一部の特殊医薬品には特に注目しています。ジェネリック・セクターではグローバルな展開で事業分散を進める企業と新興国企業に注目しています。一方、特殊医薬品セクターでは、乱用抑止製剤等の魅力的な技術を擁する企業を選好しています。

予想増益率が年率20%程度と先行きが期待されるバイオ医薬品セクターのPERが15.6倍と市場全般のPERに並ぶ水準にまで低下したことは驚きです。バイオ医薬品セクターは、過去3年間の累積リターンが110%程度と好調だった一方で、PERは2ポイント程縮小しています。2015年年初の時点では、大型株に積極的な投資を行う一方で、中・小型株の一部については、バリュエーション面での警告を発しました。8月から9月にかけての市場の調整の結果、中型株のバリュエーション面での懸念の大半が解消される一方、大型株は魅力度が更に増しています。医療テクノロジー・セクターでは大型企業の業績が好転していますが、大方はM&Aを通じてパイプラインを拡充していまいす。従来通り、新製品の開発をけん引し、次世代に向けた医療機器の改良を続ける企業を重視していきます。

医療テクノロジー・セクターの増益率(純利益ベース)は15.5%、PERは17.7倍と魅力的です。ヘルスケアサービス・セクターも、オバマケアの導入と活況を呈するM&Aを背景に好調です。今後は、主要企業に替えて、既存の概念を打ち砕くような破壊的なビジネスモデルを擁する中小型企業の株式に注力していきたいと考えます。

2015年7-9月期の市場は低迷したものの、バイオ医薬品セクターや新興国セクターには投資の好機が提供されています。バイオ医薬品セクターは、見通しが良好である上、予想PERが15.6倍(2016年予想利益ベース)、予想増収率、増益率ともに、年率20%以上と、投資妙味が強まっています。また、新興国セクターも、予想PERが23倍(同上)、1株利益成長率が年率15-20%程度と、中・長期の投資の好機を提供しています。

※将来の市場環境の変動等により、記載の内容が変更される場合があります。

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