イタリア:2019年予算で勝負に出るか | ピクテ投信投資顧問株式会社

イタリア:2019年予算で勝負に出るか グローバル 先進国 欧州/ユーロ圏

2018/08/31グローバル

ポイント

イタリアは来年度予算案を10月15日までに欧州委員会(EC)に提出する必要があります。ポピュリズムで政権を取った連立政権は、果たして選挙公約通りの予算案でECと対立~制裁を受ける道を選ぶか、制裁を恐れて国民の離反を招くか、正念場です。

イタリアの2019年度予算案の行く末について、市場の懸念が高まりつつあります。ポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」(「五つ星」)と極右「北部同盟」(「同盟」)の連立政権は、「政府のための契約書」と呼ばれる政策協定において、相当な財政支出の拡大を伴う政策を掲げています。具体的には、フラット・タックスと呼ばれる法人と個人所得減税、2011年の年金受給開始年齢を引き上げる年金制度改革(ファルネロ改革)の撤回、および最低所得保障等を含みます。もし、これらの政策が全て実現すると、巨額の財政支出が必要となり、それによってイタリアの債務構造が大幅に悪化することが予想されます。ある研究所の調査では、これらの政策のコストは1,090億ユーロから1,260億ユーロ程度と試算され、イタリアのGDPの6.2%から7.1%程度に相当します。

イタリアの予算案のスケジュール

イタリアがどこまで財政支出の拡大を伴う政策を実行するかについては、政府が発行する9月27日が締め切りの経済財政文書(DEF)で、より詳細が明らかになります。そして、いろいろ公表される情報のなかに、2018年から2021年にかけての公的債務と財政赤字の目標が含まれます。具体的な財政状況については、予算案(DBP)によって発表され、イタリア政府は10月15日までに予算案を欧州委員会(EC)に提出します。(スケジュールは以下の図を参照)

イタリアの予算案決定スキーム

  

イタリアの財政規律に深刻な違反があると判断した場合、ECはイタリア政府に対して1週間後の10月22日までに予算案の再提出を命じます。そして、11月30日までにイタリアの予算案に対する、ECの見解が発表されます。欧州連合(EU)の財政政策に違反した場合は是正措置、ならびに過剰財政赤字手続き(EDP)がとられることとなります。

現状はどうなっているのか

イタリアは、「安定成長協定」(SGP)違反の可能性を指摘されており、中間財政目標(MTO)の十分な進捗を求められています 1。イタリアの公的債務残高はGDPの132%に達しているため、同国はユーロ圏でギリシャに次ぐ高債務国です。この債務残高のGDP比が60%を超えている場合は、債務削減基準に抵触することとなります。SGPによると、イタリアのように債務比率がGDPの60%を超えているような国は、基準値に達するまで、構造的な財政改革によって年間0.5%パーセントポイント以上の改善を求められます。換言すると、もしイタリアの財政赤字が3%の目標以内におさまったとしても、公的債務の大きさからすると、年率0.5%パーセントポイント以上の債務削減を行わない限り、EUの財政基準違反となります。

今年の4月発表の最新のスタビリティ・プログラムによると、2019年の財政赤字の目標は0.8%2 であり、2018年の1.6%や2017年の2.3%よりも縮小し、同じく政府債務の改善目標は0.6パーセントポイントです。(下記グラフ参照)

イタリアの財政支出・基礎的財政収支(%、対GDP比)

  

赤:政府財政支出、青:基礎的財政収支

これらの目標設定は、実質GDP成長率が2018年は1.5%、2019年は1.4%を前提としています。2018年度予算案を採用する時に影響を及ぼした、ECの春の見通しによると、イタリアの2018年の財政赤字は1.7% で、債務削減プログラムの目標をやや上回りました。もし、イタリアの政策が大きく変更しないならば、2019年の財政赤字の見通しは1.7%とECは予想していて、政府の0.8%予想を大きく上回っています。

イタリアは財政赤字の拡大を勝ち取れるか

ユーロ圏各国は、一定の条件の下で柔軟な財政政策を採用することができます。

(1)将来性のある産業に投資するための、大規模な構造改革

(2)最近の難民問題のような、ユーロ加盟国では管理できない事態の発生

(3)ユーロ圏全体の深刻な景気後退局面

理屈の上では、イタリアは現状以上の財政赤字の増加は得られない見通しです。なぜならば、難民問題や国土を地震のリスクから守るための投資計画といった、政府では管理できない事態の名目で、規律が緩和されているからです。それにもかかわらず、財政赤字の拡大は常に要求され、そして認められています。さらに、ECは裁量次第で基準を変えています。どこまで裁量を働かせることができるといった数字的目標はありませんが、現実的にECは、構造改革や投資の条項の場合、GDPの0.5%から0.75%の範囲で規律を緩めているようです。

予算案で何ができるか

イタリア政府は、発表済みの「政府のための契約書」の政策の正確な実行スケジュール、もしくは予算の手配について何も発表していません。そのため、現段階で予算案の内容を推測することは極めて困難です。連立政権のリーダーやトリア財務相は、予算案の少なくとも一部は選挙公約通りと言及しています。またトリア財務相は、3%の財政赤字目標に違反しないと言明しています。ということは、予算案には様々な可能性があります:

●財政赤字縮小を遅らせて、例えば2019年の目標を1.4%から1.6%とする案は、ECの財政赤字の基準をクリアして市場に安心感を与えます。しかしながら、公約違反といった政治的な緊張が高まる恐れがあります。

●中間の案として、インフラ投資をEUの安定成長協定から除外して、2019年財政赤字の目標を2.0%近くにする案。この案も、EUの協定違反となることから、市場とECからの反発を招きます。一方でイタリア政府は、民間投資を促進する政策をとることができます。(下記のグラフ参照)この案は、イタリアが既に財政規律において優遇措置をうけてきたため、実行が困難です。また、2020年と2021年の債務削減計画やGDP成長率といった、様々な要因に頼ることとなります。

●2019年の財政赤字を3%以上とする積極的な財政政策は、決して過小評価できない予算案です。この案、イタリアとEUを衝突させ、ECは「過剰財政赤字手続き」に踏み切る可能性があります。(具体的手続きは以下参照)また市場の反発を買って、イタリアの債務返済計画に狂いが出ることが想定されます。

以上述べてきたように、ECとイタリア政府の予算案の合意は十分可能ですが、合意までの過程は相当な困難が伴い、また相当市場が混乱する可能性があります。

ユーロ圏とイタリアの公的投資(%、対GDP比)

  

赤:イタリア、青:ユーロ圏

協定違反時のペナルティ

時間がかかる協議の後、イタリアはECより警告と制裁措置をうけることとなります。EUの安定成長協定への重大な違反に対して、ECは是正措置と過剰財政赤字手続きを実行します(EDP)3 。実際イタリアは、2018年の予算について中間財務目標違反に問われる恐れがあります。

通常、このような制裁手続きは事後データに基いて実行されますが、たまに予想データに基くことも考えられます。もし欧州委員会が、EDPの開始を決定した場合、財政赤字削減に向けた精緻な実行スケジュールと推奨案が設定されます。もしイタリアがEDPの手続きに違反した場合、GDPの0.2%相当の課徴金が課せられます。加えて、赤字解消策が何度も達成できないケースでは、総額分としてGDPの0.5%相当が追加して課税されます。そして理論的には、ECは欧州構造投資基金(ESI基金)からの拠出を止めることが可能です。2014年から2020年の間、イタリアは4,277億ユーロを割り当てられています。これまで、どのユーロ圏の国も、このような制裁を受けたことはありません。

そうはいってもECは、イタリア政府が財政基準に反して、独自の予算案を実行することに対して止める手段はありません。

イタリアの国内の問題は

これまで、例えばECといった対外的な制約について見てきましたが、イタリア政府は経済政策を全面的に遂行するうえで国内的な制約があります。第一に、予算案が成立すると、マッタレッラ大統領は1ヵ月以内に発布します。同大統領はイタリア憲法第81条に基き、議会に予算案を再度審議することを要請できます。第二に、政策的に折り合わないポピュリズム(大衆迎合主義)政党の「五つ星運動」(「五つ星」)と、極右「北部同盟」(「同盟」)の連立政権の崩壊です。連立政権は、上院で6議席、下院で31議席といった僅差での過半数を維持しているため、予算案に対する厳しい政治的かつ市場の圧力によって瓦解する可能性があります。

GDP成長によって事態は変わる

GDP成長率が、今後の重要な鍵を握っています。イタリアの適度の経済成長が、少しの財政赤字拡大について、ECの譲歩を引き出すこととなります。反対に、成長率の急激な落ち込みは、イタリアの政策の選択肢を狭め、ECはより厳格に予算案に向き合うことが予想されます。これまでイタリアのGDP成長率は低調で、2018年前半は減速しました。これはユーロ圏での共通の結果で、主として輸出の落ち込みによるものでした。今後の見通しとして、第3四半期も低調な結果が予想されます。

イタリアの実質GDP成長率(%、前年比、左軸)とPMI(総合、右軸)推移

  

実線(赤):赤:イタリアの実質GDP成長率、灰色:イタリアのPMI(コンポジット)

  1. “All EU countries are expected to reach their medium-term budgetary objectives (MTOs), or to be heading towards them by adjusting their structuralbudgetary positions at a rate of 0.5% of GDP per year as a benchmark.
  2. The impact of the VAT hike is included in the estimate
  3. An Excessive Deficit Procedure is launched if a Member State: either having breached or being in risk of breaching the deficit threshold of 3% of GDP or having violated the debt rule by having a government debt level above 60% of GDP, which is not diminishing at a satisfactory pace. This means that the gap between a country's debt level and the 60% reference needs to be reduced by 1/20th annually (on average over three years)

(※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。)

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