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市場の転換点で見直したい資産株の魅力
2019/05/27

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概要

過去の実績では、資産株の代表である公益株が株式全体のパフォーマンスを上回る資産株の時代と、逆に公益株が株式全体のパフォーマンスを下回る成長株の時代が交互に到来しています。現在足元では再び公益株のパフォーマンスが全体を上回っています。一度転換が起こると、過去のデータでは資産株の時代は6年~16年程続いた点に注目です。



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株式市場が大きく下落するなか公益セクターは相対的に底堅く推移

世界の株式市場は2018年10月以降、2018年年末にかけて、情報技術(IT)などをはじめとした成長株中心に大幅下落しました。一方、公益をはじめとした資産株は相対的に底堅く推移し、以降直近にかけても相対的に堅調に推移しています。

株式市場の変動が大きくなった背景には、①米国の利上げ、②米中貿易戦争に対する懸念、などの外部環境が厳しさを増すなか、これまで市場をけん引してきた情報技術(IT)セクター銘柄(成長株)などの主要企業が相次いで失望的な決算や見通しを発表したことが下落に拍車をかけました。依然主要国の金融政策動向や貿易戦争の先行きや経済への影響などの不透明感が高まっており、今後も市場の動向には注視が必要と見られます。

資産株の代表である公益株式が株式全体を上回る資産株の時代到来か?

9年余り続いたFAANGがけん引した成長株の時代はかつてのニフティ・フィフティ相場、IT相場などの成長株の時代と類似点があります。いずれも10年ぐらいの期間でブームが一服すると次の10年は公益株に代表される資産株の時代が到来しています(図表1-2参照)。

歴史は繰り返す ~成長株から資産株の時代か?

過去60年余りの実績でみると、米国株式と米国公益株式のパフォーマンスは、10年前後をおいて、米国株式のパフォーマンスが米国公益株式を上回った時期と、逆に米国公益株式のパフォーマンスが米国株式を上回った時期を繰り返しています。たとえば、1956年4月から1962年9月までは米国公益株式は2.2倍、米国株式全体では45%上昇しました。一方、1962年9月から1974年6月までは米国株式は2.2倍、米国公益株式は11%の上昇にとどまりました。(図表2-1参照)

米国公益株式を米国株式のパフォーマンスで除して算出したものが下段の米国公益株式の米国株式相対パフォーマンスです(図表2-2参照)。この相対パフォーマンスを1954年から64年間にわたって検証すると、資産株の代表である公益株式が株式全体のパフォーマンスを上回る資産株の時代と、逆に公益株式が株式全体のパフォーマンスを下回る成長株の時代が交互に到来しています。そして、現在足元では2018年2月以降再び公益株式のパフォーマンスが全体を上回っており、これが継続すると、再び資産株の時代が到来することになります。そして一度この転換が起こると、過去のデータでは資産株の時代は6年~16年程続いた点に注目です。(図表2-2参照)

1962年からの成長株の時代は、当時の成長企業を代表するハイテクや新手のサービスの企業である、ポラロイド、デジタル・イクイプメント、3M、バローズ、ゼロックス、そして大型コンピュータの普及に伴い、IBMなどの「ニフティ・フィフティ」(直訳で素敵な50銘柄)がけん引した相場でした。この相場が転換を迎えたのが1974年です。「ニフティ・フィフティ」がピークをつけた1972年12月頃には、それらの株価収益率(PER)は平均でおよそ40倍台と、当時のS&P500の株価収益率の19倍を大きく上回るほど割高なところまで買い進まれていました。


この「ニフティ・フィフティ」相場は1972年の11月に現職のニクソン大統領が大統領選挙で地滑り的な圧勝をし、資産投機が盛り上がり、買いが殺到しました。

物価がゆっくりと上昇に転じたあと、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げがトリガーとなり、「ニフティ・フィフティ」相場は崩壊し、銘柄の多くは株価が大きく下落しました。トランプ大統領当選後の「FAANG」相場との共通点があるとも考えられます。その後1974年6月以降、16年以上にわたり、次の成長株の時代、「IT相場」がやってくるまで資産株の時代が続きました。

その後のブーム「IT相場」が崩壊した理由もPCや携帯電話の普及が十分進んでいるにもかかわらず、過度に割高なところまで買い進まれたことがあげられます。その「ITバブル」がはじけた後も約9年以上にわたり資産株の時代がやってきました。

今回の「FAANG相場」も「ニフティ・フィフティ相場」同様、割高まで買い進まれた相場は利上げをきっかけに2018年2月に転換を迎えたように見えます。(FFレートでみると、1972年の3%台から1974年には13%までFFレートは引き上げられています。次の資産株の時代が始まった、1999年も利上げのあった年です。)

足元の状況をみると、過去と同様に1)産業のブームに陰りが見られることに加え、2)2018年5月25日に欧州連合(EU)が個人情報保護を大幅に強化する新規制(「一般データ保護規則(GDPR)」を導入)など寡占化モデルに対する政府の規制が入り、また3)自国第一主義が台頭しています。米中貿易戦争も、次世代ハイテクの覇権争いです。アマゾン圏とアリババ圏にわかれつつあります。世界のマーケットをターゲットに販売を拡大するモデルがリスクにさらされています。

世界の高配当公益株式に注目すると、足元、利回り面でみても魅力的


資産株の代表格は公益株式ですが、その公益株の中でも高配当利回りに着目した世界の高配当公益株式に注目すると、足元、利回り面でみても魅力的な資産となっていることがわかります。

世界高配当公益株と主要資産の利回りをリーマン・ショック前(図表3-1上)とその約10年後の直近、2019年4月末時点(図表3-1下)とで比較すると、オーストラリア10年国債の利回りは5.8%から1.8%へと半分以下に、日本10年国債の利回りは1.4%からほぼ0%へ、スイス国債にいたっては2.9%から-0.3%へとマイナス圏となり大幅に低下しています。

このように、安全資産と捉えられる主要先進国の国債利回りがリーマン・ショック前から大きく低下するなか、世界高配当公益株式の利回りは逆に4.4%から4.7%へとリーマン・ショック前よりも高い水準にあり、現在のような世界的な低金利の環境の中で、利回り面からも投資魅力が高まっている点も、成長株から資産株への転換点で資産株が注目されるポイントと考えられます。(図表3-1参照)

公益株式が出遅れてきた理由 ~リーマン・ショック後のデフレ、ディスインフレ懸念

公益株式が出遅れてきた理由のうちのひとつに、リーマンショック後デフレ、ディスインフレの環境であったことがあげられます。公益株式は物価上昇が起きると、結果的に増益・増配となるといった性格があるため、逆にデフレ・ディスインフレはマイナス要因でした。

ただ、足元は物価上昇傾向にあり(図表4-1参照)、すでにデフレ懸念を脱却し、さらに今後の見通しを考えますと、米中貿易戦争による関税率引き上げに代表されるブロック経済化や、歴史的な低水準の失業率に示されているように労働市場がひっ迫しており、すでに時間当たり賃金が上昇し始めているなど、今後もインフレ圧力がかかってくることが想定されます。

物価上昇率と増益・増配の関係


図表4-2は米国物価上昇率の水準別に米国の電力料金の上昇率を半年ずらして分析したものですが、物価上昇率が高いほど、米国の電力料金が高くなる傾向がみてとれます(図表4-2参照)。これは、公益企業は一般に物価上昇時には、発電燃料などのコストが上昇する傾向となりますが、多くの規制下の公益事業では、公共料金を値上げすることで価格転嫁ができるためです。いわば、公益企業は、インフレになると値上げできる、(一般の企業にはなかなかできない)「値上げ力のある」企業と考えることができます。

図表4-3は米国の物価上昇率の水準別に、世界の公益企業の配当成長を今度は1年半ずらして分析したものですが、物価上昇率が高いほど、世界の公益企業の配当成長率も高くなっていた事が示されています(図表4-3参照) 。

このように、物価上昇時には価格転嫁でき、企業収益の増加が期待できます。公益企業は、配当方針に増配目標を掲げている企業も多く、増益になると増配期待が高まります。

過去の実績では、米国の電力料金と世界公益企業の配当の上昇率を物価上昇水準別にみると、ある程度までは物価上昇率が高いほど電力料金の上昇率や配当の成長率が高くなる傾向があることが分かります。

いわば、インフレは公益企業にとっては、一定の時間をおいて、増益・増配に繋がるといった業態のため、インフレ圧力の高まりは、投資魅力の高まりにも繋がる事になります。

配当利回りの魅力高まる ~短期金利上昇と、超長期金利低下と配当利回り

世界の公益企業は、電力・ガス・水道など生活に必要不可欠なサービスを提供しており、収益の安定性が他の業種より高く、見通しが安定していることから、配当を継続している企業が多いうえに、数年先の増配や配当性向などの配当方針を明確に発表している企業が多く存在します。

このため世界公益株式は、株式の中でもこうした配当の安定性の高さが注目され、債券の代替として配当利回りに着目した投資を行う投資家が存在します。このため、公益株式の配当利回りは市場金利(長期金利)の影響を受けます。彼らの多くは公益株式を物価上昇に対しある程度のヘッジ効果も期待できる超長期債券などとして位置づけており、資産株とも言われます。

前回の米国政策金利引き上げ局面では、利回り曲線(イールド・カーブ)がフラット化(短期金利が上昇する一方で、超長期金利が低下)し、金利差が縮小する現象が見られました。その際には、世界公益株式の配当利回りの魅力が高まり、株価が上昇し、配当利回りは低下しました(図表5-2参照) 。

今回の利上げ局面でも短期金利が上昇する一方で、世界の株式市場の高騰に加えて、超長期金利が大きく変わらず、長短金利差は依然縮小(フラット化)しています。一方、配当利回りは超長期債の水準を大きく上回って上昇しており、現在の配当利回りの魅力は高まっています。このため、世界公益株式に注目が集まり株価が上昇し、配当利回りが低下する可能性が高まっているとも考えられます。(図表5-1参照)

(ご参考)配当利回りの計算式

公益企業は、電力・ガス・水道・電話・通信・運輸・廃棄物処理・石油供給などの日常生活に不可欠なサービスを提供しているため、業績が景気に左右されにくく相対的に安定しています。

そのため、配当も相対的に安定しているといった特徴があります。

図表5-3は、もし配当が4円で安定している企業の株価が100円から133円まで上昇すると、配当利回りはどのように変化をするかをみたものです。

ご覧の様に株価が33%上昇すると、配当が一定ならば、配当利回りは4%から3%まで低下することになります。(図表5-3参照)

一方で公益の中には、増配を経営目標に掲げる企業が多く存在しますが、もし5%の増配を実現した企業の場合、株価の上昇はさらに一段すすみ、40%上昇すると配当利回りは3%まで低下することとなります。(図表5-4参照)

短期金利が上昇し長期金利・超長期金利が低下すると、投資家の要求する利回り水準も低下し、相対的に公益株式の配当利回りの魅力が高まり、それが、株価の上昇、配当利回りの低下の原動力となってきました。

景気後退局面入りのシグナルとなるのが、長短金利差(イールドカーブ)の逆転

図表6-1の中段は、米国10年国債利回りと2年国債利回りの推移です。そして、下段では、10年国債の利回りから2年国債利回りを差し引いた、長短金利差を示しています。下段の長短金利差は縮小傾向にあり、イールドカーブはフラット化の方向に向かっています。さらに、中段の赤の丸、つまり長短金利差がマイナスとなり、イールドカーブがフラット化した後、約1年半後あたりで、景気後退局面がやってきて、世界の株式も大きく下落していることがわかります。 (図表6-1参照)

利回り差異でみた投資魅力 ~利回り差異は歴史的、相対的にみて魅力的な水準

図表6-2上段は世界公益株式の配当込みのトータルリターンです。下段の図の赤色の折れ線は世界公益株式の配当利回りを示しています。灰色は世界国債の利回りを示しています。

この世界公益株式の配当利回りと世界国債利回りの利回り差異は世界公益株式のインカムゲイン獲得対象としての投資魅力を探るうえでも重要な指標のひとつです。

世界公益株式の配当利回りが世界国債の利回りより高い場合は、利回り面でみると、世界公益株式のほうが魅力的な投資対象と考えられます。

リーマンショック直前の2007年頃は、株価の高騰により、世界国債の利回りの方が、世界公益株式の配当利回りよりも高いあるいは利回りがほとんどないという状況で、利回り面での投資魅力がなくなっていました。

現在は、世界国債をはじめとした主要債券資産の利回りが過去よりも低い水準となるなか、世界公益株式の配当利回りは相対的に高い水準となっています。世界公益株式の株価に影響を与える要因は公益事業の事業環境や見通し、規制環境、金融市場環境など様々ですが、現在、利回り面に関しては歴史的、相対的にみて魅力的であると考えられます。(図表6-2参照)

(ご参考)イールド・カーブとは?

金利(イールド)は期間の長さによって異なります。

期間別の利回りを、結んだものを利回り曲線(イールド・カーブ)と呼びます。

金利は通常期間が長いほど長期保有による保有資金の固定化によるリスクが伴うため、リスクが上乗せされ、金利が高くなる傾向があります。

通常は右肩上がりとなり、この形状を「順イールド」と呼びます。先行きが不透明なときなどには、カーブが「フラット(平坦)」になり、更に短期金利のほうが高くなり「逆イールド」となる場合があります。(図表7-1参照)

金利は、概ね1年未満の短期金利と、それ以上の長期金利に分けられます。短期金利が米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀などの中央銀行の金融政策の影響を直接的に受けるのに対し、長期金利は金融政策の影響も受けますが、景気の先行きやインフレ動向など様々な長期の予測を反映した投資資金の需給によって市場で決定されます。

イールド・カーブの形状は変化します。通常前述のように右肩上がりの順イールドの形状となりますが、短期的な景気の先行き懸念など様々な要因から遠い将来より近い将来のほうがリスクが高くなると市場が予測した場合には、短期債より長期債の需要が相対的に増え、長短の金利差が縮小し、フラットになったり、更に水準が逆転し逆イールド(短期金利のほうが、長期金利よりも高い)になる場合もあります。

長短金利差が拡大し、イールド・カーブの傾きが急になることをスティープ化、短期金利上昇あるいは長期金利が低下することにより、長短金利差が縮小し、傾きが緩やかになり平坦化することをフラット化といいます。

過去の実績(1990年1月~2017年12月)では、順イールドの割合が約72%、フラットの割合が約21%、逆イールドが約7%となっています。

過去の実績では、イールド・カーブは順イールドから長短金利差の縮小でフラット化し、その後逆イールドにシフトしたあと、再び順イールドに転換するサイクルが見られました。(図表7-2参照)

※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。

 


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