ピクテ・マルチ・アセット・ストラテジー6月:世界経済と株式市場の一段の悪化懸念 | ピクテ投信投資顧問株式会社

ピクテ・マルチ・アセット・ストラテジー6月:世界経済と株式市場の一段の悪化懸念 グローバル

2019/06/18グローバル

ポイント

米中間の貿易摩擦の激化によって、両国が関税率を引き上げていることが、世界経済と企業業績の先行きに対する懸念を高めています。このような不透明感の高まりによって、資産配分については引き続き慎重な姿勢を維持します。具体的には、株式のアンダーウェイトを継続します。債券は、先進国の景気減速が想定される一方で、先進国の国債や社債市場が割高であるため、ニュートラルを維持します。また、キャッシュのオーバーウェイトを継続します。

安全(質)への逃避

貿易摩擦の激化が株価の下落を促した5月は、投資家にとって残酷な月となりました。トランプ米大統領が貿易戦争を激化させ、中国、メキシコ両国に強硬策を突きつけたことから、世界経済は、年内、不振を極め、リスク資産市場に余波が及ぶのではとの懸念が強まりました。

MSCI世界株価指数の5月の騰落率は6%強のマイナスとなり、1月からの上昇分を一部相殺しました。世界株式の年初来の騰落率は9%弱の上昇となっています。世界経済の減速を巡る懸念が、想定通り商品市況の下落につながり、5月WTI原油先物は16%強の下落となりました。情報技術(IT)セクターも影響を免れず、米国が中国の通信大手ファーウェイを制裁の対象とし、世界中に散らばる同社のサプライヤーを間接的に攻撃したことから、約9%弱の下げを記録しました

株式にとっての悪材料は、景気の変動の影響を受けにくいディフェンシブ性資産にとっては好材料です。5月の月間騰落率は国債(現地通貨ベース)が1.8%、ゴールドが1.3%となりました。米国国債は2.5%と好調でした。一方、日本国債は現地通貨ベースでは0.8%と穏やかな上昇に留まったものの、円の増価を受け、ドルベースでは3.5%と堅調でした。

これと対照的だったのが英国国債で、現地通貨ベースでは2.9%と好調だった一方、ドルベースでは0.5%のマイナスに終わりました。ブレグジットが実現できなかったメイ首相が、後任の選出次第、退任することを発表したことから、政局の混乱が嫌気され、ポンド安が進んだためです。 新興国国債は難局を無難に乗り切り、現地通貨建て新興国国債、ドル建て新興国国債ともに小幅の上昇となりました。一方、先進国の社債は低調でした。米国ハイイールド債は1%強のマイナスとなり、ユーロ圏のハイイールド債はこれを更に上回るマイナスとなりました。

株価の一段の下げを予想

米中の貿易摩擦の再燃が、世界経済と企業業績を巡る懸念を強めています。

米国が、ここ数週間のうちに、2,000億ドル相当の中国製品に対する関税率を10%から25%に引き上げたことに対抗して中国が報復措置に踏み切ったことから、米国は更に3,000億ドル分の中国製品に対する最大25%の関税賦課を検討しています。

トランプ米大統領が、ここ数週間で貿易相手国に対する強硬な姿勢を強める前から、世界の株式市場の先行きは良好ではなく、足元では不透明感が一段と増しています。従って、資産配分については引き続き慎重な姿勢を維持し、株式をアンダーウェイト、債券をニュートラル、キャッシュをオーバーウェイトとします。

株式:米国株式市場に立ち込める暗雲

5月の世界の株式市場では、4月の上昇分が剥げ落ちた格好となりました。米中の貿易協議が短期間で合意に至る公算は低く、今後は市場の一段の下げが見込まれます。

米国株式は特にぜい弱です。1-3月期の企業業績は予想外に良好だったとはいえ、国内経済は減速しつつあり、企業利益は伸びの鈍化が見込まれます。株式アナリストは、直近(1-3月期)の決算発表開始時に年内の企業利益成長率予想を下方修正しています。

企業の売上高は概ねGDPに連動しますが、利益は複雑です。税率、規制、人件費など様々な変動要因があげられますが、賃金伸び率が名目GDP成長率を上回るような状況、言い換えれば実質賃金伸び率が生産性を上回るような状況になると、一般的に企業の利益率は低下します。OECDの実質単位労働コストは、1970年代から一貫して低下していますが、直近5年の変化率はプラスに転じています。利益率の変動は利益変動に大きく影響します。米国の法人税の引き下げ(35%→21%)は、過去10年の増益の20%を説明するだけインパクトの大きいものでしたが、この影響が一巡するにもかかわらず、市場は企業の利益率の上昇を予想しており、楽観的すぎるとみています。

米国株式は、相対的に高水準のバリュエーションと景気敏感セクターに偏った市場のセクター構成を勘案すると、魅力が更に薄れます。米国市場は、日本を除く世界のどの主要市場よりも景気敏感銘柄の構成比が高いことに加え、史上初めて、景気敏感セクターの構成比が新興国市場を上回っています。従って、米国株式はアンダーウェイトを維持します。

一方、英国市場は、同国のブレグジットを巡る懸念が嫌気されて大幅に下落したことから投資妙味が強く、中でもFTSE100種総合株価指数は、構成企業の海外売上比率が高いことから魅力的です。通貨安と低位のバリュエーションに加え、国内経済が政治の難局を乗り切ってきたという事実が、英国株式のオーバーウェイトを維持する根拠です。

景気変動の影響に左右されやすい銘柄には投資妙味が少ないと考えます。MSCI世界株価指数では、景気敏感セクターが、ディフェンシブ(景気の変動に左右されにくい)・セクターに対して、長期的には平均して10%程度上回っていますが、現在は17%程度と割高となっています。一方、自動車および銀行株は出遅れ感が強く、一株当たり純資産価格と同等の水準で取引されていますが、これは市場平均を50%程度下回る水準です。

貿易戦争がテクノロジー銘柄に及ぼし得る影響を軽視してきた投資家にはつけが回り始めています。トランプ政権が中国の通信大手、ファーウェイを制裁の対象としたことは、新しい「ハイテク冷戦」を巡る懸念を引き起こし、世界のサプライチェーンに組み込まれたテクノロジー銘柄の、突然の制裁に対するぜい弱性を浮き彫りにしています。米国の半導体銘柄は高値を15%以上下回り、1年前の水準で推移しています。公益株については足元の上昇に乗じて売却益を確保し、投資評価をオーバーウェイトからニュートラルに引き下げました。

 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

債券:新興国債券市場は本領を発揮

貿易摩擦の激化がリスク性資産を下押す環境にあっても、債券の投資妙味は高くありません。世界の国債利回りが大きく低下する状況では、債券の割高感が際立っているからです(図表4参照)。 もっとも、債券市場には魅力的な投資対象も残っています。例えば、現地通貨建て新興国国債は、良好な投資収益をあげる可能性を提供しています。

新興国通貨は、最近の増価をもってしても、米ドルに対する適正価値を大きく下回る水準に留まっており、新興国の良好な経済環境を背景に、上昇基調を続ける公算が高いと思われます。新興国の経済成長は、引き続き、先進国を上回って推移しており、双方の景気先行指標の格差は拡大基調です。

ドル建て新興国国債もオーバーウェイトとしているのは、相対的に堅固な新興国経済が、新興国国債の米国国債に対するスプレッド(利回り格差)の縮小に資すると思われるからです。

国際金融協会(IIF)の調べでは、4月現在、新興国国債市場には8ヵ月連続で資金が流入しており、流入金額は総計240億ドルに達しています。 先進国市場では、引き続き、米国国債をオーバーウェイトとしています。ユーロドル先物には年内に1回以上の利下げが織り込まれていますが、経済を取り巻く状況の一段の悪化に際して、米国国債が、費用対効果の高いヘッジ手段であることに変わりはないからです。

欧州市場では、ドイツ国債が最も割高で、指標の10年国債利回りは過去最低水準を更新しています。英国国債はアンダーウェイトに下方修正しました。ブレグジットを巡る政治・経済の不確実性は残るものの、失業率は44年ぶりの低水準に留まり、賃金の伸び率は10年ぶりの高水準を記録し、個人消費は引き続き堅調です。英中央銀行(イングランド銀行、BOE)が年内利上げを行う公算は低いとはいえ、投資家は来年の金融引き締めの可能性を軽視し過ぎているように思われます。ピクテのモデルは、英国国債が割高であることを示唆しています。

社債については、投資適格債、ハイイールド債ともにアンダーウェイトとします。貿易戦争が経済成長を下押し、投資家心理が悪化する状況を勘案すると、社債は割高感が強いと思われます。

通常、景気サイクルのピークではインフレ率も高く、グローバル債券の利回りも相対的に高いことが一般的ですが、いまの利回り水準は低く、また、政府債務が対GDP比で高止まる中、デュレーションは8.3年とリスクが過去最高水準にあります。今後、景気後退局面に差し掛かれば、金融政策の余地は限られてくるでしょう 米国債の今後5年間の実質リターンはマイナスになることが想定されるなか、最も危険なアセットクラスは米国ハイイールド債です。米国ハイイールド債のデフォルト率は3.5%と低いままですが、先行性の高い米国長短金利差はデフォルト率の上昇を示唆しています。

主要通貨は、いずれもニュートラルを維持します。一方、経済の不確実性が高まる状況での有効なヘッジ手段となるゴールドはオーバーウェイトを維持します。

 

 

景気後退局面を示唆するもの~固定資本形成の動向

 

家計、企業、貿易などに関するマクロ経済指標など複数の指標でみた景気後退確率は景気後退局面の水準には至っていません。先行指標となる長短金利差(米国10年国債利回り-1年国債利回り)からみた景気後退確率も、高まりつつあるものの、景気後退の分岐点の水準には至っていません。

家計負債ギャップからみると、リーマンショック時、欧州債務危機時の水準ではないことから、景気後退の引き金にはなりがたいとみられます。

今後、景気後退の引き金となりえるのは、固定資本形成の動向がカギとなるとみています。OECDの固定資本形成(対GDP比)は、長期トレンドを5%上回る状態にあります。1970年からの長期トレンドからの乖離具合をみると、概ね5%がピーク水準だったことが分かります。その後、米国は景気後退に突入しています。今後数年間は投資が減少することが示唆されており、注視する必要があると考えられます。

 

関税引き上げの世界の輸出へのインパクト

 

ピクテの世界景気先行指数と世界の実質GDP成長率の動向を見ると、実質GDP成長率の水準は潜在成長率を上回りますが、下落傾向が続いています。ただ、短期的なモメンタムを3ヵ月移動平均で見ると落ち着きも見られることから、向こう1~2四半期先の下落傾向に落ち着きが見られる可能性もあります。地域的に見ると先進国は弱く、中国を筆頭とした新興国の景気先行指数に改善が見られます。

供給サイドは全般に回復が鈍く、世界の鉱工業生産にも回復の兆しが見られません。米中貿易問題の影響で、設備投資などが手控えられていることが背景と見られます。

世界の輸出の状況を指標で見ると先行性を示す台湾輸出、もしくは新規輸出受注は底を打ったようにも見えます。ただし、これらは5月以降の米中貿易問題の悪化を反映してないため、再び悪化する可能性も考慮する必要があります。他の輸出関連の経済指標にも同様の注意が必要であるとみられます。

貿易に注意が必要な理由として米国の関税を見ると、5月前は平均が3%程度ですが、今回の追加関税(2000億ドルに対し10%から25%に引き上げ)で同税率は約4.3%、仮に残りの中国からの輸入品全てに追加関税を課すと、7%程度に上昇する見込です。これは国際的な水準でも高い水準です。

インフレ率は(上昇)懸念は低く、一時的な上昇は過去の原油価格上昇を反映したもので、元に戻ると見ています。 各中央銀行は概ね緩和姿勢をとると見られます。ほぼ全ての先進国の中央銀行で現状の政策金利は修正テイラールールを下回る運営で、緩和的です。新興国ではトルコは例外的に引き締め姿勢ですが、これは例外です。

 

 

 

 

 

 

 

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