Article Title
メイ首相、6勝1敗でも喜べない?
梅澤 利文
2019/01/30

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

当初の離脱協定案が大差で否決された後、21日に表明されたメイ首相の代替案と、英国下院議会が提案した動議の採決結果を比べると、メイ首相の6勝1敗と見られます。ただ、市場の反応を見るとポンドは小幅ながら下落しました。市場は次の点を懸念していると見ています。



Article Body Text

英国下院EU離脱修正案:バックストップ代替案などの修正案が承認される

英国下院で2019年1月29日、英国の欧州連合(EU)離脱合意案に対する7の修正案に採決が行われました(図表1参照)。賛成多数で可決された動議(修正案)は2つで、主に労働党などが提案した動議は否決されました。

わずか2週間前の1月15日に当初のEU離脱協定案は歴史的大差で否決されましたが、修正案の内容によっては合意の可能性も残されていることが示唆されました。

 

 

どこに注目すべきか:離脱協定案、動議、採決、バックストップ

当初の離脱協定案が大差で否決された後、21日に表明されたメイ首相の代替案と、英国下院議会が提案した動議の採決結果を比べると、メイ首相の6勝1敗とも見られます。ただ、市場の反応を見るとポンドは小幅ながら下落しました(図表2参照)。市場は次の点を懸念していると見ています。

まず、賛成多数となったブレイディ案は北アイルランドとアイルランドの国境問題について、バックストップ(安全策)を見直してEUと再交渉を目指す内容で、メイ首相の考えに沿う内容です。その意味では、メイ首相の勝利とも見られますが、実現性は低いと思われます。過去に解消できなかった問題が離脱期限を控える短期間で解決できる可能性は低いと思われます。そもそもEUは再交渉に応じない姿勢を維持している点からも厳しい局面が想定されます。

次に、長期的な離脱期限の延期が否決されたことです。無秩序なEU離脱をしないという点では、スペルマン氏の動議で可決されています。しかし、具体的に延期の期間を定めたクーパー氏の動議(19年年末までの延期)や、リーブス氏の動議(2年間延期)は否決されました。長期の延期を認めてしまうと再国民投票の可能性も浮上することから、労働党の提案に対し保守党の離脱強硬派が反対したと見られ、保守党からの賛成(恐らく再国民投票支持) は17名にとどまりました。市場の事前の予想では離脱日延期を具体的に求める修正案は可決の可能性もあると見られていただけに、採決で否決されたことは、わずかながら、無秩序な離脱の可能性を市場に意識させたと見られます。

今後の展開を占うと、メイ首相は動議に基づきEUとの再交渉で離脱協定案の修正を(2月中旬まで?)目指すと述べています。ただ、EUがすでに検討の余地がないと表明している離脱協定案を再交渉することに、産業界からは早くも不満の声も聞かれます。展開によっては無秩序な離脱の可能性がゼロではないことから、産業界は最悪のケースに備えコストを払って推移を見守っているからです。同じ問題で行ったりきたりしているようにも見える政治に対し不満も高まっているようです。英国のEU離脱を巡っては、様々なリスクが指摘されていますが、政治と世論のギャップにも不安の火種があるように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係