Article Title
ペロシ議長、弾劾裁判に向け舵を切る
梅澤 利文
2019/09/25

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

従来、弾劾裁判に消極的と見られていた民主党のペロシ下院議長が弾劾に舵を切りました。会見でペロシ議長は、大統領の行為を国家安全保障への裏切りと断罪するなど、後戻りできない道を選択したようです。ただ、弾劾までの道のりは険しく、訴追はあっても、罷免の可能性は低いと思われます。



Article Body Text

トランプ大統領弾劾裁判調査:ペロシ米下院議長、トランプ大統領の弾劾調査開始を要請

トランプ米大統領が、来年の大統領選挙で民主党の有力候補であるバイデン前副大統領の息子に関する疑惑を調べるようウクライナ政府に圧力をかけたとされる問題が浮上しています。これに対し、民主党のペロシ下院議長は2019年9月24日、連邦議会で会見、トランプ氏の行為が弾劾にあたるかについての調査着手を表明しました。

疑惑の主な内容はトランプ大統領が今年7月、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した際、軍事支援を背景に民主党のバイデン前副大統領とウクライナ企業との関係に関する調査に協力するよう圧力をかけたとされるものです。

バイデン氏は副大統領だった15年、欧米諸国や国際機関が進めたウクライナの腐敗問題への取り組みで、ウクライナの検事総長を解任させようとしました。当時、バイデン氏の息子が役員を務めていたウクライナのガス会社が検察の捜査対象になっていたことから、トランプ氏側は「バイデン氏が息子を守るために圧力をかけた」と批判を強めていました。

 

どこに注目すべきか:下院議長、弾劾裁判、調査開始、大統領選挙

従来、弾劾裁判に消極的と見られていた民主党のペロシ下院議長が弾劾に舵を切りました。会見でペロシ議長は、大統領の行為を国家安全保障への裏切りと断罪するなど、後戻りできない道を選択したようです。ただ、弾劾までの道のりは険しく(図表1参照)、訴追はあっても、罷免の可能性は低いと思われます。

トランプ大統領の疑惑そのものについては、断片的な情報にとどまっているので、今回は弾劾制度を振り返ります。

弾劾は、疑惑の内容を下院の委員会などで調査、弾劾対象と判断すれば下院で訴追(下院の過半数)となり、ようやく上院での「弾劾裁判」となります。弾劾裁判で大統領が罷免されるには上院で3分の2(67名)の賛成が必要です。

クリントン元大統領など、過去弾劾裁判となった2名の大統領もこの段階で「無罪」となっています。
民主党は下院で235議席と過半数を確保していますが、上院では45議席と共和党の53議席を下回っています。仮に下院で訴追が支持されても、弾劾裁判での3分の2獲得は難しそうです。

次に、弾劾手続きに必要な期間を見ると、クリントン元大統領の場合、調査開始からで1年程度、弾劾手続きからでも数ヶ月費やしています(図表2参照)。もっとも、調査期間の長さなどにより弾劾裁判全体に必要とる期間は左右されると思われますが、ある程度の長期戦が見込まれます。

逆に言うと、数ヶ月から1年程度という期間は来年の大統領選挙を考えれば効果的(?)なタイミングかも知れません。トランプ大統領に対する弾劾への気運はコミー元米連邦捜査局(FBI)長官の解任や、モラー特別検察官のロシア介入疑惑報告などで盛り上がりましたが、どちらも見送られました。コミー元FBI長官解任の場合、当時の民主党は過半数を割っており、勝ち目が無いことが最大の要因ですが、時期尚早という判断があったのかもしれません。

今後の弾劾プロセスが、民主党、共和党どちらに有利に働くかは調査結果など不透明要因が多く、予測は困難です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議