サステナブルなファッションと循環型経済

持続可能で再生可能:循環型ファッションの台頭

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「パンデミックがファストファッションの終焉を早める」―それは何を示しているのでしょうか。




2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカにあるラナ・プラザ縫製工場は、いつも通りの一日を過ごしていました。

沼地を埋め立てて数年前に建てられた8階建てのビルは、いつものように熱気に満ち、女性を中心とした約2,000人の労働者が欧米の大手ファッションブランドのTシャツやジーンズなどの縫製に追われ、注文した商品を時間内に完成させる必要に迫られていました。

しかし、水面下では平常とは程遠い状況が続いていました。ある時、工場の壁に亀裂が入っていたことが判明しましたが、そこから避難してわずか1日で、従業員が職場に戻されたのです。


そして、これが命取りになってしまいました。

朝9時前にビルが倒壊し、1,100人以上が死亡するというアパレル業界史上最悪の事故が発生したのです。

ラナ・プラザの事故では、世界的に有名なファッションブランドの多くが衣料品を製造しているバングラデシュにおいて、安価な製造業の真の代償、とりわけ搾取工場で働く労働者が直面する劣悪な労働環境が露呈しました。

バングラデシュの繊維工場で働く労働者の80%以上は成人女性や少女で、月にわずか50米ドルの平均賃金で家族を養っています。彼女らは、防火扉や最新の換気装置などの安全基準がない荒廃した建物で働いています。ラナ・プラザの事故のわずか5ヵ月前にも、ダッカ郊外のファッション工場で発生した火災によってビルに閉じ込められ、少なくとも117人の労働者が死亡するといった悲惨な事故が起きました。



しかし、ファッション業界は他にも問題を抱えています。それは、環境負荷の増大です。

世界のファッション・繊維企業は、世界の水質汚染の5分の1を垂れ流し、世界の海岸線に流れ着く人為的なゴミの85%という驚異的な割合の元凶となっています。

さらに、3兆米ドル規模のファッション産業は、2020年代の終わりまでに現在より35%多い土地を利用し、2050年には2℃の温暖化に対する世界の炭素予算(温室効果ガスの累積排出量の上限値)の4分の1を消費することになると言われています1

「ラナ・プラザは、一時的に大きな話題となりました。しかし、それらのブランドの多くは、まったく同じことを繰り返しています。これは、ブランドが活動している市場の競争力の問題です」。スコットランドのファッションデザイナーで、サステナビリティに力を入れているパトリック・グラント氏は、最近のポッドキャスト「Found In Conversation」で次のように説明しています。

「彼らのモデルは、消費者に毎週何か新しいものを売ることです。そして、また新しいものがそれに取って代わる。信じられないほどの速さで展開しています。それは、一度着たら捨てられるように作られたものなのです」。

イギリスの伝統的なビスポークテーラー(注文服専門店)やテキスタイルメーカーを復興させ、世界的に有名になったグラント氏は、自らが説いたことを実践しています。

彼は天然素材、持続可能な素材、再生可能な素材を使用し、環境への影響を軽減するために、繊維や染料の生産者と協力して地元で生産しています。

「私たちがデザインするすべての作品は、そのスタイルから見て、少なくとも25年の寿命があるようにデザインしています。そして、それだけの期間使えるように作っています」とグラント氏は語ります。

「素晴らしい服は、私たちを素晴らしい気分にさせてくれます。しかし、消費と廃棄という絶え間ないハムスターの回し車の中にいるのであれば、誰も素晴らしいとは思わないでしょう。そのようなシステムで生産された服は、誰にとっても良いものではありません」。


スタイルの変化

ラナ事件から8年、ファッション業界はさらに深い穴に落ちてしまったようです。

Burberry(バーバリー)、H&M(エイチアンドエム)、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)、NIKE(ナイキ)などのブランドが、売れ残った商品を燃やしたり破棄したりしていることを認め、非難を浴びています。

同様に問題なのは、衣服の70%が、生分解に約200年かかる人工繊維を使用し続けているという事実です。



水の使用量を考慮すると、この産業の環境フットプリントはさらに大きくなります2

衣料品製造からの排水は汚染や生物多様性の損失につながります。

この業界は、1年間に世界で発生する排水の約5分の1を占めています。合成素材の染色や洗浄の過程で、有害な化学物質やマイクロプラスチックが河川や海に放出され、野生生物に悪影響を与えています3

さらに悪いことに、調査によると、アジア、アフリカ、中米、東欧の労働者が貧困の罠から逃れるのに十分な賃金を支払っている大手衣料品ブランドはありませんでした4




汚染や搾取といったひどい年月を経て、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが変化のきっかけになるのではないかと期待されています。

世界的な健康危機によって、ファッションのサプライチェーンは崩壊し、小売店は閉店され、常に新しい服やデザインを提供するファッションショーは中止となりました。

また、消費者の意識や行動にも変化をもたらしました。

ロックダウンから抜け出した消費者は、今、自身の消費行動を見直し、服がどのように作られているかについて懸念を表明しています。「テイク、メイク、ディスポーズ(調達、生産、廃棄)」というアプローチではなく、社会的、環境的側面を尊重した持続可能な方法を選ぶ人が増えています。

このような行動の変化を反映して、コンサルタント会社のMcKinseyが昨年実施した調査では、ヨーロッパの消費者の3分の2以上が、パンデミック後には、持続可能な素材の使用やブランドの持続可能性の促進が、購買意欲の重要なポイントであると回答しています5

そして、持続可能なビジネスモデルを採用しているブランドは、その恩恵を受けています。別の調査によると、世界のエシカルファッション業界は、2015年以降、年平均約9%で成長しており、2030年には時価総額が150億米ドルを超えると予想されています6

環境シンクタンクであるストックホルム・レジリエンス・センター(SRC)の最近の報告書によると、産業界は循環型経済に基づくフレームワークを採用して社会的・環境的圧力を軽減し、ビジネス上の意思決定を、人と地球のための社会の長期目標に合わせるべきだとしています。

具体的には、環境目標の設定など、ファッション・テキスタイルシステムに対する6つのアクションポイントを提言しています。



最近のトレンド:マッシュルームレザー

エレン・マッカーサー財団のために作成されたSRCの報告書によると、循環型経済の重要な柱の一つである廃棄物を減らすためには、製品の設計と製造における革新的な手法の導入が必要であるとしています。

業界では、動物性素材や合成素材からの転換を図るため、さまざまな斬新な方法を試みています。

持続可能で循環的な代替案のひとつとして、衣料品メーカーが注目しているのが、菌糸体という菌類(きのこなど)の本体を構成する耐久性に優れた糸状の繊維から作られた天然レザーです。

このマッシュルームレザーなどで知られる菌糸体製の代替レザーは、従来のレザーと同じような見た目と感触を持ちながら、8〜10日で成長させることができます。これに対して、牛の飼育には1年半から5年の期間が必要です。

生産工程で使用する水の量は、綿花の栽培に必要な量の半分です。

また、CO2排出量や土地使用量を含む菌糸体の環境フットプリントは、動物由来のものや石油由来のものに比べて格段に小さくなっています7

Hermès社、Adidas社、Kering社などの世界的なファッションブランドが、MycoWorks社やBold Threads社などのバイオベンチャー企業と提携して、菌糸を使った製品を開発し、店頭に並び始めています。

グラント氏は、ファッションとサステナビリティは、ポジティブな変化をもたらし、業界に信頼を取り戻すことができる、強力な組み合わせだと言います。

「サステナビリティは、歴史的にはイノベーションの妨げになると考えられてきました。しかし今では、サステナビリティはイノベーションの原動力となっています。持続可能で先駆的なブランドは、人々に信頼されるブランドとなります。今日、信頼はかつてないほど価値の高い商品になっています」と語ります。

「ブランドがより良い行動をとるように、ある程度のプレッシャーをかけなければ、世界は変わりません。しかし、私たちはできる限りのことをして、皆さんに応援してもらいたいと思っています」。

 

[1] Cornell, Häyhä and Palm. 2021. A sustainable and resilient circular textiles and fashion industry: towards a circular economy that respects and responds to planetary priorities. A Research Report by Stockholm University’s Stockholm Resilience Centre for the Ellen MacArthur Foundation and H&M Group

[2] Cavusoglu, Lena and Dakhli, Mourad (2017) "The Impact of Ethical Concerns on Fashion Consumerism: Case-based Evidence," Markets, Globalization & Development Review: Vol. 2: No. 1, Article 4. DOI: 10.23860/MGDR-2017-02-01-04

[3] UNEP

[4] https://cleanclothes.org/file-repository/tailoredwages-fp.pdf/view

[5] この調査は、過去6ヶ月間にアパレルやフットウェアを購入した18歳以上のドイツおよびイギリスの消費者2,004人を対象に行われました。https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/survey-consumer-sentiment-on-sustainability-in-fashion

[6] エシカルファッションとは、そのプロセスに関わる人々やコミュニティに配慮し、環境への影響を最小限に抑えながら服をデザイン・製造することです。  https://www.thebusinessresearchcompany.com/report/ethical-fashion-market

[7] https://www.mylo-unleather.com/






パトリック・グラント

Christian Louboutin(クリスチャン・ルブタン)、John Lobb(ジョン・ロブ)、Barbour(バブアー)、Cartier(カルティエ)など、多くのファッションブランドとのコラボレーションやコンサルティングを行う。また、Savile Row(サヴィル・ロウ)のテーラーであるNorton & Sons(ノートン&サンズ)や高級紳士服ブランドであるE.Tautz(イートウツ)を再建。

2016年には英国王立技芸協会(RSA)のフェローに選出され、2018年にはプリンス・オブ・ウェールズ(チャールズ皇太子)殿下の教育慈善団体「Future Textiles」の共同チェアマンに就任。

同氏は、パンデミックへの対応にも尽力しており、経営するCookson & Clegg社の工場では、医療従事者用の防護服に生産を切り替えた。




ポッドキャスト
「Found in Conversation」



本ページは2021年9月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ投信投資顧問株式会社が翻訳・編集したものです。




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