はじめに 長期見通し 資産クラス別リターン予測 おわりに

「Secular Outlookピクテの長期展望」第8号をお届け致します。
今年も、今後5年を通じて金融市場に最も大きな影響を及ぼすことが予想される趨勢(トレンド)を考察します。本号の発行には、創刊以来、最も大きな困難を伴いました。そもそも決して容易ではない長期の展望を描くという営みが、新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した危機によってこれまでより遥かに複雑なものとなりました。どのような観点で見ても、投資家は新型コロナウイルスの影響からは逃れられないことを認識するはずです。今回のような健康上の危機は、金融市場や経済界に既に形成されたトレンドを加速させるだけでなく、国の統治や企業経営の手法、個人の生活 様式等を一変させてしまうことがあるのも確かです。


A changing investment landscape: the next five years


Secular Outlookは大きく2つに分かれています。

  1. 長期見通し
  2. 今後5年のリターン予測

Secular Outlookの第1部、第1章および第2章では、新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)の長期的な影響に焦点をあてます。
第1章では、財政、消費者・企業行動、経済成長に対して、新型コロナウイルスがどのような影響を及ぼすかを考えます。また、新型コロナウイルスが、資本主義を、より包摂的かつ持続的な形態に移行させると考える根拠を解説します。第2章では、金融政策がコロナ後の世界でどのように展開していくかを考えます。世界の中央銀行は、持続的な景気回復を試みる過程で、前例のない領域に踏み込まざるを得ないと思われます。



第3章および第4章では、コロナ後の世界を考えます。第3章では、テクノロジーを巡る冷戦の行方を探ります。米国が掌握するテクノロジー業界で中国の存在感が増す中、多くの投資家にとっての懸念事項は、米・中両国の覇権争いが激化し、地政学上の不安定化につながるのではないかということです。しかし、こうした見方とは異なる展開も予想されます。ピクテは、米中間における競争の激化が技術開発と普及を加速させ、切望される生産性の向上をもたらす可能性があると見ています。そして、長期的には、アジアが技術競争の勝者となる公算が大きいと考えます。

第4章では、パッシブ運用とプライベート・エクイティ投資の先行きを分析します。いずれも、ここ数年、高いリターンを実現してきましたが、今後は、これまでよりも困難な成熟期に入ることが予想されます。


チーフ・ストラテジスト
ルカ・パオリーニ

Secular Outlookの第2部では、株式、債券、通貨、各種オルタナティブ資産等、資産クラス別の今後5年のリターン予測の詳細を解説します。各資産クラスの今後5年のリターンは長期平均を大きく下回ると予想する一方、特に新興国市場や一部のオルタナティブ資産には魅力的な投資の機会が残されていると考えます。

「Secular Outlookピクテの長期展望」第8号が、今後の不確実な市場に対峙する読者のお役に立てば幸いです。


図表1:今後5年間の資産クラス別リターン予測、%、年率

    新型コロナウイルスの遺産 中央銀行の「素晴らしき新世界」 パッシブ運用とプライベート・エクイティの先行き

新型コロナウイルスの遺産

世界に影響を及ぼす大きな危機は往々にして「遺産」を遺してきました。例えば、近代であれば1970年代後半から1980年代初めにかけての急激なインフレーション(ハイパー・インフレ)や労働争議はレーガノミクスやサッチャリズムを生み出し、2008年の世界金融危機は、現在に至る超低金利時代をもたらしました。同様に、新型コロナウイルスのパンデミックも破壊的な打撃をもたらすことが予想されます。企業のビジネスモデルは抜本的に見直され、消費者行動は一変し、規制や法律は改定されることになるでしょう(図表2)。

感染症の専門家は、ワクチンが開発されても、新型コロナウイルスは公衆衛生の脅威であり続けると指摘しています。また、世界保健機関(WHO)の専門家は、新型コロナウイルスが、少なくとも4~5年にわたり、感染拡大と縮小を繰り返すと発言しました。従って、パンデミックを抑え込むために講じられた施策の多くが、今後も維持されなければならないことになります。


チーフ・ストラテジスト
ルカ・パオリーニ

公的債務の増加

コロナ危機が経済に及ぼした影響のうちで最も明白なのは、世界各国の債務残高を膨張させたことです。先進国の対GDP政府債務残高の中央値は約120%と、第2次世界大戦以降で最も高い水準に達しました。

こうした状況は、都市封鎖が引き起こした社会的・経済的混乱を抑えるために政府や中央銀行が支払った代償ですが、巨額の借入の経済的帰結は厳しいものとなる公算は大きいと考えます。積み上がった債務は、例え金利が低位にとどまったとしても、長期にわたって経済成長の足枷となるでしょう。また、政府の借入が民間投資を抑制する「クラウディング・アウト」が発生するリスクがありますが、民間企業が、大型プロジェクトに資金を配分するよりもバランスシートの修復を優先するならば、恐らく、同様の状況が訪れると予想されます。

 

低成長は利害関係者(ステークホルダー)重視経済の代償

債務の増加と低成長は、「責任ある資本主義」の見返りとして、社会が受け入れざるを得ない二律背反(トレードオフ)の関係にあると言えそうです。

新型コロナウイルスのパンデミックは、市場経済が抱える課題の一部を浮き彫りにしています。社会格差、崩壊の危機にある保険医療制度、環境破壊への対処不能等、社会に根差した深刻な課題が世界各地で、政治的な不満をそらす避雷針の役割を果たしていますが、容易な解決策は見つかっていません。

喫緊の課題は、低所得者層が新型コロナウイルスの最も大きな打撃を被ったことを勘案し、富裕層や企業による経済再建コストを明らかにすることです。また、コロナウイルスとの闘いの前線に身を投じてきた介護従事者、清掃作業員、バスの運転手や地域の支援活動従事者など、「エッセンシャル・ワーカー」の多くが低所得者層に属していることを心に留めておくことも必要です。

政府は、労働者の権利の改善、最低賃金および生活賃金の引き上げ、雇用保護の仕組みの拡充等を通じて社会格差の是正を急ぐ必要に迫られています。賃金については、無条件で国民に一定の金額を給付する「ユニバーサル・ベーシック・インカム」等、抜本的な措置を検討する必要があるかもしれません。公的医療や社会保障政策の改善要求には抗し難いと考えます。特に、米国では、欧州型の国民皆保険に対する要求が、11月の大統領選に大きな影響を及ぼす可能性があると考えますが、米国以外の国でも、ヘルスケア・セクターは「戦略的に重要な地位」を得ると考えます。

 

環境政策にも抜本的な見直しが必要です。新型コロナウイルスのパンデミックによって過去100年間で最も急激なリセッション(景気後退局面)に陥り、経済活動が停滞したにもかかわらず、国際再生可能エネルギー機関によると、世界の炭素排出量は、(温室効果ガス濃度あるいは地球温暖化には全く効果をもたらさないとされる)年間6%の減少に留まっており、事態は極めて深刻です。気候変動による被害者が増え続けていることから、政策立案者には、環境に配慮した経済復興計画の策定が求められます。

環境により配慮した経済(グリーン・エコノミー)の構築には急進的な思考が要求されます。EUは、「欧州グリーンディール投資計画」の一環として、今後10年間で1兆ユーロを責任投資(サステナブル投資)に投じる旨の誓約を行うことで、最初の重要な一歩を踏み出しました。各種の新しい環境税や環境規制と同様に、中央銀行が発行するグリーン・ボンドの購入も検討されています。化石燃料を採掘・精製するエネルギー企業は、社会の風向きを見て対策を講じていますが、英石油大手のBPは原油埋蔵量の評価を引き下げて180億ドルの減損損失を計上し、二酸化炭素排出に係るコストを従来予想の1トン当たり40ドルから同100ドルに上方修正しています。

企業はそれぞれに与えられた責務を果たさなければなりません。幅広い利害関係者(ステークホールダー)のニーズに対し、株主のニーズを優先させ続けることは、もはや不可能です。また、従業員や社会の要求ならびに物理的な操業環境に、これまで以上に敏感でなければなりません。「新型コロナウイルスのパンデミックのさなかに取った行動」によって評価を受けている企業も散見されており、顧客も株主も規制当局者も、違反に対してこれまでほど寛容でなくなる公算が大きいと思われます。

一方、社会の要求を満たした企業は見返りを得ることができます。責任ある行動を取る企業は資本コストの低下という恩恵に浴していることを裏付けるデータが増え続けています。最近の事例として、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の高い銘柄を優先的に組入れた株式ファンドへの資金流入の勢いは、新型コロナウイルスのパンデミック期を通じて衰えませんでした。


新型コロナウイルスをなんとか収束させ、最終的に打ち負かしたとしても、コロナ前後の世界は、一変


図表2:新型コロナウイルスは世界の姿をどのように変えるか?


大きな政府の復活

コロナ後の世界は「大きな政府」の復活を促すことになると考えます。国家の、経済に対する影響力は、2008年の世界金融危機以降、増大し続けていますが、今後はこの傾向に拍車がかかると考えます。また、国家の強力な介入は、様々な形態を取り、広範囲に影響を及ぼすものと思われます。

まず、新型コロナウイルスによって大きな打撃を被った戦略上重要な産業の回復ならびに保護を図って、政府が様々な企業に出資し、その結果、大株主になる可能性が考えられます。

世界金融危機時には、破綻の危機に瀕する企業を対象とした政府の救済が金融業界に限られていたのに対し、コロナ禍の状況では、政府の介入の規模が全く異なっており、国営化の可能性も否めません。

政府は、戦略上重要な企業と見なす航空、自動車、鉄鋼、半導体、食品、医療機器等の業界に属する企業に、何らかの形で関与する時期が来ているように思われます。独仏両国が、航空ならびに自動車製造業への迅速な政府支援を打ち出す一方で、オーストラリアを含む幾つかの国は、戦略上重要な企業に対する外資による買収を阻止するため、新しい規則の導入を検討しています。こうした施策が一時的ならば副作用は限定的ですが、政府が長期にわたって株主であり続けるならば、技術革新(イノベーション)が滞り、効率的な資金配分を誤るリスクが懸念されます。

政府は企業利益の取り分を増やそうとします。福祉国家の改革には費用がかかるからです。その一部は、政府による借入(政府債務)で賄われますが、税金も必要です。法人税率と労働分配率は、ここ数年、世界各国で大幅に低下しており、企業利益が格好の標的となっています。S&Pグローバル社のデータによると、S&P500種株価指数の構成企業の実効税率の中央値は、1990年の35%から20%以下に低下しました。この間、FTSE100株価指数の構成企業についても、32%から22%に低下しています。

政府は、同時に、キャピタルゲイン課税や固定資産税の税率を引き上げることで、資本家から労働者への富と権力の再分配を図る可能性もあると考えます。

企業が直面する課題は増税だけではありません。より包括的な経済の構築は、新しい規制を必要とします。新しい規制がなければ、企業にとって、持続性に欠ける慣行や事業を切り捨てる誘因が働かないからです。

 

高級官僚(テクノクラート)が大衆迎合主義者(ポピュリスト)に代わることとなるか?

相対的に大きな政府が不可欠だとしても、そこへの移行プロセスを監視するのが、どのような政府になるのかは明らかではありません。社会の不平等の是正と資本主義の制御は、通常、ポピュリストが主導するものですが、新型コロナウイルスのパンデミックの影響に直面する選挙民が大衆迎合主義(ポピュリズム)を選ばない可能性は十分にあると考えます。ポピュリストによるコロナ対策の失敗は非難されてきたからです。

 

一方、感染症の専門家は尊敬を集めています。科学者や医師を含む医学研究者が賞賛されているのは、適切な助言を行い、政府から独立した立場にあることを示してきたからです。

こうしたことが示唆しているのは、容易な解決策を提示する政治家に代わり、高級官僚(テクノクラート)に政治が託される新しい時代に入ろうとしている可能性です

 

新たに発見された抵抗力 

新型コロナウイルスのパンデミックから得られた最も貴重な教訓は、危機に対していくら備えても備えすぎることは無いということです。

もう一度都市封鎖を経験したいと思う人などいるはずもなく、コロナ後の世界では、家計、企業、政府は、危機に対する抵抗力を増すことを優先する公算が大きいと考えます。

このことは、消費者にとっては、貯蓄を増やし、裁量的支出を減らすことにつながり、一方、企業にとっては、バランスシートを修復し、(必要な物を、必要な時に、必要な量だけ生産する)ジャストインタイム方式の生産工程や複雑でグローバルな供給網(サプライチェーン)を廃止し、生産拠点等を国内に回帰させることを意味します。政府も厳しい現実に向き合わざるを得ません。比較優位は正常な状況では意味を成しますが、国境が封鎖された時に国民が必要な医薬品や食料を得られない状況ではほとんど価値がありません。

 

世界的な潜在成長率の低下

債務の増加、貿易の縮小、企業投資の抑制および個人消費の手控えが、今後5年の世界経済の先行きに深刻な影響を及ぼすことになりそうです。こうした状況を勘案すると、世界経済のリセッションからの回復は、過去のケースよりも遥かに緩慢なものとなることが予想されます。今後5年の先進国のGDP成長率は3%前後になると見られます。長期平均に並ぶとはいえ、過去のリセッション後の平均を0.5%下回ることは重大な問題です。米国は年率2.2%、ユーロ圏は同1.3%と、いずれも過去の平均を下回ることが予想されます。単一通貨圏(ユーロ圏)経済が、供給サイドの構造改革と財政統合の深化を背景に米国経済に迫る勢いを見せることが予想されるのに対し、米国の財政刺激策の効果は今後5年のうちに薄れ始め、2020年代半ばにはインフレ率の上昇が予想されます注1。一方、この間の新興国のGDP成長率は年率4.6%を予想しており、中国については、内需主導型経済への移行が続く中で外需の縮小を伴い、5%を割り込む可能性もあると見ています。

従って、新型コロナウイルスを収束させ、最終的にこれに打ち克ったとしても、その後の世界は、コロナ前の世界とは姿を一変させると考えます。国家、社会、そして経済は、それぞれが異なる優先課題に取り組み、新しいリスクに立ち向かわなければなりません。ウイルスが姿を消したとしても、その遺産は世界に影響を与え続けるのです。

注1 ピクテの分析は、米国政府の財政刺激が、コロナショックの前で既に、1973年以降最大の水準であるGDP比2.6%程度、過剰に刺激していたことを示唆しています。強力な財政刺激にはインフレリスクが伴います。過去の例では、GDP比1%の過剰な財政刺激が、1~2年後のインフレ率を長期平均から1%押し上げることが示されています。「過剰な財政刺激」とは、経済の現状が景気循環のどの局面にあるか(「需給ギャップ」)を考慮した時、財政赤字(黒字)が適切だと考えられる水準をどの程度上回っているか(下回っているか)の測度です。「過剰な財政刺激」の算出には、需給ギャップを説明変数として政府予算収支(GDP比、%)の単回帰分析を行います。ここで、回帰残差として現れるのが、景気循環に基づいた財政政策で政府が取った過剰分(抑制分)となります。需給ギャップから「要求される」水準を超えた経済への財政刺激はインフレリスクを醸成します。

中央銀行の「素晴らしき新世界」

中央銀行は次のリセッションに備えた金融政策を使い果たしたのでしょうか?一言で答えるなら「いいえ」、後に続ける言葉があるとすれば、「いいえ、でも…」ということになります。

世界各国の中央銀行は、世界金融危機に対応するため、政策金利の操作とは異なる非伝統的な政策手段であった「パンドラの箱」を開けざるを得ませんでしたが、新型コロナウイルスのパンデミックは、更に極端な政策を導入する引き金となりました。量的金融緩和、低金利政策の長期化を明示するフォワード・ガイダンス、銀行向けのリファイナンス・オペレーションの導入に加えて、リスクの高いローン、債券、株式の買入も実施されていますが、政策手段がここで尽きることはないと考えます。経済が強力なデフレ・ショックからの回復に苦戦し、政府が増大する債務に苦しむ中、中央銀行は追加的な対策を取らざるを得ないからです。


チーフ・ストラテジスト
ルカ・パオリーニ (左)
シニア・マクロ・ストラテジスト
スティーブ・ドンゼ (右)

政治危機あるいはインフレ危機を引き起こさない限り、金融政策に実質的な制限はありませんが、残念なことは転換点が常に明確であるとは限らないことです。

10年前の世界金融危機時とは異なり、各国政府は迅速に財政刺激策を講じました。こうした景気対策は即効性があるものの、コストも伴います。新発国債のほとんどが中央銀行の買入れによってファイナンスされたため、中央銀行のバランスシートは膨れ上がっています(図表3)。


図表3:FRBのバランスシートと政府債務残高、GDP比、%




新発国債のほとんどを買い入れたため、中央銀行のバランスシートは膨張


また、生産性の低下は長期にわたり経済成長を下押ししますが、こうした状況は、各国が、積み上がった債務から抜け出すことを困難にします。膨大な債務を緊縮財政や増税で返済するのは国民経済を疲弊させることになり、結果的に高水準の債務負担が長期化するという悪循環に陥いる危険性があります。

多くの政府は、恐らく、既存の資産買入れプログラムを通じた中央銀行の支援がなければ、こうした債務負担に対処し切れないと考えます。もっとも、インフレ目標や成長目標が未達の状況では、向こう2年程度でデフレ圧力が弱まる公算は極めて小さいと思われます。

中央銀行の次の一手は、国債利回りに上限を設ける「イールドカーブ・コントロール」を導入し、利回りのターゲットを維持するために必要な限り無制限の量的緩和を続けることです。米国10年長期国債に1%の上限が課される可能性も考えられます。インフレ目標の撤廃あるいは目標範囲の拡大は、このアプローチを正当化する可能性があります。

こうした手法は、市場の動揺と資金の不適切な配分をもたらすリスクを伴う「金融抑圧」です。日本国債の発行残高に占める日本銀行の保有比率は、今年(2020年)末までに40%に達すると見込まれます。また、日銀以外の主要な中央銀行の場合は20%程度と見られます。債券の保有に上限が定められていないとしても、それが危機的な臨界点に達した時点で、中央銀行はたじろぎ、引き返してしまうように思われます。臨界点については、政治的な要件であり、また債券価格の水準を気にかけない圧倒的な買い手の存在が市場を歪めるその度合いに依存するでしょう。投資家は、将来のいずれかの時点で実質金利のマイナス化を人為的に形成し、その過程で通貨を減価させるような債券市場からは逃げ出してしまうかもしれません。

米国は特権的な地位を享受しています。米国との交易条件の甚だしい悪化を望まない各国の中央銀行は、FRBがどのような対策を講じても、歩調を合わせていくことが予想されるからです。その結果、米国では、今後5年のうちに、第2次世界大戦の戦中・戦後の時期に見られたのと同様の金融抑圧が予想されます。国債利回りにGDPの長期成長率の4分の1程度に相当する1%前後の上限が設けられる可能性は否定できません。



中央銀行が、今回の危機に際しても、資産価格の押し上げを通じてウォールストリートの救済を優先していると世論が感じるとしたら、そのことがより深刻な障害となる可能性も考えられます。失業率が10%を超える水準で高止まりする一方、S&P500種株価指数が史上最高値を更新し続ける状況を目の当たりにした市民の反応を想像してみて下さい。

一方、金融抑圧は、金融資産の平均リターンを長期的に押し下げます。米国株式と債券を50%ずつ組入れたポートフォリオのリターンは、1987年の株価暴落(ブラックマンデー)に先立つ期間を除いて、史上初めて、長期インフレ率を下回りました。バランス型ポートフォリオのトータル・リターンの半分程度を投資開始時点の利回りが占めるという投資家にとって極めて厳しい状況です。

2008年の世界金融危機後の経験を踏まえ、FRBは今回の危機では米国民に受け入れ易い施策を導入しました。中小企業を対象とした「メインストリート融資制度(MSLP)」や「給与保証プログラム(PPP)、「地方自治体流動性政供給策」等は、企業よりも市民を念頭に置いて策定されたものです。

中央銀行は、イールドカーブ・コントロールが奏功しなかった場合、負債デフレーションを通じた政府支出を直接に財政ファイナンスするという「核兵器」のような手段を選択せざるを得ない可能性も考えられます。核兵器と形容したのは、政策ツールのその他の施策とは異なり、後戻りが出来ないからです。マネタイゼーション(財政ファイナンス)には、インフレの急速な上昇を引き起こし、それが資産価格の暴落と深刻な経済の不安定化をもたらす傾向が認められます。


図表4:金価格の主要通貨に対する相対指数

1999年12月31日=100として指数化


過度な金融緩和を背景に、金価格が上昇



マネタイゼーションは独立性の維持を重視する中央銀行にとって悪夢のような政策ですが、既に導入が検討され始めているようです。例えば、イングランド銀行は、政府への一時的な貸付制度(「ウェイズ・アンド・ミーンズ・ファシリティ」)を発表し、事実上のマネタイゼーションを導入しています。また、世界の主要な中央銀行は、年内に発行された公共債の75%から90%を買い入れています。

マネタイゼーションと、(財政政策と金融政策を適切に組み合わせる)ポリシー・ミックスとの間には、微妙な境界線が引かれています。中国は、二つの政策を統合させた実績を誇り、金融、財政、いずれの政策にも緩和の余地を残しています。また、世界の基軸通貨を持つ米国は、とりわけ有利な立場を維持しています。一方、欧州中央銀行(ECB)は、法的および政治的な制約に阻まれる公算が大きいと考えます。

中央銀行は、非伝統的な金融政策を展開することで、将来のいずれかの時点で、インフレの醸成に成功するでしょう。中央銀行は3~4%のインフレ率が心地良いと考えているように思われますが、目標を適度に上回るインフレ率は、これまでの低過ぎたインフレ率を相殺し、中央銀行への信認の維持を可能にすると考えます。重要なことは、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)が5%程度の赤字だったとしても、この程度のインフレ率の上昇は対GDP政府債務の削減に資するということです。

しかしながら、経済全体に大きな供給余力が存在しているということは、向こう1~2年のうちにインフレ率が跳ね上がる公算は極めて小さいということです。3~4%のインフレ率の上昇が実現する可能性があるのは、中長期の場合に限られます。政策立案者は、最終的に、インフレ率の上昇か、何らかの形での直接的あるいは間接的な政府債務の再編かの選択を迫られます。いずれの場合にも、金融市場において勝者となる資産クラスは国債ではなく、金やオルタナティブ資産です。



シニア・マルチアセット・ストラテジスト
スプリヤ・メノン

プライベート・エクイティとパッシブ運用の現状と先行き

ここ数年、グローバル株式市場では二つの強力な勢力、即ち、プライベート・エクイティ(PE)とパッシブ運用の存在感が増しています。幅広い投資家が、市場全体を対象とする低コストの投資を求めて指数連動型のインデックスファンドに群がりました。一方、相対的に高いリターン(が得られる可能性)と(ポートフォリオの)分散効果に魅かれて、(数は幾分少ないものの)増加を続ける投資家層が、PEに注目しています。

拡大を続けてきた二つの投資の時価総額は12兆ドル強と、過去10年で4倍に膨れ上がり、従来型の株式アクティブ運用の11兆ドルを追い抜いています注12

ピクテでは、二つの運用が、今後5年を通じて、異なる道を歩んで行くのではないかと考えます。

パッシブ・ファンドは最盛期を過ぎた可能性があると見ています。投資家と規制当局の双方が、インデックスファンドの拡大に伴って生じるリスクを、これまで以上に認識し、懸念しているからです。パッシブ運用が市場の安定と持続的な投資を損なう可能性を指摘する研究も散見されます。

一方、PEが市場シェアを拡大し続けられるかどうかは、より広い投資家層に受け入れられるかどうか、また、透明性が改善されるかどうかにかかっていますが、先行きは相対的に明るいように思われます。

PEは、これまで、投資経験の豊富な機関投資家以外の投資家にはリスクが高過ぎると考えられてきましたが、状況は様変わりしています。その一因は、市場規模です。プライベート・エクイティ・ファンドが保有する未公開企業が急増する一方で、上場企業数は減少基調にあることから、PE市場を個人投資家に開放すべきとの声が無視できないほど大きくなっています。このことは、金融の民主化を裏付けています。

ここで申し上げたいのは、パッシブ運用の市場規模が縮小するということではなく、その拡大ペースが鈍化する可能性があるということです。低コストで投資を行うことが容易な一方で、特有のリスクも少なくない状況にあることを投資家と規制当局が認識したからです。

注12 データは2019年6月現在、出所:モーニングスター、プレキン

 

リスクと効果(功罪)の再評価

コロナ後の出費を切り詰めなければならない時期には、パッシブ運用の低い手数料が魅力的に見えるかもしれません。しかし、低コストにはそれ相応の対価が伴うものです。インデックスファンドは、その時々のベストの銘柄を選別して投資するのではなく、市場全体に投資します。その際に生じる問題の1つとして、足元のボラティリティが急騰する局面において多くの銘柄がミスプライスされ、結果的に、銘柄を選別するアクティブ運用に豊富な投資機会を提供していること等が挙げられます。イノベーションとテクノロジーを積極的に取り入れる企業が繁栄し、堅固なバランスシートが重要さを増す中、値上がり銘柄と値下がり銘柄の格差は広がる一方です。

図表6:世界のプライベートエクイティ(未公開株式)と上場株式、市場価値の推移

2000年=100として指数化


相対的に高いリターン(が得られる可能性)と(ポートフォリオの)分散効果に魅かれた投資家が、プライベート・エクイティに注目しています。



パッシブ運用の拡大は、概して、市場の効率性にとっての脅威となっています。効率的な株式市場においては、アクティブ運用が価値の均衡の決定要因とされています。これに対し、インデックス運用では、構成比率の大きな企業の株式が、業績の善し悪しにかかわらず、より多くの資金を集めます。従って、市場がパッシブ運用に支配される状況では、株価は企業の潜在的な将来性を反映する指標としての機能を失い、誤った資金配分につながります。状況を更に悪化させるのが、パッシブ市場の集中化です。インデックスファンドの運用資産が積み上がり、資金の大半がパッシブ市場を支配する巨大な資産運用会社3社に流入する状況が懸念されています。3社が運用する資金は既に米国大型株式の20%以上注13、また、インデックスファンドの時価総額の80%を占めています。今後も3社の保有比率が上昇し続けるとしたら、共同保有された株式の議決権がこれら3社にますます集中し、それが企業間の競争を削ぎ、市場の効率性を脅かすものとなる可能性が考えられます。こうしたパッシブ運用の負の影響を裏付ける研究は増え続けています。一例を挙げると、2018年のある研究注14は、大手機関投資家数社が先発薬と後発薬の両方を製造する製薬企業の大株主だった場合、その製薬会社は後発薬をあまり製造しなくなったとする調査結果を示しました。このことは、消費者にとっての薬価を上昇させたことになります。同様の傾向は、航空業界や銀行業界等、製薬以外の業界についての研究からも報告されています。こうした状況に、欧州および米国の規制当局は不安を募らせており、米国連邦取引委員会や米国証券取引委員会は、「動向を注視している」と述べています。

また、パッシブ運用は、責任ある資本主義に資するとは言い切れません。パッシブ・ファンドは、その性格上、投資対象企業を選別するわけではないからです。このことは、投資家が企業との対話(エンゲージメント)を通じて、環境・社会・ガバナンス(ESG)の原則に則った持続的かつ責任あるビジネスモデルを積極的に採用するよう働きかける機会の減少に繋がる可能性があります。パッシブ・ポートフォリオは数多くの企業に投資する傾向が強いため、企業との直接的なエンゲージメントを行うことが現実的に難しく、また、ポートフォリオに保有する各企業の持ち分が小さいため、個別企業ベースの(エンゲージメントを行う)機会が減少する傾向にあります。

注13 「資産運用大手3社の亡霊」、2019年
注14 「株式の共同保有と市場参入」、医薬品業界の証拠、2018年

プライベート・エクイティに関しても、リスクのない状況からは程遠いとはいえ、課題の多くは比較的よく理解され、価格設定に反映されていると考えます。

先ず、透明性の問題が挙げられます。例えば、PEのESGの実績は様々で、未公開企業の透明性や情報開示に係る要件は、一部に変化の動きが見られるとはいえ、(上場企業の場合に比べると)遥かに容易です。

次に、負債の問題です。PEはレバレッジが高く、2019年の買収案件のほぼ80%が、利息・税金・減価償却前利益(EBITDA)の6倍のレバレッジが行われていますが、これは2017年の60%程度を大きく上回ります注15。また、PE投資は、主に、ビジネスモデルが十分に確立されていない中小企業を対象とします。こうしたことを背景に、コロナのパンデミックに因る景気後退局面でPEのリターンを下押す可能性があります。PEファンドの投資先企業は、一部の政府支援策の対象外であったり、支援対象である企業の場合も、複雑な要件を伴う傾向が見られます。

一方で、PEセクターは、中長期的な観点では、公開市場の開放度が低下する局面で、資金調達をより容易に行うことができるようになる可能性もあると考えます。今後は、上場企業の非公開化と、PEファンドによる、(将来の買増しを視野に入れた)上場株式の取得が増加する可能性があると考えます。

 

待機資金

PEファンドは、直近のデータによると1.46兆ドルにのぼる巨額の待機資金を有しています注16。こうした資金は、先ず、既存の投資先企業のバランスシートの強化に充てた後、大手投資家がPE投資への配分を示唆している追加資金と併せて、残りの資金を新規投資に回すことが可能です(大手投資家の実際の配分と意図した配分の報告ベースの格差は、PEセクターに投じられた年金基金の総資産の2%を上回ります)注17

金融の民主化の意欲が(状況を一変させる)ゲームチェンジャーとなる可能性があります。PEは、これまで、主に機関投資家や超富裕層等に限られた投資対象でしたが、規制当局は、市場を個人投資家に開放することで、格差の是正を試みています。米国が先陣を切り、雇用主が提供する401(k)(確定拠出年金)を通じて一般の預金者がPEファンドへ投資することを可能とするための基盤を構築しており、アナリストの試算では、約4,000億ドルの新規資金の流入が見込まれています注18。この間、米国労働省は、ターゲットデート・ファンド、ターゲットリスク・ファンド、バランス型ファンド等、専門家が運用するマルチアセットクラス型金融商品へのPEの組入れに対し、制裁措置を講じています。また、英国等、米国以外の国でも同様の動きが検討されています。

既存の投資家や見込みの投資家を惹きつける要因として挙げられるのは、(ポートフォリオの)分散効果や広範な投資の機会で、PE企業が潜在的に高いリターンを上げる可能性があるからではなく、上場株式とは異なる特性を有するからです。

注15 ベイン・プライベート・エクイティ・レポート
注16 プレキン
注17 マッキンゼー・グローバル・インスティテュート、「未公開市場の新しい10年」
注18 エヴァコア

 

PEの魅力の第一に挙げられるのは、企業が「若い」ということです。米国企業の上場に要する平均年数は、1980年の7年から、2010年~2018年の11年に延びています。未公開市場には、規模は小さいものの多くの無形資産を有し、急成長を遂げつつある多数の企業が含まれます。そうした企業は、初期段階の研究内容の公開を望まず、従って、数の限定された「閉じられた」投資家層を好んでいるといえます。また、少なくとも米国では、投資対象が拡大しています。未公開企業が急増する一方で、上場企業は減少基調です。上場企業数は、2000年以降、おおよそ7,000社から4,000社に減少しています。

PEは、事業の経営手法の改善から得られる恩恵も提供します。正しく執行されれば、高いリターンにつながる可能性があるからです。

とはいえ、適切なPEファンドを選ぶことは容易ではありません。手数料は相対的に高く、投資の仕組みは複雑です。更に、PE業界は透明性に欠けるため、投資経験の少ない(401(k)口座保有者等の)個人投資家に市場を開放することは規制当局にとって難しい課題となるでしょう。事実、米国証券取引委員会は、過剰な手数料を課し、一部の顧客を優遇しているふしがあるとして、PEファンドとヘッジファンドを非難しています注19。業界の持続性を高めるための手数料体系の改革を求める声が強まっていますが、既に何社かは要望に沿った方向に動き始めています注20

 

PEの精査(デュー・デリジェンス)は、公開市場の場合よりも遥かに重要です。ピクテの調べでは、2018年の米国のPEの上位5%のファンドと95%のファンドのリターン格差は60%に達し、米国の中小型株の約8.5%を大きく上回ります。また、PEの特性である高いリターンの持続性が低下していることも示唆されています。このことは、過去の勝者が将来の勝者とならない可能性が高いことを意味します。

また、米国では、上場株式と非上場株式のリターン格差が総じて縮小傾向にあることを裏付ける証拠が散見されます。ピクテでは、今後5年の世界のプライベート・エクイティのリターンは上場株式のそれを2.8%上回る程度に留まると予想しています。この超過リターン幅は長期平均の半分以下に過ぎませんが、その一因は、投資の好機を追い求める資金が積み上がっているからだと考えます。PEのリターン格差が大きいということは、他ファンドのリターンを大きく下回るファンドがある一方で、これを大きく上回るファンドもあることを意味します。また、債券利回りが極めて低い水準に留まっている状況において、平均以下の超過収益さえ、多くの投資家を惹きつけるのかもしれません。

PEは、幅広い投資家層に市場を開放し、付加価値創出の可能性を証明することが出来る限り、株式市場に占めるシェアを拡大し続ける可能性を有しています。一方、株式のパッシブ運用は、既に、民主的な手法によって何が実現できるかを示し、今後も成功を収めると考えますが、急速かつ長期にわたって成長し、規制当局の厳しい監視の目が注がれていることから、株式の資産運用残高に占める比率は(高いものの)限界の状態に近づいているのかもしれません。

注19 米国証券取引委員会(SEC)、2020年6月
注20 「不都合な事実:プライベート・エクイティのリターンと億万長者製造工場」、2020年

図7:米国株式ファンドのリターン

四分位、2013年から2018年に至る5年間、年率


PEの精査(デュー・デリジェンス)は、公開市場の場合よりも遥かに重要です。


    株式 債券 通貨 オルタナティブ

株式:コロナ後の市場の騰勢

世界の大方の株式市場は、新型コロナウイルスがもたらした過去100年程で最も過酷な景気後退の最中にあっても、今後5年は幾分かのリターンを生み出すものと考えます。

今後5年のグローバル株式の年率リターンは、昨年時点の予想を2%ポイント上回る7.5%に達すると考えます。最も高いリターンが期待されるのはアジアを中心とした新興国市場と見られる一方、米国株式は他市場に劣後すると見ています。

2020年に世界各国で講じられた財政刺激の総額は世界の潜在GDPのほぼ5%に達し、巨額の政府支出の効果は、今後何年も持続すると考えます。一方、中央銀行は、超低金利政策を維持することで、経済の低成長と金融市場の動揺のリスクが強まる環境下でも、リスク・プレミアムを長期間低位に留めると思われます。

このことは、株式のバリュエーションにかかる圧力が昨年時点の予想より薄れることを意味し、グローバル株式のリターン予想の上方修正分(2%)のうち、1%程度を説明します。残りの1%程度は、世界経済のリセッションからの脱却を受けた企業の増収の見込みや、特に、非米国企業の利益率の改善予想に因るものです。

問題があると思われるのは米国株式です。ピクテでは、今後5年の年率リターンがドルベースで6%を下回ると予測しています。今こそ、既にMSCI全世界株価指数の58%を占める米国株式に偏ったポートフォリオの分散を図る機会だと考えます。米国市場はどのような尺度で測っても、(テクノロジー銘柄の高位の組入れを調整したベースでも、政治的な不透明感が強まる状況下の割高な通貨を織り込んだベースでも)割高です(図表8)。

図表8:米国株式の割高感

MSCI全世界株価指数、国・地域別時価総額の全体に占める比率、%

米国市場はどのような尺度で測っても割高です。



米国株式は過去10年間、欧州株式を大きく上回るリターンを残してきましたが、その超過リターンをもたらしてきた要因には陰りが見え始めています。

今後5年の米国の経済成長率が欧州と同程度のペースへと低下するにつれて、米国企業は強い追い風を失います。企業の売上の伸びの相対的なスピードは鈍り、利益率はこれまでとは異なって遥かに厳しい税制当局の圧力に晒されるでしょう。また、コロナの打撃を受けた企業がバランスシートの修復に注力する過程では、自社株買いが激減すると予想されます。ちなみにピクテの試算では、過去10年の米国株式の上昇分の2割程度が自社株買いによるものでした。こうした「安全第一」戦略は、米国株式のリターンを大きく下押す可能性があります。加えて、為替市場でドル安が進むと予想される点も、海外投資家にとっての米国市場の魅力を削ぐことになるでしょう。

その結果、過去10年間、拡大し続けてきた米国株式のバリュエーション・プレミアムは、向こう数年、縮小に転じることが予想されます。

一方、米国以外の先進国株式市場の先行きは総じて良好です。ドルベースのリターンで見れば、ドル安という為替要因の追い風もあって、英国やスイス、ユーロ圏などで比較的高いリターンが期待されます。日本株式も、アジア圏の高い成長の恩恵を受けるでしょう。

ユーロ圏の多くの地域は、魅力に欠ける人口動態や長期の低成長見通し等の問題を抱える一方で、通貨同盟(ユーロ圏)の財政統合の実現に向けた大きな一歩となった復興基金創設の合意が株式市場の先行きに対する期待を強めています。このことは、投資家が懸念してきたユーロ圏の分断という大きなリスクを軽減します。

更に投資家にとって重要なのは、ユーロ圏の株式市場が、特に米国市場と比べて、域内経済の改善を織り込んでいないことです。足元の株価純資産倍率(PBR)は、米国の3.7倍に対して欧州は1.7倍と格差が拡がっており、米国企業の自己資本利益率(ROE)が欧州企業のROEを上回る状況が続くこと、また、両者の格差が、足元の5%から10%以上に拡大することを示唆していますが、格差がこれほど広がる状況が実現する公算は極めて小さいと考えます。

株式市場の中で特に期待されるのは新興国市場で、中国と欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域は、他市場を上回るリターンが予想されます。こうした国は世界経済全体の半分近くを占めながら株式市場の時価総額は世界市場の僅か13%に過ぎません。また、株式は、先進国市場を33%下回る割安な水準で取引されています。今後5年のGDP成長率は、新興国が米国を2.5%程度上回ると予想されることから、経済と時価総額の不均衡が是正される余地は十分に残されています。

ファンダメンタルズが堅固な新興アジア市場は、とりわけ魅力的で、有効なコロナ対策を打ち出して成果をあげ、テクノロジーに精通した若者が消費を盛り上げています。また中国は米中間の新たな冷戦構造に直面していますが、アジア域内でのサプライチェーン構築の動きと、中国政府の積極的な信用拡大策などが景気の下支え要因となるでしょう。(第2部、第3章)。



格差のダイナミックス

企業レベルに目を転じると、各国の政府は、新型コロナウイルスに係る支出を法人税増税で賄う一方で、最低賃金の引き上げを検討していることから、企業の利益率は一段の縮小が予想されます。新規に設定された、従来以上に厳格な公衆衛生に係る要件を満たすために生じるコストも企業の利益率を縮小させるはずです。一方、既に高水準の産業の集中と注21、価格競争をもたらす新規参入を限定する環境とが相俟って、利益率は比較的高位に保たれると考えます。

また、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因が、企業間で勝者と敗者の格差を広げるものと考えます。ESG投資に対する関心は、急速に高まっており、過去10年の上場投資信託(ETF)導入以降の局面と同様の状況となると考えます。ESG投資の機会を探る大量の待機資金が、ユーロ圏株式やスイス株式、ヘルスケア・セクターやテクノロジー・セクターを押し上げると考えます。投資家が、ESGスコアが下位20%の銘柄から上位20%の銘柄への入れ替えを行うことが予想されるからです。

注21 ルノー・ドゥ・プランタ、スプリヤ・メノン、「インデックス化の波」

欧州がESGを主導


図表9:MSCI世界株価指数において、サステナリティクス社のESGスコアが上位5分位の企業の比率(%)

下位5分位の企業の比率を差し引いた数値


債券:金融抑圧に翻弄される市場

低金利は長期化するでしょう。新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした経済的な打撃が、世界各国の超緩和政策を今後何年にもわたって実質的に延長する結果となっています。

世界の中銀は、2020年中に過去最高となる8.4兆ドルの景気刺激を金融システムに注入することが予想されます。これは、世界のGDP総額の14%以上に相当し、2009年のグローバル金融のさなかに供給された8%を大きく上回ります。

一方、積極的な財政刺激策の導入に因り、世界各国で政府支出が急速に拡大し、過去最高額に達しています。国際金融公社は、世界の政府債務残高が、2020年第1四半期中に、コロナ禍前の水準から10%上昇し、GDP比331%と過去最高水準に達したものと予測しています。

 

第1部に記載の通り、政策立案者に財政の手綱を緩める動機があることについては殆ど疑問の余地がありません。一方、中央銀行は、金利水準を低位あるいは0%以下に抑え、今後5年の殆どの時期を通じて大量の債券を買入れることが予想されます。現在、米国で検討されている国債利回りの上限設定等の非伝統的な政策を伴ったFRBの実験的な試みにより、リセッション後の局面で通常観察される形状よりも平坦なイールドカーブが維持されると考えます。

その結果、先進国の債券利回りは、将来的に名目成長率を大きく下回ることが予想されます。債券利回りは、通常、一定の時間が経過すると、名目GDP成長率に収束しますが、2008年のリーマンショック後、形成され始めた(債券利回りと名目成長率の)格差は、政府が資金調達コストの引き下げと債務の縮小のために預金を公的部門に回す金融抑圧の結果、生じたものです。

債券投資家は、戦後の景気回復に必要な資金を賄うため、中央銀行が債券利回りを低位に抑えた、1940年代の米国で見られた金融抑圧と似たような状況を経験することになると考えます。

歴史は繰り返すものです。投資家は、先進国債券投資から、インフレ調整後ベースでの損失を被る覚悟が必要です。

もちろん、インフレが直ぐに上昇するリスクは低いでしょうが、物価が何年も続けて低位で安定するとは限りません。前例のない規模の財政・金融刺激によって需要が喚起される一方、世界貿易の減少とコロナ後のサプライチェーンの戦略的再構築に起因して供給が制約されれば、財とサービスに対する需給は逼迫します。その結果、インフレは、5年の投資期間の後半に向けて上昇し始めると考えます。

こうした状況を背景に、当面の米国国債のリターンは年率0.7%程度と予想します。FRBは今後5年間、利上げを行わないと見ており、10年国債利回りは2025年に向けて上昇したとしても、せいぜい1.0%程度に留まるでしょう。


図表10:金融抑圧の度合いを測る指標:米国の名目GDP成長率に対する名目債券利回りの中央値




債券投資家は、1940年代の米国で見られた金融抑圧と似たような状況を経験することになると考えます。



だからと言って、米国債券への投資が安泰とは限りません。それどころか全く逆の展開が予想されます。2013年の「テーパー・タントラム(当時のバーナンキFRB議長が量的緩和縮小の可能性を示唆した時の市場の動揺)」や、近時のボラティリティの急騰からも分かるように、市場規模が最も大きく流動性の高い米国債券市場でさえ、狼狽売りに対しては脆弱です。

インフレ圧力が強まれば、物価連動国債(TIPS)のリターンを押し上げることになります。ピクテは、物価連動国債のリターンが先進国の全ての固定利付き国債のリターンを上回ると見ています。ただしインフレ期待が勢いを増すのはまだ先のことであり、その場合でもFRBは物価上昇率の一時的な上振れは容認すると見られるため、利上げを急ぐことはないでしょう。このため債券の実質利回りは、今後5年の大半の期間において-1%近辺に留まると予想しています。

世界の国債市場の中では、恐らくドイツ国債が最も脆弱と見ています。まず、ドイツ国債の利回りは既に大幅なマイナス圏にあり、ドイツ国債の実質リターンが今後5年間でプラスになるためには、利回りが更に0.5%も低下する必要がありますが、それが起きるとは極めて考えにくい状況です。更に、総額7,500億ユーロ規模の「欧州復興基金」の下でユーロ加盟国間の財政協調が進展すれば、域内における財政的な錨(アンカー)と見られてきたドイツ国債の魅力が相対的に低下する可能性があります。ピクテはドイツ10年国債の利回りは2025年までに0.4%に向けて上昇すると見ており、その結果、ドイツ国債のリターンはマイナスとならざるを得ないでしょう。

日本国債については、日本銀行が引き続き10年国債利回りをゼロ近傍に留める政策を維持すると見られることから、リターンもまたゼロの状態が続くでしょう。日銀は債券利回りの上限を設定することで、資産買入れ額の規模を縮小しても債券利回りをコントロールすることに成功していますが、意図したようなインフレを喚起するには至っていません。ピクテでは、今後5年の日本のインフレ率は平均して0.1%に留まると見ています。

先進国の社債の先行きは比較的良好です。社債は総じて、低金利、緩やかな景気回復、中央銀行の社債買入等の恩恵に浴するものと見ています。

社債のデフォルト率は上昇が予想されるものの、足元で苦境に陥っている景気が示唆するほどには上昇しないと考えます。今後5年の平均デフォルト率は、米国ハイイールド債については足元の4.1%から5.5%に、ユーロ・ハイイールド債については2.5%から3%への上昇が見込まれます。社債の国債に対する利回り格差(イールドスプレッド)については、小幅の縮小を見ています。米国ハイイールド債のスプレッドは、今後5年のうちに、過去の長期平均にほぼ並ぶ500ベーシスポイント(bps)を下回る水準へと縮小すると考えます。

とはいえ投資家は、社債のトータルリターンが長期平均を大きく下回ることを覚悟すべきです。社債の利回りは既に過去最低水準にあり、これ以上の利回り低下の余地は限定的だからです。


図表11:中国10年国債利回りと 米国国債利回りの格差、%



中国の債券は、低位に留まるインフレ率と対ドルの人民元高の恩恵を受けると考えます。



ディストレス証券(財務危機に陥った企業の株式や債券)の先行きは比較的良好です。ディストレス証券は経済が縮小した局面で真価を発揮する資産クラスです。ディストレス債券の過去20年間の年間リターンは6.1%と、世界の社債およびハイイールド債の5.1%を上回ります注22。またディストレス証券のリターンは通常、主要な国債利回りと無相関で、経済状況が不透明な場合に分散効果を発揮します。

新興国債券の先行きは、大方の固定利付債よりも良好です。新興国債券は、歴史的な低インフレ、先進国を上回る経済成長見通し、ドル安等の恩恵を受けるでしょう。こうした要因が、新興国債券市場を下支えるものと思われます。新興国債券の現地通貨ベースの年率リターンは3~5%と予想します。国別で見ると中国の債券が最も有望と見ています。

注22 ICE BofAグローバル社債及びグローバル・ハイ・イールド債指数、HFRI破綻証券(ディストレス証券)及び再建指数、いずれもドル建てベース、2000年5月31日~2020年5月31日

 

人民元建ての債券は、中国の低いインフレ率や、中国人民銀行が他の先進諸国のような財政ファイナンスを回避していることなど良好なファンダメンタルズの下支えもあり、相対的に高いリターンが見込まれます。また新型コロナウイルスが世界的に蔓延した2020年の1-3月期において、人民元建て債券のリターンはドルベースで4%近くに達するなど、有事の際に資金が集まる「安全資産」の側面も備え始めています。

時価総額15兆ドル規模の中国債券市場は、グローバル債券インデックスに中国国債が含まれるようになったことで、国際投資家の間で戦略的な重要性を増しています。ピクテは人民元相場が今後5年のうちに米ドルに対して大幅に上昇する可能性があると予想しており、為替相場においても人民元は重要な投資テーマの一つとなると考えています。


通貨:魅力が薄れる米ドル

一方で、様々な理由から、米ドルの先行きは暗さを増しています。

貿易額で加重したドルの実効為替レートが、過去最安値を付けてから9年間にわたって上昇を続けてきたのは、1)経済の高成長、2)相対的に高い金利、3)割安なバリュエーション、4)強い国際需要、の4つの支援材料があったからです。ところが足下では、4つの米ドルの支援材料のうち、3つのトレンドが既に転換してしまっており、残る1つも時間の問題となっています。

例えば、米国経済は、他の先進国より高い成長を続けるとしても、他国との格差は今後5年を通じて着実に縮小することが予想されます。労働力の規模縮小や移民の減少、ビジネス寄りの事業環境が今後も続くとは限らなくなっている点などが、米国経済の成長の可能性を削ぐものと思われます。

新型コロナウイルスのパンデミックの前から、米国の財政赤字の先行きは懸念されていました。ピクテでは米国の今年(2020年)の財政赤字がGDP比で20%に達し、日本の13%、ユーロ圏の8%を大きく上回ると予想していますが、このことは、FRBが、日銀やECBよりも長期にわたって紙幣の増発を続けることを意味します。また、米国の経常収支は、原油収支の黒字転換後も、依然として赤字です(ピクテでは米国の今年の経常赤字をGDP比2.5%と予想しています)。我々の分析が示唆しているのは、米国の双子の赤字が今後数年のうちにドルの大幅減価に繋がる可能性があるということです(図表12)。

ドルは相対的に高い金利という支援材料も失いかけています。米国と他の先進国との金利格差は、2019年夏時点の200ベーシスポイント(2%)からほぼ0%に縮小しており、米ドルの保有による利回りの優位性は消失しています。こうした状況が今後5年のうちに変わることはないでしょう。

バリュエーションも、米ドルにとって有利に働いているとはいえません。ピクテの為替評価モデルは、複数通貨のバスケットに対して、米ドルが15%前後割高であることを示唆しています。加えて、米国金融市場の優位性に反映される、世界の基軸通貨としての米ドルの地位は、極めて緩やかながらも少しずつ損なわれようとしています。世界の中央銀行の外貨準備に占める米ドルのシェアは、欧州経済通貨同盟(EMU)が発足した 1999年の71%から足元では62%に低下しています注23

注23 国際通貨基金(IMF)外貨準備通貨構成統計(恒常為替レート・ベース)に基づく

 

上述の全ての要因が、中長期的な米ドルの減価を示唆しています。もっとも、そのペースは緩やかなものと思われ、ピクテは2025年までの5年間に、貿易加重ベースで年1.5%程度のドル安を予想しています。

先進国通貨の中で、米ドルに対して最も大きな上昇が予想されるのはユーロです。欧州の複雑な政治構成が域外投資家のユーロ買い意欲を削ぐ状況が続くとしても、健全な経常収支黒字、緒に就いた景気回復、ユーロ圏共同債の発行によって資金を調達する欧州復興基金など、域内経済の長期的な先行きの改善を示唆する要因が見られます。特に欧州復興基金は、ユーロ圏からの更なる離脱国、即ち、ユーロ圏の分断リスクを低下させる一助となるでしょう。



図表12:米国の経常・財政赤字とドルの5年変動率、%




双子の赤字によるドル安圧力



英ポンドも長期的な見通しはポジティブです。ピクテの為替評価モデルによれば、英ポンドは最も割安な通貨の一つであり、また英国経済のグローバルな特性を考えると、世界経済が加速に転じる局面では英ポンドが恩恵に浴するでしょう。ただし短期的には、EU離脱交渉の難航から不安定な値動きは避けられず、今後5年のうちに対ドルで見た適正水準を回復するのは難しいでしょう。

一方、円とスイスフランは、日銀による実質上の政府債務の貨幣化(マネタイゼーション)とスイス中銀の積極的な通貨管理政策によって上値を抑えられると考えます。

このように一つ一つの通貨の事情を考えると、米ドル安は、新興国通貨に対して特に際立つことが予想され、新興国資産全般を下支えると考えます。


オルタナティブ:豊富な投資機会

グローバル株式とグローバル債券のリターンが控え目なものに留まるとすれば、多くの投資家は、オルタナティブ資産への資金配分を増やそうと考えるかもしれません。

しかしその選択肢は限られています。ピクテがリターン予測を策定している5つの主要オルタナティブ資産のうち、グローバル株式に匹敵する(絶対ベースかつボラティリティ調整前ベースの)リターンを実現することが予想されるのはプライベート・エクイティ(PE)だけです。PEを数少ない有望な資産と考える理由の一つは、金融政策に対する期待の変化です。新型コロナウイルスのパンデミックの結果、金利水準は、一年前には誰も想像することがなかったほど長期にわたって低位に留まることが予想されます。

こうした状況は二つの点でPEに恩恵をもたらします。先ず、一般に債務水準が高い未上場の企業にとって、借入コストが低位に抑えられるという利点があります。次に、超低金利の長期化が投資家の利回り追求の行動を促すことで、投資マネーを呼び込みやすくなります。直近のデータによると、PE市場には約1.46兆ドルの待機資金が積み上がっています注24。同時に、企業年金基金加入者等、運用の専門家以外の投資家を含むより広い投資家層に市場を開放する動きが巨額の追加資金の流入につながる可能性も考えられます(第1部、第4章)。

PEはこうした巨額の待機資金の存在により、新型コロナウイルスのパンデミック直後ならびにその後の景気後退局面で生じた魅力的な投資機会を有利に活かすことが出来ると考えます。もっとも、こうした待機資金の積みあがりは、既に割高感の目立つPE市場において、投資機会を巡る競争が一層激化する可能性を示唆していることには注意が必要です。

今後5年間のPE市場のリターンは、上場株式に対して2.8%のプレミアムを見込んでおり、結果的に2桁のリターンに達するものと予想されます。もっとも、このリターンは過去に照らすと控えめで、長期平均の半分程度に過ぎません。ただしPE戦略の中で最上位にある戦略のリターンは、最下位のそれを70%以上も上回っており注25 、戦略間でのリターン格差が非常に大きい点には注意が必要です。

注24 プレキン、2019年6月
注25 モーニングスターのデータによるPEの2018年のパフォーマンス

 

ヘッジファンドについては、過去5年のリターンを若干上回る3%程度と想定しています。あらゆる伝統的資産が実質的に割高と思われる状況では、ベータ(市場に連動するリターン)よりも、マーケット・ニュートラル戦略等が追求するアルファ(運用者のスキルのよって獲得する超過リターン)が重要になると見ています。リスク調整後ベースでは、オルタナティブ資産クラスの中でヘッジファンドが最も高いリターンを挙げることが予想されます。これは、ヘッジファンドが、市場下落時の影響を軽減するための機動性を他資産以上に備えている為です。

こうした特性は債券市場や株式市場のボラティリティが上昇する局面においては特に貴重です。グローバル株式とグローバル債券を50%ずつ組入れたポートフォリオのボラティリティは、過去10年平均の7%前後から、今後5年は平均10%前後に上昇すると見ています。

金も伝統的資産のボラティリティ上昇に対する「保険」を提供することが期待されます。また、量的金融緩和、マイナスの実質金利、ドル安の進行、地政学的緊張等は、今後の金需要を後押しすると考えています。加えて、インフレ圧力の高まりも金価格を押し上げる可能性があります。 世界のインフレは、今後5年は緩やかな水準に留まると考えていますが、金融ならびに財政政策は、将来のいずれかの時点で物価を上昇させると考えます。また、実際のインフレ局面において、中央銀行が深刻なリセッションを再び引き起こすことを恐れ、ブレーキを踏むことを躊躇することもリスクの一つとして考えられますが、金はそうした環境で価値保蔵手段としての真価を発揮します。ピクテでは、金価格(1トロイオンス当たり)が、2020年7月末の1,960ドルから2025年までに2,500ドルに上昇し、史上最高値を更新すると予想しています。

 

 

不動産も、賃借料が消費者物価指数に連動する傾向があることから、インフレから資産を守る効果があるでしょう。世界中の金利や債券利回りが極めて低水準、あるいはマイナス圏にある中で、不動産は引き続きプラスの実質リターンを求めるマネーを呼び寄せると考えます。もっとも、新型コロナウイルスのパンデミックが、特に都市部の住宅用ならびに商業用不動産需要にどのような影響を及ぼすかが明らかでないこと等から、魅力的な投資機会の発掘が困難であることには注意が必要です。

ピクテでは、産業用金属にも強気です。主に大幅な供給減に起因して、年5%のリターンも不可能ではないと見ています。設備投資が10年ぶりの低水準にまで落ち込んでいることから、鉱山探査活動も激減しています。オーストラリアにおける生産も、前年比ベースで殆ど伸びが見られません。

銅には特に強気です。供給不足に加え、銅を大量に使用する電気自動車の増加に伴って需要の伸びが必至だからです。コバルトについても強気に見ています。電気自動車用バッテリーに使われる最も高価な資源でありながら、確認埋蔵量の半分以上が政情の不安定なコンゴ民主共和国にあり、産出が困難な為です。


図表13:主要オルタナティブ資産のリターン予測

年率、%、2020年~2025年


プライベート・エクイティは2桁のリターンを維持すると考えます。



新型コロナウイルスは、世界を一変させ、投資家に困難な課題を突き付けました。

世界中で都市封鎖が行われ、多くの国が少なくとも第二次世界大戦以降最悪の景気後退に陥りました。政府と中央銀行は、巨額の景気対策を相次いで打ち出し、10年前のグローバル金融危機以来の大規模かつ急進的な施策を導入・継続しました。このことが、今後5年の投資成果を最終的に決めると考えます。

中央銀行は、債券利回りの上昇圧力を抑え、金融危機時に生じた需給ギャップを解消し、その後長期トレンド並みの成長率を維持することで、デフレ圧力の反転を図ろうとするでしょう。2020年を通じて供給される流動性は、世界のGDP総額の14%に達し、グローバル金融危機時の8%を上回るとピクテでは試算しています。中央銀行は長期的な金融緩和を維持するための多くの強力な施策を有しているのです。


図表14:分散ポートフォリオ、実質リターン予測

%、年率、2020年6月30日~2025年6月30日



ポートフォリオ・リターン:魅力的なリターンの獲得を目指すには、伝統的なバランス型ポートフォリオの見直しが必要です。



金融政策がもたらした資産インフレを受け、一部の資産クラスのバリュエーションは既に割高な水準にあることから、今後5年の投資リターンは長期平均を大きく下回ることが予想されます。この傾向は、金利水準が長期にわたって低位に留まると思われる債券市場において顕著に現われるでしょう。

投資家にとっては、債券投資にはリターンのアップサイドが大して見込まれない一方で、仮に金融政策が奏功し、経済成長とインフレを後押しすることがあれば、リターンのダウンサイドリスクは予想以上となるでしょう。このように債券利回りの上昇リスクが警戒される一方、実質金利がマイナスに留まる状況下では、物価連動債のリターンが他の債券のリターンを上回ると見ています。

株式市場も過去10年のリターンを下回る公算が高いと考えます。バリュエーションは、足元の景気循環の局面にしては割高な水準です。また、政府はこれまでのようなビジネス寄りの政策を続けることが次第に難しくなることから、経済成長は緩慢となり、企業の利益率に下押し圧力がかかるようになるでしょう。

とはいえ、株式は、景気刺激策とコロナ危機による一部の過熱感の後退等の恩恵を受けると思われます。ただし、社会格差、不十分な公的医療制度、環境破壊等の根深い課題への対応について、政府に向けた圧力が増していることには注意が必要です。課題の解決に係る負担は、以前にも増して企業の肩に圧し掛かると考えます。

国・地域間のリターン格差の縮小が見込まれますが、米国株式のリターンは他国を下回ると見ています。これは国(・地域)別の市場牽引役のローテーションに因るものだと考えます。米国市場では、通貨が割高な上、株式は過去最高水準のプレミアムで取引されていますが、向こう数年、米国経済の成長のペースがその他先進国のペースに収斂する局面では、ドル安の進行も予想されます。一方で、欧州と新興アジアは良好な展開が予想され、特に、中国は際立って高いリターンが期待されます。

先進国社債の先行きは、強弱まちまちです。政府支援は大規模なものでしたが、利益率に下押し圧力がかかる局面での、高水準のレバレッジと過去最大規模の社債発行は、先行きのデフォルト率の上昇を示唆しています。このような環境で投資家は新興国債券市場に目を向けるべきだと考えます。新興国通貨がフェアバリューを大きく下回って推移するような局面では特に投資妙味は高いものだと考えます。

伝統的資産クラスの先行きが低調な環境では、金やヘッジファンド、マーケット・ニュートラル・ファンド等の分散効果が期待できるオルタナティブ資産を選好します。例えば、量的金融緩和、マイナスの実質金利、ドル安の進行、地政学的緊張等を背景に、金価格は2,500ドルに上昇する可能性もあると考えます。図表14は、今後5年を通じて一桁台の実質リターンの獲得を目指すために、伝統的なバランス型ポートフォリオを見直す必要があることを示しています。

先進国の株式と国債を半分ずつ組入れたポートフォリオからは、もはや十分なリターンが見込まれません。投資家は、新興国、オルタナティブ、物価連動債、絶対収益型ファンド等の組入れを増やす必要があると考えます。そうしてはじめて年5%の実質リターンが期待できるからです。この水準は、昨今の不確実性に満ちた環境や伝統的資産が既に割高である状況等を考慮すれば、良好なパフォーマンスであると考えます。




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ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)

英語版:2020年9月公開
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