ピクテ・ゴールド|「有事の金」はどこへ行ったのか? ~金価格調整の背景と今後の投資環境~

2026年06月09日

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・ポートフォリオにおける金の重要性は依然として変わらない



イラン戦争の勃発以降の金相場は、地政学リスクやインフレへの懸念が高まる中で下落するなど、一般的に認知されてきた金の特性では説明しきれない展開となっています。本稿では、イラン戦争以降の金相場の状況や見通しについてQA形式で整理していきます。



一般的に「有事の際には安全資産として金に資金が流入する」との見方が市場では意識されていたものの、実際には金価格は一時的に大きく下落しました。この背景には、イラン戦争を受けた金融市場の反応が、必ずしも「リスク回避=金買い」一辺倒ではなかったことがあります。イラン戦争により原油価格が急騰すると、まず意識されたのはインフレが再加速する可能性でした。これにより、市場では米国の利下げ期待が急速に後退し、米国の短期金利が上昇するとともに、米ドルも主要通貨に対して上昇する展開となりました。金は金利の上昇局面や米ドル高局面では下押し圧力を受けやすい資産であることから、有事の際の資金の逃避先としての金への資金流入が本格化する前に、インフレ高進や金融引き締めに対する警戒が先行し、金価格にとって逆風となる環境が強まったと考えられます。さらに、金価格は2026年年初来で上昇基調を辿り、過熱感が意識されていたことも価格下落を増幅させた要因であると考えられます。その結果、本来であれば地政学リスクの高まりという金にとって追い風となり得る事象が、今回は金利・為替要因を通じて金価格の下落につながるという動きが生じたとみられます。




2023年以降、主要国の株式市場は、世界的なインフレが落ち着きを見せる中で、AI(人工知能)の普及に伴う投資拡大への期待などからテクノロジー企業を中心に上昇基調となりました。この期間中、金価格は地政学リスクの高まりやインフレの落ち着きに伴う金利の低下に加え、新興国を中心に中央銀行による金購入の動きが継続したことなどから上昇してきました。

この期間においては、株式と金の価格がともに上昇し、短期的な価格の連動性の高まりが示されましたが、各資産が上昇してきた理由は異なるといえ、金の分散投資効果の源泉となってきた、主要な資産とは異なる値動きをする傾向があるという特性が構造的に変化したわけではありません。

株価の変動要因は、一般的には主に景気や企業収益の拡大に対する期待の変化であるといえます。一方で、金については金利動向やインフレ見通し、地政学リスクなどによる不確実性の変化が価格に影響を与える傾向があります。このように、金と株式の価格変動要因には異なる側面が多いことから、中長期的に市場環境が変化する過程においては、両資産の値動きにも違いが生じ、分散投資効果を高める要因になると考えられます。




世界経済を取り巻く環境の変化が金に対する需要を高める要因になると考えられます。過去に原油などのエネルギー価格が急激かつ大幅に上昇した場面では、その後の景気後退が意識される局面がありました。エネルギー価格高騰のインフレへの影響は時間をかけて広範に及ぶことが予想され、実体経済への下押しや財政負担の拡大といったリスクへと波及する可能性があります。仮に主要国の経済が物価上昇と景気後退が併存するスタグフレーションの環境に陥った場合、通貨価値の希薄化や金融資産の調整リスクに備える手段として、金に対する需要が高まると考えられます。足元では、中東情勢の混迷に伴うインフレ懸念が金利上昇を通じて金価格の逆風となっていますが、本来、希少性の高い実物資産である金はインフレ環境下において資産価値を保全する手段として選好されるものと考えられます。

このように、短期的な金価格の見通しは依然として不透明な状況にありますが、中長期的な市場環境を踏まえると、ポートフォリオにおける金の重要性には大きな変化がないといえます。



金は、中長期的にはインフレや通貨供給量の増加に伴う通貨価値の希薄化などを背景に、価格上昇が期待される資産です。一方で、金投資の本質的な価値は価格上昇そのものではなく、他資産と組合わせることでポートフォリオ全体の安定性を高めることにあります。

金は希少性の高い実物資産であり、発行体が存在しないことに加え、無国籍通貨としての側面を持つ資産です。また、宝飾品や工業用品、中央銀行の外貨準備など、多様で独自の需要主体を有しています。そのため、景気後退や金融不安などにより市場環境が大きく変化する局面では、株式や債券とは異なる値動きを示すことで、ポートフォリオ全体の下落を緩和する効果が期待されます。

金はリスクフリー資産ではなく、長期的には株式と同様に価格変動の大きい資産です。そのため、市場環境によっては短期的に大きなリターンをもたらすこともあります。しかし、金を保有する目的はポートフォリオ全体の価値を守りながら、結果として長期にわたる資産運用を実現することにあるといえます。短期的に値動きが冴えない局面においても、金を保有する意義が失われたわけではなく、むしろ、将来の不確実性に対するポートフォリオの耐性を高める役割を担う資産として、金を組入れておくことに意義があるといえます。

注:金は国によって強制通用力が認められている法定通貨ではありません。

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