ピクテ・ゴールド|逆風下の今こそ再確認したい金の価値
・金の「ディベースメント取引」は既に終わりを迎えたとの声が聞かれるようになりました。しかし、足元の値動きだけを見てこのテーマが終わったと判断するのは、やや早計です。
金の価格調整の裏で何が変わったのか
足元の金価格の調整は、2026年1月末にかけて金価格が急騰したことに伴い高値警戒感が強まったことに加え、米国金利の上昇や米ドル高の進行といった金価格にとって逆風となる要因が短期的に強まった影響が大きいと考えられます注1。こうした中、市場では「ディベースメント取引の動きは終わりを迎えた」との声が聞かれるようになりました。
ディベースメント取引は、通貨の価値が目減りするリスクへの備えとして、金や暗号資産(仮想通貨)などを選好する動きとして注目されてきました。この背景には、米国のトランプ政権下での予測困難な政策運営に対する不信感や、拡張的な財政に伴う政府債務の拡大への懸念、政府の連邦準備制度理事会(FRB)への介入を通じた中央銀行の独立性と信認の低下への懸念などがありました。過度な金融緩和がインフレを加速させ、米ドルの価値が低下することへの警戒感が強まったことで、国際金融秩序注2に構造的な変化が生じているとの認識があったと見られます。
しかし、足元ではトランプ大統領が指名したウォーシュ氏が議長を務めるFRBがインフレの抑制を重視する姿勢を示したことにより、中央銀行の独立性や信認をめぐる不安が後退したとの見方が広がっています。また、米国で利上げが実施されるとの観測が強まり、米ドル高となっています。
注1:金は利息を生まない資産であるため、金利上昇局面では相対的な魅力が低下すると捉えられる傾向があります。また、金は米ドル建てで取引される資産であることから、米ドル高局面では金価格に下落圧力がかかる傾向にあります。
注2:国際金融秩序とは、国境を越えた資金の流れや為替レートの安定、金融システムの健全性を保つための国際的なルール・制度・機構の総体で、長らく米ドルが圧倒的な基軸通貨として世界経済を支えてきました。しかし、地政学リスクの高まりや米国の金融政策への依存を避けるため、特に新興国を中心に「脱米ドル」の動きが進んでいます。
構造的な金需要は続くのか
ここで重要なのは、短期的な価格調整と長期的な投資テーマを分けて考えることです。ディベースメント取引の背景にあるのは、政府債務の拡大や財政規律への不安がもたらす通貨に対する信認の低下や、通貨供給の拡大に伴う通貨価値の希薄化への懸念といった、より構造的な問題です。これらの前提は、足元の金価格の調整を受けて大きく変化したわけではありません。また、格差問題が深刻化し、ポピュリズム的な政治勢力が影響力を強める中で、FRBが景気や労働市場の悪化よりもインフレの抑制を優先した金融政策を実施できるかということについては依然として不透明感が残ります。そのため、通貨の価値が目減りするリスクへの備えとして、資産ポートフォリオに金を組入れるという選択肢は、依然として有効であると考えられます。
このことについて参考になるのが、ワールド・ゴールド・カウンシルが公表した、世界の中央銀行を対象とした金準備に関する調査です。2026年6月に公表された最近の調査では、89%の中央銀行が、世界全体の金準備が今後12ヵ月で増加すると予想していることが示されました(図表2参照)。また、45%の中央銀行が自らの金準備を増加させると回答しており(図表3参照)、中央銀行が引き続き金を重要な資産として捉えていることが伺えます。
なぜ中央銀行は金を買うのか~底堅い金需要の背景~
中央銀行が金を保有する理由としては、危機的状況下でのパフォーマンスや、インフレヘッジの手段としての役割(長期的な価値の保存/インフレヘッジ)、分散投資効果の高さ(効果的なポートフォリオ分散手段として)といった、資産価値を保全してきた実績を評価する傾向が示されたことに加え、外貨準備の通貨分散を進める中で金を選好するとの回答(外貨準備の分散方針の一環として)が高い割合を占めました(図表4参照)。
また、外貨準備に占める通貨注3については、74%の中央銀行が米ドルの比率が今後5年で低下すると予想する一方で、83%が金の比率が高まるとの考えを示しました(図表5参照)。これは、金が単に投資収益が期待される資産としてだけではなく、国際金融秩序の変化に備えて特定の通貨や国債などに偏重した準備資産の構成を見直す流れの中で、戦略的に保有する資産として位置付けられていることを示しています。
注3:金は国によって強制通用力が認められている法定通貨ではありません。
調整局面で金との向き合い方を改めて考える
中央銀行と個人投資家では、運用の目的が異なるかもしれませんが、資産価値を保全してきた実績を持つ資産を保有することで、国際金融秩序の変化による通貨価値の下落などに備える必要性が高まっているという点では共通していると考えられます。つまり、金は値上がりが期待される資産としてだけでなく、希少な実物資産であることを背景としたインフレヘッジ手段としての役割や、株式や債券などの資産と組合わせた場合の分散投資効果、信用リスクのない無国籍通貨としての特性を活用し、中長期的に資産ポートフォリオの価値を保全するために戦略的に保有すべき資産だといえるでしょう。
足元の米ドル高や金価格の調整をもって「ディベースメント取引は終わりを迎えた」と結論づけるのは早計であるといえます。むしろ、短期的に高まっていた金に対する過熱感が落ち着く過程と捉えることもできます。こうした局面では、価格動向に一喜一憂するのではなく、資産ポートフォリオ全体の中でどのような役割を担う資産であるのかという観点から、金の位置づけを改めて見直すことが重要であると考えられます。
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