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プライベートクレジット市場と金融システムリスク
梅澤 利文
2026/04/30

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概要

プライベートクレジット市場は、企業への直接融資を行う非銀行主体による資金供給手法で、規模が急拡大した。高利回りや柔軟な貸出条件が魅力で、機関投資家だけでなく個人投資家にも広がっているが情報開示の不十分さや一部ファンドの解約問題、貸出先のリスク増大などから懸念が高まっている。現時点で金融システム全体へのリスクはおそらく限定的と見られるが、今後も細心の注意が必要だ。



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金融当局によるプライベートクレジットへの警戒が強まる

投資家から集めた資金を企業に融資する「プライベートクレジット(図表1参照)」をめぐり、海外の一部ファンドで解約や運用の健全性に懸念が広がっている。報道によると、金融庁は国内の金融機関に影響が出ていないか確認を進めている模様だ。海外でも中央銀行などの金融規制当局は非公式も含めた金融機関に対する情報収集が報道されている。国際機関からも、プライベートクレジットがストレスに直面しているとの指摘や、規制の提言などが発表されている。

プライベートクレジットはニッチな貸出にとどまらずビジネスを拡大させた

中東情勢の報道にかき消されている感もあるが、プライベートクレジットに対する懸念は根強い。報道の中には、2007年に欧州大手銀行が米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)を保有する傘下のファンドの解約を停止したことが世界金融危機(リーマンショック)の幕開けとなったことと重ね合わせるかのような内容も見受けられる。一部プライベートクレジットが解約を制限していること、情報開示が不十分なことなどもあり、確かに不安材料は多い。

プライベートクレジットに懸念を示している金融当局の見解はどうか。昨年末にプライベートクレジットに対するストレステスト導入を表明(最終報告は27年予定)したイングランド銀行(英中央銀行)のブリーデン副総裁の見解を参照しよう。ブリーデン副総裁は4月22日、プライベートクレジット市場における信用収縮が起きる可能性に懸念を示しつつも、リーマンショックと同規模の問題に発展する可能性は否定した。

もっとも、金融当局が金融危機をストレートに語るとは考えにくいことから、割り引いて聞く必要はあるが、筆者もプライベートクレジットに対する懸念を深刻と受け止めているものの、世界経済を混乱に陥れたリーマンショックの再来は現段階では可能性が高くはないと考えている。まず、簡単にプライベートクレジットとは何かを確認する。

プライベートクレジットの統一的な定義は見当たらないが、一般には中堅、中小企業に対して、PDファンド(ダイレクト・レンディングファンド)やビジネス・ディベロップメント・カンパニー(BDC、事業開発会社)といった非銀行主体が企業に直接貸出を行うことを指す。図表1の中段がプライベートクレジットと呼ばれるが、実態はファンドや投資法人といったイメージだ。なお、最近報道されることが多いBDCは米国特有の投資法人だ。

貸出相手は図表1下段の企業だが、その特色を日銀の説明を拝借するなら「銀行からの融資が規模的な理由などで受けられず、社債を発行するほどの規模でもない、中間の層(ミドルマーケット)の企業」ということになる。図表1下段のミドルマーケット企業に対し、オーダーメイド型の資金調達(金利、担保、返済計画の柔軟な設定)を提供するのがプライベートクレジットと見られる。

プライベートクレジット市場の主要な投資家は企業年金や生保などの機関投資家だが、最近は個人投資家(含む富裕層)にも幅を広げてきた。

プライベートクレジット市場の規模は、足元1.8兆ドル(286兆円)程度に成長した。図表2は24年4-6月期までの規模の推移をファンド(投下資本分と待機資金分であるドライパウダー)と、BDCに分けて示した。この市場規模拡大について次の点を指摘したい。規模拡大が顕著となったのは2008年のリーマンショック後だった。その背景として金融危機を受け銀行に対する規制(バーゼルⅢ)が厳格となり融資に慎重となった分野にプライベートクレジット・ファンドが進出したことだ。また、企業にとっても、プライベートクレジット・ファンドの柔軟な貸出条件や長期的な融資契約の提供を受けられるメリットがあったようだ。

2点目と3点目は主にプライベートクレジット市場の最近の拡大についてだが、AIブームなどを受けテクノロジー分野など新たな投資対象が急拡大したことが挙げられる。伝統的な銀行貸出しや、社債が消極的な分野だ。JPモルガンによると、プライベートクレジットのテクノロジー分野への投資は全体の2割超と、社債市場に比べ高水準だ。AI投資は多額の資金を必要とするが、AI投資拡大もプライベートクレジット市場の規模の押し上げに寄与したようだ。

3点目は投資家層の拡大だ。過去の典型的なプライベートクレジット・ファンドは機関投資家相手にクローズドエンド型ファンド(PDファンド)を通じてミドル企業に貸出を行うニッチな分野だった。しかし、図表1にあるようにプライベートクレジットは投資家層を個人(富裕層)にも広げ顧客層を拡大させている。

プライベートクレジット市場への資金流入は高利回りへの期待もあったと見られる。国際通貨基金(IMF GFSR 24年春)のレポートを参考に、プライベートクレジット・ファンドの利回り(変動金利)と、他の主な資産との利回りを比べると、2年前の24年にはプライベートクレジット・ファンドの利回りは12%程度だった。固定金利のため正確な比較ではないが、当時の米国ハイイールド債が8%程度、投資適格債が5%程度だった。変動金利であるレバレッジドローンが10%程度だった。

プライベートクレジット・ファンドのデフォルト(債務不履行)率も過去においては比較的安定していた(図表3参照)。Proskauer社のプライベートクレジットデフォルト指数によると、近年上昇傾向にはあるが、足元で2~3%程度での推移となっている。プライベートクレジット市場のデータ開示が不十分なことから、ムーディーズ・レーティングスの別のデータで予想デフォルト確率(1年EDF)を確認すると、プライベートクレジットのEDFは投資適格社債であるBaa格(BBBに相当)を上回るが、Ba格(BBに相当)と同程度の水準で推移している。

プライベートクレジット市場に対する懸念が高まった

しかし、昨年後半あたりからプライベートクレジット市場に対する懸念が強まった。25年9月にプライベートクレジットなどを使い資金調達していた米自動車関連企業2社(米自動車部品メーカー、ファースト・ブランズ・グループと自動車ローンのトライカラー・ホールディングス)が相次ぎ経営破綻した。この件でプライベートクレジットの貸出先に対する懸念が台頭した。さらに翌月(10月)には、JPモルガンのダイモン最高経営責任者(CEO)が決算説明会で、トライカラー関連損失の計上を明らかにし、「ゴキブリは1匹いたら、恐らく他にもいる」と語ったこともプライベートクレジット市場への懸念に拍車をかけた。

もっとも、これらの破たんは個別企業要因もあったように思われる。例えば、トライカラーの融資条件を見ると基準が相当に緩やかで、リスクが高いビジネスであった。この破綻などはやや例外的なケースであったのかもしれない。

プライベートクレジット市場には別の懸念が広がった。主な投資(貸付)先であるテクノロジーセクターのうち、ソフトウエア分野の将来性に疑問が投げかけられたことだ。このような不安が積み重なり、プライベートクレジット・ファンドに解約が殺到する事態となった。

プライベートクレジットは銀行など伝統的な資金調達手法に比べ、未知のテクノロジーも含むハイテク分野への投資割合が大きい。そうした中、コード作成に優れた生成AIの進化により、AIが業務ソフトを代替するのではとの懸念「SaaS(software-as-a-service)の死」からソフトウエア関連銘柄が大幅に売られた。こうした中、プライベートクレジット・ファンドによる、SaaS企業向けの貸付は急速に拡大していた。この様子をプライベートクレジットの主要な投資手法である「ダイレクト・レンディング」 について見ると、SaaS企業向けの未償還ローン残高は、2015年の約80億ドルから、2025年末には5380億ドルへと増加した。ダイレクト・レンディング全体に占めるSaaSへの投資割合が20%近い水準だ(図表4参照)。

当然ながら、プライベートクレジットの年初来からのパフォーマンスは悪化した。プライベートクレジットのパフォーマンスを開示情報が多いBDCにより確認する(図表5参照)。3月末時点の年初来パフォーマンスを、米国社債、米国ハイイールド社債(HY)、レバレッジドローン、並びにBDC指数(BDC債券で構成)について見ると、いずれも中東情勢の悪化などを反映してマイナスリターンとなった。3月末時点ではプライベートクレジットのパフォーマンスは他に比べ劣後している。昨年からの悪材料(デフォルトやSaaSの死懸念)が影響したと思われる。このような懸念を背景に、プライベートクレジット・ファンドへの解約が殺到し、不安に拍車をかけた。ただし、4月24日時点のパフォーマンスを見ると、プライベートクレジットも含めプラス圏に回復している。

プライベートクレジットの主要戦略であるダイレクト・レンディングで投資(貸出)形態を確認すると、伝統的なプライベートクレジット・デッドとBDCに二分される。そしてBDCはさらに公募と私募に分けられる。私募BDCはプライベートクレジット・デッドと投資家層が主に機関投資家であるという点や中途解約不可といった投資条件が共通しており、商品性は似たところがある。

公募のBDCは上場と非上場に分かれるが、投資家層はともに機関投資家から個人まで幅広い。公募のBDCは上場と非上場の大きな違いは換金性だ。上場BDCの中途解約は不可が基本である。一方で、非上場BDCは四半期など定期的な償還が可能で流動性を重視する個人などに設定されている。ただし、一般的に解約上限(ファンド純資産総額または発行済株式総数の5%)が設けられているのが通例だ。上限を上回る解約請求が発生したことで、すべての解約に対応できず、一部の投資家は解約を待たされることになった。プライベートクレジット業界は顧客層拡大のため準流動性型商品を提供してきたことが裏目に出たのが今回の騒動の背景とみている。

さらに、テクニカルな話だが、同様の投資先であっても上場BDC価格は不安を反映する仕組みであるのに対し、非上場BDCの反映緩やかなため両者に価格差が生じていた。通常価格差は小さく問題になっらないが、今局面では乖離が大きく、非上場BDCに解約請求を加速させた面も指摘されている。

プライベートクレジット市場に落ち着きが戻りつつある兆候も見られる

今局面でのプライベートクレジットの混乱を受け、金融危機の再来を懸念する声もあった。図表5にあるように年初来パフォーマンスを4月24日で見ると落ち着きを取り戻した。中東情勢の緩和期待以外に、不安を打ち消す要因もあったようだ。

個別案件には立ち入らないが、窮地に陥った一部のプライベートクレジット(上場BDC)の債券の起債案件が、米大手投資銀行の提案に基づいて行われ、順調に消化実施されたことが報道されたが、これはやや安心材料で、プライベートクレジットに対する過度な懸念を和らげられたようだ。

次に、金融機関の開示も安心材料だった。図表1にはないが銀行もプライベートクレジット市場に深く関与している。銀行はファンド資産を担保に融資(バックレバレッジ)を通じてプライベートクレジット・ファンドの投資余力の増強に寄与するとともに、銀行の収益機会を拡大させてきた。おりしも米国では1-3月期の決算シーズンで米大手銀行はプライベートクレジットとの関わりについて(当然ながら)安心感を与える丁寧な説明を行った。注目されたのは各銀行のプライベートクレジットへの融資額だが、総貸出額に占める割合でみると数%程度で、意外と少ないと市場は受け止めたようだ。

解約などの報道が増えたことで、今まで秘密のベールに包まれていたプライベートクレジットに対する理解が進んだ可能性も考えられる。例えば、プライベートクレジットのレバレッジは当初高いとのイメージがあったが、実際は懸念されるほど高くなさそうだ。そもそも投資法人であるBDCは規則上、レバレッジ比率を2倍以内に収める必要がある。実際のBDCの運営では2倍以下となっているようだ。BDC以外の形態であるプライベートクレジット・ファンドでもレバレッジは一般に低いと見られる。

また、大手金融機関の決算で、今後もプライベートクレジット・ビジネスに取り組む姿勢が示唆されたことも一定の安心材料だったかもしれない。

金融システムリスクの状況ではないとしても、用心は必要だ

プライベートクレジットが金融システム・リスクを引き起こす可能性はあるのだろうか。これまで見てきたように、投資先のデフォルトや、ソフトウエア産業への不安は、今後も注意は必要だがクレジットサイクルの中で起きたイベントにとどまる可能性も考えられる。

解約殺到はプライベートクレジット市場の構造リスクとして捉えられよう。流動性が乏しいローンポートフォリオ構成ながら、顧客層拡大を意図して準流動性を提供する商品設計としたことに無理があったと思われるからだ。このリスクは少なくとも解約の波が終わるま不安は残る。さらに、今後の課題として、商品性の見直しが求められそうだ。

ただし、仮に投資家からの巨額の解約請求が続き、プライベートクレジット・ファンドが保有資産(ローン債権)を無理に売却することを迫られるケースが頻発するなら、金融システム・リスクへの不安も高まるが、現状は注視は必よだが、そこまでの状況ではないようだ。

プライベートクレジット市場でこれまで露呈してきたリスクからは、金融当局が指摘するように金融システム・リスクに今すぐ発展する可能性は高くないように思える。

ただし、懸念は残ると筆者は考えている。プライベートクレジットは過去にストレスを経験したことがほぼなく、対応は不確定だ。プライベートクレジットでは資金難に陥った借り手が利払いを繰り延べる(PIK)が利用されている。返済の柔軟性ともいえるが、ストレス時の反応には不安も残る。

別の懸念もある。プライベートクレジット市場のストラクチャーは図表1でイメージとして示したが、現実はより複雑な仕組みとなっている。一部のリスクはオンバランスに計上されてない可能性が金融当局から指摘されている。仮に、思わぬところにまでリスクが広がっているならば、それは金融システムリスクの引き金となりかねない。現段階では金融システムリスクの状況ではないとしても、用心する必要は残されているだろう。


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梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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