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米国の金融規制緩和案がもたらす分断と邦銀の課題
大槻 奈那
2026/04/30

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概要

先月米国は、バーゼルⅢ最終化を含む銀行資本規制の再提案を公表、2023年案から大幅な緩和の方向性が示された。更に、流動性規制等の緩和の可能性も報じられている。欧州でも、米国等との競争力確保の観点からこの潮流に抗えないだろう。40年前、国際金融規制は協調の精神から初めての合意に達したが、現在は競争・分断から規制緩和へと向かいつつある。国内業務がメインの邦銀でも、国際競争と無縁ではない。金融規制緩和や、AI投資拡大の世界的な潮流にどのように対応するのか。更に邦銀が直面する”資源”縮小の問題にも対応する必要があることから、再編や資本活用戦略が、中長期的な銀行株の焦点となる。



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■ 米国が想定以上の規制緩和案を公表

先月、米連邦準備制度理事会(FRB)等の金融当局は、バーゼルⅢ最終化等の銀行資本規制の修正案を再提示した。2023年の案が大手行の資本所要額を平均16%程度押し上げるものだったのに対し、今回の案では、逆に資本所要額を現行比で4.8%程度引き下げるものとなっている(図表1のカテゴリーI, IIの大手行)。



今後、6月18日まで意見募集が行われた後決定される見込みだ。バーゼルⅢの最終化は、2017年の合意時点では、2023年から開始されることが想定されていた。既に相当遅れていることから、米国当局としてもプロセスを急ぐとみられる。

■次の規制緩和の可能性

さらに米国では、銀行の流動性カバレッジ比率(LCR)規制の見直しの可能性も報じられている。LCRとは、「高品質流動資産(現金、中銀預け金、国債等)÷30日間のストレス時純資金流出額」で計算され、原則100%以上の比率維持が求められている。



足元で議論されている論点の一つは、FRBの緊急融資(ディスカウント・ウインドウ)による借入可能枠を上限付きでLCRに反映させられないかという点だ。実現すれば、銀行は手元流動性を減らすことができるため、貸出等の余地が広がる。この他、流動性規制の見直しを巡る論点もある模様で、米当局は、金融政策運営に制約がある中で、民間金融機関のバランスシートを通じて景気を下支えしようとしているようにも映る。

■ 欧州でも金融規制修正の機運が高まる

欧州も、米国の規制緩和の動きに警戒感を強めている。例えば、ドラギ元ECB総裁は、2024年に、欧州企業の規模拡大を妨げる規制の複雑さや市場の分断を問題視し、M&A・資本市場統合を含む制度改革の必要性を指摘している(図表2)。また、バーゼルⅢ最終化のうちトレーディング関連規制について、欧州委員会は、適用開始を2027年1月まで延期している。




これまでのところ、欧州は米国よりは総じて慎重である。特に、銀行資産の経済規模に対する割合が200%を優に超えるスイスでは、最大手行のUBSに約200億ドル規模の追加CET1資本を求める案が政府により示された。ただし、これも昨年示された約260億ドルからは緩和されている。

米国で銀行規制緩和が進めば、欧州でも一段の規制見直しが検討される可能性がある。

■ 規制緩和の影響度

もちろん、米大手行は規制所要水準を上回る資本を保有している。それでも、所要比率が引き下げられれば、リスクテイク力が増加する可能性が高い。規制見直し全体で貸出余力は最大1兆ドル程度拡大するとの民間試算もある(モルガンスタンレー等)。これが実現すれば、株式市場等への間接的な影響も期待できる。銀行の貸出と株価の間には(因果関係は不明だが)一定の相関がみられる (図表3)。




銀行の貸出余力の拡大は、現在の金融環境においては特に重要である。現在、高リスク企業向け与信を急速に拡大させてきたプライベートクレジット市場の動向に不安が生じているが、銀行貸出の余地が広がれば、これらのノンバンク融資への懸念を一定程度緩和することができるだろう。

逆に、資本規制の緩和が金融危機を誘発する懸念はないのか。近年の研究では、銀行が資本を1%ポイント引き上げた場合、危機が発生する確率が0.1~2.6%ポイント程度低下するとされている(図表4)。資本を積むことのコスト考慮した最適な資本水準は、9~15%程度と試算されている(バーゼルに加盟する国・地域に関する試算)。



世界の大手行の資本比率は現在平均14%と、この水準を満たす銀行が多くなっている(後掲図表6)。加えて、流動性比率規制やベイルイン債(銀行が経営難に陥ったらカットされるか株式に転換される債券)の発行等、多面的にリスクを捉えているため、現時点での規制緩和はシステミックリスクを大きく高めるものではないと考える。



■ 転換点を迎えた国際銀行規制:国際金融規制は協調から競争へ

今回の規制緩和は、長期にわたる資本規制厳格化の転換点となるかもしれない。かつて米銀の資本比率は極めて高かったが、その後、銀行の信用力向上、預金保険制度の導入、預金の増加等を背景に大きく低下した(図表5) 。



1970年代後半以降、金融の国際化が進む一方で、国ごとの規制にばらつきが大きく、国際的な競争条件やシステムリスクへの懸念が意識されるようになった。このため、1988年に主要国の協調のもと、国際的に活動する銀行に統一的な資本規制を課す「バーゼル合意(バーゼルI)」が取りまとめられた。

ところが、ここにきて、金融規制は緩和競争のフェーズに入った可能性がある。この競争に参入しなければ、自国の金融機関が弱体化しかねないと当局が考えれば、、世界的な金融規制自由化の流れは加速するだろう。

■ 邦銀への影響と今後の課題

日本はバーゼルⅢ最終化を2025年3月までに終えており、欧米に先行している。このため、今回の欧米の動きが邦銀の規制を直接動かす余地は限られる。しかし、国際規制が柔軟化へと転じれば、邦銀にも中長期的に影響が及ぶだろう。

第一に、競争環境の変化である。欧米の大手行の規制が緩和されれば国際金融市場におけるリスクテイク力の差が広がる可能性がある。邦銀は、国内業務の比重が高いとはいえ、海外貸出、証券投資、資本市場業務等を通じて、グローバルな競争と無縁ではない。邦銀の自己資本比率は総じて健全な水準にあるものの、主要国大手行との比較では、必ずしも資本余力が大きいとは言えず(図表6)、ソブリンの信用力の影響で銀行の格付も低めとなっている。第二に、世界の規制柔軟化の潮流への追随である。資本比率自体に見直しの余地が小さいとしても、世界が総じて自由化に動けば、日本でも様々な面で規制の運用の柔軟化が検討されやすくなるだろう。

しかし現在の邦銀にとって、資本問題以上に重要な課題は、成長に必要な「資源」の確保である。

その答えの一つが、踏み込んだ再編や提携である。海外では、AI・デジタル投資の負担増等を背景に、金融機関の統合が進んでいる(図表7)。日本でも再編の動きは続いているが、持株会社方式や少額の資本提携に留まるケースも多く、銀行数の減少ペースは鈍化している。今後の再編は、デジタル投資、人材活用、店舗網の再配置等による差別化戦略で、顧客基盤や預金の拡大が図れるかどうかが鍵となるだろう。足元では、しずおかFGと名古屋銀行、池田泉州HDと滋賀銀行のような地域をまたぐ銀行連携に加え、報じられているJR西日本と関西みらい銀行の資本提携のように、業界を超えた取り組みもみられる。こうした事例が、戦略面でどこまで踏み込めるのかが注目される。


今後の銀行株を見る上では、資本余力や株主還元といった比較的短期的な視点に加え、再編や提携、大規模な投資等の中長期戦略を通じた収益基盤の強化策が、より重要な評価軸になるだろう。


大槻 奈那
大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関するリサーチに従事。Institutional Investors(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの邦銀部門にて2014年第一位を始め上位。日本成長戦略会議・資産運用立国推進分科会構成員、財政制度等審議会委員、国家戦略特区諮問会議有識者議員、一橋大学理事、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞 十字路、ダイヤモンド・マーケットラボ、DowJones読売Proの目、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授。東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)


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