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ファンダメンタルズに基づく円安
市川 眞一
2026/05/12

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概要

ゴールデンウィーク中、財務省は8兆5千億円程度の円買い介入を行った模様だ。もっとも、これまでのところ、円安是正へ大きな効果があったとは言えない。それは、片山さつき財務相の発言とは異なり、市場の動きがファンダメンタルズを反映しているからではないか。米国との明確な協調なくして、介入で円安を止めるのは困難だろう。むしろ、原資枯渇の観測が円急落を招く可能性もある。





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■ 円安の一因となる実質政策金利差

財務省によるドル売り・円買い介入は、2022年9、10月、2024年4、5、7月以来となった。もっとも、過去2回と比べ、今のところ効果は大きくない(図表1)。片山財務相、三村淳財務官は円安を「ファンダメンタルズに基づかない投機的な動き」と指摘するが、ファンダメンタルズ、投機についての定義は不明確だ。むしろ、これまでの円安はファンダメンタルズを反映しているのではないか。

日銀が尺度としてきた生鮮食料品を除く消費者物価の上昇率は、3月、前年同月比1.8%になり、安定的物価目標の2%を下回った。もっとも、これは電力・ガスへの支援金などが強く影響しており、政策効果を除けば引き続き2%を超えている。また、市場が織り込む期待インフレ率は2.4%程度で推移、中東情勢の緊張が続くなか、マーケットは物価上昇圧力が強いと判断している模様だ。

そうしたなか、日銀は4月27、28日の政策決定会合において、3会合連続で利上げの見送りを決めた。結果として、日本の実質政策金利は1.6%のマイナスになっている(図表2)。

一方、シカゴマーカンタイル取引所(CME)が先物から算出しているFFレートの見通しでは、2026年末まで現在の水準で据え置きの確率が80.0%に達した。期待インフレ率を控除した米国の実質政策金利は0.9%のプラスである。

つまり、日米の実質政策金利には依然として2.5%ポイントの差があり、中東情勢次第ではさらに拡大する可能性も否定できない。これが、ファンダメンタルズから見た円安の一因と言えよう。

■ 問われるのは財政への信認



円安を抑止するには、日銀による着実な利上げが最も効果的と見られる。ただし、それに伴って長期金利の水準が正常化へ向かえば、国債の利払い費が急増して財政へ重い負荷が生じる可能性が強い。それは、国債市況の下落を通じ、円相場を不安定化させる要因になり得る。そうしたジレンマの下、通貨管理を所管する財務省は、ゴールデンウィーク中の為替介入に踏み切った。



もっとも、政府短期証券(FB)の発行で円を調達できる円売り・ドル買い介入と異なり、ドル売り・円買い介入は持続力に課題がある。売るためのドルを基本的に外貨準備から取り崩すことになるが、保有する証券の売却は難しく、原資が預金などに限定されるからだ。3月末現在、外貨準備の預金は1,616億ドル(25兆2千億円)であり、1日5兆円規模の介入を続けるのは難しいだろう(図表3)。



1992年9月、統一通貨ユーロ加盟を目指し、欧州通貨メカニズム(ERM)に参加していた英国ポンドが、ヘッジファンドによる売りの対象となった。割高に評価されているとの見方から、英国政府、イングランド銀行が為替介入、利上げにより必死の防戦を試みたものの、市場の激流を止めるには無力だったのである。結局、ジョン・メージャー首相(当時)は、わずか2週間程度でERMからの離脱を決断せざるを得なかった(図表4)。

ドナルド・トランプ政権との合意により、日本政府は5,500億ドルの対米投資について、ドルの調達を迫られている。そうしたなか、巨額の介入に依存して円安を止めようとすれば、米国との協調でない限り、原資が枯渇するとの観測から、むしろさらなる円売りを誘発する可能性が否定できない。つまり、ドル売り・円買い介入には大きなリスクを伴う。

円安に傾いたファンダメンタルズを転換するには、日銀の着実な利上げと共に、それを支えるため財政への信認確保による国債市況の安定が鍵となるだろう。高市早苗首相が訴える「責任ある積極財政」の鼎の軽重が問われるのではないか。




市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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