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「ウォーシュ議長」でもFRBに変化なし
市川 眞一
2026/05/19

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概要

今週、「ケビン・ウォーシュ議長」が誕生する。指名したドナルド・トランプ大統領は早期の利下げを期待しているようだ。しかし、FOMC制度の下、議長が独断で金融政策を決めるわけではない。また、トランプ大統領の決断によるイランへの攻撃でエネルギー価格が上昇、インフレ圧力が強まっている。FRBが利上げを検討する可能性もあり、新議長の下でも大統領との間で緊張関係が続くだろう。





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■ 独立性を担保する地区連銀総裁

FOMCの公式な出席者は、FRBの理事7名、12地区連銀の総裁の計19名だ(図表1)。このうち、金融政策決定に関し投票権を持つのは、FRB理事、ニューヨーク連銀総裁、それに残り11地区連銀から年毎の輪番で4名、計12名である。

4月28、29日のFOMCでFFレートの誘導水準は据え置かれた。反対票を投じたのは、25bpの利下げを求めたスティーブン・ミラン理事のみだ。ただし、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁、ダラス連銀のローリエ・ローガン総裁、そしてクリーブランド連銀のベス・ハマック総裁が、FOMCの声明文に反対した。インフレ圧力が高まるなか、次の政策変更が、利下げ、利上げの何れも有り得ることを示唆すべきとの考えが理由である。

これは、ウォーシュ議長の舵取りの難しさを改めて示す出来事だろう。地区連銀総裁は、各連銀の取締役会が指名し、FRB理事会が承認する。つまり、大統領、連邦議会の人事権が及ばないことから、FRB理事以上に政治的な影響を受け難い。その地区連銀総裁が、FOMCにおける政策決定の投票権者12名のうち5名を占めている。

また、FRB理事についても、議長退任後も留任するジェローム・パウエル前議長の他、フィリップ・ジェファーソン副議長、マイケル・ボウマン理事、リサ・クック理事は、インフレに対して警戒的な姿勢を示し、早期の利下げには慎重ではないか。仮にウォーシュ議長がトランプ大統領の意向に配慮した政策運営を試みようとしても、それがFRBの総意となるには相当なハードルがあるだろう。

■ 重要な新議長への市場の信認

5月の消費者物価(CPI)は、総合指数の上昇率が2023年5月以来の高水準となる前年同月比3.8%だった(図表2)。エネルギーの寄与度が1.1%ポイントになっている。また、コア指数も2.8%上昇しており、2月の2.5%よりもペースが速まった。エネルギー価格の転嫁が背景と言えよう。



FRBが「長期的な目標」としているのは、コアCPIではなく、コア個人消費支出(PCE)物価だ。もっとも、基本的に同じような品目を異なる方法で算出しており、両指数は同様の傾向となる。4月のコアPCE物価も、インフレの加速を示すのではないか。



4月の平均時給上昇率は3.6%であり、単価ベースから見た実質賃金の伸びはほぼゼロになっている(図表3)。米国の場合、GDPの7割弱を個人消費が占めるため、賃金が景気全体に与える影響は極めて大きい。実質ベースで賃金の増加基調を維持する上で、まず物価の抑制にウェートを置くのが金融政策の常道と考えられる。



シカゴマーカンタイル取引所(CME)がFFレートの先物から算出した市場が織り込む政策金利の予想を見ると、年内に利下げが行われる確率は大きく低下した(図表4)。むしろ、マーケットは、秋口以降の利上げを視野に入れつつあるようだ。

足下の景気に失速の明らかなシグナルがないなか、インフレが先行きの米国経済のブレーキとなる可能性が高まっている以上、当面、FRBは物価に強く配慮した政策スタンスを採らざるを得ないだろう。トランプ大統領の強い意向があったとしても、ウォーシュ議長がFOMCの多数意見を無視して金融政策を変えることは制度的にできない。

むしろ、同議長は、まず組織としてのFRB及び市場の信認を得る必要がある。大統領の圧力に屈した印象になれば、それは同議長、FRB、そして米国経済にとり良い結果にはならないだろう。ウォーシュ議長が自らの立場を認識していれば、金融政策の劇的な変化はないと考えられる。




市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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