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金利上昇と日本株
市川 眞一
2026/05/26

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概要

金利の上昇が、日本株にとりマイナス要因との見方が台頭している。ただし、デフレ期における尺度でインフレ期における金利と株価の相対的な関係を測るのは合理的とは言えない。日経平均の予想株価収益率(PER)が安定した推移を続けるなか、懸念があるとすれば、日銀が後手に回り、期待インフレ率のコントロールに失敗することで、後に急速な利上げを迫られるケースだろう。





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■ デフレ期とインフレ期の違い

予想1株利益(EPS)を株価で割った株式益回りから長期金利(10年国債利回り)を控除したイールドスプレッド(YS)は、株価と金利の相対的なバリュエーションの尺度だ。一般にYSが大きい場合に株価は相対的に割安(国債は割高)、小さい場合に株価は割高と評価される。

日米市場のYSを見ると、S&P500は2021年頃から、日経平均は今年に入って急速に縮小した(図表1)。足下、S&P500はマイナスゾーンへ突入し、日経平均もリーマンショック期以後では最低の水準になっている。従って、日米共に株価は割高との見方が一部で台頭している模様だ。

もっとも、YSの適正水準は、その時の外部環境によって変化すると考えられ、過去のトレンドで単純に評価することはできないだろう。特に劇的な外部環境の変化は物価に他ならない。日本経済は、新型コロナ期を契機に、1990年代以降の構造的なデフレ期からインフレ期へ転換した。

デフレ期は一般に売上高が縮小、利益を確保するには、経費削減か価格競争によるシェアの拡大しか方法がなく、いずれもデフレを助長する。結果として、日経平均の予想1株利益(EPS)は、消費者物価指数と共に底這いになった(図表2)。

一方、インフレ期は売上高が増加し、利益も増加し易くなる。従って、2023年以降の大幅な株価上昇にも関わらず、日経平均の予想PERは20±5倍の範囲内で推移、安定基調が崩れていない(図表3)。この点は、予想PERが100倍を超える期間が続いたバブル期との大きな違いだ。

■ 重要な期待インフレ率のコントロール



長期金利は、理論的には「潜在成長率+期待インフレ率+リスクプレミアム」で決まる。期待インフレ率が高まる場合、リスクプレミアムのうち、期間リスクのプレミアムも拡大せざるを得ない。構造的な物価上昇が見込まれる局面において、固定金利の債券は先行きの価格下落リスクが大きいからだ。つまり、インフレに強い資産である株式と弱い資産である長期国債の相対的な関係は、デフレ期待の局面とインフレ期待の局面で異なるだろう。



インフレ期であっても、株価が過大な利益成長を織り込んでいれば割高となり得る。ただし、足下の日経平均は、予想PERの水準が安定しており、そうした状況に陥っていることを示す証拠は乏しい。



もう1つのリスクは、物価上昇に対して金融政策が”behind the curve(出遅れ)”になる結果、後に急速な利上げに追い込まれ、資産価格が金利に対して一気に割高になるケースだ。1990年代初頭のバブル崩壊期にはそうした事態が起こった。

足下、やや懸念されるのは、日銀による金利調整のペースが極めて遅いことだ。中東情勢の緊迫もあり、市場が織り込む期待インフレ率が急拡大、それに伴って10年国債の利回りも上昇が加速した(図表4)。実質政策金利は依然として大幅なマイナスであり、財務省が10兆円近い規模でのドル売り・円買い介入を行ったと見られるにも関わらず、円安にも歯止めが掛かっていない。

着実な利上げが行われた場合、短期的には株価にマイナスの影響を与える可能性がある。もっとも、市場の期待インフレ率を安定的な物価目標の水準近辺にコントロールすることが、中長期的には長期金利の安定をもたらし、資産価格や為替にとってもポジティブに機能するのではないか。



一方、財政の拡大、日銀の緩慢な政策調整は、期待インフレ率の急騰を通じて、円安や長期金利の無秩序な上昇を招きかねない。それは、堅調な株式市場にとってのリスクシナリオと言えよう。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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