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金利だけでない円安の要因
市川 眞一
2026/06/16

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概要

15、16日の日銀政策決定会合では、0.25%ポイントの利上げが確実視されている。一方、量的な政策のベンチマークである長期国債の買い入れ額について、日銀は2027年4月以降は縮小を見送るようだ。それは、量的緩和の正常化が緩やかなペースで進むことを意味する。結果として、日銀の超過準備から市中へマネーが流出し、円安やインフレの背景となる可能性は否定できない。


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■ 日銀が進める金融政策正常化

日銀が国債買い入れ額の縮小を決めたのは、2024年7月30、31日の決定会合だ。同月の買い入れ額5兆7千億円を基準に、2026年1-3月期まで四半期毎に4千億円を減額するとした(図表1)。結果として、2026年1-3月の買い入れ額は、月2兆9千億円になったわけだ。

その後、長期金利の上昇が加速、昨年6月16、17日の決定会合で、日銀は2026年4月以降に関し、四半期毎の減額幅を2千億円へ圧縮するとした。これで、2027年1-3月の買い入れ額は月2兆1千億円程度になり、今回は2027年4月以降もその水準を維持すると決める模様だ。

日銀の長期国債買い入れ額は、保有する残高の積み上げを意味するわけではない。買い入れ額には、満期償還した長期国債に対する借換債の引き受け分を含むからだ。日銀が保有する長期国債の満期を見ると、当面、月額平均で5兆6千億円程度が償還される。買い入れ額が2兆1千億円になれば、日銀が保有する長期国債の残高は月額3兆5千億円程度のペースで減少するだろう(図表2)。つまり、日銀は金利だけでなく、量的な面でも金融政策の正常化を進めている。

■ 難しいソフトランディング

黒田東彦前総裁在任中の2013~22年度、政府による新規財源債の発行額は542兆2,477億円だった。一方、この間、日銀の長期国債保有残高は484兆8,705億円増加している。つまり、新規に発行された国債の90%近くを日銀が実質的にファイナンスしたと言えよう。債券市場は、政府の財政政策のみならず、日銀の動向にも神経質にならざるを得ないわけだ。

問題は、日銀が目指した政策が、長期国債を資産として積み上げることにより、負債である市中金融機関の当座預金残高を増加させ、マネタリーベース供給量の大幅な増加を目指したことに他ならない。2013年3月に134兆7,413億円だったマネタリーベースは、2024年4月には689兆8,964億円に達した(図表3)。



日銀の意図は、物価目標を明確にし、金利をゼロとした上で量的緩和を行えば、家計、企業がインフレを想定して前倒しの消費、投資を行い、需給ギャップが縮小して事後的に物価目標が達成されるとの考えによるだろう。しかし、この目論見は外れ、マネタリーベースは、日銀の当座預金勘定に市中銀行の超過準備として積み上がった。

2020年春からの新型コロナ期を経て、世界経済は物価安定期からインフレ期へ転じた。日本も例外ではなく、供給されたマネーが実物資産へシフトしつつあるのではないか。それが、株価の急上昇や円安の一因である可能性は否定できない。

米国のマネタリーベース対GDP比率は17.2%、ユーロ圏は26.8%だが、日本は83.3%と依然突出した水準だ(図表4)。超過準備である間はむしろ問題ないものの、市中への流出が加速した場合、円安やインフレの温床になり得るだろう。

1980年代末、日銀は痛恨の「ビハインド・ザ・カーブ」に陥ったことで、資産バブルを潰すため急速に金利を引き上げ、同時に量的引き締めを実施した。それが、資産価格の急落を招き、構造的なデフレに陥った一因だ。従って、現在、利上げを進めつつある日銀が、量に関して慎重になるのは止むを得ない面がある。また、黒田体制下の緩和は”too big to change(変えるには大き過ぎる)”状態であり、その正常化は時間を要するだろう。

巨大なバランスシートからのソフトランディングは容易ではない。結局、長期間に亘ってインフレ・円安期の続く可能性が強いのではないか。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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