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- 地銀大再編時代の銀行株、地方経済への示唆
日銀の利上げというテーマに一服感がある中、地銀株の焦点は再編に移りつつある。預貸率の上昇、AI・IT投資負担、市場からの資本効率改善要請が重なり、地銀にとって規模拡大は選択肢ではなく必然になりつつある。最近は20兆円が必要な総資産額ともいわれるが、むしろ10兆円までの銀行合併の方が、株価やROEへの効果は高い。再編は銀行の貸出余力を拡大し、企業価値担保権融資等の新たなリスクテイクを促し、地域経済活性化の原動力になりうるため注目に値する。
■ 日銀利上げを受け、地銀の再編が地銀株の焦点に
6月16日の日銀の利上げを受け、これに関する銀行株のテーマは一服した感がある。そこで銀行株の次のテーマの一つとして注目されるのが地方銀行業界における再編の動きである(図表1)。預金の伸び悩みに伴う地銀の預貸率の上昇(図表2)、株式市場からの圧力、AI・IT投資のための規模拡大、国債含み損拡大による会計上の資本毀損の懸念等が背景にあるとみられる。制度面でも、2020年に地銀向けの独占禁止法特例法が成立し、地銀が統合を検討しやすくなったことや、2026年4月の改正法成立による再編交付金の拡充(地銀同士の場合30億円から50億円に、信金・信組等業態を超えた再編では最大75億円に)もこれに拍車をかけている。
こうした動きは当面継続しそうだが、果たして、銀行株や経済にとってどのような影響がありうるのか。
■ 市場からの要請は総資産20兆円?
最近、一部のアクティビスト・ファンドの動きを契機に、「総資産20兆円」が地銀のあるべき規模の目安として語られるようになった。かつて、山口フィナンシャルグループ(FG)や、ふくおかFGが相次いで設立された2000年代半ばの目標は、「総資産10兆円」だった。それが今や、ふくおかFGの連結総資産は約33兆円へ、山口FGは約13兆円へと大幅に拡大した。その一方で、動きが少ない地銀も依然として多いことから、その資産規模は格差が一層目立つようになっている(図表3)。
こうした資産規模拡大の市場評価はどうか。上場銀行(グループ)の資産規模とPBRには一定の相関があり、この傾向は3年前よりも明確になっている。市場は銀行の資産規模拡大を相応に評価しているようにみえる(図表4)。この背景の一つとして、業務の効率化があげられる。総資産規模と銀行グループの経営効率(OHR)の間には一定の相関が観測され、かつ、この3年間でも多少の改善がみられる(図表5)。
ただし、この図でも示唆されている通り、総資産1兆円程度以下の小規模銀行については明確な改善がみられないケースが多い。こうした小規模行については、今後市場から一層の効率化が求められそうだ。一方、ROEと資産規模との相関は必ずしも明確ではない。持株会社の設立後のROEの推移をみると、同時期の上場地銀の平均からの上振れ幅が安定的に拡大している銀行は殆どない(図表6)。従って、経費は圧縮できても、ROEを業界平均以上に改善するまでには至っていないように見える。株価と規模との相関を生んでいるのは、必ずしも利益率ではないと考えられる。
■ 利益以外の株高要因
規模が相対的に大きい銀行について、利益率以外で株高を生んでいる要素は何だろうか。
その一つとして考えられるのが投資家の認知度である。これを決める重要なポイントとして証券アナリストのカバレッジがあるが、その数は銀行の規模に応じて決まっているように見える(図表7a, 7b)。総資産が10兆円を超えると、アナリストがゼロという上場銀行(グループ)は現時点ではみられない。
そして、こうしたアナリストのカバレッジ数が多い銀行ほど市場評価(PBR)が高い傾向にある(図表7b)。4人以上のアナリストがカバーしている銀行は全行がPBRが概ね1倍を超えているのに対し、アナリストの数が1人以下の銀行では、94%の銀行でPBRが1倍未満となっている。
■ 10兆円超の銀行グループの株価上昇率が大きくない理由
一方、もう一度図表4を見てみると、10兆円を上回る企業の株価は、総資産と株価の関係が弱くなっているようにも見える。こうした大規模銀行グループは、多くの場合持株会社であり、持株会社形式で規模を拡大したケースの中で、例えば、事業範囲の広さや経営の複雑さの観点等から、規模拡大の割に評価が低くなっているものがあると思われる。
■ 効果が上がりやすい再編とは
しかし、銀行の再編の中でも、持株会社設立による統合ではなく、銀行同士の合併の例を見ると、利益率の改善幅が高い銀行が多いようにもみえる。2010年以降の地銀合併の例は10件程度と少ないが(全国銀行協会より)、その殆どのケースで上場地銀全体の中央値を上回るROEの改善が確認されている(図表8)。
因みに、近年欧米では銀行数の減少が著しい(図表9)。もともとの銀行数が多いこともあるが、迫りくるAI・IT投資の活発化を背景に、銀行同士の合併による規模拡大が図られていると考えられる。日本も同様の施策が必要になる可能性が高いだろう。
■ 銀行株および経済への示唆
現在の状況を見る限り、総じて総資産10兆円を目指す銀行群の方が、それを超える規模の銀行よりも経営効率や株価の伸びしろは大きそうだ。これらの小規模銀行中で、合併を検討し、10兆円前後の規模を達成できる銀行があれば、将来の利益率向上やアナリストカバレッジの増加等から株式市場の評価向上が期待できるだろう。
もちろん、これを超えて、40兆円、50兆円と総資産規模を拡大していく銀行は別の次元に向かうことになるだろうが、そこでは、広域化に伴う規模の不経済(経費率改善の鈍化等)回避への取り組みや、預金金利上昇への対応、余剰資本の還元や成長投資への振り分け等の明確な説明が将来の資本収益性に対する市場の期待形成に影響する。
経済に対する効果はどうか。前述の通り、かつて銀行統合は、企業にとって借入の選択肢が減ることになるため、地方経済にマイナスとなる面があるとみなされていた。しかし、現在は、人口減少や地方での企業数の減少もあり、そうした問題は生じにくいと考えられる。むしろ、金利上昇で大きな含み損を抱えている地銀の場合、統合によって資本の拡充が図れるならば、リスクテイク余力の拡大にもつながり、統合は地方経済の下支えとなるだろう。
さらに、今年5月末の企業価値担保権を活用した事業性融資の開始は、銀行にとって、担保主義からの大きな方向性の転換になりうる。これを進めるためにも、大規模化が、人材等の資源確保による新たなリスクテイクを可能にするだろう。
いずれにしても、再編が地銀の価値創造につながるか否かは、規模以上にこれらの経営戦略次第である。まずは10兆円の銀行本体の合併に注目しそのリスクテイクに期待したい。
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