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- 中銀ウィークと、FOMCで示されたFRB改革の要点
FRBのFOMC前後に世界の主要中銀が会合を集中させる「中銀ウィーク」では、米国が中東情勢によるインフレ懸念からタカ派に傾き、多くの国・地域も利上げまたは据え置きに動いた。一方、ブラジルなど実質金利が高い国は利下げを実施した。FRB改革ではウォーシュ新議長の下で5つの分野で改革に向けたタスクフォースが示された。AIと生産性の関係は中長期的な金融政策の1つの焦点とみられる。
26年6月、米国のFOMC前後に、多くの金融政策決定会合が開催された
米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する前後に、世界の国・地域の中央銀行も金融政策決定会合(会合)の開催を集中させる傾向がある(図表1参照、中銀ウイーク)。米ドル建てで債券を発行している国が多いことや、米金融政策が自国の金融市場に波及する影響の大きさなどが、米国の金融政策を意識する背景と思われる。
6月会合の国・地域別に金融政策を振り返る
今回の中銀ウィークリーから浮かび上がった主な注目点を最初に述べる。
まず、米国は6月会合で政策金利を据え置いたが、FOMC参加者の26年末における政策金利の水準を、ドットチャート(図表2参照)で見ると、FRBの次の行動は利上げ方向を示唆した。最頻値の8名は据え置きで利下げ1名を加えた9名が利上げ無しを見込んでいる。一方、同数が利上げ(合計1回から3回)を見込んでいる。図表2で、利下げ支持が多かった前回(26年3月)の分布と比べると、FRBの次の行動が利上げ方向示唆に転じたことが今回の中銀ウィークの1つの特色だ。
中東情勢を受けたインフレ懸念を背景に米国はタカ派(金融引き締めを選好)姿勢に転じたが、ユーロ圏、日本、フィリピンのタカ派姿勢はより明確で、利上げを決めた。オーストラリア(豪)は今回の会合では据え置きであったが、国内要因を背景に26年2月から3会合連続で利上げをしていた。今回の据え置きはこれまでの利上げの効果を見守っているにすぎない。
一方、数少ないが、ブラジルのように、6月会合で利下げを決めた国もあるが、あくまで例外だ。天候要因や通貨(レアル)安などを受けて物価高に苦しんだブラジルは、24年後半から利上げに転じ、今年3月会合に利下げを決めるまで政策金利を高水準(3月会合前は15%)に維持していた。しかし、インフレ率が2月に前年同月比3.8%上昇を記録するなど物価目標(3%±1.5%)の上限を下回ったことなどから利下げに転じた(図表3参照)。
ただし、ブラジルのインフレ率は足元で物価目標の上限(4.5%)を再び上回るなど、インフレ再燃の兆しもみられる。ブラジル中銀は、6月会合では今後の金融政策について明確な方針を示さなかった。今後の金融政策は米金融政策と、自国のインフレ率などを参照しながらの運営となりそうだ。
図表1に戻ると、ハンガリーは本稿執筆時点で市場予想は、6月会合での利下げを見込んでいる。利下げ予想の背景はインフレ率の安定で、今年のインフレ率は2%前後で推移している。ブラジル同様、インフレ率で調整した実質金利は大幅なプラスとなっていることが、利下げの余地を生んでいる。中東情勢を受け、多くの国が利上げや据え置きとなる中、実質金利で十分なプラスを確保できている国は、数少ないが利下げしていることも、今回の中銀ウィークの特色だ。
今回の中銀ウィークでは、(中東情勢の)「不確実性」を理由に据え置くという姿勢が後退した面もある。原油価格上昇の直接的影響に加え、賃金や販売価格上昇に伴う「二次的波及効果」がインフレ懸念要因として台頭し、フィリピンなどは二次的波及効果を利上げの理由とした。
ユーロ圏でも二次的波及効果による物価上昇について、潜在的な懸念があると指摘している。ユーロ圏では、賃金の動向を反映する傾向があるサービス価格が上昇するなど気になる動きもあるからだ。ただし、賃金上昇は足元限定的で他の要因が影響したようだ。こうした中、欧州中央銀行(ECB)は利上げ姿勢を当面維持しながら、二次的波及効果をさらなる追加利上げの有無の主要な判断基準と位置付けそうだ。
日本も二次的波及効果への懸念は根強い。日銀は会見で、原油価格上昇が原材料コストや企業間取引価格の上昇、賃上げを引き起こし、それらが人々の期待インフレ率を押し上げ、基調的な物価上昇率の上振れにつながる可能性を指摘している。日本は実質金利も低水準で、利上げ姿勢を当面維持する必要がありそうだ。
スウェーデンやノルウェー、英国など欧州の国々は6月会合では据え置きを決めた。ただし、スウェーデンやノルウェーはインフレ懸念などを理由に、今後利上げをする可能性を示唆し続けている。もっとも、原油価格はすでに下落傾向に転じている。二次的波及効果によるインフレの有無を見守る姿勢と思われる。英国も金融政策のスタンスは基本的に同様だ。しかし、英国は政治が不安定なだけに、金融政策は読みにくい。
米FRBが金融政策の方向性を利上げに傾けたなか、他の国や地域も、例外はあるが、金融引き締め姿勢となった。ただし、米国の6月のドットチャートでは、来年末の政策金利見通しが引き下げられるなど、比較的穏やかな利上げにとどまる可能性が示唆されている。米国のように金利水準が高い国は、当面は物価や雇用市場のデータを参照しながら、必要なら利上げという消極的なタカ派姿勢にとどまる可能性もありそうだ。
6月のFOMCではFRB改革を目指したタスクフォースの概要が説明された
米国の中長期的な金融政策を占ううえで注目したいのが、FRBのウォーシュ新議長によるFRB改革だ。5つの分野に対するタスクフォースの設置が発表された。列挙すると、①FRBのコミュニケーション、②FRBのバランスシート政策、 ③データの活用方法や依存について、④ FRBのインフレの枠組み、⑤生産性と雇用、が示された。各タスクフォースの内容は年末をめどに発表される運びだが、概略は以下の内容と思われる。
①はドットチャートや経済見通しなど、現行の市場との対話ツールの見直しが検討され運びだ。例えば、ドットチャートについては、過去のFRB議長も問題提起している。見直しの機運はありそうだ。
② FRBのバランスシート政策については、適正な規模と保有資産の構成が焦点となりそうだ。6月17日時点でFRBのバランスシートの規模は6.7兆ドル程度だ。FRBは昨年末、QT(債券購入の減額、量的引き締め)を終了し、26年には流動性不足について短期国債購入で対応する準備金管理とし、「潤沢な準備預金制度」となっている。規模を減らすのであれば、市場への負荷を慎重に見定める必要があり、時間がかかりそうだ。また、資産構成としては米国債を中心にすべきとの指摘は以前からあり、そのような方向性が考えられそうだ。
③ウォーシュFRB議長の会見を聞く限りでは、既存のモデル分析にとどまらず幅広く検討されそうだ。また、変化の速い時でもあり、リアルタイムデータの活用をより積極化させたい意向のようだ。
④インフレの枠組みを検討する中では、インフレの要因などを再検討するようだ。ただし、2%の物価目標は当面維持する意向のようだ。
⑤生産性と雇用に対しAIなどの汎用技術が引き起こす影響を調査し、FRBの二大責務との整合性、金融政策への含意を検討するとしている。
①~⑤は今後の発表を待つ必要があるが、筆者は⑤に注目している。
米国GDP成長率の寄与度をみると、経済成長は主に設備投資(AI投資)がけん引している。FRBは、アトランタ、ダラス、サンフランシスコなどの地区連銀も含め、これまでにAIと経済との関係、特にAIと生産性について数多くのリサーチペーパーを公表している。ウォーシュ議長は就任前の25年11月に米大手経済紙に寄稿した記事で、AIによる生産性向上はデフレを生むと指摘していた。ただし、FOMC後の会見では、AIについて議論したことは認めた一方で、AIの経済に対する影響は不確実性が高いことから、タスクフォースで検討すると述べるにとどめた。
AIの経済への影響は今後の議論を待つことになるが、5月にサンフランシスコ連銀が発表したリサーチペーパーにはAIと生産性の関係を考える一つのヒントを示していると思われる。
要点を述べると、米国の過去3年、移民の縮小による労働投入の減少など逆風があったものの成長率を確保できた背景に生産性の改善が寄与したとみられる。生産性には主に2つの測定方法がある。1つは労働生産性で、他は全要素生産性(TFP)だ。労働生産性は労働者がソフトウェアなどの資本をどの程度活用したかを示す指標というイメージで、AIへの設備投資に伴い労働生産性は上昇傾向だ。一方、TFPは労働や資本では説明しきれない(目に見えにくい)、技術革新や業務効率化による成長力を表す指標だ。先のリサーチペーパーによれば、労働生産性には堅調な伸びがみられる一方で、TFPには明確な改善が見られないと指摘している。
ただし、 1990年代半ばに労働生産性が先行して上昇し、TFPが遅れて改善するパターンが見られた。今回が同じ軌跡を描くのかどうか、予断は許さないが注意して見守りたい。
サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は今月にテクノロジー関連のイベントで、AIが今後5~10年の期間でインフレ押し下げ要因になり得るとの見方を示した一方で、1年先を見据えて運営される金融政策にとって「喫緊の課題ではない」と語った。おそらく、デーリー総裁はインフレ押し下げ要因としてTFP上昇による生産性改善を念頭に指摘したものと思われる。したがって、足元の金融政策にAIのインフレを押し下げる効果を持ち出すのは時期尚早というデーリー総裁の指摘はもっともだ。また、デーリー総裁はAIの可能性に強気の見通しを述べている。筆者も可能性はまだ広がるとみている。しかし、気になる点もある。AI投資の過熱リスクだ。AIの活用は将来的にはディスインフレ要因になるとしても、その姿が見える前に投資の過熱が具現化した場合、FRBはどう対応するのだろう。来年以降のドットチャートが金融緩和方向なのは、中東情勢の改善見込みを反映したことが大きいようだ。AIによるディスインフレ効果は未知数だ。
あくまで中長期的な懸念に過ぎないが、AI投資に対するのスピード調整が金融政策として必要になる可能性もゼロではなかろう。タスクフォースで検討されるAIと生産性や経済(雇用)との関係にはその視点から関心を寄せたい。
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