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消費者が払うインフレ税
市川 眞一
2026/07/07

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概要

一般国民への増税は、ほとんどのケースにおいて不人気政策だ。一方、貯蓄余剰の家計にとり、預金金利がインフレ率を下回るならば、保有資産の実質価値が目減りし、借り手に対して所得が移転している可能性が強い。それは、国が最大の借り手である日本の場合、家計へインフレ税が課されているのと同義だ。意図せぬインフレ税を回避するには、物価に負けない資産運用が必須だろう。


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■ 増えない家計の利子所得

2025年度の国債利払い費は、10.8兆円程度になる見込みだ。これは1998年度と同水準である(図表1)。当時の普通国債発行残高は295兆円に過ぎなかったが、昨年度末は1,104兆円と3.7倍になった。それでも、利払い費が増えなかったのは、低金利の恩恵である。高市政権が国債市況に神経質にならざるを得ない理由の1つは、国債利払い費の膨張により、政府債務残高対GDP比率の低下が難しくなりかねないからだろう。

金利は経済活動が生み出した付加価値を再配分する機能である。例えば、貸し手Xが借り手Yに100円を貸し付け、Yがそれを元手として1年後に20円の利益を生み出した時、金利が10%なら取り分はX10円、Y10円になる。また、金利20%ならX20円、Y0円、5%ならX5円、Y15円だ。

日銀の資金循環勘定により、昨年度末における預金、貸出、債券など有利子資産から有利子負債を引いた純有利子債権の残高を見ると、最大の貸し手は670兆円の家計であり、以下、海外の297兆円、金融機関の239兆円が続いた(図表2)。一方、最大の借り手は国で、純有利子負債は1,040兆円に達する。

家計の保有する有利子資産は、2000年度末は749兆円だったが、2025年度末は1,062兆円へと増加した(図表3)。しかし、2000年度に11.1兆円だった受取利子の水準は、2001年度以降は3~8兆円台で推移、2024年度は6.5兆円に止まっている。これは、超低金利により、家計が利子所得の機会損失に見舞われたと言えよう。

■ インフレ税に打ち勝つ投資

1990年代央から2010年代央まで、日本は構造的なデフレ下にあった(図表4)。デフレは即ち通貨価値の上昇である上、名目金利が低くても、実質金利が高くなる傾向があるため、低金利は必ずしも貸し手にとって不利ではない。



もっとも、新型コロナ禍を契機として、2020年以降、日本経済は明らかにインフレ期に入った。通貨価値が下落するなか、それに見合う名目金利の水準に達せず、実質金利がマイナスの状態を維持する場合、貸し手から借り手への所得移転が起こっていることになる。マクロベースにおいて、日本における最大の貸し手は家計、借り手は政府なので、これは実質的に政府によって家計へインフレ税が課されているのと同義だろう。

有権者は消費税率の引き上げなど増税に敏感に反応するものの、目に見え難いインフレ税に対しては寛容になる傾向が否めない。もちろん、家計についても、住宅ローンやオートローン、消費者ローンを借りていれば、低い名目金利は恩恵だ。ただし、家計の有利子資産は1,062兆円、有利子負債は392兆円なので、マクロ的に見た場合、低金利は家計にとって機会損失に他ならない。

一見すると逆説的だが、日本経済の潜在成長率を高める方法の1つは、名目金利を上げて産業の新陳代謝を進めると同時に、家計の利息収入を増やして消費を刺激することではないか。また、金利による財政規律の機能回復により、実は市場による目利きの機能を復活させ、真の成長部門への投資を促す作用も期待できる。

1997年の金融危機以来、財政拡大・低金利政策が続けられてきたものの、むしろデフレが構造化して潜在成長率が低下し、政府債務対GDP比率が上昇する結果になった。それでも、高市政権は、財政主導の投資を見直す意向はないようだ

家計へのインフレ税は続く可能性が強い。それに打ち勝つ資産運用の重要性が増すだろう。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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