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賃上げが促す産業の新陳代謝
市川 眞一
2026/07/14

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概要

2026年春闘では、4年ぶりに中小企業の賃上げ率が大企業を上回った。深刻な人手不足の下、企業は、規模の大小を問わず、競争力のある賃金を払えなければ、必要な人材を確保できなくなりつつある。これまで、日本では、低金利、国の補助金、低賃金が産業の新陳代謝を阻害してきた。しかし、金利と賃金の上昇は企業に生産性の改善を迫り、産業の新陳代謝を促すのではないか。


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■ 大企業を上回る中小企業の賃上げ率

連合の最終集計によれば、2026年春闘による賃上げ率は、ベースアップが明確な組合のベースで、定期昇給分を除いて3.50%だった(図表1)。これで、3年連続の3%超えである。

若干の変化が見られたのは、組合の規模によるベースアップ率だ。組合員300人以上の大企業が3.50%だったのに対し、300人未満の中小企業は3.51%、僅か0.01%ポイントだが、4年ぶりに賃上げ率が逆転している(図表2)。

金額ベースで見れば、組合員100人未満だとベースアップ額は8,759円、1,000人以上だと1万1,953円だった。規模に比例して増加額が大きくなっており、中小企業と大企業には、賃金そのものに依然として大きな格差が生じている。

ただし、人手不足が深刻化するなか、必要な人材確保のため、中小企業が賃上げへ向け努力している状況が浮き彫りになった。この傾向が続けば、日本の産業の新陳代謝が進むのではないか。

■ 鍵は生産性改善

第2次安倍政権による初の成長戦略として2013年6月14日に閣議決定された『日本再興戦略2013』には、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」と書かれていた。主要先進国の場合、開業率が廃業率と概ね同水準であることが背景と言えよう(図表3)。



日本では、廃業率が低いため、ヒト、モノ、カネが新たに生まれる産業・企業へシフトせず、結果として生産性が伸びていない可能性が強い。そうした認識の下、政権を奪還した当初のアベノミクスは、財政、金融政策を鎮痛剤とした上で、制度設計を見直す成長戦略により、経済構造を転換するとの考えがあったのではないか。

もっとも、安倍政権が長期化するに連れ、金融政策への依存度が高まり、既得権益へ切り込む姿勢は薄れたと言える。結果として、2024年における日本の開業率、廃業率は、いずれも4%を割ったままで、2013年からほとんど変化していない。

産業の新陳代謝が遅れた要因の1つは、雇用制度の改革が進まず、労働力が流動化しなかったことだ。主要OECD加盟国では、10年以上に亘って同一企業に勤続する従業員の率が高いほど、賃金上昇率は低くなる傾向が見られる(図表4)。これは、雇用の安定度と賃上げ率にトレードオフの関係があることを示すだろう。終身雇用が原則であった日本の場合、企業は不況期でも解雇を避けるため、好況期にも固定費の増加を懸念して賃上げを躊躇うとされる。

しかし、環境は大きく変わった。雇用制度の改革は進んでいないものの、金利が上昇すると共に、労働力不足の下、企業は大胆な賃上げを迫られている。競争力のある賃金を払えない場合、企業の存続に必要な人材の確保は難しい。

競争力のある賃金を払うには、生産性を上げる必要がある。そうした意味において、2026年春闘の結果は、産業・企業を通じて日本経済が大きく変化しつつある一端を示したと言えるのではないか。

もっとも、春闘自体が陳腐化している可能性は否定できない。労働組合の組織率は16.0%へ低下、経団連の号令で企業が動く時代ではなくなった。

通年採用やジョブ型雇用、裁量労働制が当たり前になるなかで、最早、年1回、経団連と連合が音頭を取って賃金・処遇を交渉する春闘は必ずしも労使双方の実態に合わなくなっている。春闘が話題にならなくなった時、日本の雇用は名実ともに大きな変化を遂げているだろう。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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