- Article Title
- 公的年金で金利上昇・円安を止められるか?
片山さつき財務相は、最近の会見で、公的年金積立金の運用に関し、高市政権の成長戦略に沿った円資産の比率引き上げ検討を示唆した。市場金利上昇、円安対策と見られる。ただし、厚生年金保険法、国民年金法の趣旨から、そうした手法が厳しい批判に晒される可能性は否定できない。また、資金の性質、規模を考えると、長期的に市場の流れを変えるのは難しいのではないか。
■ 専ら被保険者のための運用
片山財務相は、7月10、14日の閣議後会見で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などが運用する公的年金の積立金について、国内投資の比率を高める方向への検討を示唆した。長期金利上昇、円安への対策とする考えのようだ。
14日の会見で、同大臣は、高市政権の成長戦略により、「日本円資産は有利になって行く。そういう政策を政権として採っているのだから」、ポートフォリオの修正があり得るとの見方を示した。これは、公的年金の運用について、政権の政策と整合的であるべきとの考えに基づくと見られる。
一方、公的年金を所管する上野賢一郎厚労相は、14日、「今後必要があれば見直しの検討を進める」としつつも、その前段で「現在の運用環境は、基本ポートフォリオが想定しているものから大きく乖離しているとは考えていない」と語った。
厚生年金保険法第79条の2、国民年金法第75条は、積立金の運用について、「専ら厚生年金保険(国民年金)の被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行う」ことを求めている。また、GPIFが作成した『アセットオーナー・プリンシプル取組方針』には、積立金の運用を専ら被保険者の利益のために行い、「この目的を離れて他の政策目的や施策実現のために年金積立金の運用を行うこと(他事考慮)はできない仕組みとなっています」と明記された。
政治情勢によって政策は変わり得る。時の政権が年金の運用に政策への連動を求めるのは、政治の在り方として疑問とされるだろう。
■ GPIFに日銀の代わりはできない
足下、国債・財投債の最大の「投資家」である日銀は、3月末時点で485兆4,280億円、発行残高の47.9%を保有していた(図表1)。もっとも、金融政策正常化の一環で段階的な残高の縮減を実施しており、この7-9月からの買い入れ額は月2兆5千億円程度になっている。日銀の保有する長期国債は、月平均5兆6千億円程度が償還されるため、実質的には月3兆1千億円の売り越しだ(図表2)。2027年1月以降は売り越し額が3兆5千億円、年間42兆円程度になる。
一方、GPIFの保有する国内債券は、2026年3月末時点で74兆4,973億円、総資産に対する構成比は25.4%だった(図表3)。仮に基本ポートフォリオを変更せず、許容範囲の上限である31%まで比率を上げたとして、国内債の買い入れ余地は16兆5千億円程度である。それは一見すると極めて大きな額だが、日銀の実質年間売り越し分をカバーできるわけではない。
さらに、高市政権の強い意向で基本ポートフォリオを変更できたとしても、日銀による長期国債の保有残高に対し、GPIFの資産総額の規模は3月末時点で55%だ(図表4)。これは、信用創造機能を持つ中央銀行の力を如実に示すだろう。
所与の積立金を運用し、「名目賃金上昇率+1.9%」のリターンを求められるGPIFと、信用創造により無限に資産を拡張でき、リターンの目標がない日銀では、自ずと出来得ることの範囲が違い、当然、マーケットへの持続的なインパクトも異なる。
2006年9月に高支持率で出発した第1次安倍内閣が、わずか1年で総辞職に追い込まれたのは、失われた年金記録問題が引鉄だった。年金は極めてセンシティブな問題であり、この躓きが、結局、2009年の政権交代の伏線になったと考えられる。
高市政権がGPIFを目先の市場対策に使うとしても、効果は限定的なのではないか。さらに、政治的に相当な覚悟が必要となるだろう。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●投資信託は値動きのある有価証券等に投資するため、基準価額は変動します。外貨建資産の場合は為替変動リスクもあります。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性、特定の目的への適合性を保証するものではありません。記載内容は作成日現在のものであり、予告なく変更される場合があります。また、過去の実績は、将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
●投資信託は預金等ではないため、元本および利回りの保証はなく、預金保険機構または保険契約者保護機構の対象ではありません。また、登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料の内容は、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を目的としたものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。