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政府成長戦略の鍵は“金融力”:日経平均10万円超の現実味
大槻 奈那
2026/08/20

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概要

政府は2040年度迄に名目GDPを1100兆円近くまで引き上げる構想を掲げる。しかしこれを銀行貸出で支えるのはやや難しく、家計・機関投資家等のリスクテイクが不可欠だ。尤も、家計のリスク資産は既に固定資産を上回っており、更なる上昇は家計の市場感応度を過度に高めうる。成果の可視化、クラウドアウトの回避、財政不安と金利上昇の抑制等で市場の安定成長を図ることが成長戦略の鍵。それ次第で日経平均は10万円超も視野に入る一方、懸念拡大なら2割以上の調整も。



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■政府の成長目標には金融力強化が必須

先月、高市政権の骨太の方針が発表され、政府の成長戦略の道筋が明らかになった。2040年度までに戦略17分野のうち62の主要製品・技術等に対し官民累計で370兆円超の投資を行い、名目GDPを2025年度の670兆円から1100兆円近くまで押し上げるとする。

過去5年間の銀行貸出の平均年率伸びは3.3%と高く、かつ足元の伸び率は5%程度まで拡大している。この過去5年平均の増加率を前提に貸出残高を延長し、そこから名目GDPを推計すると、2040年度の名目GDPはおよそ930兆円となる(図表1)。これは、内閣府の中長期経済財政試算(26年7月時点)の「現状投影ケース」とも概ね合致する。



しかし、これでは骨太の方針のGDP目標に15%ほど未達であるし、ほぼ確実に訪れる景気変動を考えると自然体での達成は相当チャレンジングである。

このため、目標実現については、民間による、これまで以上の成長資金の提供が不可欠になる。これを支えるべく、骨太の方針にも、「成長投資を促進するための金融戦略」が盛り込まれている。

その主なKPIは、1)2040年度に年間250兆円の国内投資(2025年度は約125兆円)、2)2040年までに家計金融資産に占める株式・投資信託・債務証券の割合を40%に引き上げる(2026年3月末で約25%)、である。これらが達成できれば、恐らく1100兆円の名目GDPという目標には相当近づくことができるだろうが、その実現可能性はどの程度あるのか。

■ 国内投資目標達成の確度:銀行の資金供給には限界

まず1)の2040年度の250兆円の国内投資の実現可能性について検討する。


企業設備投資の一定部分は内部資金で賄われるが、投資額を倍増させる過程では、銀行借入や資本市場を通じた追加的な外部資金供給が必要になると考えられる。現在、国内銀行による企業の設備資金貸出の年間実行額は60兆円・同貸出純増額は20兆円程度となっている(図表2)。但し、実行額の約3割強は不動産業向けであり、生産性向上に直結しないものも含まれることには注意が必要である。



仮に、年間250兆円の国内投資に対し、その3分の1が貸出残高の純増となると仮定すると、年間約83兆円の設備貸出増加が必要となる。

現在の銀行の当期利益(銀行業界全体で年間6兆円)について、3~7%程度の利益成長を前提として、その3分の1程度を資本に蓄積していくとした場合、2040年度時点の年間の貸出残高増加可能額は、30~100兆円程度と推定される(図表3)。前提条件によっては投資資金の提供は不可能ではないが、それはリスクの低い貸出のみを行った場合であるし、銀行は設備資金以外の貸出増も当然行う。これらの点から、設備資金提供による新たなリスクテイクを促進するには、銀行融資だけでは物足りない。



■ 企業・個人・機関投資家のリスクマネーの供給拡大

銀行融資では新規投資資金が賄いきれないとすれば、次に期待されるのは、企業の内部資金や、個人・機関投資家による直接金融である。これに関する施策として、「新成長戦略を促進するための金融戦略(資産運用立国のアップグレード)」では様々な改革の方向性が示されている(図表4)。



注目点の1つとしては「金融機関の資金供給・成長支援機能の強化」がある。これによれば、銀行のエクイティ投資について「政府系の金融機関・ファンドと共同投資の場合、リスク・ウェイトを250%から100%に軽減する」といった新たな項目が盛り込まれた。

また、個人の投資を促す枠組みとしては、社債やローン売買市場の活発化、プライベート資産に特化した投資信託の整備やPTS(私設取引システム)の拡充等が注目される。加えて、GPIF等の年金基金のプライベート資産投資の拡大も取り上げられている。


これらの施策で、個人のリスクテイクは進むのか。

個人の投信・株式等の資産残高は、時価要因もあり、2025年末までの過去5年間で、64.2%も増加した(図表5)。この結果、推計では、2025年末に家計の株式・投信等の残高が、土地を含まない固定資産残高を上回ったとみられる(図表6)。土地を含む個人の総資産額に対するリスク資産(投信・株式等・債券)の合計値の比率も16%に上り、5年前の10%から大きく上昇している。




今後更に投信・株式等・債務証券の金融資産全体に占める比率を25%→40%へと上昇させた場合、家計資産の市場連動性を一層高めることになる。株価等が上昇し続ければ、資産効果による消費の拡大で景気の好循環を生むものの、逆も真なりである。

■成長戦略成功の条件と当面の確認点

このように、国内投資については、銀行融資ではやや心もとない。一方、それ以外の投資については、新しい金融戦略で一定程度は下支えされるものの、それを進めれば進めるほど、市場変動にその成否を委ねざるを得なくなるだろう。

成長戦略の実施によって、市場が安定的に成長していくための条件として、例えば以下のような点が挙げられる。

第一に、短期的な成果の可視化である。前掲の金融戦略が始動したとしても、それは主として、投資を“しやすく”する施策である。実際に投資家がリスクマネーを提供するかどうかは、結局投資リターンへの期待次第である。このため、今後1年程度の短期的なスパンで、一部の分野でも企業価値の向上が明確に示されることが重要だ。もし、成長戦略の成果が全く見えなければ、投資に対する意欲が減退する。同時に、財政懸念も高まることで、経済の逆回転リスクも排除できない。

第二に、民間投資の「クラウドアウト」が発生しないことである。希少資源が政府の重点分野に集中した場合、他分野の投資を縮小させるという「クラウドアウト」が発生し、経済全体の投資純増効果は制約を受けるだろう。また、政府が大規模な投資を行うことで国全体の原材料費等が上昇すれば、実質的な生産能力の拡大も難しくなるだろう。

第三に、財政への懸念が払しょくされることだ。日本の長期金利は、主要国の中でも上昇が際立ち、一時2%ポイント以上の差があったドイツ国債との差は大幅に縮小している(図表7)。骨太の方針の閣議決定後の8月4日の10年国債の入札も不調に終わった(図表8)。




今回の骨太の方針では、財政運営目標の中核を単年度のプライマリーバランス(PB)黒字化から「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」へ移した。

しかし、内閣府試算の現状投影ケースでは、2025年度に概ね均衡したPBは2030年代後半に赤字に転じ、公債等残高対GDP比も2030年度頃から上昇に転じる。2年間の消費税減税やその後の給付付き税額控除の導入は、この下振れを増幅しうる。こうした懸念が燻る中では、当面、長期金利の動向をこれまで以上に注視する必要がある。

■懐疑的な見方も多いが、達成できれば株価へのプラス影響大

7月23日に発表された経済学者へのアンケート調査によれば、「現政権の経済政策は十分な民間投資を促すことができると思うか?」という問いに対し肯定的な見方は15%にとどまった(図表9)。我々の今回の分析もこのような見方に近い。



このような分析を超越するには、前述の通り、一定の分野でも短期的な成果が可視化されることで民間の成長への期待を向上させ、かつ、財政への懸念を払しょくすることで市場の信認を維持することが求められる。

こうした投資拡大シナリオが実現すれば、株価も名目GDPの成長に呼応して上昇しうる(図表10)。株価は名目の世界であり、過去のトレンド通りの動きを前提とすれば、成長戦略が実現し1100兆円に達すれば日経平均はゆうに10万円を超える。もっとも足元の株価は回帰線を3割弱上回り割高にも見えることから、短期的には大幅調整のリスクも意識される。



このようなショックを回避しつつ、中長期的に日経平均10万円越えを実現するためには、今後1年程度は政策の成果を注意深くウォッチする必要がある。それまでは、過度な日本株へのベットはリスクが高いと考えざるを得ない。


大槻 奈那
大槻 奈那
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

内外の金融機関、格付機関にて金融に関するリサーチに従事。Institutional Investors(現Extel)によるグローバル・アナリストランキングの邦銀部門にて2014年第一位を始め上位。日本成長戦略会議・資産運用立国推進分科会構成員、財政制度等審議会委員、国家戦略特区諮問会議有識者議員、一橋大学理事、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等を勤める。日本経済新聞 十字路、ダイヤモンド・マーケットラボ、DowJones読売Proの目、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授。東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)


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