- Article Title
- ビットコイン上昇、ドル離れとクラリティ法案の注目点
8月半ば以降、米国の財政不安やドル指数下落を背景に、ビットコインや金などへの資金流入が進む局面もあった。ただしドルとビットコインの長期的な連動は低い。暗号資産を法的に明確化するクラリティ法案への期待も暗号資産価格を押し上げた。同法案を巡ってはステーブルコインへの付利やDeFi開発者保護、トランプ大統領一族の利害を巡る倫理規定などが争点となっており、今後の展開が注目される。
低調な取引が続いていたビットコインが8月半ばから急回復
暗号資産(仮想通貨)の一種であるビットコインの価格が8月半ばから急上昇している(図表1参照)。一方で、ドル指数(以下、ドル)は日米協調による為替介入があった7月末から下落傾向だ。加えて、8月19日には米財務省が、残存期間が10年を超える超長期債を対象に米国債の買い入れ消却(バイバック)を強化(1回の買い入れ額を少なくとも倍増)すると発表した。
米国のこれらの政策は、むしろ財政不安を想起させた。このような中、ドル離れ(ドル指数下落)が進行した。その受け皿として代替資産であるビットコインや金などが買われる「ディベースメント取引」が注目されることとなった。
ビットコイン急回復の背景にディベースメント取引が考えられる
ビットコイン価格は、25日には一時的ながら8万ドル台を回復した。上昇の背景には様々な要因があるが、米財務省によるバイバック発表や、24日にはバイバックの原資に財務省一般勘定(TGA)を活用する可能性が報道されたことなどを受けたドルへの警戒感の強まりが挙げられる。これらはビットコインや金などの代替資産の価格押し上げ要因に一役買ったと思われる。
米財務省のテコ入れ策に身構え、積極的な売りを回避する動きが短期的には想定される。一方で、バイバックやその原資としてのTGA活用などの対応には批判や懸念も根強い。そのような対応が、かえって米国債への不安、ドル安(ディベースメント取引)の要因となった可能性がある。
もっとも、26日には米国とイランの関係改善を期待させる外交活動の動きが報道されたことなどを受け米国債利回りは低下した。米国債利回り上昇は、軍事費の拡大などを受けた米国財政悪化や、原油価格上昇を受けたインフレ懸念などが本筋とみられる。バイバックのような対応で財政不安は解消しにくい。米当局の今後の対応に注目だ。
なお、現局面ではディベースメント取引として、ドル売り・ビットコイン買いとなっている。しかし、ドルとビットコインの関係を長期的にみると、このような関係が常に起きているわけではない。24年夏以降年末にはリスクオンを背景としたドル高・ビットコイン高の進行がみられた(図表2参照)。また26年前半、ビットコインが下落傾向だった局面では、ドルは方向感が定まらない展開だった。
長期的にドルとビットコインの相関係数はほぼゼロとみられる。図表2の期間について90日ローリングの相関係数を試算すると、平均はほぼゼロだった。一方で、 24年夏以降のリスクオン局面では高い正の相関であるのに対し、25年前半のようにドル安とビットコイン高が共存した局面では、足元のように高い負の相関がみられた。ビットコイン価格は一般的にはリスクオンの局面では、上昇する傾向があるようだが、価格変動の背景を見定めることが肝要で、筆者には難しく感じる。
クラリティ法案進展への期待と、これまでの経緯
次に、8月のビットコインを上昇させた別の理由として、暗号資産を取り巻く法整備進展への期待も挙げられる。今回のビットコインの上昇局面では、時価総額でビットコインに次ぐ第2位となるイーサリアム(ETH)やアルトコインのXRPなどの価格も上昇した。背景にはクラリティ法案(名称:「デジタル資産市場明確化法(Digital Asset Market Clarity Act of 2025)」)可決への期待が挙げられる。クラリティ法案の中身とこれまでの経緯を簡単に振りかえる(図表3参照)。
ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使うデジタル資産の規制上の分類の明確化などを盛り込んだクラリティ法案は、超党派の支持を受け25年7月に下院で可決された。同時期に暗号資産の一種であるステーブルコインの枠組みを定めるGENIUS(ジーニアス)法案が下院(上院は25年6月に可決済)でも可決された。ジーニアス法は、ステーブルコインの発行者に連邦政府か州政府の認可と規制・監督が求められることとなった。また、ステーブルコイン1ドルにつき同額のドルや短期国債など流動性の高い裏付け資産を持つことも義務付けられた。ジーニアス法を契機にステーブルコインが決済や送金などで幅広く活用され、ステーブルコインはもとより、暗号資産市場が活気づくとの期待もあった。足元、特定の分野ではステーブルコインを活用する動きもみられるが、おそらく当初の期待ほどの広がりを見せてはいないようだ。暗号資産(仮想通貨)の法的分類や規制管轄を明確化するクラリティ法案の成立の遅れが広がりを遅らせた1つの要因と思われる。
クラリティ法案の現状(26年8月時点)を確認する。下院では昨年可決しているクラリティ法案は今年5月に、上院銀行委員会で超党派の支持が得られた。これを受け、法案は上院本会議で検討されているが、8月の国会休会(夏休み)前の採決は見送られた。ただし上院本会議で審議入りするための動議について、討論終結(クロージャー)が申し立てられ、クロージャー動議の採決が9月15日に予定されている(可決には60票が必要)。採決はクラリティ法ではなく、審議入りするかを決めるものだが、可決となれば、法案審議への道が開かれることになろう。クラリティ法案はの今後は占う上で9月の展開に注目したい。こうした中、図表3にあるように、トランプ大統領が8月にクラリティ法案可決に向け意欲を示したことなどから、法案可決への期待が高まった。
クラリティ法案の先行きに不透明感は残るが、進展への期待もある
クラリティ法案の可決は遅れているが何が論点だろう。論点の中には、暗号資産の今後を左右する内容も含まれることから、主な論点を確認する。
当初から議論となっていたのは、ステーブルコインに付利を認めるかどうかという問題だ。クラリティ法案では、ステーブルコイン保有に伴うパッシブな金利を制限している。利息が付かなければ、ステーブルコインを保有するインセンティブは低いと筆者は考えている。暗号資産業界は付利を熱望している。一方、銀行など伝統的な金融機関は付利に反対の姿勢だ。26年春には一部民主党の協力も得て、パッシブな付利は禁止だが、ステーキングのようなアクティブな付利は認めるといった妥協案が提案されるなど歩み寄りは見られる。しかし抜け穴が多いとして銀行業界はその是正を求めるなど、対立の構図も残っているようだ。
次に、分散型金融(DeFi)ソフトウェア開発者保護の問題もクラリティ法案で議論された論点だった。DeFiはスマートコントラクトにより自動で取引を判断する仕組みを目指している。このようなシステムの開発者は、顧客の資産を直接預かったり(カストディ)、コントロールしたりしないならば、金融仲介者とみなされないことがクラリティ法案で定められる方向だ。SECから未登録者として告発される懸念が回避できるイメージだ。しかし、悪意を持った開発者をどう防ぐかという問題などが論点となったこともあった。この点については文言修正により進展はあったが、運用面での詰めが残っているようだ。
なお、図表3では、25年4月に米証券取引委員会(SEC)に就任したアトキンズ新委員長が7月に開始したプロジェクト・クリプトのうち、11月に打ち出した、暗号資産に対する監督・規制フレームワークも、クラリティ法案のイベントに含めた。理由は、暗号資産に対しゲンスラー前委員長時代にしばしば見られた訴訟や摘発による裁量的な対応から、対話と法制化へと対応が変化した象徴的なイベントと判断したからだ。暗号資産は新規のプロジェクトゆえ、試行錯誤もある。これを受けて設定された「セーフハーバー規定」では既存の金融関連法規が(裁量的に)適用されることを回避することを目的としている。また、開発者には一定期間、規制適用の一部免除が与えられた。
クラリティ法案では、暗号資産の管轄権について、どの暗号資産がSEC管轄で、どれが米商品先物取引委員会(CFTC)管轄なのかというグレーゾーンを法的に明確化することも期待されている。この法案の成立過程において暗号資産業界の発展に有益な改革が進行しているようだ。
トランプ大統領は大統領選期間中から「米国を暗号資産の首都にする」と述べるなど暗号資産を推進してきた。選挙における有力な支持母体であるという背景もあるのだろう。法制化という公の場で暗号資産を取り扱う方向にある中、クラリティ法案可決が遅れている論点として、倫理規定についての議論も挙げられる。問題点を手短に言えば「利益相反」で、具体的にはトランプ大統領のファミリーが暗号資産で利益を上げた点についてだ。トランプ大統領は暗号資産のリード役ではあるが、暗号資産業界が待ち望むクラリティ法案可決の障害となっているのもトランプ大統領という皮肉な構図となっている。トランプ一族が暗号資産ビジネス「World Liberty Financial(WLF)」で巨額の富を得ていることはすでに報道されている通りだ。クラリティ法案の上院修正案に組み込まれた「倫理規定」は、本来「政府の高官やその家族が、暗号資産を使って不正に不当な利益を得ることを防ぐ」とされている。具体的に内容を見ると、「大統領、副大統領、およびホワイトハウスの高官やその配偶者は、在任中に新しい暗号資産(トークン)を自ら発行したり、特定のプロジェクトの「公式スポンサーとして宣伝活動を行ったりしてはならない」となっている。
問題はWLFを主導するトランプファミリーのビジネスを抑制できるのかだ。解釈によってはトランプ大統領の息子は、倫理規定の抜け穴となる可能性があるとの懸念が指摘されている。民主党議員の中にはは「トランプ一族を完全に排除する厳格な倫理規定への修正」を求めて、今後の本会議での議論を進めたいとの思惑もあるようだ。
クラリティ法案にはトークン化された金融資産の管轄など、暗号資産関連ビジネスを進めるうえで重要な項目が明確化されることが期待されている。最終的にどのような形になるかは今後の展開次第だが、法案成立までの過程において、一部の民主党議員の賛成などが必要となるケースもあるだろう。その場合でも、法案成立に向けた歩み寄りの可能性は残されていると筆者はみている。民主党議員の中には、クラリティ法案そのものに反対というより、内容次第という側面もあるからだ。市場ではクラリティ法案が可決するか、それともしないかにだけ注目が集まりがちだが、どのような内容で可決するか(または可決しないのか)という視点で見守る姿勢が必要と思われる。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●投資信託は値動きのある有価証券等に投資するため、基準価額は変動します。外貨建資産の場合は為替変動リスクもあります。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性、特定の目的への適合性を保証するものではありません。記載内容は作成日現在のものであり、予告なく変更される場合があります。また、過去の実績は、将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
●投資信託は預金等ではないため、元本および利回りの保証はなく、預金保険機構または保険契約者保護機構の対象ではありません。また、登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料の内容は、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を目的としたものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。
手数料およびリスクについてはこちら
ディープ・インサイトの記事一覧
| 日付 | タイトル | タグ |
|---|---|---|
|
日付
2026/09/07
|
タイトル 世界同時金利上昇の背景 | タグ |
|
日付
2026/08/31
|
タイトル 中間選挙に向けトランプ大統領に焦り? | タグ |
|
日付
2026/08/27
|
タイトル 金利上昇の逆風下で最高値更新 なぜS&P500は強いのか? | タグ |
|
日付
2026/08/24
|
タイトル 4%が視野?10年国債利回り | タグ |
|
日付
2026/08/20
|
タイトル 政府成長戦略の鍵は“金融力”:日経平均10万円超の現実味 | タグ |
|
日付
2026/08/17
|
タイトル 利上げを模索する日銀 もう1つの制約要因 | タグ |
|
日付
2026/08/14
|
タイトル 米ハイパースケーラーのAI投資は加速 注目すべきポイントは? | タグ |
|
日付
2026/08/10
|
タイトル FIMAレポ・ファシリティの実像 | タグ |
|
日付
2026/08/04
|
タイトル 米国が日本へ円安阻止で協調する理由 | タグ |
|
日付
2026/07/28
|
タイトル 注意すべきウォーシュ議長のB/S政策 | タグ |