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原油価格:短期見通しと長期展望
市川 眞一
2026/09/14

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概要

中東における緊張感の高まりから、WTI原油先物価格は100ドル台になった。親イラン武装勢力のフーシ派がバベルマンデブ海峡で存在感を強め、日本を含む需要国への影響は避けられそうにない。もっとも、長期的に見れば、原油は供給過剰になるのではないか。中国の景気減速で需要の伸びが停滞する一方、米国のテコ入れによりベネズエラの産油量は回復する可能性があるからだ。


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■ 閉ざされる代替ルート

IMFによれば、昨年、衛星船舶自動認識装置(AIS)で捕捉されたホルムズ海峡を通過する石油タンカーは、1日平均48.2隻だった。米国、イスラエルによるイラン攻撃以降は激減しており、8月は平均1.9隻に止まる(図表1)。AISを切って航行する船もあるため、実際はもう少し多いと見られるが、平時を大きく下回ることは間違いない。



また、国際エネルギー機関(IEA)の統計では、今年2月、サウジアラビアの産油量は日量1,040万bblだった(図表2)。ホルムズ海峡の実質的な封鎖に加え、フーシ派が紅海の出口であるバベルマンデブ海峡で影響力を強めたことにより、8月の同国の産油量は597万bblへ落ち込んでいる。



サウジアラビアの主力港であるラスタヌラ港は、ペルシャ湾内であり、ホルムズ海峡封鎖後は、紅海に面したヤンブー港からの輸出が強化された。バベルマンデブ海峡を通るルートも危険を伴うため、活用されたのが紅海北側のスエズ運河を使い、地中海経由で原油を輸送する方法だ。

スエズ運河は水深が浅く、超大型石油運搬船(VLCC)は、積み込む原油量を最大積載量に対して約半分の100万bbl程度とし、残りをパイプラインなどで輸送しなければならない。コストは大きく上昇するが、石油需要国にとり、経済及び経済安全保障上、極めて重要な代替手段と言える。

もっとも、イラン系勢力による攻撃で、10日、サウジアラビアは油田地帯とヤンブー港を結ぶパイプラインを停止した。これで、サウジアラビアの原油供給能力は大幅な低下を想定せざるを得ない。



■ トランプ大統領の矛盾した政策


中東情勢が緊迫し、原油価格が上昇したものの、米国の産油量はあまり伸びていない。ダラス連銀が6月に行った国内の石油事業者への調査によると、WTI原油価格が125ドルに達しても、2027年の増産は日量50万bbl以下に止まると回答した企業が63%に達していた(図表3)。

米国の事業者が増産に慎重なのは、将来、過剰供給になる懸念があるからだろう。中国の景気減速で世界的に原油需要が伸び悩むなか、ホルムズ海峡の航路が回復した場合、需給バランスが崩れる可能性は否定できない。また、今年1月、米国が武力介入したベネズエラは、世界最大の石油可採埋蔵量を有する一方、施設の老朽化、米国などの経済制裁により、過去10年間は生産量が激減した。米国のテコ入れで増産に転じれば、これも石油市況に大きく影響すると想定される。

トランプ大統領のエネルギー政策は、右手で”drill baby drill(掘って、掘って、掘りまくれ)”を訴え、左手で原油安を望む点において、大きな矛盾が見られる。9月2日、クリス・ライト米国エネルギー長官が出席、ベネズエラの首都カラカスで行われた調印式には、米国最大の石油会社であるエクソンモービル、第3位のコノコフィリップスの姿がなかった。トランプ政権の統一性のないエネルギー政策に巻き込まれるのを恐れたからではないか。



日本の場合、高市政権の外交努力もあり、これまでのところ石油関連の必要量は確保されている。ただし、米国、イスラエルによるイランへの攻撃の影響が顕在化した3月以降で見ると、原油は輸入単価が前年同期比47.0%、ナフサは同60.8%上昇した(図表5)。紅海での航路が脅かされた場合、一段のコスト上昇は避けられそうにない。



つまり、今の原油市況は、短期的には中東情勢、中長期的には過剰供給のリスク、この2つの相反する要因のバランスで形成されているのではないか。当面は中東全体を巡る緊張感の高まりから、原油価格は上振れのリスクが強いだろう。


市川 眞一
市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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