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- バリューチェーンの上位へ: 変わりつつある新興国株式への投資機会
グローバルなバリューチェーンにおける新興国の地位向上は、新興国株式への長期的な投資機会を支える重要な要因となっています。
長年にわたり、投資家は新興国経済を評価する際、生産物にどれだけの付加価値をもたらしているかではなく、何を採掘・生産しているかという観点で判断してきました。その区別こそが、新興国と先進国とを分ける境界線でした。
しかし今日、その区別はもはや意味を失いつつあります。
新興国がグローバルなバリューチェーンにおいて進展を遂げていることは、2つの側面から明らかです。まず、チリ、ブラジル、インドネシアといった資源産出国が、加工・製造分野への進出を通じて天然資源からより多くの工業的付加価値を引き出しています。
次に、テクノロジーの面では、中国をはじめとするアジア諸国が欧米諸国を追い越し、テクノロジーやヘルスケアといった高付加価値セクターで世界的なリーダーシップを確立しつつあります。
これは経済的に重要な意味を持ちます。国内生産を拡大し、高付加価値製品の輸出を増やすことで、新興国は経常赤字を縮小し、変動の激しい海外資本フローへの依存を低減できます。
投資面においても重要な意味合いがあります。新興国企業はグローバルなサプライチェーンが生み出す利益のより大きな割合を取り込めるようになっています。これは長期的な構造変化であり、まだ新興国株式のバリュエーションには十分に反映されていないため、投資家が新興国株式を通じて構造的な成長を取り込む機会が生まれています。
採掘を超えて:より大きな利益の獲得
新興国の資源産出国はこれまで、地下から鉱物を掘り出し、原材料またはそれに近い形で輸出するという、付加価値の低い上流工程に特化してきました。このビジネスモデルは成長をもたらしたものの、バリューチェーンの中で最も収益性の高い部分は、その下流工程を専門とする企業、とりわけ、産業規模が大きく、高度なインフラと技術的専門知識を有する先進国の企業に委ねられていました。
しかし、この状況は変わりつつあります。新興国の企業は、グローバルなバリューチェーンにおける影響力を拡大しようとしており、原材料をより高い利益率を生む精製品や中間製品へと転換しています。具体的には、ニッケルを電池の前駆体(バッテリーの最終部品製造に使用される中間材料)に加工したり、リチウムを正極材に、鉄鉱石をペレットや特殊鋼に転換したりする取り組みが進んでいます。
チリを例に挙げましょう。電気自動車(EV)や蓄電システムに不可欠なリチウムの世界第2位の産出国であるチリは、2023年に策定した「国家リチウム戦略」のもと、単なる採掘から国内精製や下流工程のバッテリー材料の製造へと事業を拡大しつつあります。
採掘工程が完成品バッテリーパックの総コストに占める割合は、通常わずか5〜10%にすぎません。残りは精製、正極・負極材料、電解質・セパレーター、セル製造、パック組み立て、廃棄後のリサイクルといった工程が占めています。各工程には技術的なノウハウとインフラが必要であり、採掘単独と比べてはるかに大きな付加価値を生み出します。
チリは最終的に、国内で採掘されたリチウムをすべて国内で精製することを目指しています。世界最大級のリチウム企業であるSQMのような生産者にとって、この事業転換はより下流工程における高収益事業への参入機会を開くものです。
図1 :バッテリーサプライチェーンの上流への進出
ラテンアメリカにおけるLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池需要を満たすためのバッテリーサプライチェーン産業の発展による売上高見通し
注:正極材の製造コストには、リチウム以外のコストも含まれる。コストは2025年の米ドル建てで推計し、インフレ調整は行っていない。
出所:International Council on Clean Transportation
他の大手鉱業企業も同様の戦略を追求し、より大きな戦略的主導権と利益の獲得を目指しています。
ブラジルを拠点とする世界最大の鉄鉱石生産企業ヴァーレは、再生可能エネルギーを活用した高品質ペレットの生産を開始しています1。また、採掘から納品に至るサプライチェーン全体の管理を強化するため、海運・物流分野にも進出しています。
世界最大のニッケル産出国であるインドネシアは、精製ニッケルおよびEV用バッテリー鉱物のグローバルハブを構築しており、製錬や高圧酸浸出といった下流加工能力を国内に取り込んでいます。この動きにより、現在から2040年にかけて5,000億米ドル超の投資機会が生まれると見込まれています2。
テクノロジー:飛躍的な発展の機会
資源輸出国が加工能力の強化を目指す一方、非資源国は自国が得意とするテクノロジーの輸出を拡大しています。
この転換の最前線に立つのが、中国、韓国、台湾です。北アジアのテクノロジー大国は、半導体、ロボティクス、バッテリー、EVといった先端技術の輸出において、欧米諸国に急速に追いつき、多くの分野で追い越しつつあります。
この「リープフロッグ現象(経済が中間段階を飛ばして最先端のイノベーションを採用し、競争力を獲得するプロセス)」により、後発企業は既存システムの制約を受けることなく、新興分野で支配的な地位を確立することが可能になります。投資家にとっては、将来の成長と市場リーダーが生まれやすい領域を見極める手がかりとなります。
最近のAI関連株の急騰により、台湾積体電路製造(TSMC)、韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)やSKハイニックス(SK Hynix)といった、テクノロジー関連取引の中でも特に注目度の高い企業の株価が過去最高値を更新しました。
充実したIPO(新規上場)パイプライン
この動きが一時的なブームにとどまらないと考える理由があります。アジアにおけるイノベーションは、上場を控えたテクノロジー企業の豊富なパイプラインを生み出しています。
香港はその最大の恩恵を受ける市場の一つであり、350社超のIPOパイプラインを擁するグローバルな主要上場市場として再浮上しています3。テクノロジー系スタートアップ、特にAI、フォトニクスチップ(光集積回路)、ロボティクス分野の企業が、資金調達額の半数以上を占めています4。
最近の案件は、投資家の旺盛な需要を示しています。中国のAI光コンピューティング企業、上海希智微電子(Lightelligence)は、2026年4月の香港上場初日に約400%急騰しました。これは、1985年以降、1億米ドル以上を調達した香港でのIPOにおいて、上場初日のパフォーマンスとしては第2位を記録しました。
アジアのテクノロジー市場にはバリュエーション面でも優位性があります。投資家は、米国企業と比較して割安な水準で、AI関連の構造的な成長テーマの多くに投資することができます。例えば、SKハイニックスとサムスン電子の予想PER(株価収益率)は、米国のマイクロン・テクノロジーを約30%下回った水準にあります5。
この勢いを支えているのが、AI、バイオテクノロジー、ロボティクス、先端材料からエネルギーに至るまで、主要技術分野における研究開発でのアジアのリーダーシップの高まりです6。
中国はその中でも紛れもないリーダー的存在です。例えば、470億米ドル規模のロボティクス市場は2028年まで年率23%の成長が見込まれています。産業用ロボットが需要の大部分を占めており、中国では1年間に29万5,000台の新規導入が行われました。これは世界の他の地域を合わせた数を上回ります7。
ロボットは工場の現場にとどまらず、ますます身近な存在になりつつあります。深圳をはじめとする主要都市では、人型ロボットのバリスタが完璧なカフェラテを淹れ、黄色と黒のカラーリングをまとった美団(Meituan)のロボットが歩道や住宅街を走り回り、レストランの食事、食料品、コンビニ商品を各家庭に届けています。
製薬・バイオテクノロジー:次世代治療薬
新興国の企業も、製薬・バイオテクノロジーのバリューチェーンにおいて上位へと移行しており、大量生産・低利益率のジェネリック医薬品から、高度な臨床試験や革新的かつ複雑な治療薬・専門特殊医薬品の開発といった付加価値の高い事業へと移行しています。この移行は研究開発投資(R&D)の増加によって支えられています。
中国はがん治療の分野、特に標的療法やAIを活用したスクリーニング・診断の分野でグローバルリーダーとしての地位を急速に確立しており、がん研究の論文数では米国を追い越しています。現在、中国は早期臨床試験の最大の実施国となっており、2025年第3四半期には世界の早期臨床試験の40%が中国で実施され、米国の35%を上回りまりました8。
中国の強みは、臨床試験におけるスピードと効率性にあります。特にバイオ医薬品の分野でその優位性が際立っています。バイオ医薬品とは、タンパク質や遺伝子など生体由来の複合医薬品で、通常の医薬品に比べて製造が難しくコストもかかります。バイオ医薬品は免疫系の特定部位を標的とし、がん、自己免疫疾患、炎症性疾患といった慢性疾患の治療に用いられます。
香港上場の薬明生物技術(WuXi Biologics)を例に挙げましょう。同社は、標的がん治療に用いられる「生物学的ミサイル」とも称される抗体薬物複合体(ADC)の世界市場において、推定20%のシェアを握っており、これは世界のいかなる企業をも上回ります。
新興国がバリューチェーンの上流へと移行するにつれ、世界全体の利益に占めるシェアを拡大すると同時に、成長力も高めています。投資家にとって、この構造的な変化は、新興国株式が持続的かつ高品質なリターンの源泉となりうることを裏付けるものです。
1. https://vale.com/w/vale-makes-pellets-using-renewable-energy-sources-for-the-first-time
2. https://plus.reuters.com/indonesias-half-trillion-dollar-move-up-the-value-chain/p/1
3. https://www.hkexgroup.com/Media-Centre/Insight/Insight/2026/Johnson-Chui/AI-IPOs-Drive-a-Strong-Start-to-2026?sc_lang=en
4. https://www.hkexgroup.com/Media-Centre/Insight/Insight/2026/HKEX-Insight/Q1-2026-Hong-Kong-Market-Update?sc_lang=en
5. 出所: Bloomberg, data as of 27.05.2026
6. https://www.aspi.org.au/programs/critical-technology-tracker/
7. https://chinapower.csis.org/china-industrial-robots/
8. https://www.ft.com/content/ad55ee0c-ae32-42df-8e64-a2690454be8d?syn-25a6b1a6=1
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