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新興国市場はもはや原油価格を恐れない
2026/08/12

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概要

原油価格の高騰は、もはや新興国市場に壊滅的な打撃を与えるものではありません。テクノロジー産業の急成長、強化されたファンダメンタルズ、そして米ドルへの依存度低下が、その影響を相殺しています。



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原油価格の急騰に対する金融市場の反応は、少なくとも当初は過去50年間と同様でした。株式は下落し、債券利回りは上昇し、エネルギー輸入国の通貨は下落し、新興国資産は売られました。

しかし、従来型のオイルショックのシナリオは短命に終わりました。現地通貨建て新興国債券は約6%下落し、先進国債券の2倍を超える下落幅となりましたが、その後4.2%反発し、最終的には先進国債券とほぼ同水準で着地しました。ハードカレンシー建て新興国債券はさらに底堅く、初期の下落幅が小さく、反発も力強かったため、最終的には先進国債券を約2%上回るパフォーマンスとなりました。リスク回避局面では新興国債券が通常敏感に反応することを踏まえると、このパフォーマンスは注目に値します。

歴史的に、原油価格の上昇は輸入国の交易条件を悪化させ、インフレを押し上げ、家計の実質所得を圧迫し、最終的には経済成長の重荷となります。その結果、各国中央銀行は金融引き締め姿勢を強め、リスク資産は下落し、新興国市場は通常、最初に打撃を受けることになります。

しかし、今回は状況が大きく異なります。最大の違いは、世界の主要経済国が支出を削減するのではなく、大規模な投資を行っていることです。米国ではAI関連投資が前年比約25%増で拡大しており、消費者マインドが弱含む中にもかかわらず、資本財輸入は20%超の伸びを示しています。AI競争に深く関与する中国も輸入拡大を続けています。ドイツはインフラ、防衛、エネルギー転換への投資をすすめています。

こうした支出拡大が、新興国からの輸出に対する強い需要を生み出しています。

需要が高まる新興国の輸出

韓国はその最も分かりやすい例といえるでしょう。従来、原油価格の上昇は交易条件と貿易収支の大幅な悪化をもたらしてきました。2022年にロシアのウクライナ侵攻を受けて原油価格が急騰した際、韓国の貿易収支はGDP比で約2.5%悪化しました。ところが今年は対照的に、わずか2ヵ月でGDP比5%超の改善を示しました。

理由は明快です。今や韓国にとって、原油価格よりも半導体価格の方が重要なのです。データセンターやAIインフラを支える半導体への需要が、エネルギーコストの上昇を十分に相殺しています。韓国の交易条件は、ウクライナ情勢に伴うエネルギーショック時には約10%悪化したのに対し、今回は17%以上改善しています(図1参照)1。台湾も同様の軌跡をたどっており、前回のオイルショック時の悪化とは対照的に、貿易黒字がGDP比で2%超拡大しています。

より広い視点で見ると、4月の貿易統計をすでに公表している22の新興国のうち18ヵ国が、2022年を上回る実績を上げています。その要因は半導体だけにとどまりません。

デジタルインフラの整備と世界経済の電化が進むにつて、新興国が採掘・精製する素材への需要が高まっています。工業用金属価格は過去1年間で40%超上昇しており、これは原油自体の上昇率とほぼ同水準です。新興国にとって、これは大きな恩恵となっています。チリ、ペルー、モンゴル、ザンビアは銅価格の上昇から恩恵を受け、カザフスタンはウラン、インドネシアはニッケルで潤っています。ブラジル、マレーシア、インドも追い風を享受しています。


図1:貿易ブーム

韓国の交易条件(2015年を100として換算)

出所 : Pictet Asset Management, CEIC, LSEG. 
期間:2014年1月1日~2026年5月1日
* 数値が高いほど交易条件の改善を示している。

弱まるドルの影響力

新興国市場に有利な動きは、他の面でも見られます。過去のオイルショックでは米ドルの急騰が事態を悪化させ、米ドル建て債務を抱える国々への打撃を増幅させてきました。

しかし、米ドルが決済および仲介通貨として圧倒的な地位を維持する一方で、世界は徐々に米ドル中心の体制から脱却しつつあります。米ドル指数は2026年2月から5月にかけてわずか1.2%の上昇にとどまりました。これに対し、2022年のオイルショック時には約6%上昇しました。注目すべきは、対外債務を抱える新興国の通貨の下落率が2.3%にとどまり、2022年の原油価格急騰時の下落幅の4分の1以下であったことです。

外貨準備の分散化が進み、各国の資金調達市場が発展するにつれて、米ドルがショックを増幅させる力は徐々に低下しているようです。

欧州の存在感の高まりも一因となっています。過去のオイルショックでは、エネルギー価格の上昇が欧州の成長鈍化につながり、特に中・東欧諸国が打撃を受けていました。しかし現在では、ドイツの財政拡大、防衛費の増加、そして大規模なインフラ投資により、近年には見られなかった地域的な成長の原動力が生み出されています。その結果、ポーランドズロチ、チェココルナ、ハンガリーフォリントは、過去の同様の局面と比べてはるかに底堅く推移しています。

新興国通貨への圧力が和らいだことで、今回のショックによるインフレへの影響も限定的にとどまっています。5月時点のデータを公表している23の新興国では、2026年のインフレ率は平均1.2%ポイントの上昇となり、2022年の局面での3.2%ポイントを大きく下回っています。また、調査対象の約70%にあたる16ヵ国で、今回のインフレ率の上昇幅はより緩やかなものとなりました。


図2: より高まったレジリエンス(耐性)

インフレへの影響:イラン紛争とウクライナ紛争の比較

出所: Pictet Asset Management, CEIC, LSEG.
*点線より下に位置する国々のインフレ率は、イラン紛争による影響よりもウクライナ紛争による影響を大きく受けた。一方、点線より上に位置する国々では、イラン紛争の影響の方が大きかったことを示している。

強化された新興国のファンダメンタルズ

最後に、新興国自体も変化しています。

1990年代から2000年代初頭にかけて、多くの新興国は巨額の経常収支赤字を抱え、多額の米ドル建て債務を有し、外貨準備高も限られていました。オイルショックが深刻な資金調達危機の引き金となることも少なくありませんでした。

現在では、外貨準備高は増加、対外債務は縮小、経常収支は改善して、中央銀行の信頼性も高まっています。脆弱性が完全に解消されたわけではありませんが、かつてと比べれば大幅に軽減されています。

もちろん、原油価格の急騰は依然としてインフレを招き、世界経済の成長にとってマイナス要因です。しかし、その影響は現在、はるかに強力な構造的要因によって緩和されています。

AIがテクノロジー輸出国を支え、エネルギー転換がコモディティ生産国を支えています。脱米ドル化は金融面での増幅メカニズムの一部を弱め、欧州の投資プログラムは主要地域を強化しています。そして、新興国経済は、過去数十年と比べてはるかに強固なファンダメンタルズを背景に、このショックに臨んでいます。

こうした要因が相まって、原油価格の高騰にもかかわらず、新興国市場が2000年代初頭以来、最も良好な投資環境の一つにある理由を説明することができます。


◆投資のためのインサイト

アドリアナ・クリステア(Adriana Cristea)
シニア・インベストメント・マネージャー、ロバート・シンプソン(新興国市場インベストメント・ストラテジー&ソリューション(債券)ヘッド


今回のオイルショックは、新興国債券への投資根拠を損なうどころか、むしろ強化する結果となっています。

原油価格がイラン紛争前の水準に戻る前から、新興国全体のインフレ指標はすでに市場予想を下回る結果が相次いでおり、5月に発表されたデータの大半も市場予想を下回りました。その後のエネルギー価格の下落は、特に石油輸入国において、インフレ圧力が長期化するリスクをさらに低下させるとともに、対外収支と経済成長を下支えしています。過去の原油価格急騰局面とは異なり、インフレ期待は比較的安定した水準を維持しています。


現地通貨建て新興国債券

現地通貨建て新興国債券への投資家にとって、こうした環境は魅力的な投資機会をもたらしています。多くの新興国では金融政策が依然として引き締め的な水準にあり、実質利回りは歴史的に見ても高水準にあることから、十分なキャリー収益が期待できます。インフレ動向の改善や対外ポジションの強化と相まって、リターンを世界経済の良好な環境のみに依存する必要はなくなっています。

特に魅力的な投資機会が見込まれるのは、キャリーが十分に高く、金融政策の信認が向上しており、各国固有の改革が投資家の信頼を支えている市場です。総じて、現地通貨建て新興国債券は、インカム、分散効果、そして選別的なキャピタルゲインの可能性という魅力的な組み合わせを引き続き提供しています。


ハードカレンシー建て新興国債券

ハードカレンシー建て新興国債券は、堅調なファンダメンタルズとショックに対する脆弱性の低下を背景に、引き続き堅調なパフォーマンスを示しています。利回りは依然として歴史的に見て高水準にあり、先進国を下回る債務水準と相対的に低い経済リスクを踏まえると、超過リターンを獲得するための長期的かつ構造的な投資機会といえます。

投資対象となる国の数は増加しており、信用格付けも改善傾向にあります。こうした背景から、ハードカレンシー建て新興国債務は、長期的なアウトパフォーマンスの機会を提供する、他に類を見ない分散効果の高い資産クラスといえます。


[1] いずれも2月から4月までの前年同月比の変化率

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