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アジアのエネルギーショックがクリーンエネルギーへの移行を加速する理由
2026/07/31

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概要

原油価格が1バレル=100米ドルに達することは、EV(電気自動車)にとって最大の追い風になると、フィリピンの元エネルギー相ビンス・ペレス(Vince Pérez)氏は指摘します。同氏は、イランをめぐる紛争がアジアのエネルギー転換を加速させていると指摘しています。



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2002年11月、フィリピンのエネルギー相だったビンス・ペレス(Vince Pérez)氏は、グロリア・マカパガル・アロヨ(Gloria Macapagal Arroyo)大統領に同行し、ホワイトハウスで歴史的な会談に臨みました。この席で、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、事前に知らされていなかった来客に対し、米国がイラクとの戦争に踏み切る方針を示唆しました。

ペレス氏は当時、強い危機感を覚えたと振り返ります。石油の90%以上を輸入に依存し、中東産原油への依存度も高いフィリピンにとって、この紛争がエネルギー不足やインフレの急上昇、ひいては経済の不安定化を招く可能性があることを熟知していたからです。

ペレス氏は次のように回想しています。「大統領が私に耳打ちしました。『ビンス、エネルギー相として石油の供給確保に全力を尽くしてほしい』と」

その後数ヵ月間、同氏はあらゆる事態に備えました。隣国のインドネシアやブルネイに加え、ペルシャ湾岸の産油国であるイラン、UAE、カタール、さらにはモスクワも訪問し、二国間の石油供給協定を締結しました。同時に、石油備蓄の積み増しを進めるとともに、再生可能エネルギーや地熱発電など代替エネルギー源の開発にも取り組みました。

こうした取り組みが奏功し、フィリピンは供給混乱による深刻な影響を回避することができました。

20年以上を経た現在も、その教訓は明確です。エネルギー安全保障には、事前の備え、供給源の多様化、そして迅速な対応が不可欠だということです。

「今回、アジア各国は事前の警告もないまま紛争の余波に巻き込まれました。ほぼ無防備な状態だったと言えます」とペレス氏は警鐘を鳴らします。イランをめぐる紛争により、フィリピンをはじめとするアジア諸国は、1973年以来で最大級のエネルギー危機に直面しているといいます。

現在、アジアはこの紛争の影響を最も大きく受けている地域です。ホルムズ海峡を通過する日量3,000万バレルの石油のうち、80%以上をアジアが消費しているためです。

現在は再生可能エネルギー開発会社オルタナジー(Alternergy)の会長を務めるペレス氏は、アジアでは短期的な混乱への対応にとどまらず、エネルギー転換に向けた構造的な変化が進行していると指摘します。そして、革新的なソリューションによってこの変化に適応できる国や産業、企業は、大きな恩恵を享受する可能性があると述べています。

汚れた回り道

紛争勃発から4か月が経過した現在、各国の当面の対応策は必ずしもクリーンとは言えません。

停電の回避や供給不足への対応策として、中国、インド、フィリピンは禁輸措置解除後にロシア産石油の購入を進めるとともに、停止していた石炭火力発電所の再稼働を進めました。

「エネルギー安全保障を最優先した政策判断が、短期的な石炭回帰をもたらしています。私はこれを『汚れた回り道』と呼んでいます」とペレス氏は説明します。

低炭素ではあるものの、政治的な議論を伴う選択肢として原子力発電に目を向けた国もあります。日本は停止中の原子炉を再稼働させ、中国とインドは原子力発電容量を拡大し、台湾は脱原発政策を撤回しました。

もっとも、長期的には、この戦争が再生可能エネルギーを軸としたエネルギー自立への動きを加速させると同氏は見ています。各国は洋上風力発電、大規模太陽光発電、蓄電池システム、そして電気自動車(EV)への投資を加速させています。

ペレス氏は、中国が最大の受益者となる可能性が高いと考えています。

中国は100日分の石油備蓄を保有し、ロシア産およびイラン産石油の調達ルートも確保していることから、エネルギーショックへの耐勢を有しています。加えて、過去10年にわたる再生可能エネルギーへの積極投資の成果が顕在化し始めています。

「中国は以前、総容量1,200GWの太陽光・風力発電設備を建設した際、過剰投資だとの批判を受けました。しかし現在では、それがホルムズ海峡を巡るエネルギーショックへの保険として機能していることが明らかです。過去10年間に実施した先行投資が、ショックを吸収する緩衝材となっているのです」とペレス氏は語ります。

さらに中国が有利な立場にある背景として、急成長し高度に発展したEV市場の存在が挙げられます。世界のEV販売台数に占める中国のシェアは65%に達しています。

「原油価格が1バレル=100米ドルに達することは、EVにとって最大の追い風です」とペレス氏は言います。「持続的な原油価格の上昇ほど、代替燃料の普及を促進する要因はありません。これは、世界のEV業界にとって、これまでで最も効果的なマーケティングキャンペーンと言えるでしょう。」



中国では、新車販売に占めるEV比率が2025年末の52%から2026年には62%へ上昇しています。またBYD、Geely、Zeekr、Xpeng、Nio、Cheryによる輸出台数は2026年4月に前年比で2倍増以上となりました。

同様に重要なのが、中国が蓄電池分野でも世界をリードしている点です。中国は最近、2027年までに180GWhの蓄電容量を整備する3ヵ年計画を発表しており、リチウムイオン電池システムを活用した電力供給の安定化、エネルギー貯蔵、付帯サービスの提供を推進しています。

CATL、BYD、Eve Energyをはじめとする中国メーカーは、世界の電池供給量の約70%を占めています。ただし、蓄電池技術の進展は中国に限らず、アジア全域へ広がりを見せています。

日本や韓国をはじめとする各国も生産能力を拡大しており、その結果、2026年にはアジア太平洋地域が世界の蓄電池システム(BESS)市場の約70%を占めるに至っています。

さらに長期的には、今回の石油危機が、2045年を目標とするASEAN域内電力網相互接続プロジェクトの前倒しを促す契機になるとペレス氏はみています。この構想が実現すれば、国境を越えた電力取引が可能となり、再生可能エネルギーの導入拡大と地域のエネルギー安全保障強化につながると期待されます。

例えばシンガポールは、国境を越えた高圧直流(HVDC)送電線を通じてラオスの水力発電由来電力を調達する計画を加速させているほか、海底ケーブルを通じたベトナムの洋上風力発電へのアクセスも模索していると言います。

「アジア太平洋地域は、エネルギー転換の究極の実証の場となっています」とペレス氏は語ります。

「エネルギー安全保障は今や国家安全保障そのものです。アジア太平洋地域にとって、不安定な中東への依存はもはや持続可能な選択肢ではありません。各国は再生可能エネルギーと蓄電池への移行を進めており、この紛争は今後10年間にわたる、地域のエネルギー自立の方向性を決定づけることになるでしょう。」


投資のためのインサイト

        イ・シー(Yi Shi)
           ピクテ・アセット・マネジメント、クライアント・ポートフォリオ・マネージャー兼インパクト・スペシャリスト


イラン情勢は、化石燃料への依存がもたらす地政学的・経済的リスクを浮き彫りにしており、多くの国や企業に長期的なエネルギー戦略の見直しを促しています。再生可能エネルギーは、エネルギーの安定確保と自立性向上を図るうえで、政府、企業、投資家にとってますます重要な選択肢となっています。


投資家は、電化の進展を支える電力システムの基盤に投資することで、クリーンエネルギー転換によって生まれる成長機会へのアクセスが可能になります。ピクテの「クリーンエネルギートランジション(CET)」戦略は、発電、電化ソリューション、先端材料、パワー半導体、グリーンビルディング、送電網の近代化など、クリーンエネルギーのバリューチェーン全体にわたる、革新的かつ競争力の高い企業への投資を通じて、長期的な成長機会の獲得を目指します。


CET戦略は、セクター、業種、地域、時価総額などの制約にとらわれない投資アプローチを採用しており、高い確信度に基づくポートフォリオを通じて、投資家に分散投資の機会を提供します。




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