Article Title
人口動態の崖:加速する自動化
2026/07/07

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

高齢化社会は次なる自動化の波を加速させる要因となっています。ロボット工学が労働市場に与える影響に関する先駆的研究の著者であり、ピクテ・アセット・マネジメントのテーマ株式アドバイザリー・ボードのメンバーでもあるカール・フレイ(Carl Frey)氏が、そのメカニズムを解説します。



Article Body Text

世界各地で、社会は人口動態の崖へと向かっています。1950年には、世界全体の合計特殊出生率は女性1人当たり約5人でした。現在では約2.3と、人口置換水準である2.1をわずかに上回る水準にまで低下しており、この数値は引き続き低下傾向にあります。現在では、人類の3分の2以上が、出生率が置換水準を下回る国に居住しています。韓国では合計特殊出生率が0.8まで低下し、世界最低水準を記録しています。中国は約1.0、欧州の多くの地域では1.0から1.6の範囲で推移しており、EU平均は2024年に過去最低の1.34を記録しました。長らく先進国における例外とされてきた米国においても、出生率は1.6まで低下しています。

こうした影響はすでに顕在化しています。2025年には、中国において死亡者数が出生者数を上回る状況が拡大し、人口は4年連続で減少しました。2050年までに、中国の人口は現在の約14億人から約1億4,500万人減少すると予測されています。日本では、生産年齢人口が1995年の8,700万人をピークに、その後16%減少しており、2060年までにさらに31%減少する見込みです。今後25年間で、人口100万人以上の国のうち38ヵ国が人口減少に直面する可能性があり、過去25年間の21ヵ国から増加する見通しです。さらに2050年には、人口減少国における65歳以上の割合は約17%から31%へと、ほぼ倍増すると予測されています。

これは、労働力不足、年金や医療制度を支える税基盤の縮小、そして経済成長への下押し圧力の増大を意味します。そこで重要な問いは、テクノロジーがこうした課題の解決策となり得るか否かです。具体的には、自動化や人工知能(AI)が、人口動態の変化によって生じる労働力不足を補完できるかが焦点となります。歴史的な記録を振り返ると、こうした対応は可能であり、場合によっては、労働力不足そのものが省力化技術の導入を促進する契機となることが示されています。



労働者喪失と、機械化の進展

労働力不足が機械化を促進するという考え方は、近年に限ったものではありません。その顕著な事例として、アメリカ南部における歴史的経験が挙げられます。1927年、ミシシッピ川の大洪水により、ミシシッピ・デルタ地域から数十万人の農業労働者が移住を余儀なくされ、その多くが帰還しませんでした。経済史家のリチャード・ホーンベック(Richard Hornbeck)とスレシュ・ナイドゥ(Suresh Naidu)両氏が明らかにしたように、最も多くの労働者を失った郡では生産量の低下を受け入れるのではなく、労働力が維持された郡と比較して、トラクターをはじめとする農業機械の導入が著しく進展しました。すなわち、急激な労働力不足が、機械導入を経済的に合理的な選択へと転換させたのです。

同様の現象は、第一次世界大戦後のフランスでも起きました。同大戦は、生産年齢にある男性人口の相当数を死傷させました。帰還兵をもってしても、フランスの農業および工業分野におけるは深刻な労働力不足は解消されませんでした。その結果、本来であれば数十年を要した可能性のある機械化および省力化イノベーションが前倒しで進展しました。従来、手作業や畜力に依存していた農場部門は機械投資へと舵を切り、経済全体においても、雇用主は不足する労働力を補完するために、より資本集約的な生産手法へと移行しました。戦争は甚大な破壊をもたらす一方で、従来の生産体系を支えていた安価な労働力を消滅させた結果、図らずも技術の普及を加速させたのです。

これらの事例に共通するのは、明確な経済的メカニズムです。すなわち、労働力が豊富かつ低コストで供給されている局面では、雇用主にとって高価な設備投資を行うインセンティブは限定的です。一方、労働力が不足しコストが上昇すると、自動化は急速に経済合理性を持つ選択肢へと転換します。このように相対価格の変化を通じて経済的インセンティブがシフトし、その結果としてテクノロジーが労働力の不足を補完する役割を果たすことになるのです。

現代経済における人口動態とロボット

同じ論理は、現在進行中の人口動態の変化にも当てはまります。経済学者のダロン・アセモグル(Daron Acemoglu)とパスクアル・レストレポ(Pascual Restrepo)両氏は一連の影響力ある論文の中で、人口高齢化と産業用ロボットの導入との間に強固な関連性があることを示しました。高齢化が進む国や地域ほど、労働者1人当たりのロボット導入数が多い傾向があります。このパターンは、急速に高齢化が進む日本の都道府県から、ヨーロッパの古い工業地帯まで、さまざまな環境で確認されています。

そのメカニズムは明快です。総人口に占める生産年齢人口の割合が低下するにつれて、定型的な業務に対する賃金が上昇し、企業は人材確保に苦労するようになります。その結果、ロボットはますます魅力的な代替手段となります。アセモグル氏とレストレポ氏は、人口動態の圧力がロボット導入の最も強力な予測因子の一つであることを示しており、多くの分析において、産業構成の違いや貿易への露出度よりも強い影響力を持つとしています。日本はその典型例です。生産年齢人口は30年にわたって減少し続けており、2040年までに1,100万人超の労働力不足が見込まれ、世界でも有数のロボット密度を誇る経済大国となっています。

ただし、重要な留意点があります。ごく最近まで、こうしたロボットは製造業にほぼ限定されていました。溶接、塗装、組み立て、パレタイジングを行う産業用ロボットは、管理された環境下での体系的で反復的な作業に優れています。固定されたレイアウト、予測可能な投入物、最小限のばらつきという条件が揃う自動車工場や半導体工場は、まさに理想的な環境です。これらのロボットは製造業の生産性を大きく変革しましたが、製造業が雇用と生産高に占める割合は、多くの先進国で縮小し続けています。米国では雇用全体の約8%、英国では約7%にとどまり、そのうち工場の現場で働く労働者はさらにその半数以下です。経済の大部分、そして人口動態の課題の大部分は、サービス部門にあります。



崩れ始めた制約

こうした制約は、現在まさに崩れ始めています。長年にわたり、ロボットによる自動化の主な制約は、ハードウェアそのものではなく、知覚および認知能力の限界にありました。工場で稼働するロボットは、精密な動作を繰り返し実行することには長けている一方で、未知の物体の認識、非構造的な環境下での移動、さらには音声指示の理解といった能力には制約がありました。これらはいずれもサービスを自動化するために不可欠な要素です。例えば、オフィス清掃、小売店における棚への商品補充、患者介助、配達業務といった分野ではこれらの能力が求められるものの、従来のロボット技術では十分に対応できていませんでした。

この状況を変革しつつある主な要因は二つあります。第一に、AIの急速な進歩、とりわけ大規模言語モデルおよび視覚認識モデルの進化により、機械がより汎用的な知覚および推論に近い機能を獲得しつつある点です。最新のAIシステムにより制御されたロボットは、未知の物体を識別し、曖昧な指示を解釈し、変化する環境に応じて行動を適応させる能力を備え始めています。第二に、病院、店舗、さらには将来的には都市や家庭といった非構造化環境への適応に特化して設計された、ヒューマノイドおよび汎用ロボットの開発が進展している点です。テスラ(Tesla)やフィギュア(Figure)、そして中国メーカーを含む複数の企業が、サービス経済を特徴づける不確実性の高い環境において、歩行し、物を掴み、操作が可能なヒューマノイドロボットの実用化に向けて競争を展開しています。

AIと次世代ロボット工学の融合により、これまで自動化が困難とされてきた領域への適用拡大が期待されます。例えば、ロボットによるホテル客室の清掃、物流拠点における荷物の仕分け、医療現場での患者移送支援、小売店における無人時間帯の棚補充などが実現すれば、自動化による生産性向上の恩恵は製造業にとどまらず、より広範な経済セクターへ波及することになります。特に、医療、ホスピタリティ、小売、物流、介護といった分野は、人口動態上の制約が最も強く顕在化しているにもかかわらず、生産性向上の進展が相対的に遅れてきた領域です。

今後の可能性

数字を見てみましょう。国際ロボット連盟(IFR)によると、産業用ロボットの世界稼働台数は約470万台に達しています。これは印象的な数字ですが、経済全体のごく一部にしか対応していません。ゴールドマン・サックスは、ヒューマノイドロボットの出荷台数が2035年までに年間140万台に達する可能性があると試算しています。サービス経済が非常に広大で労働集約的であることが、その主な理由です。高齢化社会においては、この数字が持つ意味はとりわけ重要です。労働力として参入する若年層は減少し、介護を必要とする高齢者は増加しており、人手だけでは埋めることのできないギャップが拡大しています。日本においては、農業従事者の平均年齢が70歳に達しており、建設業界では求職者1人当たり5.6件の求人があることから、こうした人手不足がすでにどれほど深刻であるかが如実に示されています。

こうした変化が一夜にして生じることはありません。ヒューマノイドロボットは依然として高価であり、急速に進歩しているとはいえ、その能力は人間の労働者の適応力と比べるとなお限界があります。公共の場で人間と協働するロボットに関する規制の枠組みは、ようやく整備が始まった段階にあります。また、サービス業の広範な自動化がもたらす社会的・政治的影響は大きく、慎重な対応が求められます。

しかし、進むべき方向性は明確です。人口動態が大きな需要を生み出し、AIがその能力を提供しています。そして、労働力不足が技術の普及を促すという歴史的なパターンを踏まえると、最も速く高齢化が進む社会が、最も速く自動化を推進する社会になる可能性があります。人口の急激な減少は、次の自動化の波を促す最も強力な要因の一つとなるでしょう。



投資のためのインサイト

            -アンジャリ・バスティアンピライ(Anjali Bastianpillai)
                ピクテ・アセット・マネジメント テーマ株運用 シニア・クライアント・ポートフォリオマネージャー


自動車の組み立てから自動運転、データセンターの運営、さらには人間の指導のもとでの医療処置に至るまで、ロボットはSFの世界から現実の世界へと移行しつつあります。こうした転換の必要性を一層高めているのが人口動態の変化です。ロボットは高齢化社会が抱える生産性の空白を埋める存在となり得ます。

特に、自動運転車、ヒューマノイドロボット、協働ロボットに対する需要は力強い成長が見込まれます。ただし、最も魅力的な投資機会が必ずしもロボット本体にあるとは限りません。ロボットを製造する企業は比較的少なく、その多くは非上場です。最も収益性の高い投資対象は、ロボットを頭から足先まで組み立てるために使用される技術を提供する、より革新的な企業群の中に見出されます。具体的には、中央処理装置(CPU)、マシンビジョン、センサー、多関節アーム(グリッパー)などが挙げられ、さらに半導体の重要性も見逃せません。

ピクテのロボティクス戦略では、ヒューマノイドロボットの実現に不可欠な部品・技術およびソフトウェアを供給する企業に投資しています。



●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。

手数料およびリスクについてはこちら

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。




関連記事


分断下の世界秩序と投資戦略

グローバル・マクロ・ウィークリー・レポート(2026年6月第5週~7月第1週)

グローバル・マクロ・ウィークリー・レポート(2026年6月第4週)

人民元の静かな変革

グローバル・マクロ・ウィークリー・レポート(2026年6月第2週)

グローバル・マクロ・ウィークリー・レポート(2026年6月第1週)