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- 大いなるリバランス :進む欧州市場の再評価
株式から不動産に至るまで、ファンダメンタルズの改善を背景に、欧州市場の再評価が進んでいます。
上場株式からクレジット、さらには不動産に至るまで、投資家は欧州市場を再評価し始めています。
こうした動きの背景には、グローバル・ポートフォリオの集中リスクの高まりがあります。米国の一部大型テクノロジー株が目覚ましい上昇を遂げた結果、多くの株式投資家のポートフォリオは、実質的に一国、一通貨、一セクターへのエクスポージャーに大きく偏った状態となっています。そのため、自らのリスクの大部分を引き続きそこに集中することが妥当なのかを改めて問い直す投資家が増えています。
こうした投資家心理の変化は、米国の競争力低下を見込んだものではありません。2025年のWIPO(世界知的所有権機関)イノベーション指数によれば、米国は依然として世界で最も革新的な経済大国の一つです。米国の資本市場の規模と厚みは他の追随を許さず、テクノロジー企業はグローバルなイノベーションを牽引し続けています。また、優秀な人材を引き付ける力も依然として高く、これらの強みはいずれも揺るぎないものです。
しかし歴史を振り返ると、市場の主導権を握る地域や資産クラスは循環的に変化してきました。こうしたサイクルは10年以上続くこともありますが、永続するものではありません。1990年代には米国が株式市場のリターンを牽引し、2000年代には欧州および新興国市場が主導権な役割を果たしました。その後、世界金融危機や欧州債務危機を経て米国が再び優位性を取り戻しました。そして現在、その潮流が再び変わりつつある可能性があります。
市場の主導権が移り変わる局面では、経済成長を牽引する部門も変化することが少なくありません。1990年代は企業部門、2000年代は米国家計部門、そして現在は政府部門がその役割を担っています。2009年以降、米国の財政赤字はGDP(国内総生産)比で平均6.4%に達しており、先進国の中で最も高い水準にあります。公的債務残高もGDP比87%から124%へ、37%上昇しました(図1参照)。
保守的な財政乗数を前提とした場合でも、この財政拡張は米国の実質経済成長率を年間約0.5%押し上げてきたと推計されます。言い換えれば、米国市場の卓越したパフォーマンスは、イノベーションによる成長力だけでなく、積極的な財政政策による押し上げ効果にも支えられてきたと考えられます。しかし、このような大幅な財政赤字を長期にわたり維持することは困難です。
今後予想される財政健全化の進展は、これまで米国金融市場にとって追い風であった政策環境を、徐々に逆風へと転換させる可能性があります。
図1:財政拡張余地
公的債務(GDP比)
出所: Pictet Asset Management, CEIC, LSEG.
期間:2008年1月1日~2025年1月1日
欧州に広がる投資機会
一方、欧州は現在、財政支出と投資を拡大することで経済成長を促し、欧州資産の価値向上につなげることのできる局面にあります。同じ期間において、EU(欧州連合)の公的債務の増加はGDP比ではわずか7%にとどまっています。
欧州が抱える問題は、技術力の不足というよりも、資金調達や事業拡大を支える仕組みの不足にあります。この弱点は、研究開発から商業化、量産化に至るまで、イノベーションの過程全体にわたって見られます。なかでも、規制は企業活動の大きな制約要因となっています。
欧州企業の69%が規制を主要な事業上の制約として挙げているのに対し、米国企業では54%にとどまります。また、資金調達環境が不十分であると感じている企業は欧州で45%に上る一方、米国では29%にとどまっています1。
したがって、欧州の課題は優れたアイデアを生み出すことではなく、そのアイデアを経済的価値へと転換することにあります。そして、まさにこの点において政策面での変化の兆しが見え始めています。
EU単一市場の強化・深化に関するエンリコ・レッタ元イタリア首相の報告書や、欧州の競争力向上と成長促進に関するマリオ・ドラギ元欧州中央銀行(ECB)総裁の報告書で示された提言内容は、すでに実行段階へと移りつつあります。主な施策としては、欧州貯蓄・投資同盟(Savings and Investment Union)の構築、資本市場の深化、規制の簡素化、防衛支出の拡大、さらには産業政策の加速などが挙げられます。
なかでも注目されるのは、欧州が長年十分に活用してこなかった財政政策の余地を本格的に活かそうとしている点です。公的債務残高はGDP比で米国を約30%下回る水準にあることを踏まえれば、米国との差を埋める余地は十分にあります。今後10年間で、EU全体のGDPの約15%が投資に充てられる見込みであり、その約3分の1はドイツが担います。投資先は防衛、インフラ、AI、グリーントランジションなど、生産性への波及効果が大きいセクターです。当社の分析では、これらの投資が迅速に実行された場合、今後3~5年にわたり欧州の経済成長率は2.0~2.5%へ加速し、現在の水準から倍以上となる可能性があります。
エネルギー・防衛・金融分野における進展
エネルギー転換は、こうした取り組みがもたらす効果を既に示し始めています。2020年以降、欧州の太陽光発電による発電量は年率20%超のペースで増加しており、送電網、エネルギーインフラ、蓄電設備、産業分野を中心に大規模な投資サイクルが進行しています。防衛分野でも同様の動きがみられます。同期間において、世界の軍事支出に占める欧州の割合は約16%から20%近くまで上昇しました。
金融統合も着実に進展しています。2025年の欧州銀行業界におけるM&A(合併・買収)件数は過去10年以上で最高水準に達し、2026年に入ってもその勢いは継続しています。BPCEとNovo Banco、ErsteとSantander Polska、BAWAGとPTSBなど、国境を越えたM&A案件が相次ぎ、欧州域内の銀行市場の統合が徐々に進んでいます。
産業の再編と規制の収斂が相まって、欧州の銀行システムは投資への資金供給や、金融統合の恩恵を波及させる力を着実に高めています。
家計貯蓄の活用
個人投資家もまた、欧州経済の成長を後押しする重要な要素となり得ます。欧州では現在、これまで十分に活用されてこなかった資産の一つである家計貯蓄の動員が進みつつあります。ユーロ圏では家計の可処分所得の16%超が貯蓄に回されているのに対し、米国では約3%にとどまっています。長年にわたり十分に活用されてこなかったこの豊富な貯蓄は、徐々に経済成長を支える重要な原動力となりつつありあります。ユーロ圏各国では、家計部門の貯蓄を企業の資金調達ニーズへと結び付けることを目的とした政策が相次いで導入されています。
もちろん、なお多くの課題が残されています。資本市場の分断、改革の遅れ、さらには米国債に匹敵する安全資産の不在などが挙げられます。しかし、市場が求めているのは完璧な環境ではありません。他の市場への期待が過度に高まる局面では、ファンダメンタルズの改善が見込まれる市場に投資機会が生まれやすくなります。
当社では、欧州が成長、企業収益、イノベーションを生み出す有力な地域として存在感を高めつつあると考えています。「大いなるリバランス」は米国の衰退を意味するものではなく、分散投資の重要性がこれまで以上に高まる世界への移行を示すものです。そしてその中で、欧州はグローバル・ポートフォリオを構成する重要な柱の一つになると考えています。
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